問題社員306 労働審判申立書が届いた場合にすべきこと

動画解説

この記事の要点

申立書が届いたら、急いで答弁書を作らなければならない。時間がないということを、まず理解する

第1回期日は申立てから40日以内に指定され、答弁書の提出期限はその1週間から10日ほど前。準備に使える時間は実質3週間程度しかない

労働審判は、第1回期日でほぼ勝負が決まる。通常の裁判のように、時間をかけて主張立証を尽くしていく制度ではない

第1回期日で審理がほぼ終わり、そのまま調停の話し合いに入るのが一般的である

民事調停とは違い、逃げ道がない。異議を出せば労働審判は効力を失うが、自動的に訴訟へ移行する

「話がつかなければ終わり」という制度ではない。断れば、負担の重い裁判が始まる

調停の中身は権利義務関係を踏まえて決まる。会社に有利な方向へ持っていく手段は、答弁書と当日の陳述しかない

主要な部分を答弁書に書き切り、当日は補足的な説明で説得力を増す。これがベストを尽くした形になる

1. 労働審判とは何か

裁判であれば、何となく想像がつくのではないでしょうか。金銭などを請求したい方が、話し合いがつかないときに裁判所へ書類を提出し、お互いの言い分を戦わせて、勝てば請求が認められる。請求された側からすれば、負ければ支払わなければならない。おおよそのイメージは湧くと思います。

ところが、労働審判という手続は、21世紀に入ってから作られた比較的新しい制度で、個別労働紛争の解決を目的としたものです。裁判とは、かなり性質が異なります。

本記事では、制度の全体を解説するのではなく、申立書が届いた時点で考えなければならないポイントに絞ってお話しします。

2. まず理解すべきは、時間がないということ

申立書が届いたら、急いで答弁書を作らなければなりません

労働審判の第1回期日は、申立てがされた日から40日以内の日に指定されることとされています(労働審判規則13条)。会社に申立書が届いてから、おおむね1か月前後で第1回期日が指定されているとお考えください。そして、その1週間から10日ほど前までに、申立書に対する反論を提出してくださいという案内が入っていることが通常です。

準備に使える時間は、実質3週間程度

届いてから答弁書の提出期限までを逆算すると、実際に準備に使える時間は3週間程度しかありません。届いてからのんびりしていると、あっという間に残り2週間、1週間ということになりかねません。案外、時間が足りないのです。

3. 労働審判の最大の特徴:第1回期日でほぼ勝負が決まる

では、期限までに答弁書を提出しないと何が問題なのでしょうか。裁判であれば、直前になって争う意思を表明すれば、その後も話を聞いてもらえたりするものです。ところが、労働審判は裁判とは大きく違います。

労働審判の最大の特徴は、個別労働紛争の解決に関する手続であることに加えて、第1回期日でほぼ勝負が決まってしまうという点にあります。

労働審判の進行イメージ

制度としては、労働審判手続は特別の事情がある場合を除き3回以内の期日で審理を終結しなければならないとされています(労働審判法15条2項)。もっとも実際には、第1回期日で、事前に提出された申立書と答弁書を読み込んだ上、当日の当事者の話も聞いて、労働審判委員会がほぼ心証を形成してしまいます。
その上で、調停の話し合いに入ります。そこで話がつけば、それでよし。話がつかなければ、労働審判、つまり「これで解決しなさい」という判断が出るのが原則です。

早いと思われないでしょうか。裁判であれば、1年以上、場合によっては2年、3年とかかると聞いたことがあるかもしれません。それくらいのペースで、時間をかけて主張立証していけばよいわけです。もちろん、最初の段階で言うべきことを言うのは、弁護士がついていれば当然にやるべきことですが、経営者ご自身が対応する場合でも、まず争う意思をしっかり伝えた上で、1か月ほどのうちに弁護士に依頼し、あとは任せるという進め方で何とかなることも多いのです。

