問題社員120 初めての業務を嫌がる。
目次
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1. 初めての業務を嫌がる社員は珍しくない
会社経営者の立場からすると、「初めての業務を振っただけなのに、露骨に嫌がられる」「不安だと言われて進まない」といった状況に戸惑うことも多いと思います。しかし実務上、初めての業務に対して不安や拒否感を示す社員は、決して珍しい存在ではありません。
初めての仕事には、失敗への不安や、自分にできるのかという恐怖心がつきものです。特に、経験や自信が十分でない社員ほど、「やったことがない」「分からない」という理由で消極的な態度を取りやすくなります。この点自体は、人間として自然な反応だと言えるでしょう。
しかし、会社経営者として注意しなければならないのは、「不安だ」「嫌だ」という気持ちがあるからといって、常に業務を免除しなければならないわけではないという点です。企業は限られた人員で事業を回しており、業務を誰かに任せなければ成り立たない場面も多くあります。社員の感情と、会社としての必要性が衝突するのは、ある意味避けられないことです。
また、「初めての業務」をどう扱うかは、単なる業務指示の問題ではなく、人材育成や組織運営の問題でもあります。将来的に担ってもらいたい役割を見据えて、あえて新しい業務を任せることもありますし、その過程で一定の不安や失敗が生じることを前提としているケースもあります。
そのため、初めての業務を嫌がる社員が出てきた場合に、すぐに「問題社員だ」と決めつけるのは適切ではありません。一方で、「嫌がっているから今回はやめておこう」と安易に引き下がることが、必ずしも正しいマネジメントとも限りません。
重要なのは、感情論だけで判断せず、法的な枠組みとマネジメントの視点の両方から冷静に検討することです。次章では、その前提として、まず会社に「その業務を命じる権限があるのか」という点から整理していきます。
2. まず確認すべき「その業務を命じる権限があるか」
初めての業務を嫌がる社員が出てきた場合、感情面やマネジメント論に入る前に、**最初に必ず確認すべきなのが「会社にその業務を命じる権限があるかどうか」**という点です。これは問題対応の土台となる重要な確認事項です。
会社は、労働者と労働契約(雇用契約)を結ぶことで、一定の範囲内で業務を命じる権限を持ちます。逆に言えば、労働契約で予定されていない業務を、一方的な命令でやらせることはできません。たとえば、会社の事業と無関係な私的な用事を命じることができないのは、このためです。
そのため、「初めての業務だから嫌だ」という社員の訴えに向き合う前に、まずはその業務が、労働契約上予定されている業務の範囲に含まれているのかを冷静に検討する必要があります。ここを曖昧にしたまま進めてしまうと、後に「そもそも命令権がなかった」という反論を招きかねません。
もっとも、実務上は、会社の業務と明らかに無関係な仕事を命じているケースはそれほど多くありません。これまで通常の業務を問題なく行ってきた社員であれば、今回の業務も契約の範囲内である可能性が高いのが一般的です。ただし、「初めての業務」という点が引っかかる場合には、一度立ち止まって確認する姿勢が重要です。
会社経営者としては、「命じられるかどうか」という法的な線引きを意識せずに、「必要だから」「やってもらわないと困るから」と進めてしまいがちです。しかし、初動でこの確認を怠ると、その後の説得や指導、業務命令、さらには懲戒処分の正当性にも影響します。
次章では、この命令権の判断に直結する、「労働契約で予定されている業務範囲」の具体的な考え方について解説していきます。
3. 労働契約で予定されている業務範囲の考え方
4. 正社員と契約社員・パートで異なる注意点
初めての業務を嫌がる社員への対応では、雇用形態の違いを無視して同じ対応を取ってしまうと、法的にも実務的にも問題が生じやすくなります。特に、正社員と契約社員・パート・アルバイトでは、業務命令の許容範囲に違いがある点を、会社経営者は正確に理解しておく必要があります。
まず正社員については、前章で触れたとおり、業務内容が比較的広く予定されているケースが多く、「会社の事業に関連する業務で、合理性がある範囲」であれば、初めての業務であっても業務命令として有効と判断されやすい傾向にあります。そのため、「やったことがない」「不安だ」という理由だけで業務命令を拒否することは、原則として認められにくいと言えます。
一方、契約社員やパート・アルバイトの場合は事情が異なります。これらの雇用形態では、契約書や雇用条件通知書に業務内容が具体的に限定されていることが多いため、その範囲を超える業務を命じると、「契約外業務だ」という反論が出やすくなります。初めての業務であること自体よりも、「契約で予定されていない業務かどうか」が問題になるのです。
