この記事の結論
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形式的な法令遵守だけでは十分ではない

訴訟で勝つためには法令遵守が必要ですが、それだけでは労務管理として十分とはいえません。形式的に規則が整っていても、社員の心が離れている職場では労使紛争は起きやすく、訴訟でも不利になります。

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「この会社で働けて幸せ」と思ってもらえる職場をつくることが目標

社員の多くが「この会社で働くことができて幸せだ」と感じながら働いている状態を目指すべきです。少なくとも「他の会社よりはここで働いている方がまだ幸せ(マシ)だ」と思ってもらえる職場にする必要があります。

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社員が幸せと感じる職場は、会社・社員・労使関係のすべてにプラスをもたらす

「この会社で働けて幸せ」と思ってもらえる労務管理は、社員の生き生きとした就労、会社の利益向上、良好なキャリア形成、労使紛争の抑止、訴訟で勝てる体制という好循環を生み出します。

01法令遵守は必要条件だが、それだけでは不十分

 労働問題に関する訴訟で勝てるようにするために法令を遵守することは、当然必要となります。就業規則の整備、賃金の適正な支払い、労働時間の管理など、法律が求める最低限の基準を守ることは、労務管理の出発点です。

 しかし、形式的に法令を遵守しているだけでは十分とはいえません。法律の文言に照らして問題がない状態を整えることはできても、それだけで社員が生き生きと働ける職場になるわけでも、労使紛争が起きにくくなるわけでも、万が一訴訟になっても勝てる状態になるわけでもありません。

 法令遵守は「最低限」であって「ゴール」ではない。この認識が、良い労務管理の出発点となります。

02目指すべき労務管理のイメージ

 労務管理の目標として、社員の多くが「この会社で働くことができて幸せだ」と思いながら働いている状態にすることを目指すべきです。

 これは高い理想のように聞こえるかもしれません。ただ、すべての社員が心からそう思う必要はありません。少なくとも「他の会社で働くよりは、うちの会社で働いていた方がまだ幸せ(マシ)だ」くらいは思ってもらえるようにする必要があります。

 「この会社でなければならない」という気持ちまでは求めなくてよい。しかし、「どうせ働くなら他の会社よりここの方がいい」と思えるような職場をつくること。これが、労務管理として目指すべき現実的なイメージです。

 もちろん、そこには給与・待遇・労働時間といった「条件」の面だけでなく、職場の人間関係、仕事の意義・やりがい、上司・経営者の姿勢、評価の公正さ、成長の機会といった「環境」や「文化」の面も大きく関係してきます。

03好循環:社員が幸せな職場がもたらすもの

 「この会社で働くことができて幸せだ」と思ってもらえるような労務管理を行うことにより、次のような好循環が生まれます。

「社員が幸せな職場」がもたらす好循環

社員が生き生きと働ける
満足度・モチベーションが高い社員は、業務に真剣に取り組み、生産性が上がる。

会社の利益が上がりやすくなる
士気の高い職場は業務効率が良く、優秀な人材も離職しにくいため、会社の業績向上につながる。

社員のキャリア形成にもプラスに働く
活躍できる環境で経験を積んだ社員は成長し、会社と社員が共に発展するという関係が生まれる。

労使紛争が起きにくくなる
「この会社を辞めたくない」「会社に迷惑をかけたくない」と思っている社員は、紛争の火種をつくりにくく、不満が訴訟に発展しにくい。

訴訟になっても勝つ確率が格段に高くなる
万が一一部の問題社員との間で労使紛争が生じて訴訟を提起されたとしても、職場全体に「この会社の対応は適切だった」という証言が得られやすくなる。

04悪循環:社員の士気が低い職場のリスク

 他方で、社員が「他の会社で働くよりも不幸だ。良い転職先が見つかったら、すぐにでも辞めてやる。」と思いながら働いているようでは、次のような悪循環に陥る可能性が高くなります。