ところが労働審判は、届いてから1か月ほどで第1回期日が開かれ、それでほぼ勝負が決まってしまいます。とにかく、時間がありません。

4. 民事調停とは違う。逃げ道がない

裁判と違うのであれば、民事調停のようなものだろうか、とお考えになるかもしれません。確かに、労働審判の手続の中でも調停は行われます。しかし、通常の民事調停であれば、こちらが応じなければ、話がつかずにそれで終わりです。訴訟を起こすかどうかは、その後に相手方が判断することになります。

ところが、労働審判という手続には、逃げ道がありません

異議を出しても、自動的に訴訟へ移行する

調停で話がつかなければ、労働審判が出るのが原則です。第1回期日で調べることがないと判断されれば、その期日で労働審判が出ることもありますし、そうでなくとも、第2回、第3回の期日で話がつかなければ出ます。第2回、第3回の期日も、2週間後といった近い日程で指定されていきますので、あっという間に結論まで進んでしまいます。
労働審判に納得できなければ、告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ、適法な異議申立てがあれば労働審判は効力を失います(労働審判法21条1項、3項)。当事者双方から異議が出なければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有します(同条4項)。
問題はここからです。適法な異議申立てがあったときは、労働審判手続の申立ての時に、その申立てに係る請求について訴えの提起があったものとみなされます(同法22条1項)。つまり、自動的に訴訟へ移行するのです。通常の民事調停のように「話がつかなければ、そこで終わり」という制度ではありません。

納得のいかない労働審判が出たので異議を出す。その決断をすれば、労働審判の効力はなくなりますが、そのまま普通に裁判で戦わなければならなくなります。1年以上かかると言われる、あの負担の重い裁判です。

もちろん、請求が認められない見込みが高く、勝てるというのであれば、それでもよいかもしれません。弁護士費用や打ち合わせの時間は大変ですが、最終的に全面勝訴の見込みがあるのなら、戦うという選択もあり得ます。しかし、弁護士に費用を支払い、打ち合わせに多くの時間をかけた上で、裁判でも敗訴するということになれば、大変です。

5. 調停の中身は、権利義務関係を踏まえて決まる

そうであれば、早く調停でまとめておけばよかった、ということもあるわけです。しかし、調停の中身は何によって決まるのでしょうか。権利義務関係を踏まえて決まるのです。

では、権利義務関係を踏まえた判断の中で、どうすれば会社に有利な方向へ持っていけるのか。答弁書で言い分をしっかり伝え、当日もしっかり言い分を話す。第1回期日までにできることは、これしかありません。

ところが、第1回期日までに準備ができていない、答弁書をしっかり出せていないという状態では、当日に話そうとしても、頭の中が整理されていないため話しづらいものです。なかなかうまくいきません。準備不足のまま第1回期日に出席しても、しっかり伝えることは難しいのです。

6. 答弁書に主要な部分を書き切る

他方、答弁書を出す段階までにしっかり事実を整理し、言い分を伝えることができていれば、当日は楽になります。

理想的な形

答弁書 主張の主要部分を書き切っておく。当日は、そのとおりに話せばよい
当日の陳述 答弁書に書いていない補足的な事柄について、聞かれたら答える。口頭での説明によって説得力を増す

メインの部分を答弁書にしっかり書いておき、補足的な部分を当日に口頭で説明して説得力を増す。このイメージで臨んでいただければ、ベストを尽くしたということになるのではないでしょうか。

7. なぜ3週間での準備が難しいのか

しかし、もう一度振り返ってみてください。逃げ場がないことは分かった。しっかり反論しなければならないことも分かった。しかし、申立書が届いてから3週間ほどで答弁書を完成させるのは、大変です。

自力で書くとなれば、法律や裁判例が分からないこともありますし、本業で忙しく、そのような時間は取れないという経営者も多いはずです。

事前の交渉に弁護士が関わっていたかどうかで、大きく違う

普段から相談している弁護士がその案件の交渉にも関わっており、すでに事情を分かっているのであれば、「あの案件で申立てがされたので、一緒に反論を作りたい」とお願いしやすいと思います。
しかし、事前の交渉に弁護士が関わっていなかった場合はどうでしょうか。それから弁護士を探すことになりますが、探すこと自体に時間がかかります。「こういう案件です」と説明するのにも時間がかかります。「申立書にはこう書いてあるが、事実は違う。本当はこうであり、会社の方が正しいのだ」と伝え、理解してもらうまでにも時間が必要です。資料もそれから整理しなければなりません。
権利義務関係を踏まえた判断と言われても、自分で整理するのは大変ですから、事実上、慣れた弁護士に相談して整理してもらうほかありません。しかし、事前の交渉に関わっていない弁護士であれば、ゼロからのスタートになります。申立書が届いてから3週間というのは、それだけ厳しいのです。

