問題社員302 叱ると「意欲が落ちた」と言う。

動画解説

この記事の要点

まず検討すべきは、その注意指導・教育指導が必要なものかどうか。必要なものであれば、何らかの形で続けていかなければならない

「意欲が落ちた」と言われて完全にやめてしまうことは、避けなければならない

必要性がなかった部分はやめる。必要性はあったが程度に問題があったのであれば、必要性が明らかな範囲に絞る

迷う程度のものであれば、外から見ても必要だと言える範囲に絞るのが無難

納得感を得る工夫として、会議室での面談が有効。10分程度でも、必要性を説明し、質問に答え、本人の言い分を聞く

言い分を聞くことは、相手の要求を飲むことではない。理由を説明してもなお納得されないのであれば、それはやむを得ない

最も注意すべきは相手の体調。体調が悪そうであれば休ませるなどの対応が必要であり、とりわけ新入社員には配慮を要する

先輩なら余裕でこなせる仕事と指導であっても、入社間もない社員にとっては大きな負担になり得る

1. 必要な注意指導をやめてはならない

叱ることで社員の意欲が落ちてしまうというのは、確かに困ったことです。しかし、必要な注意指導、教育指導を行わなければ、仕事はうまくいきません。本人のためにもなりません。そこで本記事では、叱ると「意欲が落ちた」と言う社員への対処法について解説します。

まず検討すべきは、その注意指導、教育指導が必要なものかどうかという点です。必要なものであれば、行わなければなりません。本人が意欲が落ちたと言ったからといって、それにひるんで必要な注意指導、教育指導を行わなければ、仕事はうまくいきませんし、本人も成長しません。職場の雰囲気が悪化することもあるでしょう。

周囲に迷惑をかけている行為、嫌がらせに当たるような行為を止めたところ、「意欲が落ちた」と言われた。そこで注意指導をやめてはいけないというのは、分かりやすい話ではないでしょうか。要するに、事柄によるのです。本当に必要な注意指導、教育指導であれば、何らかの形で続けていかなければなりません。完全にやめてしまうことは避ける。これがきわめて重要です。

必要な注意指導は、パワーハラスメントには当たらない

職場におけるパワーハラスメントとは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより就業環境が害されるものをいいます(労働施策総合推進法30条の2)。したがって、業務上必要かつ相当な範囲で行われる注意指導は、これに該当しません。本人が「意欲が落ちた」と受け止めたという主観的な事情のみによって、パワーハラスメントとなるものではありません。
むしろ、周囲に迷惑をかける言動を放置すれば、会社が職場環境を整える義務を果たしていないと評価されるおそれがあります。必要な指導から手を引くことは、他の社員に対する責任を放棄することでもあるのです。

2. 必要性を検討し、程度を調整する

他方で、振り返ってみて「あれは必要なかった」と思われるようなものであれば、やめてください。必要がないのですから、当然のことです。「必要はなかったけれども言ってしまった」という程度のものであれば、やめていただいて構いません。

また、必要性はそれなりにあったけれども、その程度に問題があったということもあります。そこまで言う必要はなかった、伝え方が下手だった、といったケースです。その場合は、必要性がある程度まで絞って注意指導、教育指導を行うくらいが無難でしょう。

ケースバイケースですので一概に正解があるわけではありませんが、迷う程度のものであれば、程度を調整し、外から見ても必要だと言える範囲に絞って助言や指導をされるのが無難ではないかと思います。そこからさらに踏み込むという選択肢もなくはありませんが、それは難易度の高い話になりますので、自信のある方が行うにとどめる方が無難です。

3. 伝え方を工夫する

伝え方も工夫してみましょう。その言い方では、相手に通じていないかもしれません。

自分であればこの程度で伝わる、という言い方であっても、相手にしてみればまったく意味が分からないということがあります。また、自分であればこの程度では傷つかない、というものであっても、相手にとっては傷ついてしまうということもあります。相手を見ながら伝え方を工夫していくことも大切です。

