問題社員300 要求ばかりで貢献しない。
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この記事の要点
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まず、どこかで線引きをする。すべての要求を飲んでいては、周囲の社員が疲弊してしまう 経営者自身が何でも応じるのは経営方針として自由だが、それを社員にやらせてはならない |
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大まかな目安は、法律上・労働契約上の権利であれば認め、権利ではない部分で線引きすること 権利の行使を「要求ばかり」と扱ってしまうと、それ自体が法令違反となるおそれがある |
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貢献してほしい部分については、初期の段階で明確に指示する。自発的に動くことを期待していては、状況は改善しない 「指示待ちになってしまう」という心配は不要。現に自発的に動けていないことが、今の状況だからである |
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業務命令は抽象度を下げ、具体性を高める。それによって、本人がどのようなタイプなのかが正確に見えてくる 誰が見ても違反と言えるところまで具体化して、なおやらないのであれば、悪質さの度合いもはっきりする |
目次
1. 要求ばかりで貢献しない社員がいると何が起きるか
会社では、お互いに助け合いながら仕事を進めていきます。誰かに何かをしてもらったら、そのお返しに何かをしてあげたり、気遣ったりしながら、お互い様の精神で協力していく。そうした職場が多いのではないでしょうか。
ところが、あれをしてほしい、これをしてほしいと周囲に要求するばかりで、周囲に対して貢献しない社員が出てくるとどうなるでしょうか。周囲の社員は不公平感を抱きます。「こちらは色々としてあげているのに、何のお返しもない」という思いが積み重なっていきます。その結果、職場の雰囲気が悪化し、協力して仕事を進めていこうという空気そのものが失われかねません。
そこで本記事では、要求ばかりで貢献しない社員への対処法について解説します。
2. まず、どこかで線引きをする
最初に必要なのは、どこかで線引きをすることです。すべての要求を飲んでいてはならないという、当たり前のことをしっかり理解し、実行することが重要です。
周囲の社員の立場になってみてください。お互いに助け合おうということで、頼まれたらやってあげて、協力して仕事を進めていくのであれば問題はありません。しかし、一方的に要求ばかりする社員がいて、それが際限なく続けば、周囲は疲弊してしまいます。物事には限度というものがあります。
経営者自身がどうするかと、社員にどうさせるかは別
「うちの会社にそのような線引きはない。頼まれたらできる限り応じる会社だ」というお考えの経営者もいらっしゃるでしょう。経営者ご自身がそうされるのは、経営方針として自由です。しかし、それを社員たちにやらせてはいけません。どこかで線引きをしてあげなければ、周囲の社員が疲弊してしまうからです。周囲の社員を守るためにも、「これ以上はやらなくてよい」という線を、会社としてしっかり示す必要があります。
どこに線を引くかは、企業風土に強く影響されます。「こういう会社を作りたい」という経営者の思い、企業理念、そして現場のキャパシティ、つまり現場にどれだけの対応能力があるのかといった事情を踏まえて、経営者として決めてください。現実離れした要求を現場に押し付けると、周囲の社員は本当に嫌になってしまいます。その業務が実際にどれほど大変なのかは、経営者自身がやってみればすぐに分かることも多いものです。「やっていればよいではないか」で済まないことも多いのです。
3. 線引きの目安:権利は認め、権利でない部分で線を引く
線引きの大まかな目安としては、その要求の内容が権利であれば認めるということでよろしいかと思います。法律上の権利、労働契約上の権利であれば、当然に認めるべきものです。線引きをするのは、権利ではない部分ということになります。
権利の行使を「要求」として扱ってはならない
この整理は、実務上きわめて重要です。年次有給休暇の取得(労働基準法39条)、育児休業や介護休業、所定外労働の免除の請求(育児介護休業法)などは、法律上認められた労働者の権利です。事業の正常な運営を妨げる場合に時季変更権を行使できる場合はありますが、権利の行使そのものを「要求ばかりする社員」の問題として扱うことはできません。
権利行使を理由とする不利益な取扱いは、法律上禁止されています。「要求ばかりで困る」という悩みの中に、権利の行使が混ざっていないかを、まず切り分けて確認してください。
線引きの対象となるのは、応じてあげてよい場面もあるけれども、必ずしもすぐに対応しなければならないものではなく、他にもやるべきことが多くある中で求められている、といった性質のものです。要するに、その都度優先度を判断して対応していくことになります。