たとえば、「一般事務補助」として雇用しているパート社員に対し、専門的な判断を要する業務や、明らかに別職種の業務を命じた場合、たとえ会社に必要な業務であっても、業務命令としての正当性が否定される可能性があります。この点を軽視すると、「命令に従わない社員」という評価自体が成り立たなくなります。
また、契約社員の場合、契約期間中の業務内容変更が、契約条件の不利益変更と評価されるリスクもあります。初めての業務を命じることが、報酬や責任の重さと釣り合っているかどうかも、あわせて検討が必要です。
会社経営者としては、「同じ職場で働いているのだから同じように命じてよい」という発想は危険です。雇用形態ごとの契約内容を踏まえたうえで、業務命令の可否を判断することが、後のトラブル防止につながります。
次章では、たとえ業務命令の権限がある場合でも、無条件にやらせてよいわけではない理由について、マネジメントと法的視点の両面から解説します。
5. 権限があっても無条件にやらせてよいわけではない
前章までで、「労働契約上、その業務を命じる権限があるかどうか」が重要だと説明してきました。ただし、命令権がある=どんな形でも無条件にやらせてよい、というわけではありません。この点を誤解すると、不要なトラブルを招くことになります。
たとえ業務命令として有効な範囲に入る仕事であっても、その命じ方や内容によっては、「権限の濫用」と評価される可能性があります。たとえば、十分な説明や準備もないまま、いきなり難易度の高い業務を丸投げしたり、失敗すれば強く責任追及するような対応をしたりすると、社員の不満や反発は強くなります。
また、初めての業務には、通常一定の教育や引き継ぎ、サポートが必要です。それにもかかわらず、「仕事なんだから自分で考えろ」「できないのは本人の能力不足だ」と突き放すような対応をすると、マネジメントとして問題視されやすくなります。業務命令の正当性は、内容だけでなく、与え方や前提条件も含めて評価されるという点を意識してください。
さらに注意したいのが、業務の難易度やリスクとのバランスです。初めての業務であるにもかかわらず、失敗が重大な損失につながるような仕事を、十分な準備なしに任せることは、会社側の管理体制として疑問を持たれやすくなります。このような状況で社員が強い不安を訴える場合、単なる「わがまま」とは言い切れないケースもあります。
会社経営者として重要なのは、「命じられるかどうか」と「どう命じるか」を切り分けて考えることです。法的に命令可能であっても、マネジメントとして適切かどうかは別問題です。ここを誤ると、本来は育成や戦力化につながるはずの業務が、対立や紛争の火種になってしまいます。
次章では、この点を踏まえ、マネジメントの視点から「本当にやらせるべきかどうか」をどう判断するかについて解説していきます。
6. マネジメント視点で考える「やらせるべきかどうか」
業務命令として可能であり、形式的には「やらせることができる」業務であっても、それを本当に今、その社員にやらせるべきかどうかは、マネジメントの視点から慎重に検討する必要があります。ここを誤ると、法的には問題がなくても、組織運営として失敗することがあります。
まず考えるべきは、その業務を社員に任せる目的です。単に「人が足りないから」「他にやる人がいないから」という理由だけで初めての業務を振ると、本人の納得感が得られにくくなります。一方で、「将来的にこの業務を担ってもらうため」「役割を広げるため」といった明確な意図がある場合には、多少の不安があっても挑戦させる合理性があります。
次に重要なのが、その社員のこれまでの経験・能力・性格です。新しい業務に前向きに取り組めるタイプなのか、慎重で時間をかけて慣れるタイプなのかによって、同じ業務でも適切な進め方は変わります。一律に「仕事だからやれ」と押し切ると、かえってパフォーマンスが下がることもあります。
また、初めての業務を任せることによるリスクの大きさも無視できません。失敗しても修正がきく業務なのか、ミスが即座に重大な損害につながる業務なのかによって、判断は変わります。後者の場合には、段階的に関与させる、補助的な役割から始めるなどの工夫が求められます。
会社経営者としては、「命令できるかどうか」だけで判断するのではなく、その業務を通じて何を実現したいのか、誰にどのタイミングで任せるのが最適かという視点を持つことが重要です。これが欠けていると、社員にとっては「無理やり押し付けられた仕事」にしか見えず、反発や拒否につながりやすくなります。
初めての業務を嫌がる社員への対応は、単なる従業員管理ではなく、経営者としての人材活用力が問われる場面でもあります。次章では、その前提として不可欠な、初めての業務に必要なサポート体制とリスク管理について解説します。