「社員の士気が低い職場」がもたらす悪循環

労使紛争が起きやすくなる
不満を抱えた社員は、些細なきっかけから労働組合や弁護士に相談しやすくなる。

訴訟でも負ける確率が高くなる
社員全体の会社への不信感が裁判官にも伝わりやすく、不利な証言が集まりやすい。

業務効率が悪化する
やる気のない社員が増えると生産性が落ち、ミスや顧客トラブルも増える。

会社が利益を上げられなくなる
業務効率の悪化と優秀な人材の流出が重なり、会社全体の競争力が低下する。

社員のキャリア形成もできなくなる
成長機会のない職場では社員も伸びず、会社とともに衰退するという負のスパイラルに入る。

05訴訟で勝てる職場と負けやすい職場の違い

 会社側弁護士として多くの労使紛争・労働訴訟を扱ってきた経験から、訴訟の勝敗に大きく影響するのは「証拠の有無」だけではないと感じます。

 訴訟において、裁判官は書類上の証拠を検討するだけでなく、会社がどのように社員と向き合ってきたか、他の社員の証言、職場環境の実態なども総合的に評価します。社員が「会社はきちんとした対応をしてきた」「あの人(元社員)の言い分はおかしい」と自発的に証言してくれるような職場は、訴訟において圧倒的に強い。

 逆に、社員全員が「自分も実は会社に不満がある」「会社のやり方はひどいと思っていた」という空気を持っている職場では、書類上の証拠が整っていても、訴訟で苦戦することがあります。

 法令遵守と適切な記録・証拠の整備を行いながら、それと同時に「社員に信頼される職場をつくる」という視点で労務管理を行うことが、本質的な労使紛争・訴訟対策なのです。

経営上のポイント 労務管理の本質は、社員に「この会社で働けて幸せ」と感じてもらえる職場をつくることにあります。それは社員のためだけでなく、会社の利益向上・労使紛争の抑止・訴訟での勝訴率向上という形で、会社自身に大きなリターンをもたらします。法令遵守を出発点としながら、社員が信頼できる職場環境の整備を、使用者側弁護士と一緒に継続的に取り組んでいただければ幸いです。アドバイスします。
SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 「社員が幸せと感じる職場」とは、給与を高くしたり休みを増やしたりすることですか。

A. 給与や休暇は大切ですが、それだけが全てではありません。社員が「幸せ」と感じる要因は多岐にわたります。仕事のやりがい、職場の人間関係の良さ、経営者・上司への信頼感、自分の努力が適切に評価されると感じられること、成長の機会があること、などが重要な要素です。高い給与だけを払えばよいわけでも、残業をゼロにすればよいわけでもありません。社員が「この職場で働くことに意義がある」と感じられる環境全体を整えることが大切です。

Q2. 「社員が幸せな職場」をつくることと、問題社員への厳正な対応は矛盾しませんか。

A. 矛盾しません。むしろ逆です。問題行動を起こす社員に対して適切な対応をしない職場は、真面目に働いている社員にとって「この会社は不公平だ」と感じる原因になります。問題社員に毅然と対応することは、真面目に働いている多くの社員への誠実さの表れでもあります。「社員が幸せな職場」とは、問題行動に目をつぶる職場ではなく、適切なルールと公正な対応が行き届いた職場です。

Q3. 訴訟になった場合に「社員の士気が高い職場かどうか」は実際に裁判官に伝わりますか。

A. 直接的には書証(証拠書類)が重視されますが、関係者の証人尋問や陳述書を通じて職場環境・労使関係の実態は裁判所にも伝わります。現職の社員が「会社は適切な対応をしていた」と証言してくれる職場と、誰も会社を擁護しない職場では、同じ書証が揃っていても受け取られ方が変わることがあります。社員が自発的に会社を支持してくれるような職場づくりは、長期的な訴訟対策として重要です。

Q4. 弁護士として、労使紛争が起きにくい職場と起きやすい職場の違いをどのように感じていますか。

A. 一番の違いは「経営者と社員の間に信頼関係があるかどうか」だと感じています。給与水準が高くなくても労使紛争が起きない職場もあれば、給与水準が業界平均より高くても訴訟が多い職場もあります。社員が「この経営者は自分たちのことを考えてくれている」と感じられている職場では、多少の不満があっても訴訟という形での対立に発展しにくい。逆に、信頼関係が失われた職場では、些細なきっかけが大きな紛争に発展することがあります。日頃からの対話と誠実な対応が、最良の労使紛争予防策です。

最終更新日:2026年2月25日


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