問題社員329 病気で働けないのに出社する。
動画解説
この記事の要点
|
✓
|
戦力・職場秩序・本人の健康の三つの面から、放置できない 働けない人に高い給料を払えば周囲の士気が下がる。体調悪化を招けば会社の安全配慮義務の問題にもなる |
|
✓
|
まず「本当に働けないのか」を、労務提供の可否として確認する 労働契約で予定された程度の労務を提供できるかで判断。主治医・産業医の意見と、実際の業務での確認を記録に残す |
|
✓
|
働けないと確認できたら、労務の受領を拒絶する踏み込んだ対応が必要になる 出社を認めず、席に座らせて放置しない。「会社都合の休業」に見えないよう、法的な備えを整えておく |
|
✓
|
既得権益化する前に、できるだけ早く着手する 座っているだけで給料をもらえる状態が長く続くほど反発は強くなる。医師・弁護士とチームで対応する |
目次
1. 病気で働けないのに出社し、休まない社員という悩み
体調が明らかに悪く、出社してきても仕事がほとんどできない状態である。それでも、出社してきた以上は給料を払わなければならないという考えから、給料を払い続けている。しかも、その社員は給料が高い。1日中机に座っているだけで、休むよう勧めても、まったく聞く耳を持たない。こうしたケースにお悩みの経営者は、決して少なくありません。本記事では、病気で働けないのに出社し、休もうとしない社員への対処法を、会社側の視点から解説します。
2. なぜ放置できないのか
この状態を放置できない理由は、大きく三つあります。
① 戦力にならず、② 職場の秩序が乱れる
第一に、出社しても仕事にならない以上、本人を戦力として計算することはできません。第二に、より深刻なのが職場秩序の問題です。仕事ができないのに出社している人がいる、しかもどうやら給料はもらっているらしい、という話を周りの社員が聞きつければ、まじめに働くのが馬鹿らしくなってしまいます。とりわけ、自分よりも高い給料をもらっている人が、何の仕事もせず席に座っているだけで満額を受け取っているとなれば、周囲のやる気は大きく削がれます。会社の秩序を守るためにも、この状態は止めなければなりません。
③ 本人のためにもならず、会社の責任にもなりうる
第三に、これは本人のためにもなりません。体調が悪いのであれば、本来は病院に通い、入院や自宅療養をすべき状態のはずです。それを毎日職場に出てきて、ただ座っているだけであっても、通勤や在社そのものが体に負担をかけ、病状を悪化させてしまうおそれがあります。ここで見落としてはならないのが、会社の安全配慮義務です。体調が悪いと分かっている社員を漫然と就労させ、その結果として体調が悪化すれば、「会社は何をしていたのか」と、安全配慮義務違反(労働契約法5条)を問われかねません。給料を払ってあげているのだからよい会社だ、とはいえないのです。本人のキャリアや人生のためにも、本当に働けない状態なのであれば、しっかり療養してもらうほうが望ましい。だからこそ、休むよう勧めるわけです。
3. まず「本当に働けないのか」を確認する
対応の出発点は、この社員が本当に働けないのかを確認することです。「1日中机に座っているだけ」と見えても、それだけで「働けない」と決めつけることはできません。後になって、「会社から特に仕事をするよう言われなかった、休んだらどうかと言われるだけで、仕事も割り振ってもらえなかった。だからやっていなかっただけだ」と言われてしまう可能性があるからです。出社を認め、少なくとも席に座ること自体は認めてしまっているわけですから、この反論には一定の説得力が生じてしまいます。
「働ける・働けない」は、労務提供の可否で判断する
ここでいう「働ける・働けない」とは、労働契約で予定されている程度の労務を提供できるかどうかで判断します。労働者は、労働契約に基づき、債務の本旨に従った労務を提供する義務を負っています。ですから、担当する仕事の内容を踏まえたうえで、その体調で契約どおりの労務が提供できるのかを考えなければなりません。今回は体調が問題ですから、医学的な観点も必要になります。主治医や産業医などの意見も聞きながら、なぜ働けるといえるのか、あるいは働けないといえるのかを、丁寧に確認していく必要があります。
