問題社員335 体調不良を理由に遅刻を繰り返す。

動画解説

この記事の要点

✓

まず状況を正確に把握する。事実を蓄積しないと対応方法は決まらない

本人面談での情報収集を起点に、必要なら産業医・主治医の意見も確認する

✓

「出社後の仕事ぶり」を確認する。ここで対応が分かれる

遅刻しても出てくれば仕事ができる人と、出社後もまともに働けない人とでは、対応が変わる

✓

休ませるかどうか、給料を払うかどうかは、労務提供の可否で決まる

契約で予定された労務を提供できないと立証できれば、欠勤扱いとして無給とできる場合がある

✓

経営者は「周りを守る」「本人を守る」の二つの視点を持つ

甘くすればよいものではない。体調悪化を防いで本人を守るのも経営者の義務である

1. 体調不良を理由に遅刻を繰り返す社員という問題

体調不良が遅刻の理由なのであれば、本人も頑張ろうとして頑張れないのだから、仕方ないのではないか。そう思われる経営者も多いでしょう。しかし、遅刻が多く、とくに午前中や始業時刻からしばらくの間、戦力として考えにくい方が出てくると、一緒に働いている他の社員たちの負担が重くなりがちです。また、体調不良なのに働かせていた結果、その後どんどん体調が悪化すれば、「会社のせいで悪くなった」と言われかねません。ですから、遅刻レベルの話とはいっても、このまま対応せずに働かせ続けてよいのかを、しっかり考えていく必要があります。本記事では、体調不良を理由に遅刻を繰り返す社員への対処法を、会社側の視点から解説します。

2. まず状況を正確に把握する

この問題に対応するには、状況の把握、事実の蓄積、現状認識をしっかり行うことが何より大事です。客観的にどんな状況にあるのかを正確に把握しないと、その後の対応方法も決まってこないからです。

本人面談から始め、必要なら産業医・主治医の意見も

最も簡易な方法は、本人としっかり面談することです。「今どういう状況なのか、今月ももう6日も遅刻しているが、体調が悪いと聞いていた、どういう体調の悪さなのか、どういう病気なのか、診断書を出してもらえるか」といった形で、本人から情報を収集します。それで納得できる状況であれば、それだけである程度よいこともあります。もう少し踏み込む必要があれば、産業医がいれば産業医面談をお願いし、意見を聞いて対応します。また、主治医の診断書が出てきても、実際の働き方と違うのではないかと疑問を感じたら、本人の同意を得たうえで、主治医に手紙や面談で必要な質問をしてみるとよいでしょう。断られたり、うまくいかなかったりした場合は仕方ありませんが、本当に疑問があるようなときは、こうした対応もあわせて行ってください。

3. 「出社後の仕事ぶり」を確認する

こうした相談を受けたとき、私が必ず聞くのは、遅刻はしているとして、出社してきた後の仕事の状況はどうなのか、ということです。なぜなら、体調が悪い方の中には、出社してきてもまともに仕事ができない人もいれば、病気で遅刻は多いものの、出てきさえすれば仕事自体はそれなりにできる、という人もいるからです。実際の仕事の状況次第で、対応は変わってきます。遅刻して出てきた後の仕事ぶりはどうなのかを、しっかり確認していく必要があります。

4. パターン別の対応(仕事ができる場合・できない場合)

① 出社後の仕事ぶりに問題がない場合

出社後の仕事に問題がないのであれば、病気とされるものと遅刻との間に、本当に因果関係があるのかをチェックします。因果関係があるのであれば、病気のせいでそうなっているのだから、ある程度は仕方ないと、いったんは考えることになります。遅刻しても、契約で予定された程度の仕事は一応やったことになるのであれば、遅刻した分を時間割で計算して給料を減らせばよい(ノーワーク・ノーペイの原則)くらいで、そのまま働いてもらい続けます。逆に、病気と遅刻の因果関係がなさそうだと判断した場合には、仮病やサボり、別の理由による遅刻ではないか、ということも一応チェックします。決めつけるわけではなく、チェック項目の一つに入る、という程度の話です。