4. さじ加減を考える:耐える力は人によって異なる

さじ加減も考えていきましょう。その注意指導、教育指導に耐えられるだけの力があるのかという点も、多少は考えてみてよいかもしれません。

注意指導と教育指導では、考え方がやや異なる

  • 注意指導:あまりにもひどいことを行っているのであれば、多少強い言い方であっても、止めなければならない場面はあります
  • 教育指導:育成が目的ですので、そのやり方でその社員が育っていくかどうかというさじ加減を考える必要があります

ある程度の強さがある社員であれば、それがちょうどよい指導であり、適切な教え方であるというケースでも、そうでない社員では潰れてしまうことがあります。人によって耐久力が異なるということも、考えていただく必要があるかもしれません。難しいところであり、教える側の腕の見せどころでもあります。

5. 納得感を得るための工夫:会議室での面談

ここまでは注意指導、教育指導そのものの話ですが、納得感を得るための工夫はないのか、と考えられた方もいらっしゃるでしょう。そこまでの余裕はないということもあるかもしれませんが、状況が許すのであれば、しっかり納得してもらった上で次に進める形が望ましいことは言うまでもありません。

納得感を得る努力をしたいという場合の助言としては、やはりしっかり話すことです。会議室で面談を行うのもよいでしょう。10分程度でも構いません。短い時間であっても、時間を取って話すことに意味があります。

面談で行うこと

必要性を説明する どうしてこのような注意指導、教育指導が必要なのか、その必要性をしっかり説明する
質問に答える 本人からの質問にも正面から答える
本人の言い分を聞く 言い分を聞いた上で議論し、本人が何を考えているのかを把握して、必要な対応を取る

ここで誤解のないように申し上げますが、言い分を聞くというのは、本人の言い分を丸ごと飲まなければならない、了解しなければならないという意味ではありません。相手の要求を受け入れなければならないという意味とは、まったく異なります。

もっとも、本人の言い分も聞いた上であれば、自らが行っている注意指導や教育指導が妥当なものか、合理性のあるものかを考える材料にもなります。それをフィードバックとして、こちらの注意指導、教育指導の質を上げていくこともできます。逆方向のフィードバック、つまり本人に対して説明することで、本人の行動改善につなげるという面もあります。お互いのフィードバックになるわけですから、短時間であれば議論してみることは効果的ではないでしょうか。あまり長時間行っても埒が明かないことが多いので、ほどほどの時間で構わないケースが多いと思います。

6. 納得してもらえない場合はやむを得ない

話をしても納得してもらえないということは、もちろんあります。「それでも意欲が落ちてしまった。もうどうにもならない」という方もいらっしゃいます。

しかし、その注意指導や教育指導が本当に必要なものであり、具体的にしっかり説明できているのに、それでも納得してもらえないというのであれば、それはやむを得ません。理由を説明することすらしない会社が相応に存在する中で、会議室で時間を取って説明するというだけでも、比較的立派な部類に入ります。しかも、その説明が合理的なものであるならば、相手が主観的に納得できないというだけであれば、やむを得ないと考えるのが基本です。

なお、実務的な観点から申し上げると、面談を行った日時、説明した内容、本人の反応については、簡単で構いませんので記録に残しておくことをお勧めします。後にパワーハラスメントであると主張された場合、指導の必要性と相当性を裏付ける材料になるからです。

7. 最も注意すべきは相手の体調。とりわけ新入社員

ただし、1点、注意していただきたいことがあります。相手が体調を悪そうにしていたら、気をつけてください。体調が悪そうであれば、休ませるなどの対応が必要です。

特に注意を要するのが、新入社員です。ある程度経験を積めば問題なくこなせる程度の仕事をさせ、教育指導や注意指導を行っていったとしても、若く経験が足りない社員は、それに耐えるだけの力がないことがあります。とてもデリケートな時期なのです。