4. 医師の意見を得て、実際の業務でも確認し記録する
医学的な確認の方法としては、いくつかの手段が考えられます。まず、主治医に対して、「このような内容の仕事だが、働けるのか」と問い合わせる方法です。会社から直接尋ねても答えてもらえない場合には、産業医から手紙を書いてもらうと、答えてもらいやすくなることがあります。あるいは、本人の同意を得たうえで、主治医に会いに行くことも考えられます。本人や主治医がこれを拒絶するのであれば、その事実自体が判断の考慮事情に入ってくることもありますので、まず打診してみること自体に意味があります。産業医のいる会社であれば、産業医面談を行い、「この仕事をこの方はできるのか」「このまま出社を認めて働かせても、体調への悪影響はないか」について意見をもらうとよいでしょう。
実際に仕事をやらせて、その結果を記録に残す
医師の意見とあわせて重要なのが、実際に本人に仕事をやってもらい、その結果を記録に残すことです。単に机に座らせて何の指示もしなければ、「言ってくれればやったのに」という反論を許してしまいます。そこで、「この仕事をやってみてください」と具体的に指示し、本人が嫌だと言って断ったのか、やらせてみたものの物にならなかったのか、といった事実を確認し、記録化しておくのです。こうした確認作業は、後々の紛争に備えるうえで大きな意味を持ちます。もっとも、無理な就労で体調を悪化させては本末転倒ですから、会社の損害や本人の健康への影響が大きくならないよう配慮しながら進める必要があります。
5. 労務の受領を拒絶する(出社を認めない)
これらの作業を尽くしたうえで、労働契約で予定された程度の労務を提供できない、という結論に至った場合を考えます。すでに何度も休むよう勧めているのに、まったく聞く耳を持たない。ここからは、少し踏み込んだ対応が必要になります。すなわち、労務の受領を拒絶する、つまり出社を認めないという対応です。
基本的な発想としては、出社してきてもオフィスに入れない、席に座らせない、ということになります。もちろん、席に座ってしまった社員を放置してはいけません。座ってしまったのであれば、「帰ってください」と伝え、帰るまでしっかり説得する、という作業を行っていきます。相手の意向と真正面からぶつかることになりますので、非常に気まずく、説得は簡単ではありません。とりわけ、長い期間、働けないのに席に座っているだけで高い給料をもらえる状態を認めてきた場合には、この対応の難易度が上がります。
6. 賃金を払わずに済ませるための備え
「出社を認めず、給料も払わない、そんなことが本当にできるのか」と疑問に思われるかもしれません。ここは非常に重要なポイントです。
「会社都合の休業」に見えると、賃金や休業手当の問題が生じる
会社の都合で社員を休ませた場合には、賃金を保障しなければならないのが原則で、少なくとも休業手当(平均賃金の6割以上。労働基準法26条)を支払わなければならない、という理屈になります。さらに、使用者の責めに帰すべき事由による就労不能であれば、賃金全額の請求が認められることもあります(民法536条2項)。会社が「来るな」と言って休ませると、一見、会社都合の休業に見えてしまうのです。そうならないために必要なのが、「労働契約で予定された程度の労務を提供できないから、労務の提供を受領しなかった。会社への立入りを断ったのだ」と言えるようにしておくことです。だからこそ、主治医への問い合わせや産業医面談、実際の業務での確認と記録を通じて、「この方は働けません」と示せるように、調査をしっかり行っておくことが決定的に重要になります。
なお、就業規則に私傷病休職の制度がある場合には、労務提供ができない状態が要件を満たすのであれば、出社拒否ではなく休職制度の適用によって整理していく道もあります。どの枠組みで対応するのが適切かは、就業規則の定めや個別の事情によって変わりますので、弁護士と相談しながら進めるのがよいでしょう。
7. 既得権益化する前に、早期に着手する
既得権益は、長く続くほど奪いにくくなる
