問題社員119 無断録音でも裁判では証拠として認められると主張する。

動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
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民事裁判で無断録音が証拠として採用される可能性があることと、職場でその行為が許されるかどうかは別問題である

証拠として使われ得ることは、録音行為そのものを正当化するものではありません。

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会社には職場秩序を維持する権限があり、就業規則の有無にかかわらず無断録音を禁止することができる

面談での丁寧な説明と、段階的な書面対応を積み重ねることが、後の判断を支える基礎になります。

 近年、「無断録音でも裁判では証拠として認められるのだから、社内の会話を録音しても問題ない」と主張する社員への対応についてのご相談が増えています。この主張には大きな誤解があり、まずその点を正しく整理することが重要です。

 本記事では、職場での無断録音を正当化する社員への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。

01「裁判で証拠になる」という主張の誤解と、その理由

 「無断録音であっても裁判では証拠として採用された」という情報がインターネットやSNSで断片的に広まり、それを切り取って「証拠として使える以上、やってもよい行為だ」と結び付けてしまう社員がいます。しかし、裁判で証拠として認められたという事実と、職場で無断録音をしてよいかどうかという問題は、まったく別次元の話です。この区別がついていないことが、無断録音を正当化する主張につながっています。

 民事裁判では、どの証拠を採用するかについて裁判官に比較的広い裁量が認められており、刑事裁判のような厳格な証拠排除ルールがあるわけではありません。多少問題のある方法で収集された証拠であっても、事案の真相解明に資すると判断されれば採用されることがあるのが民事裁判の特徴です。ここで重要なのは、証拠として採用するかどうかと、その収集方法が正当かどうかは別の評価軸だという点です。裁判所が「証拠としては使うが、録音の方法自体には問題がある」と評価することもあり、録音行為が労働契約上の義務や服務規律に違反するかどうかは、裁判における証拠評価とは別の次元で判断されます。証拠として使える可能性があることと、職場でやってよい行為かどうかは、切り分けて考える必要があります。

02職場での無断録音を会社が禁止できる法的根拠と、その悪影響

 労働者は会社と労働契約を締結することで、単に労務を提供するだけでなく、会社の利益を害しないよう配慮する義務や、職場秩序を維持する義務を負います。これは明文化された条文がなくても、労働契約の性質上、当然に導かれる義務です。職場での無断録音は、業務上の会話や社内情報を本人の管理下に置く行為であり、情報漏えいのリスクを高めるとともに、周囲の社員に「いつ録音されているか分からない」という心理的負担を与え、安心して業務に集中できない環境を生み出します。これは職場秩序を乱す行為と評価できるため、会社が「やめるよう指示する」「禁止する」という対応を取ることは、使用者としての正当な権限行使にあたります。

 無断録音を放置した場合の悪影響は決して小さくありません。率直な意見交換や報告・相談が避けられるようになれば、チームワークを前提とする業務の質やスピードは低下します。業務上の会話には取引先情報や人事情報など外部に漏れてはならない情報が数多く含まれており、無断録音されたデータがどのように保管され、誰がアクセスできるのかを会社が管理できない状態は、経営上のリスクとして看過できません。また、無断録音を黙認すると、「この会社は職場秩序を守ってくれない」というメッセージを社員に与えてしまい、後に注意指導や懲戒処分を行おうとした際の障害にもなり得ます。

03就業規則の有無と、明文化する実務上のメリット

 就業規則が整備されていない会社であっても、無断録音の禁止は、就業規則に定められているかどうか以前に、労働契約そのものから導かれる義務に基づくものであるため、禁止することは可能です。もっとも、就業規則がない場合、社員にとって「どこまでが禁止なのか」が分かりにくく、「そんなルールは聞いていない」と反発されやすい側面は否定できません。禁止できるかどうかと、トラブルを防ぎやすいかどうかは別の問題であるという点に留意が必要です。

 就業規則に「業務中または職場において、会社の許可なく録音・録画を行ってはならない」といった形で明文化しておくことには、実務上大きなメリットがあります。ルールが明確に示されていれば、「知らなかった」という言い訳を封じやすくなるとともに、無断録音が服務規律違反であることが誰の目にも明らかになり、注意指導や懲戒処分へ進む際の合理性を高めることができます。また、就業規則を通じて周知すること自体が、軽い気持ちで録音を考えていた社員に対する抑止効果を持ちます。過去に無断録音のトラブルが起きた会社や、今後同様の問題が想定される会社であれば、就業規則への明文化を前向きに検討する価値があるといえます。

