問題社員307 同僚の財布から金銭を盗む。

動画解説

この記事の要点

最初にすべきは事実確認。被害者・目撃者・本人からの聴取に加え、防犯カメラなど客観的な証拠との照合を行う

本人が否認している場合、判断が難しいこともある。処分の前提となる事実固めが、その後のすべてを左右する

事実であれば、辞めてもらうのが原則。躊躇してはならない

同僚の財布から金銭を盗むような方が普通に職場で働いていたのでは、他の社員が安心して働けなくなる

「社員を大事にするから甘い対応をする」というのは、被害者と周囲の社員を軽んじることにほかならない

盗まれた社員も、それを見ている社員も、同じく大事な社員である。彼らを守る責任が経営者にはある

「解雇は難しい」と過度に恐れる必要はない。事実確認さえしっかり行っていれば、解雇が有効となることが多い類型である

ただし、雑な進め方で自滅すると、本来できたはずの解雇が失敗することもある

1. 職場での窃盗は、企業秩序に与える影響が極めて大きい

同僚の財布から金銭を盗むというのは、とんでもないことです。刑法上も窃盗罪(刑法235条)という犯罪に当たる、重大な非行行為です。企業秩序に与える影響も、極めて大きいものがあります。

このような問題が起きたときにしっかり対処しなければ、社員たちの信頼を失ってしまいます。「盗んだ社員も大事な社員だから、少し優しくしてあげようか」という方向にばかり進んでしまうと、被害を受けた社員、そしてこの話を聞いて「経営者はどのように自分たちを守ってくれるのか、物を盗まれないようにしっかり動いてくれるのか」と見ている社員たちの信頼を失うことになりかねません。

意外にも、盗んだ社員をある程度かばおうとされる経営者がいらっしゃいます。だからこそ、本記事では、同僚の財布から金銭を盗む社員への対処法について解説します。

2. 最初にすべきことは事実確認

まず、最初にすべきことは事実確認です。本当に盗んだのかどうか。ここから始まります。

事実確認の進め方

  • 被害を受けた社員からの聴取:いつ、どこで、いくらの被害があったのかを具体的に確認する
  • 目撃者からの聴取:見聞きした社員がいれば、その内容を記録に残す
  • 本人からの聴取:盗んだと疑われている社員からも、必ず言い分を聴く
  • 客観的な証拠との照合:防犯カメラなどで確認できるのであれば、聴取内容と照らし合わせる

本人が「盗んでいません」と述べている場合、判断が難しいこともあります。どのような証拠があれば足りるのか、調査をどう進めるべきかについては、事案ごとに検討が必要です。判断に迷う場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。

3. 事実であれば、辞めてもらうのが原則

そして、本当に同僚の財布から金銭を盗んでいるのであれば、辞めてもらうのが原則である。このことを、よく認識してください。

なぜなら、同僚の財布から金銭を盗むような方が普通に職場で働いていたのでは、他の社員が安心して働くことができなくなるからです。毅然とした対応を取ることが、とても大切です。

4. 加害者をかばうことは、被害者と周囲を軽んじること

当たり前に聞こえることを、あえて強く申し上げているのには理由があります。経営者の中には、社員を大事にするあまり、物を盗んだ社員であっても何とか守ってあげられないかとお考えになる方がいらっしゃるからです。少し優しすぎるように思います。

それは本当に、社員を大事にしていることになるのか

金銭を盗まれた被害者の社員は、どう思うでしょうか。経営者が毅然とした態度を取れなかったとしたら。そして、この窃盗を知っている周囲の社員たちは、どう思うでしょうか。
「自分のお金や物を盗まれても、会社は守ってくれないのだ」と受け止めるでしょう。毅然とした態度を取らないということは、それを認めたことになるように見えてしまうのです。そのような会社で働きたくないと思う社員が出てきても、不思議ではありません。

盗んだ社員だけが大事な社員なのではありません。盗まれた被害者の社員も、周囲で一緒に働いている社員たちも、等しく大事な社員です。彼らを守ってあげる責任が、経営者にはあります。「社員を大事にするから甘い対応をするのだ」という発想は、実は被害者や周囲の社員を軽んじているという見方もできるのです。

5. 被害弁償と、辞めてもらうという選択肢

したがって、本人に被害弁償をさせる努力は当然にすべきですし、辞めてもらうという選択肢をしっかり考えていかなければなりません。その選択肢を取ることを、躊躇してはいけません。

そうでなければ、社員からの信頼を失ってしまいます。「うちの会社は、物を盗まれても自分たちを守ってくれない。物を盗むような人に対応することもできない」と思われてしまえば、会社の秩序が成り立たなくなります。

被害弁償を給与から天引きすることはできない

なお、被害弁償をさせるにあたって、その金額を給与から一方的に控除することはできません。賃金は、法令に別段の定めがある場合や労使協定がある場合を除き、その全額を支払わなければならないとされており(労働基準法24条1項)、これと一方的に相殺することは全額払いの原則に反します。本人の自由な意思に基づく同意があると認められる場合には相殺が有効となる余地もありますが、その要件は厳格に判断されます。進め方については弁護士に相談してください。

6. 「解雇できないのではないか」と恐れる必要はない

経営者が心配されるのは、「辞めてほしいと言って断られたらどうしよう。日本では解雇は難しいと言われているし」という点でしょう。

しかし、金銭を盗んだ社員であれば、それが事実である限り、解雇も有効となることが多い類型です。多くのケースでは、盗んだ金額がほんの数千円であったとしても、解雇が認められることが多いのではないでしょうか。職場内での窃盗は、職場の同僚に対する重大な加害行為であると同時に、企業秩序を根底から損なう行為だからです。事実確認をしっかり行った上でであれば、解雇もそれほど怖いものではありません。

