この記事の要点

残業代が払えなくなる最大の原因は「賃金の内訳の誤り」——本来残業代の支払に充てるべき金額を基本給・諸手当・賞与等に充ててしまっていること

「賃金総額は用意できているが内訳が間違っている」という状態です

正しい考え方は「残業代(割増賃金)は必ず支払わなければならない」ことを前提として、基本給・諸手当・賞与等の金額を逆算して決定すること

「残業代は後から考える」ではなく「残業代から逆算して設計する」という発想の転換が必要です

逆算した結果、賃金額が最低賃金を下回るようであれば、ビジネスモデル自体が破綻しているということを意味する

その場合は賃金の設計以前にビジネスモデルそのものを見直す必要があります

最低賃金を下回らない限りは工夫の余地がある——基本給・諸手当・賞与のバランスを見直すことで残業代の原資を確保できる

332番で解説した賃金設計の方法(賞与比率・除外賃金・定額残業代等)と組み合わせた設計が有効です

01残業代が払えない最大の原因——賃金の内訳の誤り

 「残業代を支払えない」「支払うと赤字になってしまう」という悩みを持つ使用者の方は少なくありません。しかし、残業代を支払えなくなる一番大きな原因は、本来、残業代(割増賃金)の支払に充てるべき金額を基本給・諸手当・賞与等に充ててしまっていることにあります。つまり、賃金の内訳を間違えているわけです。

 例えば、一人の社員に月額30万円を支払える資金がある場合、すべてを基本給として30万円を支払い、「残業代はそこから出ない」という状態を作ってしまっています。本来であれば、月額30万円のうちの相当部分を残業代(割増賃金)として確保した上で、基本給・諸手当はその残りで設定すべきなのです。

残業代を「後から追加するもの」と考えていないか

多くの使用者が「基本給・諸手当・賞与を決めた上で、残業代はその上乗せ」として考えています。しかし労基法上、残業代(割増賃金)は基本給等と並ぶ「当然支払わなければならないコスト」です。この発想を逆転させることが、賃金原資を確保するための第一歩です。

02正しい賃金設計の考え方——残業代から逆算する

 残業代(割増賃金)の支払は労基法で義務付けられているわけですから、残業代(割増賃金)は必ず支払わなければならないことを前提として、基本給・諸手当・賞与等の金額を逆算して決定することが正しい賃金設計のアプローチです。

残業代から逆算する賃金設計の考え方(例)

① 発生する残業代の見積もり
「この職種・業務量では月平均○時間の時間外労働が発生する」という残業時間の実態を把握し、発生する残業代の月額を計算する(残業代単価×平均残業時間数)。

② 残業代原資の確保
見積もった残業代(割増賃金)を必ず支払えるように、その金額分を月額の賃金の中に「残業代として支払う枠」として確保する。

③ 残りで基本給・諸手当を設定
月額で支払える総額から残業代の見積もり額を差し引いた残りの範囲で、基本給・諸手当の額を設定する。

03逆算した結果、最低賃金を下回る場合の意味

 残業代から逆算した結果、賃金額(基本給・諸手当等)が最低賃金額を下回るようだとすれば、ビジネスモデル自体が破綻していることになってしまいます。

 これはつまり、「現在の業務量・労働時間・人員体制では、法律が定める残業代を支払った場合に最低賃金すら支払えない収益構造になっている」ということを意味します。この場合は賃金の設計以前に、①業務の効率化・生産性向上による時間当たりの売上を増やす、②業務量の見直し・不採算業務の削減による労働時間を減らす、③価格の見直しによる収益改善——といったビジネスモデルそのものの見直しが必要です。

04最低賃金を下回らない場合——工夫で原資を確保する方法

 逆算した結果、賃金額が最低賃金を下回るということにならなければ、工夫の余地があります。具体的な賃金設計の方法については332番で詳しく解説していますが、主な方法を整理すると以下のとおりです。

方法 概要
月例賃金を抑制して賞与の比率を高める 月々の基本給等を抑えて残業代の原資を確保し、能力・業績評価に応じた差額を賞与(ボーナス)で支給する
除外賃金の割合を高める 家族手当・通勤手当・住宅手当等の除外賃金(労基則21条)の割合を高めることで、割増賃金計算の基礎となる基礎賃金を引き下げる
定額(固定)残業代制度を採用する 一定時間分の時間外労働に対する割増賃金をあらかじめ月例賃金に含めて支払う制度(適法な要件を満たした設計・運用が必要)

 これらの方法を組み合わせることで、人件費総額を大きく増やすことなく残業代の原資を確保する賃金制度を設計することが可能です。ただし、各方法には適法な設計・運用のための要件があります(332番参照)。

05まとめ

 残業代(割増賃金)を支払済みにするための賃金原資が不足する最大の原因は、本来残業代の支払に充てるべき金額を基本給・諸手当・賞与等に充ててしまっているという賃金の内訳の誤りにあります。正しい考え方は「残業代は必ず支払わなければならない」ことを前提として、基本給・諸手当・賞与等の金額を逆算して決定することです。逆算した結果が最低賃金を下回るようであれば、それはビジネスモデル自体の見直しが必要なことを意味します。最低賃金を下回らない場合は、賞与比率の調整・除外賃金の活用・定額残業代制度等の工夫により原資を確保することができます(332番参照)。具体的な賃金制度の設計については使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。賃金制度の設計・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。アドバイスします。

Q&Aよくある質問

Q1. 残業代を支払うと人件費が増えて経営が苦しくなります。どうすればよいですか。

A. 本来は「残業代は別途追加コスト」ではなく、「賃金の内訳の一つ」として最初から組み込まれているべきものです。基本給・諸手当・賞与等を残業代から逆算して設計し直すことで、人件費総額を大きく増やすことなく残業代を支払える制度を構築できます。具体的には賞与比率の調整・除外賃金の活用・定額残業代制度等の方法があります(332番参照)。

Q2. 逆算した結果、最低賃金を下回ることが分かった場合はどうすればよいですか。

A. それは「現在の業務量・労働時間・収益では、法律が定める残業代を支払うと最低賃金すら支払えない収益構造」を意味します。賃金制度の設計以前に、業務の効率化・生産性向上、不採算業務の見直し、価格の見直し等によるビジネスモデルそのものの改善が必要です。使用者側弁護士や経営コンサルタントへの相談をお勧めします。

Q3. 「残業代から逆算して設計する」とは具体的にどういうことですか。

A. 例えば、ある社員に月額30万円の賃金が支払える場合、①まずその業務・職種で平均的に発生する残業時間数を把握し、②その残業時間数に対応する残業代(割増賃金)の月額見積もりを計算し、③30万円から残業代の見積もり額を差し引いた範囲で基本給・諸手当を設定する——というアプローチです。「残業代は後から出てくるもの」ではなく「最初から枠を確保するもの」として設計します。

最終更新日:2026年5月10日



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