② 出社後もまともに働けない場合

対応が特に難しいのが、遅刻して出社した後の仕事もまともにできない、という場合です。病気で遅刻を繰り返すような方ですから、その病気の影響で仕事も大変だという人がいても不思議ではありません。もし病気のせいでそうなっているのなら、本人を道徳的に非難しても仕方がありません。「やる気を出せ」と言っても、やる気を出せるくらいならやっている、というのが本人の心情でしょう。ですから、やる気の問題ではなく、客観的に、この方が労働契約で予定された仕事をできる状況なのかを、パフォーマンスが悪い場合はしっかり確認する必要があります。

その際のやり方として大事なのは、上司が実際の仕事の状況を把握することです。把握といっても、「働けている・働けていない」といった評価的な結論部分は、最後に付け加える程度で十分です。中心となるのは事実の確認です。何月何日、こういう仕事をやらなければならなかったのにやれなかった、あるいはやったがこの程度の質だった、それに対しこう指導したが、実際はやろうとしてもできなかった、あるいは「できません」と断ってきた、という具合に、いつ・どこで・その方が・どのように・何をやったのかを、しっかり押さえていきます。そのうえで産業医面談を活用し、普段の仕事の状況を産業医に報告して、「このような方を、この病気で働かせ続けて大丈夫か」について意見を出してもらい、弁護士とも相談したうえで、強い手段を取るかどうかを考えていくことになります。

5. 「休ませる」場合と、給料を払うかどうか

そのまま働かせ続けるのであれば、非効率な状態は続くかもしれませんが、たいてい紛争にはならず、周りの負担が重くなるだけ、ということが多いものです。産業医が「働かせて大丈夫」と言うぐらいであれば、体調悪化のリスクもそれほど高くないでしょうから、周りへの負担の偏りをどうするか、という話で済みます。他方、産業医面談などの結果、このまま働かせたら体調が悪化する、とてもこの仕事ができる状態ではないという結論になった場合には、休ませるべきです。「休んだほうがよいのでは」と軽く声をかける程度で済めばよいのですが、済まないのであれば、「休むかどうかは好きにしてください」でも「休んだほうがよいのでは」でもなく、さらに進んで「休みなさい」と言わなければならなくなるかもしれません。

給料を払うかどうかは、労務提供の可否で決まる

休ませる場合、給料を払うかどうかが問題になります。これは、本人が労働契約で予定された程度の労務を提供できているかどうかによります。もともと、クオリティは低いなりに仕事ができているのに休ませたとなれば、給料を満額、少なくとも休業手当(平均賃金の6割以上。労働基準法26条)を払いなさい、という話になってきます。ところが、契約で予定された仕事がもうできていないと、はっきり立証できる状態になっていれば、休ませても欠勤と同じですから、給料を払わずに済みますし、休ませるという判断自体も正当なものだったと言えるようになります。病気が絡む以上、医師や産業医の意見を踏まえるとともに、契約論的な対応については、その道の弁護士に相談して、さじ加減や言葉のやり取りまでアドバイスをもらうことが必要になります。

6. 欠勤が続いたら(休職・通算・包括条項)

欠勤の状態が続いた場合については、所定の日数の欠勤をしたら私傷病休職を開始させる、という会社も多いでしょう。もっとも、ずっと休んでいる場合ばかりではありません。しばらく休ませたものの、「もういいでしょう」と戻ってきて、またすぐに休むことになった、というときにどうするか、という問題が生じます。

通算規定や「前各号に準ずる事由」の包括条項を活用する

いったん欠勤がストップしても、また同一・類似の病気で欠勤が始まったら通算する、というルールがある会社であれば、それに従えばよいでしょう。問題は、そうした規定がない会社です。休職事由として、「前各号に準ずる事由があるとき」といった包括条項を私傷病休職の要件にしている会社も少なくありません。この場合、連続欠勤でなくても休職を開始できるかは、その日数を連続で休んだのと同程度の状況にあるといえるか、で判断することになります。最も指標となるのは欠勤日数で、途中に中断があっても、それなりの欠勤日数に達していれば、要件を満たすと言われやすくなります。実際の出社時の仕事の状況やその他の事情も踏まえ、連続欠勤なら何日、というのと同程度の支障が生じているといえる状態になれば、包括条項を使って「前各号に準ずる事由がある」として、休職をスタートさせてよい場合もあります。ただし、そのさじ加減が難しいこともありますので、弁護士に相談しながら進めてください。