「自分たちなら大丈夫」という基準では足りない

たとえば4月に新入社員が入ってきたばかりの時期に、先輩であれば余裕でこなせる仕事であり、この程度の注意指導、教育指導であれば何ともないというものであったとしても、疲れ果ててしまい、もう耐えられないということが起こり得ます。体調を崩してしまったり、突然退職届を提出されたりすることもあります。
「自分たちなら大丈夫」「先輩なら大丈夫」という基準では足りないことが、相応にあります。入社して数か月の間は、体調が悪そうにしていないか、落ち込んでいる程度がひどくないかに気を配っていただくことが大切です。入社してしばらくの間は、精神的に潰れてしまいやすいタイミングでもあります。

体調への配慮は、法的にも会社の義務

これは、望ましい配慮というにとどまりません。会社は労働契約上、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。裁判例においても、使用者は、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うとされています。
体調の不良や強い落ち込みといった兆候を認識し、または認識し得たにもかかわらず、業務の軽減や休養といった措置を講じないまま指導を続け、社員が健康を害した場合には、会社が損害賠償責任を問われることがあります。必要な指導をやめてはならないということと、体調に配慮しなければならないということは、両立させるべき要請です。

対応の程度は0か100かという話ではなく、目盛りの調整のような話です。強さの程度を75にするのか、45にするのか、その中間にするのかといった調整であり、マニュアル化しにくいところがあります。難しいケースがありましたら、ぜひ弁護士にご相談ください。

8. まとめ

  1. 必要な注意指導・教育指導かどうかを、まず検討する。必要なものであれば、しっかり行う。やめてはならない
  2. 必要性がなかった部分はやめ、程度に問題があったのであれば、必要な範囲に絞る
  3. 伝え方を工夫し、さじ加減を考える。理解の仕方も、耐える力も、人によって異なる
  4. 納得感を得る工夫として、会議室で10分でも面談する。必要性を説明し、質問に答え、言い分を聞く
  5. 言い分を聞くことは、要求を飲むことではない。合理性があるものは取り入れればよい
  6. 説明を尽くしてもなお納得されないのであれば、やむを得ない
  7. 最も注意すべきは相手の体調。とりわけ新入社員には配慮が必要であり、これは会社の法的義務でもある

叱ると「意欲が落ちた」と言う社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 本人が「パワハラだ」と言えば、注意指導はパワーハラスメントになるのですか。

A. なりません。職場におけるパワーハラスメントは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより就業環境が害されるものをいいます(労働施策総合推進法30条の2)。本人が不快に感じたという主観的な事情のみで該当するものではなく、業務上の必要性と手段の相当性が客観的に判断されます。したがって、業務上必要かつ相当な範囲で行われる注意指導は、これに当たりません。もっとも、人格を否定するような発言や、必要以上に威圧的な言動は相当性を欠くと評価されるおそれがありますので、事実に基づき、行動そのものを具体的に指摘するという進め方を徹底してください。

Q2. 注意指導の後、社員が体調不良を訴えて休みました。会社はどう対応すべきですか。

A. まず、本人の体調を確認し、必要であれば休養を取らせてください。会社は労働契約上、労働者が安全に働けるよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。体調不良の兆候を認識しながら、業務の軽減や休養といった措置を講じないまま指導を続け、健康を害する結果となった場合、損害賠償責任を問われることがあります。他方、それを理由に必要な注意指導を永久に控えるべきということでもありません。産業医や主治医の意見を踏まえ、業務内容や指導の程度を調整しながら、体調の回復を待って改めて対応することになります。対応に迷う場合は弁護士に相談してください。

Q3. 注意指導の記録は、どの程度残しておくべきですか。

A. いつ、どこで、どのような事実について、誰が、どのような内容を伝えたのか、そして本人がどう反応したのかを、簡潔に記録しておくことをお勧めします。面談後すぐに上司や顧問弁護士へメールで報告しておく方法は、後から日付を遡らせることができないため、客観的な証拠として価値が高く、実践もしやすい方法です。記録は、後にパワーハラスメントであると主張された場合に指導の必要性と相当性を裏付ける材料になりますし、改善が見られない場合に次の段階へ進む際の基礎にもなります。

最終更新日:2026年7月17日


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