7. 初めての業務に必要なサポート体制とリスク管理
初めての業務を社員に任せる場合、会社経営者として必ず意識しておきたいのが、サポート体制とリスク管理をどこまで用意しているかという点です。ここが不十分だと、「嫌がる社員」の問題ではなく、「会社のマネジメント不足」が原因でトラブルが起きてしまいます。
まず重要なのは、事前説明と情報提供です。業務の目的、全体像、どこまでを任せるのか、最終的な責任は誰が負うのかといった点を、あらかじめ明確にしておく必要があります。これが曖昧なままだと、社員は「失敗したら自分の責任になるのではないか」と過度に不安を感じ、業務そのものを拒否する原因になります。
次に、教育・引き継ぎの有無です。初めての業務である以上、一定の説明や引き継ぎが必要になるのは当然です。「見て覚えろ」「やりながら慣れろ」という姿勢が常に許されるわけではありません。特に、業務の専門性が高い場合や、ミスが問題になりやすい業務については、最低限の手順説明やマニュアル、相談先の明示が求められます。
また、リスク管理の観点からは、「失敗した場合にどうフォローするのか」を会社側で想定しておくことが重要です。初めての業務でミスが出ること自体は、ある程度織り込み済みであるべきです。それにもかかわらず、失敗時に過度な叱責や責任追及を行うと、「だからやりたくなかった」という感情を強める結果になります。
会社経営者としては、「業務命令を出した=あとは本人任せ」という発想を避け、初めての業務だからこそ、管理の密度を一時的に高めるという意識を持つことが大切です。これは甘やかしではなく、将来的に安定して業務を任せるための投資と考えるべきでしょう。
サポート体制とリスク管理が整っていれば、社員の不安はかなり軽減されます。それでもなお「やりたくない」「拒否したい」という姿勢が続く場合には、次の段階として、説得や面談の進め方が重要になってきます。次章では、その具体的なポイントを解説します。
8. 嫌がる社員への説得と面談の進め方
サポート体制を整えてもなお、初めての業務を嫌がる社員がいる場合には、説得と面談の進め方が極めて重要になります。この段階では、「何となく話す」「軽く声をかける」といった対応では不十分で、会社経営者としての姿勢を明確に示す必要があります。
まず大切なのは、必ず正式な面談の場を設けることです。自席での雑談や、忙しい合間の一言では、社員は「本気の話ではない」と受け取りがちです。会議室など場所を改め、業務として時間を確保した面談を行うことで、「会社として重要なテーマである」というメッセージが伝わります。
面談では、いきなり「やれ」「拒否は許されない」と結論を押し付けるのではなく、まず社員が何を不安に感じているのかを整理します。ただし、これは感情に全面的に寄り添うという意味ではありません。不安の中身を具体化し、業務上の問題として切り分けることが目的です。「分からない」「失敗が怖い」といった点であれば、サポートや進め方の工夫で解消できる場合も多くあります。
一方で、話を聞いた結果、「やったことがないから」「気が進まないから」といった理由だけで拒否していることが明らかになった場合には、会社経営者として一線を引く必要があります。この場合は、「業務として必要であり、会社としては担当してもらう」という判断を、曖昧にせず、はっきり伝えることが重要です。
注意すべきなのは、説得の場が「交渉」や「意見交換」になり過ぎないことです。業務命令が可能な範囲であるにもかかわらず、過度に譲歩すると、「嫌だと言えば断れる」という誤った前例を作ってしまいます。これは、今後のマネジメントにも悪影響を及ぼします。
面談の最後には、「今回の業務をどのように進めるのか」「どこまでを本人に求めるのか」「困った場合の相談先はどこか」といった点を整理し、会社としての方針を明確にしたうえで終了することが重要です。ここを曖昧にしたまま終わらせると、後の「言った・言わない」の争いにつながります。
次章では、こうした流れを踏まえたうえで、業務命令を曖昧にしないことの重要性について、さらに掘り下げて解説します。
9. 曖昧にしない|業務命令を明確に出す重要性
初めての業務を嫌がる社員への対応で、トラブルを長期化させてしまう最大の原因の一つが、業務命令を曖昧にしたまま話を終えてしまうことです。会社経営者としては「納得してくれればいい」「できれば前向きにやってほしい」と考えがちですが、この姿勢がかえって混乱を招くことがあります。
面談の場で、説明や説得を十分に行ったにもかかわらず、最終的に「結局やるのか、やらないのか」がはっきりしない状態で終わると、社員は「これはお願いベースの話だった」「断っても問題ない」と受け取ってしまう可能性があります。こうなると、後になって「業務命令に従わなかった」と評価することが難しくなります。