また、本人が「確かに盗みました」と事実を認めているのであれば、退職勧奨に応じることも多いところです。ですから、辞めてもらえないのではないかという心配は、本当に金銭を盗んでいるのであれば、それほど必要のないケースが多いと言えます。仮に退職勧奨を断られたとしても、解雇できるのであれば、解雇すればよいだけのことです。

7. 手続を誤って自滅しないために

もっとも、よほど雑なやり方をしてしまうと、普通に進めていれば解雇できたはずなのに失敗してしまう、ということになりかねません。自滅しないことが大切です。

とりわけ注意していただきたい二つの点

解雇予告除外認定を受けていない 「懲戒解雇だから解雇予告手当は不要」というのは誤解です。労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合に予告を不要とするには、労働基準監督署長の除外認定を受ける必要があります(労働基準法20条1項ただし書、3項)。認定を受けないまま即時解雇すれば、30日分以上の解雇予告手当の支払義務が生じます
弁明の機会を与えていない 就業規則に弁明の機会に関する定めがある場合はもちろん、定めがない場合でも、本人に言い分を述べる機会を与えていないことは、処分の相当性を否定する方向に働き得ます(労働契約法15条)。急いで処分したい場面ほど、この手続を省いてしまいがちです

「怖いな」と思われたのであれば、ぜひ弁護士にご相談ください。自滅しないやり方で退職に持っていく進め方について、お話しすることができます。

8. 辞めさせない選択をする場合

辞めさせたくないという経営者もいらっしゃいますので、その場合についても触れておきます。

金額が少なく、なおかつ被害を受けた社員が辞めてほしいとまでは思っておらず、被害弁償もしっかりされているような場合であれば、辞めさせないという選択肢も、状況次第ではあり得ないわけではありません。

雇い続ける場合に必要になること

  • 配置をよく考える:金銭面での信用は失われています。盗みたくても盗めないような仕事に就いてもらう。お金を扱わせるのは問題外です
  • 管理職には向かない:同僚から金銭を盗むような方は、周囲から信頼されません。その方の指示を聞きたくないという社員が多く出てくるでしょう
  • アンテナを張って見守る:怪しい行動があればすぐに動き、再び犯罪行為に手を染めることのないよう見てあげる。注意指導も当然に必要になります

ただ、実感としては、管理の難易度が非常に高いと言わざるを得ません。同僚の財布から金銭を盗んだという事実がはっきりしてしまうと、周囲が信用しなくなります。その中で管理していくというのは、本人の管理だけの話ではありません。不信感を抱いている周囲の社員たちをなだめ、安心させるという意味での管理も生じます。経営者として考えなければならないことが、格段に多くなるのです。

そこまでの労力と気遣いをかけながら雇い続ける意味がどれだけあるのか。よく考えていただいた上で、それでも雇い続けるという信念をお持ちの経営者であれば、それは一つの経営判断です。難易度は高いですが、その方針で進めるのであれば、弁護士としてご協力いたします。基本的には、辞めていただく方向で対応することをお勧めします。

9. まとめ

  1. まず事実確認。被害者・目撃者・本人からの聴取と、客観的な証拠との照合を行う
  2. 事実であれば、毅然とした態度を取る。辞めてもらうのが原則である
  3. 加害者をかばうことは、被害者と周囲の社員を軽んじること。彼らを守る責任が経営者にはある
  4. 被害弁償をさせる。ただし、給与からの天引きはできない
  5. 解雇を過度に恐れる必要はない。事実確認さえしっかり行っていれば、有効となることが多い類型である
  6. 手続で自滅しない。解雇予告除外認定と弁明の機会に注意する
  7. 雇い続けるのであれば、管理の難易度は非常に高い。配置を工夫し、金銭を扱わせない

社員を大事にするからこそ、毅然とした対応が必要です。同僚の財布から金銭を盗む社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 懲戒解雇であれば、解雇予告手当を支払わなくてよいのですか。

A. 誤解の多い点です。労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合に予告を不要とするには、労働基準監督署長の除外認定を受ける必要があります(労働基準法20条1項ただし書、3項)。認定を受けないまま即時解雇すれば、30日前の予告か、30日分以上の平均賃金の支払いが必要です。職場内の窃盗は認定が認められやすい類型ではありますが、認定には一定の時間がかかり、必ず認められるとも限りません。予告手当を支払って解雇するという選択も含めて、進め方は弁護士に相談してください。

Q2. 退職金を不支給とすることはできますか。

A. まず、就業規則や退職金規程に、懲戒解雇の場合に不支給または減額とする旨の定めがあることが前提となります。その上で、裁判例は、退職金の不支給が認められるのは、それまでの勤続の功を抹消してしまうほどの著しく信義に反する行為があった場合に限られるという考え方を採っており、全額不支給が認められないこともあります。金額、態様、勤続年数、反省や弁償の有無などによって結論が変わりますので、規程の確認とあわせて弁護士に相談してください。

Q3. 刑事告訴をした方がよいのでしょうか。

A. 告訴するかどうかは、被害を受けた社員の意向、被害の程度、被害弁償の状況、会社としての方針などを踏まえた判断になります。告訴によって毅然とした姿勢を示せる一方、捜査への対応に会社の負担が生じることもあります。また、「告訴されたくなければ退職届を出せ」といった形で退職を迫れば、退職の意思表示が強迫によるものとして取り消される余地が生じ、かえって会社が不利になります。刑事責任の追及と退職の話は切り分けて進める必要がありますので、必ず事前に弁護士に相談してください。

最終更新日:2026年7月17日


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