言われたことを何でもやってあげる方が、気持ちの上では楽かもしれません。しかし、一方的にやってあげなさいというわけにもいきません。お互い様でなければ人間関係は続きませんので、どこかで断っていくことになります。
4. 一方的な状態は、本人のためにもならない
一方的な状態を放置することは、お互い様でなければ長続きしないという持続可能性の問題であると同時に、多くのケースでは本人のためにもなりません。
要求だけをして自分は貢献しないという勤務態度を身につけてしまうと、周囲と協力し、周囲の納得を得ながら仕事を進めるという働き方について、学習の機会を奪う結果になりかねないからです。それが普通だと思い込んでしまえば、多くの職場で周囲と協調して働くことができなくなってしまいます。
例外的に、一方的な状態を受け入れる場合
- その社員の事情に照らして、周囲に依頼しなければ業務を遂行できないことが客観的に説明できる状況であり、周囲にも説明済みで一応の納得が得られており、その負担を会社として織り込んでいる場合
- 成長するまでの一時期について、そういうものだという覚悟の上で、事業の予定としても織り込み済みである場合
このように、具体的で納得づくの理由があるのであれば、期限を区切って受け入れることもあり得ます。しかし、そうした理由もなく、線引きもせずにだらだらと続けることは、望ましくありません。
5. 管理職と方針を共有し、ちょうどよい加減を探る
線引きの方針が定まったら、それを管理職と共有してください。その上で、周囲から不満が上がっている場合、あるいは不満が上がらなくても明らかに不公平な状況が生じている場合には、「どこまでなら応じてよいのか」「どこから先は断るのか」「その間のグレーな部分については相談してほしい」という方針を決めて対応していくことが重要です。
もっとも、ちょうどよい加減は、探りながら見つけていく作業になります。抽象的な指示や、現場の実情から離れた一般論のまま、修正もせずに進めていくと、たいていうまくいきません。
運用のポイント
- 現状の確認をこまめに行う
- 特定の社員に無理をさせていないかを見る
- 現実に起きている出来事に対してフィードバックを行い、適切な加減を探りながら指示を出す
こうした運用を重ねていくうちに、どのあたりが適切な線引きなのか、見通しが立つ状況になっていきます。当面の間は、具体的にどの程度の線引きが適切なのかを探る作業を続けていくことになります。
6. 「貢献しない」部分には、明確な指示から始める
「要求ばかりで貢献しない」という言葉には、貢献しないという部分についても問題意識があることがうかがわれます。では、この部分についてはどうすればよいのでしょうか。
初期の段階では、明確な指示をすることがきわめて重要になります。ここで問題になっているのは、業務を進める上で必要な事柄です。業務に関連するものであれば、労働契約において予定されている範囲内のものでしょうから、明確に指示をして、しっかりやってもらってください。
「指示待ちになってしまう」という心配は不要
このような話をすると、「いちいちこちらから言っては指示待ちになってしまうから良くない」という発想をお持ちの方が多くいらっしゃいます。しかし、そもそも自発的に動くことを期待してはいけない状況ではないでしょうか。貢献しないことに悩んでおられるということは、自分から動かない、自分から貢献しようとしないから悩んでいるということです。その状況で自発的に動くことを期待していては、1年経っても2年経っても状況は改善しません。
自分の頭で考えて行動できなくなるという心配も不要です。現に、今できていないのですから。自分の頭で考えて行動するというのは、もう少し先の話です。経験を積めばできるようになるかもしれませんが、今の段階では難しい。「それくらいできて当然だろう」と思い込んでいるかもしれませんが、できる人とできない人がいます。できているのならやっているはずです。できていないということは、教えてもらい、経験を積まなければできないタイプである可能性が高いのです。
7. 明確に伝えることで、本人のタイプが見えてくる
ここで「明確に」と申し上げたのには、意味があります。
自分から考えて行動することはできないけれども、明確に伝えれば、言われたことはきっちりやるという社員がいるからです。悪気なく貢献できていない、自分の頭で考えて行動できていないというだけの社員は、確かに存在します。
そのような社員に対して「どうしてやらないのか。こういうことをやるのは当然だろう」と言えば、「では、どうして言ってくれなかったのですか。言ってくれればやったのに」と、心の中で思い、あるいは実際に口にすることもあります。そう言われると腹立たしく感じるかもしれませんが、それならば言えばよいのです。
まず伝えてみることで、分かることがあります。伝えても理解しない社員もいます。しかし、明確に伝えればそのとおりに行動する社員も中にはいますので、まずは言ってみましょう。色々と試しながら、どのようなタイプなのか、現状認識を正確にしていく。そして、それに応じた対応をしていくことが重要です。
8. 指示に従わない場合:業務命令は抽象度を下げる