ずっと休んでいるのであれば、こうした休職などの扱いはやりやすいのですが、いったんは遅刻しながらも出勤しているという前提があるため、判断が難しくなります。とはいえ、手も足も出ないわけではありません。私傷病のせいで、契約で予定された労務を提供できていない、と判断できる状況になれば、医師や弁護士のアドバイスを踏まえたうえで休ませることもできますし、要件を満たせば休職をスタートさせることもできます。

7. 経営者が持つべき二つの視点

体調不良が理由で遅刻し、働きにくいというのであれば、ある意味で気の毒な面もあります。本人も、働けるくらいなら一生懸命働いている、という気持ちかもしれません。しかし、経営者は、そのことだけを考えていてはいけません。

「周りを守る」視点と「本人を守る」視点

第一に、遅刻が多ければ、周りの社員に負担がかかることが多く、甘くすればよいというものではありません。第二に、体調不良で遅刻が多いということは、そのまま働かせては体調を悪化させてしまうかもしれないということでもあります。体調が悪化しないように本人を守ってあげよう、と経営者は考えなければなりません。これは、会社が負う安全配慮義務(労働契約法5条)の観点からも重要です。大変ではありますが、これが経営者の義務です。それができるからこそ、経営者なのです。

8. まとめ

  1. まず状況を正確に把握する。本人面談を起点に、必要なら産業医・主治医の意見も確認する
  2. 「出社後の仕事ぶり」を確認する。ここで対応が大きく分かれる
  3. 仕事ができるなら、遅刻分を時間割で控除して働いてもらう。因果関係や仮病の可能性も一応チェックする
  4. 仕事ができないなら、事実を5W1Hで記録し、産業医の意見と弁護士の助言を得て対応する
  5. 休ませるか、給料を払うかは、労務提供の可否で決まる。提供できないと立証できれば欠勤扱いにできる
  6. 欠勤が続いたら、通算規定や「前各号に準ずる事由」の包括条項を活用して休職を検討する
  7. 経営者は「周りを守る」「本人を守る」の二つの視点を持つ

体調不良を理由に遅刻を繰り返す社員への対応は、「仕方ない」で済ませてしまいがちですが、周りの社員の負担や、本人の体調悪化のリスクを考えれば、放置はできません。状況を正確に把握し、出社後の仕事ぶりを見極め、必要に応じて医師・弁護士と連携しながら、休ませるか、そのまま働いてもらうかを判断していく。甘くするのでも、突き放すのでもなく、周りと本人の双方を守る対応が求められます。こうしたケースにお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 遅刻した分の給料は、控除してよいのですか。

A. 遅刻して労働しなかった時間分については、その分の賃金を控除してかまいません(ノーワーク・ノーペイの原則)。体調不良で遅刻しても、出社後は契約で予定された程度の仕事ができているのであれば、遅刻分を時間割で計算して控除しつつ、そのまま働いてもらう、という対応が基本になります。就業規則の定めや控除の計算方法には注意が必要ですので、運用に不安があれば弁護士に確認するとよいでしょう。

Q2. 体調不良の社員を会社の判断で休ませると、給料は払うのですか。

A. 給料を払うかどうかは、本人が労働契約で予定された程度の労務を提供できているかによります。仕事ができているのに会社の判断で休ませたと評価されると、休業手当(平均賃金の6割以上。労働基準法26条)や、場合によっては賃金全額(民法536条2項)の支払いが問題になります。一方、契約で予定された仕事ができていないとはっきり立証できる状態であれば、欠勤扱いとして給料を払わずに済み、休ませる判断も正当と言えます。病気が絡むため、産業医の意見と弁護士の助言を得ながら進めてください。

Q3. 遅刻や欠勤を繰り返す社員に、休職を適用できますか。

A. 就業規則に、一定日数の欠勤で私傷病休職を開始する定めがあれば、それに従います。連続欠勤ではなく遅刻を繰り返している場合でも、休職事由に「前各号に準ずる事由があるとき」といった包括条項があれば、連続で休んだのと同程度の支障が生じているといえる状態になったときに、これを使って休職を開始できる場合があります。判断の指標は欠勤日数や実際の仕事の状況ですが、さじ加減が難しいため、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。

最終更新日:2026年7月18日


Return to Top ▲Return to Top ▲