業務として必要であり、労働契約上も命令可能な範囲であると判断したのであれば、最終的には業務命令として明確に伝えることが不可欠です。ここでいう明確さとは、感情的に強く言うことではなく、「これは会社としての業務指示である」という位置づけを、言葉としてはっきり示すことを意味します。
たとえば、「できればお願いしたい」「前向きに検討してほしい」といった表現のまま終わらせるのではなく、「今回の業務は、会社としてあなたに担当してもらう業務です」「○月○日から、この業務を進めてください」といった形で、指示の内容と時期を具体化することが重要です。
このように業務命令を明確にしておくことは、社員にとってもメリットがあります。何を求められているのかが分かれば、過度な不安や迷いが減り、腹をくくって取り組むきっかけになることも少なくありません。逆に、曖昧な指示は、不安と不満を増幅させるだけです。
会社経営者としては、「嫌がっているから強く言いにくい」という気持ちがあるかもしれません。しかし、曖昧なまま放置することこそが、後の注意指導や懲戒処分を難しくする最大の原因になります。だからこそ、出すべき場面では、業務命令として整理して伝える勇気が必要です。
次章では、こうした明確な業務命令にもかかわらず従わない場合に、厳重注意書や懲戒処分をどう考えるべきかについて解説します。
10. 従わない場合の厳重注意書・懲戒処分の考え方
前章までで、業務命令を明確に出すことの重要性を説明しました。それでもなお、初めての業務を正当な理由なく拒否し続ける場合には、会社経営者として次の段階の対応を検討する必要があります。それが、厳重注意書や懲戒処分です。
ここで押さえておきたいのは、問題の本質が「初めての業務であること」ではなく、会社の業務命令に従わないという点に移っているということです。業務命令が労働契約の範囲内であり、必要性・合理性もあり、かつサポート体制も整えているにもかかわらず拒否する場合、その態度は企業秩序違反として評価されやすくなります。
まず検討すべきなのは、書面による厳重注意です。口頭での注意や面談だけでは事の重大性が伝わらない場合、厳重注意書を交付することで、「会社として正式に問題視している行為である」ことを明確に示すことができます。この段階では、感情的な表現は避け、どの業務命令に、どのように従わなかったのかという事実を中心に記載することが重要です。
それでも改善が見られない場合には、懲戒処分を検討することになります。懲戒処分は、軽いものから重いものへと段階的に行うのが原則です。いきなり重い処分に進むのではなく、これまでの指導経過や本人の態度を踏まえて判断することが、後の紛争防止につながります。
会社経営者として注意したいのは、「初めての業務を嫌がっているだけだから」と対応を先送りしてしまうことです。正当な業務命令に従わない状態を放置すると、他の社員に対しても悪影響を及ぼします。「嫌だと言えば断れる」という前例ができてしまうからです。
厳重注意書や懲戒処分は、社員を罰するためのものではなく、組織秩序を守るための手段です。その位置づけを意識しながら、冷静かつ一貫した対応を行うことが求められます。
次章では、こうした判断に迷ったとき、なぜ早めに弁護士へ相談すべきなのかについて解説します。
11. 判断に迷う場合は弁護士に相談すべき理由
初めての業務を嫌がる社員への対応は、表面的には単なる「やりたくない」という問題に見えても、実際には業務命令の有効性、マネジメントの在り方、懲戒処分の適否といった複数の論点が絡み合っています。そのため、会社経営者が一人で判断しようとすると、どうしてもリスクが高くなります。
特に相談すべきタイミングとして多いのが、①業務命令として出すべきか迷っている段階、②厳重注意書や懲戒処分を検討し始めた段階、③将来的に解雇や退職勧奨も視野に入ってきた段階です。このいずれかに当てはまる場合、早めに弁護士の助言を受けることが、結果的に会社を守ることにつながります。
弁護士に相談するメリットは、「できる・できない」を単純に判断してもらうことではありません。業務命令の出し方、文言の選び方、記録の残し方、次に進むべきタイミングなど、実務上の失敗を避けるための具体的なアドバイスを得られる点にあります。
会社経営者の感覚としては、「まだ大ごとではない」「もう少し様子を見たい」と感じる段階こそ、実は最も重要な局面であることが少なくありません。この段階で対応を誤ると、後から選択肢が極端に狭まり、不要な紛争に発展してしまいます。
初めての業務を嫌がる社員への対応で大切なのは、感情に流されず、法的な枠組みとマネジメントの視点を両立させることです。その判断に少しでも不安があるのであれば、「まだ軽いうち」に専門家の視点を入れることを、会社経営者として前向きに検討してください。
最終更新日2026/2/15

