問題社員304 気に入らないスタッフに嫌がらせをする。

動画解説

この記事の要点

最も大事なのは放置しないこと。証拠が揃うのを待つ前に、まず嫌がらせを止めるために動く

動くことと処分することは別。「証拠が揃っていないから聞き取りもできない」というのは本末転倒である

放置は「黙認された」という誤解を生み、社員の信頼を失わせる。見ているのは被害者だけではない

いわれのない嫌がらせを会社が放置していれば、周囲の社員も「いつ自分がそうなるか」と考えてしまう

事実確認は、被害を受けている社員からの聴取と、本人への面談の双方から行う。事実が明らかになれば注意指導へ進む

改まらない場合は厳重注意書の交付、程度に応じてけん責や出勤停止といった懲戒処分を検討する

信頼関係が壊れている場合は引き離しを検討する。自宅待機は調査に必要な合理的期間にとどめ、その後は配転を考える

中小企業では適切な配転先がないこともあり、企業規模によっては退職勧奨や解雇を検討せざるを得ないこともある

1. 「気に入らない」という基準は通用しない

気に入らないというだけで嫌がらせをするというのは、道理の通らない話です。仕事の上で必要な指示を出す、話し合いをするということであれば、必要なことです。しかし、単に気に入らないという基準は、職場において通用するものではありません。

また、「嫌がらせをする」という言葉には、仕事をする上で必要性もないような言い方、やり方をしているというニュアンスが含まれています。嫌がらせとはっきり言えるようなものは、絶対に阻止しなければなりません。そこで本記事では、気に入らないスタッフに嫌がらせをする社員への対処法について解説します。

2. 最も大事なのは、放置せずすぐ動くこと

最も大事なことは、放置しない、すぐ動くということです。嫌がらせを受けている社員を守ってあげる。これを第一に考えることが重要です。

なぜこのような当たり前のことをあえて申し上げるかというと、慎重に過ぎる経営者の方がいらっしゃるからです。「証拠も揃っていないのに動いて大丈夫なのか」とお考えになるのです。

「動くこと」と「処分すること」は別

証拠が揃う前であっても、疑いがあるのですから、まずは嫌がらせを受けている社員を守る行動を取る。嫌がらせを抑止する。これを先に考えていただきたいのです。いきなり処分をするわけではありません。
よくよく調べた結果、嫌がらせをしているというのが濡れ衣であり、本人の行為の悪質性もそれほどのものではなかったと判明したのであれば、懲戒処分など一切行わなければよいだけの話です。
「証拠が揃っていないから聞き取りもできない」というのは、本末転倒です。

すぐに動くこと自体が抑止になります。不適切なことを行っていたのであれば、経営者なり権限のある立場の者が動けば、さすがにこれ以上は控えようと考える方が多いものです。逆に、放置していたら、とりわけ経営者の耳に入っているのに何も動かないと分かったら、黙認されたのだと誤解してしまうかもしれません。

3. 放置は社員の信頼を失わせる

もう少し具体的に申し上げると、これは社員たちの信頼に関わる問題です。

自分がいわれのない嫌がらせを受けているのに、経営者が動いてくれなかったらどう思うでしょうか。人事部門や直属の上司が動いてくれなかったらどう思うでしょうか。この会社はおかしい、こんなところで働いていられない、と思うのではないでしょうか。そうなれば、一生懸命に仕事をする気持ちも失われますし、いずれ退職してしまうことになるでしょう。

念のため申し上げますが、ここで言う信頼とは、嫌がらせを受けている本人の信頼だけではありません。いわれのない嫌がらせを受けている社員がいるのに、会社が放置している。それを見てしまえば、周囲の社員も同じように思います。いつ自分がそのような目に遭うのかと考えれば、良い会社があれば転職しようと思ってしまうのも、無理のないことです。

