問題社員219 横領や手当不正受給を行った社員の懲戒処分

動画解説

この記事の要点

お金を返してもらうだけでなく、懲戒処分でけじめをつけることが不可欠。他の社員の納得感と職場秩序の維持のため

不正受給・横領は損害賠償請求と懲戒処分の両方が必要。どちらか一方だけでは解決にならない

「いつ・どのお金を・いくら・どのやり方で」という事実と金額の特定が最優先。懲戒処分は事実確定の後に

金額を大雑把に認定したまま処分すると、後で実際の金額と乖離した場合に処分の根拠が崩れるリスクがある

横領・窃盗は金額が少なくても懲戒解雇が有効になりやすい。手当の不正受給は慎重な判断が必要

横領と手当不正受給は性質が異なり、認められる懲戒処分の重さも異なる。マニュアル的な判断は失敗する

解雇など重い処分は必ず弁護士に相談してから実施する。懲戒解雇の判断を誤ると会社が敗訴するリスクがある

「横領だから解雇は当然」という思い込みが危険な場合がある。個別事情を踏まえた専門家の判断が不可欠

1. 懲戒処分を「逃げずにやる」という決意が最初に必要

横領や手当の不正受給が発覚した場合、多くの経営者はお金の回収に気持ちが向きがちです。しかしお金を返してもらうだけでは不十分です。懲戒処分でけじめをつけることが、他の社員の納得感と職場秩序の維持にとって不可欠です。

「真面目に働いていても給料は同じなのに、不正にお金を取っていた人は返せば済む」——これでは他の社員が納得しません。不正受給した方がいなくなったとしても、しっかり懲戒処分をしておかなければ「やっても返せばいい」というモラルハザードにつながります。

⚠ 「見逃してあげる方が器が大きい」は誤り

横領・不正受給に対して懲戒処分をするのは「会社や経営者のため」だけではありません。真面目に働いている他の社員を守り、職場の公平性を維持するために必要なことです。寛大な処分が「社員に優しい会社」という発想は一面的であり、不公平に対して黙認することは職場全体の士気を下げます。

2. 最優先は「事実と金額の特定」——聴取・証拠照合で確定する

懲戒処分を行う前に最も重要な作業が「いつ・どのお金を・いくら・どのようなやり方で不正に取得したかの事実と金額の特定」です。これは損害賠償請求と並行して行う作業です。

▶ 事実・金額特定の手順

① 本人からの聴取(いつ・どのやり方で・いくら取ったのか)
② 客観的証拠(帳簿・領収書・通勤経路の記録など)との照合
③ 一覧表を作成して「いつの時点でいくら不正取得したか」を集計する
④ 本人に金額を認めさせる書面を作成する

金額の特定を大雑把に行ったまま「本人が認めたから」という理由だけで処分を進めると危険です。後から客観証拠と照合して実際の金額が大きく異なった場合、処分の根拠が崩れます。「本人が1000万円取ったと認めた」という理由で懲戒解雇したのに、実際の証拠と照らしたら200万円だったというケースは実際にあります。

3. 横領と手当不正受給で許される懲戒処分の重さは大きく違う

横領(または窃盗)と手当の不正受給では、認められる懲戒処分の重さが大きく異なります。

▶ 横領・窃盗 vs 手当不正受給の比較

横領・窃盗 金額が少額でも懲戒解雇が有効になりやすい。国家公務員の指針でも「免職(原則)」とされており、一般的に重い処分が認められる
手当の不正受給 横領より慎重な判断が必要。国家公務員の指針では「減給または戒告(上場に応じて重くなる)」が原則。重い処分(解雇)は裁判で認められないケースもある

ただしこれはあくまで「一般論」であり、マニュアル的に当てはめると失敗します。手当の不正受給でも、その性質・金額・悪質性・繰り返しの有無等によっては重い処分が認められる場合もあります。重要なのは、個別の事実を丁寧に認定して、その事実に基づいて処分の重さを判断することです。

4. 解雇など重い処分は必ず弁護士と連携して行う

戒告・減給程度の軽い処分であれば比較的判断しやすいですが、懲戒解雇など重い処分を行う場合は必ず弁護士と連携して進めてください。

「横領したんだから解雇は当然だ」という思い込みが危険な場合があります。日常用語的に「横領」と言っていても、法的な意味での「横領」や「窃盗」と一致しない場合があります。また金額・経緯・会社側の管理体制の問題なども処分の有効性に影響します。

⚠ 重い処分ほど事前の弁護士確認が必須

懲戒解雇が無効と判断された場合、その間の給与全額の支払い・社会的信用の低下・裁判費用など大きな損失が生じます。軽い処分なら多少の判断の誤りを後から修正することもできますが、懲戒解雇はやり直しがきかない処分です。必ず弁護士に確認してから実施してください。

5. まとめ

① 返金だけでなく懲戒処分でけじめをつける

他の社員の納得感と職場秩序の維持のために、お金の回収と並行して懲戒処分を行うことが不可欠です。

② 事実と金額を丁寧に特定してから処分を決める

聴取・証拠照合で「いつ・いくら・どのやり方で」を確定します。大雑把な事実確認のまま重い処分をすると後で問題になります。

③ 横領と手当不正受給は別物——解雇など重い処分は弁護士確認が必須

一般論として横領は重い処分が認められやすく、手当不正受給は慎重な判断が必要です。ただしマニュアル的な判断は禁物。重い処分は必ず弁護士に相談してから実施してください。

よくある質問(FAQ)

Q 横領した社員がお金を全額返しました。それでも懲戒解雇できますか?
A

全額返金しても懲戒解雇の有効性は否定されません。横領行為そのものが就業規則の懲戒事由に該当し、信頼関係を著しく損なう行為であるため、返金は「損害の回復」であって「処分を免れる理由」にはなりません。ただし事実の認定・手続きの適正さは必要ですので、弁護士に相談してから進めてください。

Q 通勤手当の不正受給が発覚しました。どの程度の処分が適切ですか?
A

手当の不正受給は横領より慎重な判断が必要です。一般的に減給・出勤停止などが原則で、重い処分(懲戒解雇)は金額・態様・悪質性・繰り返しの有無等を慎重に検討した上で判断します。まず金額と事実を正確に確定し、弁護士に相談して適切な処分の水準を確認してください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/15