この問題で最も大切なのは、できるだけ早く着手することです。本来は払わなくてよかった賃金かもしれませんが、実態として、席に座っているだけで給料を払ってきた場合、「治って働けるようになるまでは払わない」と告げることは、本人からすれば既得権益を奪われるに等しく感じられます。この状態が長く続いてきたほど、本人の反発は強くなり、説得は難しくなります。場合によっては裁判に発展することもあります。ですから、こうした問題が生じたら、できるだけ早い時期に着手する必要があります。
出社してきた人に「帰ってください」と伝え、本人の意向に反して就労を止めるのは、経営者にとって気の重い作業です。しかし、これは会社と周囲の社員、そして本人自身のためにも、避けて通れない対応です。休むよう「勧める」だけの段階から一歩進んで、どこかの時点で、就労を拒絶し、出社を認めないという決断をしなければならないタイミングが訪れます。そのタイミングを見計らい、医師や弁護士と協力しながら、チームとしてできるだけ早く対処していくことが、何より大切です。
8. まとめ
- 戦力・職場秩序・本人の健康の三つの面から、この状態は放置できない。体調悪化を招けば安全配慮義務の問題にもなる
- まず「本当に働けないのか」を、労務提供の可否として確認する。契約で予定された程度の労務を提供できるかで判断する
- 主治医・産業医の意見を得るとともに、実際に業務をやらせて結果を記録に残す
- 働けないと確認できたら、労務の受領を拒絶し、出社を認めない対応が必要になる。座らせて放置しない
- 「会社都合の休業」に見えると賃金や休業手当の問題が生じるため、労務提供ができないことを示せるよう備える
- 既得権益化する前に、できるだけ早く着手する。医師・弁護士とチームで対応する
働けないのに出社し続ける社員への対応は、経営者にとって気の重い、難しい判断を伴います。しかし、これを放置すれば、周囲の社員の士気は下がり、本人の体調が悪化すれば会社の責任も問われかねません。本人の体調悪化を招くくらいなら、しっかり療養してもらうほうが、本人にとっても会社にとっても望ましいのです。難しい判断については、医師や弁護士と協力しながら、早い段階でチームとして対応していくことをおすすめします。こうした対応にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 出社してきた社員に「来なくてよい」と言って休ませると、給料は払わなければなりませんか。
A. 単に会社の判断で休ませたと評価されると、休業手当(平均賃金の6割以上。労働基準法26条)や、場合によっては賃金全額(民法536条2項)の支払いが問題になります。これを避けるには、その社員が労働契約で予定された程度の労務を提供できない状態にあり、会社はその労務の受領を拒絶したのだ、と示せるようにしておくことが重要です。そのために、主治医への問い合わせや産業医面談、実際に業務をやらせた結果の記録などを通じて、「働けない」ことを客観的に確認しておく必要があります。判断が難しいため、弁護士と相談しながら進めることをおすすめします。
Q2. 1日中座っているだけの社員に、「働けない」と言い切ってよいのでしょうか。
A. 座っているだけという外形だけで「働けない」と決めつけるのは危険です。「仕事を割り振ってもらえなかっただけだ」と反論される余地があるからです。まずは具体的に仕事を指示し、本人が断ったのか、やらせてもできなかったのかを確認し、記録に残してください。あわせて、担当業務の内容を踏まえ、その体調で労働契約どおりの労務が提供できるのかを、主治医や産業医の意見も得ながら医学的に確認します。こうした裏づけを積み重ねたうえで、労務提供の可否を判断することが大切です。
Q3. 給料を払ってあげているのだから、会社として問題はないのではないですか。
A. 給料を払っているからよい会社だ、とは限りません。体調が悪いと分かっている社員を漫然と就労させ、その結果として体調が悪化すれば、会社は安全配慮義務違反(労働契約法5条)を問われかねません。また、働けない人が高い給料を受け取っている状態が周囲に知られれば、まじめに働く社員の士気を大きく損ないます。本人の健康、キャリア、そして職場の秩序のいずれの観点からも、本当に働けないのであれば、しっかり療養してもらうほうが望ましいといえます。
最終更新日:2026年7月18日