明確に伝えても従わない場合はどうすればよいのでしょうか。仕事としてやるべきこと、つまり本人の義務であることをやらないというのは、やはり問題です。その場合は、業務命令を出しましょう。
業務命令とは、このような仕事をしなさいと命じることですが、ここではできる限り抽象度を下げて、具体的な業務命令を出すのがよいと考えます。まずは口頭でもよいでしょう。それでも理解が及んでいないようであれば、あるいは理解しているのにやらないようであれば、書面で業務命令を出すようにしてください。
抽象度を下げることの意味
抽象度の高い命令では、違反かどうかがはっきりしません。幅広く命令違反として構成できそうに見える反面、内容が薄くなってしまうという面があります。また、相手の理解能力によっては、抽象度が高いと理解できないこともあります。
ある程度具体的にして、誰が見ても業務命令違反だと言えるところまで抽象度を落とす。そこまで具体化してもなおやらないのであれば、悪質さの度合いもはっきりしますし、本人がどのような社員なのかを正確に認識できるようになります。抽象度を下げ、具体性を高めて試してみることをお勧めします。
その上でなお従わない場合には、注意指導や懲戒処分を検討することになります。懲戒処分を行うには就業規則上の根拠規定が必要であり、処分の内容も、行為の性質・態様等に照らして相当なものでなければなりません(労働契約法15条)。最終的には解雇もあり得るタイプの問題ですが、解雇が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります(同法16条)。段階を踏み、改善の機会を与えた記録を残していくことが不可欠です。業務命令書や懲戒処分通知書の作成に不安がある場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。
9. まとめ
- どこかで線引きをする。周囲の社員を守るために、会社として線を示す
- 線引きの目安は、権利は認め、権利でない部分で線を引くこと。年次有給休暇や育児介護休業などの権利行使を「要求」として扱ってはならない
- 一方的な状態は本人のためにもならない。協調して働く学習機会を奪うことになる
- 管理職と方針を共有し、こまめな現状確認とフィードバックで加減を探る
- 貢献してほしい部分は、明確に指示する。自発性を期待していては状況は変わらない
- 業務命令は抽象度を下げ、具体性を高める。本人のタイプと悪質さの度合いがはっきりする
職場は、お互いに協力することで成り立っています。ある程度であれば我慢できても、一方的に要求されるばかりで何のお返しもないという状況になれば、不公平感を抱く社員が出てきます。皆に納得感を持って働いてもらうことは、会社経営者の仕事です。要求ばかりで貢献しない社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 有給休暇や時短勤務を頻繁に求めてくる社員も、「要求ばかりの社員」として指導できますか。
A. できません。年次有給休暇は労働者の権利であり(労働基準法39条)、原則として労働者が請求する時季に与えなければなりません。事業の正常な運営を妨げる場合に時季変更権を行使できる場合はありますが、単に人手が足りない、忙しいという理由だけでは認められにくいのが実情です。育児介護休業法に基づく短時間勤務や所定外労働の免除も同様に権利であり、これらの請求を理由とする不利益な取扱いは法律上禁止されています。権利の行使を指導の対象とすれば、会社側が違法と評価されます。線引きの対象は、あくまで権利ではない部分です。切り分けに迷う場合は、弁護士に相談してください。
Q2. 周囲の社員から不満が出ていますが、本人には悪気がないようです。それでも指示してよいのでしょうか。
A. むしろ、悪気がないケースであればこそ、明確に指示すべきです。本人としては何をすべきか分かっていないだけであり、内心を問題にしても状況は変わりません。業務上必要な事柄について、業務上必要かつ相当な範囲で具体的に指示することは、業務命令として当然に認められます。明確に伝えた結果、そのとおりに行動するのであれば、それで問題は解決します。従わないのであれば、そこで初めて次の段階を検討することになります。
Q3. 業務命令に従わないことを理由に、いきなり解雇できますか。
A. 難しいと言わざるを得ません。解雇が有効となるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる必要があります(労働契約法16条)。裁判では、労働者側から十分な注意指導を受けていないという主張がなされることが多く、口頭の指示だけで客観的な証拠が残っていない場合、会社側が指導の事実を立証することが困難になります。抽象度を下げた具体的な業務命令を書面で出し、注意指導を重ね、それでも改善しないという経過を記録に残していくことが、結果として会社を守ることにつながります。解雇や退職勧奨を検討する段階では、必ず事前に弁護士に相談してください。
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最終更新日:2026年7月17日