働いている社員たちの信頼を得るためにも、中小企業であれば、可能な限り会社経営者が率先して嫌がらせを止めるように持っていかなければなりません。

4. 迅速な対応は、会社の法的義務でもある

迅速に動くべき理由は、経営上の判断にとどまりません。法的な義務でもあります。

会社に課されている義務

ハラスメント防止措置義務 会社は、職場におけるパワーハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な措置を講ずる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2)。相談があった場合に事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた社員への配慮の措置と行為者に対する措置を適正に行い、再発防止に向けた措置を講ずることが求められています。「証拠が揃うまで何もしない」という対応は、この義務に照らしても適切とは言えません
安全配慮義務 会社は労働契約上、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。嫌がらせを認識しながら放置し、社員が体調を崩した場合には、損害賠償責任を問われることがあります
相談者の保護 相談したこと、事実関係の確認に協力したことを理由として不利益な取扱いをすることは、法律上禁止されています。相談してきた社員が不利益を受けることのないよう、進め方に配慮する必要があります

さらに、嫌がらせが原因で、せっかく就職した会社を辞めなければならないということになれば、その社員のキャリアが台無しになってしまうかもしれません。職業生活を充実したものにするためにも、会社経営者が守ってあげなければならないのです。

5. 事実確認と注意指導

本人に本当に問題のある行動があったのかどうかは、聞き取りや面談をしっかり行った上で確かめてください。

まずは被害を受けている社員から聴取を行うことが大切です。いつ、どこで、誰から、どのような言動があったのかを具体的に確認し、記録に残してください。他の社員が見聞きしている場合には、その社員からも事情を聴取します。その上で、本人からも言い分を聴きます。一方の話だけで判断すると、後に事実認定を争われた際、会社側が不利になります。

そして、問題のある行動がはっきりしたのであれば、注意指導を行っていきます。注意指導の際も、会議室に呼び、本人の言い分を聞きながら進めることが大切です。

素直に反省してくれるのであれば進めやすいのですが、中には反発してくる社員もいます。その場合、かえって気圧されてしまい、うまく注意指導できないというケースもあります。伝え方に不安がある場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。

6. 改まらない場合:厳重注意書と懲戒処分

注意指導を行っても、なかなか改まらない社員もいます。その場合には、厳重注意書の交付を行っていくこともあります。程度によっては、懲戒処分を行うこともあります。けん責、出勤停止など、懲戒処分にはいくつかの種類がありますが、行為の重さに応じて選択していくべきものです。

懲戒処分を行うには就業規則上の根拠規定が必要であり、処分の内容も、行為の性質・態様、被害の程度等に照らして相当なものでなければなりません(労働契約法15条)。

懲戒処分通知書を自己流で作ることの危うさ

会社によっては、特に中小企業では、懲戒処分を行ったことがない、うまくやれるかどうか分からないという状況があります。インターネット上の雛形や、AIに相談して処分通知書を作成するのが精一杯で、これで本当に大丈夫なのか確信が持てず、結局処分できないということもあるでしょう。書面を作ってもらったものの、それで本当に通用するのかまでは確信が持てない、ということもあると思います。
懲戒処分通知書は、後に処分の効力が争われた際、会社側の主張の土台になる書面です。記載した理由の範囲でしか処分の有効性を主張できなくなることもあります。自己流で進めるよりも、弁護士に相談されることをお勧めします。

7. 被害を受けた社員との引き離し

本人に対する対応と並行して、被害を受けた社員との関係についても考えていかなければなりません。

場合によっては、当事者を引き離す必要があります。嫌がらせを受けている社員が複数であれば、その複数の社員と、加害者とされる社員とを引き離さなければならないこともあります。当事者間の信頼関係が破壊されてしまい、一緒に安心して働くことができない、顔を見るだけでストレスで耐えられないという程度にまで至っている場合には、引き離さなければならないのです。

8. 自宅待機と配置転換の注意点

状況によっては、加害者とされる社員について自宅待機を命じなければならないこともあります。もっとも、自宅待機をいつまでも続けるわけにはいきません。調査等に必要な一定の合理的期間内で解除するのが通常です。

調査のための自宅待機と、懲戒処分としての出勤停止は別のもの

調査のために会社の判断で命じる自宅待機は、業務命令としての就労免除であり、懲戒処分ではありません。したがって、原則として賃金の支払義務が生じます。これを無給として扱ってしまい、後から未払賃金を請求されるという例が見受けられますので、注意が必要です。
他方、懲戒処分としての出勤停止は、就業規則の根拠に基づく制裁であり、その期間を無給とすることも可能です。両者は性質の異なるものですので、混同しないよう、書面上も明確に区別してください。また、自宅待機が必要以上に長期にわたると、それ自体が違法と評価されるおそれがあります。