04初期対応・面談の進め方と、厳重注意書・懲戒処分の判断基準

 就業規則での明文化や口頭での説明を行ってもなお無断録音をやめない社員がいる場合、初期対応が重要になります。立ち話や雑談の延長で注意する対応は避け、できるだけ早い段階で会議室に呼び、正式な面談の場を設けることをお勧めします。場所を改めるだけでも、「会社として問題視している行為である」というメッセージが明確に伝わります。面談では、無断録音は会社として認めていない行為であり、職場秩序を乱すものであることをはっきり伝えたうえで、「裁判で証拠として認められることと、職場でやってよいかは別問題である」という点を冷静に説明することが重要です。曖昧な終わらせ方は避け、今後も続ける場合には正式な対応を取らざるを得ないことを、穏やかでも明確な言葉で伝えておくことが望まれます。

 面談による注意指導を行ってもやめない場合、次に検討すべきなのが書面による厳重注意です。無断録音という問題行動が存在し、会社がやめるよう指示したにもかかわらず従わないという事実関係がそろった場合、会社の指示命令に従わないという点が重い評価対象になります。厳重注意書には、感情的な表現を避け、いつ、どのような場面で無断録音行為が確認されたのか、それが職場秩序を乱す行為であることを事実に即して記載します。「始末書」という名称は懲戒処分と誤解されやすいため、事実関係の整理や反省を求める段階では「顛末書」や「事情説明書」といった名称を用いることをお勧めします。それでも改善が見られない場合には懲戒処分を検討しますが、処分の重さが行為の内容や経過と釣り合っているかを慎重に確認する必要があります。

05解雇が検討対象となるケースと、弁護士へ相談すべきタイミング

 厳重注意書の交付や懲戒処分を行ってもなお無断録音をやめず、会社の指示にも従わない状態が続く場合、解雇が現実的な検討対象となります。ここでの本質的な争点は、無断録音それ自体というより、会社の業務指示・ルールに従わない姿勢にあります。会社の指示を無視し続ける社員を職場に置き続けることは、他の社員に対して「ルールは守らなくてもよい」という誤ったメッセージを発信することにもなりかねません。もっとも、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、注意指導、書面対応、懲戒処分といった段階的対応を踏んできたかどうかが重要な判断材料になります。「解雇予告をした」「解雇予告手当を支払った」というだけで解雇が有効になるわけではない点にも注意が必要です。

 無断録音をめぐる問題は、対応を誤ると紛争化しやすいテーマです。社員が「裁判では証拠になる」「法律的に問題ない」といった主張を強く繰り返し始めた段階、厳重注意書や懲戒処分を検討し始めた段階、解雇や退職勧奨を視野に入れ始めた段階は、いずれも弁護士への相談を検討すべきタイミングといえます。無断録音という行為の評価、指示命令違反の重み、改善可能性の有無を総合的に判断する必要があるため、早めに専門家の関与を得ることをお勧めします。

06よくある質問(FAQ)

Q. 裁判で証拠として認められる以上、会社は無断録音を禁止できないのでしょうか。

いいえ、禁止は可能です。民事裁判で証拠として採用される可能性があることと、職場でその行為が許されるかどうかは別問題です。会社には職場秩序を維持する権限があり、情報漏えいリスクや周囲への心理的負担を理由に無断録音を禁止することは、正当な業務指示と評価されます。

Q. 就業規則に「録音禁止」の規定がない場合でも、やめさせることはできますか。

可能です。無断録音の禁止は、就業規則の有無にかかわらず、労働契約に付随する職場秩序維持義務や会社の利益を害さない配慮義務から導かれます。ただし、無用な反論を防ぎ、対応の有効性を高めるためには、就業規則に明文化しておくことをお勧めします。

Q. 無断録音をやめない社員を解雇することは可能ですか。

録音行為そのものに加え、会社による「やめなさい」という明確な指示に繰り返し違反し、職場秩序を著しく乱す場合には、解雇が検討対象となり得ます。ただし、解雇の有効性を確保するためには、段階的な注意指導や懲戒処分を行った記録を積み重ねていることが不可欠です。

経営上のポイント 民事裁判で無断録音が証拠として採用される可能性があることと、職場でその行為が許されるかどうかは別問題です。会社には職場秩序を維持する権限があり、就業規則の有無にかかわらず無断録音を禁止することができます。面談での丁寧な説明と、段階的な書面対応を積み重ねることが、後の懲戒処分や解雇の判断を支える基礎になります。具体的な事情に応じて、実務で活用いただける方針をご案内します。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。無断録音・職場秩序に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月8日


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