8. 準備不足がもたらす結果

このように、逃げ道のない中で、きわめて短い時間で対処しなければ、会社が不利になってしまいます。

しっかり準備できていないと、あれよあれよという間に、不利な条件・金額で調停の話になってしまいます。しっかり反論できていれば50万円程度で済んだかもしれないものが、反論できなかったばかりに、200万円の解決金で調停をまとめなさいと言われてしまう。それでは辛いところです。

断ることはできます。しかし、断れば200万円の支払いを命じる労働審判が出るかもしれませんし、それに異議を出せば裁判になり、1年、2年と長く戦わなければならなくなる。会社経営者にとって、負担は非常に重くなります。

大変な制度ではありますが、そうした制度がある以上、不満を述べていても始まりません。ベストを尽くして会社を守っていくほかありません。時間がないということ、逃げ道がないということ。現実逃避をしている場合ではありません。急いで準備し、第1回期日でベストを尽くしましょう。

9. まとめ

  1. 申立書が届いたら、急いで答弁書を作る。準備に使える時間は実質3週間程度しかない
  2. 第1回期日でほぼ勝負が決まる。裁判のように時間をかけて主張立証していく制度ではない
  3. 民事調停とは違い、逃げ道がない。異議を出せば労働審判は失効するが、自動的に訴訟へ移行する
  4. 調停の中身は権利義務関係を踏まえて決まる。有利に進める手段は、答弁書と当日の陳述しかない
  5. 答弁書に主要な部分を書き切り、当日は補足で説得力を増す
  6. 事前の交渉に弁護士が関わっていたかどうかで、負担は大きく変わる

第2回、第3回の期日が開かれることもありますが、有利な方向へ持っていくには、まず答弁書をきっちり期限までに出すこと、第1回期日で補足的なものも含めて言いたいことを言うこと。これがとても大切です。裁判所から労働審判申立書が届いた経営者の皆様は、一日も早く弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 第1回期日に、経営者本人が出席する必要はありますか。

A. 出席されることを強くお勧めします。労働審判委員会は、第1回期日において当事者の話を直接聞いた上で心証を形成します。事実関係を最もよく知る立場の方が出席していなければ、その場で確認を求められた事項に答えられず、会社の言い分を十分に伝えられません。代理人弁護士だけが出席するよりも、事情を知る方が同席し、必要に応じて説明できる状態にしておく方が有利です。どなたが出席すべきかは事案によりますので、弁護士と相談して決めてください。

Q2. 労働審判に異議を申し立てると、どうなりますか。

A. 労働審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができ、適法な異議申立てがあれば、労働審判はその効力を失います(労働審判法21条1項、3項)。ただし、そこで終わりではありません。適法な異議申立てがあったときは、労働審判手続の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされ、自動的に訴訟へ移行します(同法22条1項)。通常の民事調停のように「不成立で終わり」となる制度ではない点に、特にご注意ください。なお、双方から異議が出なければ、労働審判は裁判上の和解と同一の効力を有します(同法21条4項)。

Q3. 期日の変更を求めることはできますか。

A. やむを得ない事由がある場合に限り認められることがありますが、労働審判は迅速な解決を目的とした手続ですので、期日の変更は容易には認められません。第1回期日は申立てから40日以内に指定されることとされており(労働審判規則13条)、準備が間に合わないという理由だけで変更が認められるとは限りません。「変更してもらえるだろう」と考えて動き出しが遅れることが、最も危険です。まずは一日も早く弁護士に相談し、答弁書の準備に着手してください。

最終更新日:2026年7月17日


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