自宅待機をいつまでも続けられないとなると、他の方法としては配転が考えられます。本当に嫌がらせをしてきた社員がいるのであれば、その社員が管理職であれば別の部署に移すといったことも考えるべきでしょう。そして、人望のある適切な社員をその部署に配置すれば、皆が安心して働けるようになるのではないでしょうか。

もっとも、ここにも問題があります。中小企業の場合、適切な配転先がないということもあり得るところです。その場合、企業規模によっては、退職していただくほかないということもあります。差し当たり退職勧奨を行い、話し合いによって辞めていただく。それでも話がつかなければ、程度次第では解雇するといった手順を取らざるを得ないこともあるでしょう。

ただ、退職勧奨がスムーズに進むとは限りません。退職勧奨は、労働者の自由な意思を尊重する方法で行われる限り違法ではありませんが、執拗な勧奨や退職を強要するような言動は違法と評価され、損害賠償の対象となり得ます。また、解雇が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります(労働契約法16条)。この段階に至った場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

9. まとめ

  1. 「気に入らない」という基準は職場で通用しない。嫌がらせと言えるものは、絶対に阻止する
  2. 放置せず、すぐ動く。証拠が揃う前でも、嫌がらせを止めるために動くことはできる
  3. 放置は「黙認された」という誤解を生み、社員の信頼を失わせる。見ているのは被害者だけではない
  4. 迅速な対応は会社の法的義務でもある。ハラスメント防止措置義務、安全配慮義務、相談者の保護
  5. 被害者と本人の双方から事実を確認し、注意指導を行う。一方の話だけで判断しない
  6. 改まらない場合は厳重注意書、程度に応じて懲戒処分を検討する。通知書の自己流作成は危うい
  7. 引き離しを検討する。自宅待機は合理的期間にとどめ、賃金の扱いに注意した上で、配転を考える

職場で働く社員たちを守るためにも、会社経営者はすぐに行動を起こさなければなりません。懲戒処分や解雇を行うのであれば証拠が揃っている必要がありますが、これ以上嫌がらせをしないよう抑止することは、すぐにでもできるはずです。スピードがとても大切です。気に入らないスタッフに嫌がらせをする社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 証拠が揃っていない段階で本人に事情を聴くと、名誉毀損などと言われませんか。

A. 嫌がらせの疑いがある場合に、会社が事実関係を確認するために事情を聴くことは、職場環境を整えるために業務上必要な行為です。むしろ、会社はハラスメントについて事実関係を迅速かつ正確に確認する措置を講ずる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2)。もっとも、確定していない事実を前提に本人を犯人と決めつけたり、聴取の内容を必要のない範囲に広めたりすれば、名誉や信用を害するものとして問題になり得ます。事実を確認する目的であることを明示し、決めつけずに言い分を聴く。関係者の範囲を限定して情報を管理する。この進め方であれば、通常は問題ありません。

Q2. 調査のために自宅待機を命じる場合、賃金は支払わなければなりませんか。

A. 原則として支払う必要があります。調査のための自宅待機は、会社の判断による就労免除であり、懲戒処分としての出勤停止とは性質が異なります。会社の都合で就労させないのですから、賃金請求権は失われないと解されるのが原則です(民法536条2項参照)。無給として扱い、後から未払賃金を請求される例が見受けられますので、注意してください。また、自宅待機は調査等に必要な合理的期間にとどめるべきであり、必要以上に長期化させると、それ自体が違法と評価されるおそれがあります。

Q3. 引き離すために、被害を受けた社員の方を異動させてもよいですか。

A. 原則として、加害者側の環境を調整する方向で検討すべきです。被害を受けた社員を異動させると、本人にとっては嫌がらせを申告したことによる不利益と受け止められかねません。相談したことを理由とする不利益な取扱いは法律上禁止されていますので、会社としてのリスクにもなります。他の社員から見ても、「声を上げた側が動かされる」という前例は、会社への信頼を損ないます。ただし、本人が異動を希望している場合など、事情によって判断が異なることもありますので、進め方は弁護士に相談してください。

最終更新日:2026年7月17日


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