問題社員206 能力が極端に低い問題社員の対処法
動画解説
目次
1. 「能力不足」の意味を正しく理解する
「能力が低い社員」の問題を考える前に、そもそも「能力不足」とはどういう意味かを正確に理解しておく必要があります。
雇用の場面における能力不足とは、絶対的に仕事ができないかどうかという話ではありません。「契約で予定されている能力」と「実際の能力」のギャップがどれだけあるか——これが能力不足かどうかの判断基準です。
▶ 職位・賃金によって「能力不足」の基準は変わる
・月給100万円で採用した部長職 → 高い能力が当然期待される。ある程度できても不足と評価される可能性がある
・大卒1年目を一般的な給与で採用 → 最初から高い能力は期待できない。教育しながら育てることが想定されている
・時給1,100円のアルバイト → その時給に見合った仕事ができていれば、能力不足とは言えない
この「契約で予定された能力とのギャップ」という概念を理解しておかないと、能力不足への対応を誤ります。後で解説する解雇や退職勧奨の場面でも、この基準が問われることになります。
2. 採用時点での見極めが最大の予防策
能力が低い社員の問題で悩む会社の相談を受けていると、意外と多くのケースに共通するパターンがあります。それは、採用の時点からすでに「なんとなく能力が足りないかも」と気づいていたのに、採用してしまったというものです。
もちろん、採用選考を一生懸命やっても「取ってみたら使い物にならなかった」という純粋な採用の失敗はあります。これはある意味しょうがない面があります。
しかし問題なのは、面接の段階でコミュニケーションがうまく取れないと感じながら、人手不足などの事情から「まあやらせてみたらできるかもしれない」と採用してしまうケースです。
⚠ 採用段階で気づいていた場合は覚悟が必要
「能力がちょっと足りないかも」と思いながら採用した場合、その後に能力不足トラブルが起きても自己責任の要素があります。能力不足で困ることを最小限にしたいなら、違和感を感じた時点で不採用にする判断が必要です。採用が大変でも、そこは我慢するしかありません。
能力不足で悩むのは「できると思って採用したのに、ダメだった」というケースだけにしましょう。そのほうが対応もしやすく、会社として誠実な立場を取ることができます。
3. 適正な賃金水準で採用する
採用時に「この人の能力はちょっと微妙かな」と感じながらも、求人票に記載した賃金水準のまま採用してしまうケースがあります。これが後々の問題を大きくします。
相談の中には、「この社員、月給30万円は高すぎると思うんですが、どうしたらいいですか」という声もあります。しかし月給30万円の人が、もし月給20万円や時給1,100円水準の仕事をこなせているなら、その視点では能力不足とは言えないかもしれません。
⚠ 後から給与を下げることは非常に困難
高い給与で採用してから「やっぱり下げたい」と思っても、労働条件の不利益変更として強い抵抗を受けます。本人からすれば「この給料で働けるから入社した」のですから、当然です。後から変えることを前提にした採用は、トラブルの種になります。
対策は明快です。採用時点で能力に疑問を感じるなら、最初からその能力水準に見合った賃金で契約することです。もし実際に働かせてみてパフォーマンスが高ければ、そのときに昇給すればいい。最初を低めに設定しておくほうが、双方にとって安全です。
もちろん、その賃金水準にすると他社に流れてしまうリスクはあります。しかし最初から高い賃金を設定して後で下げようとするよりも、はるかに健全です。
4. 教育指導は「具体的に」行う
採用した社員が能力不足であると分かっても、育てていこうと判断した場合は、教育指導の仕方が重要になります。そのポイントは一言で言えば、「具体的に」です。
能力が高い人であれば、ある程度抽象的な指示でも自分で考えて動いてくれます。しかし能力が低い人に対して抽象的な指示を出しても、意味が伝わりません。
▶ 抽象指示 vs 具体指示の違い
【抽象的な指示(伝わらない)】
「報連相をしっかりやること」
【具体的な指示(伝わる)】
「この仕事が終わったら、〇〇の方法で、〇〇さんに連絡してください。実際にやってみせますね」
場合によっては、実際に目の前でやって見せることも必要です。具体的にやって見せることで、能力が比較的低い社員でもイメージがつかみやすくなります。
ただし、こうした具体的な指導は手間がかかります。それでもなかなか能力が上がらない場面も多く、周囲のスタッフが消耗することがあります。経営者としては、そうした現場の負担に目を向け、疲弊しないよう配慮することも大切な役割です。
能力が低い人を育てると決めたなら、具体的な指導と長い目での育成、この2つを最初から覚悟してください。
5. やめてもらうなら試用期間満了までが勝負
(1) 試用期間中に判断することの重要性
能力不足の社員にやめてもらうことを検討しているなら、試用期間中に判断して話をつけることが最善です。
試用期間が終わって本採用になると、社員本人は「もう大丈夫だ、よっぽどのことがない限り雇い続けてもらえる」と思います。その心理状態で能力不足を理由に退職を求めても、納得してもらうのは格段に難しくなります。
試用期間中であれば、まだ「お互いを確かめている段階」という共通認識があります。条件によっては退職条件を少し上乗せして合意退職に持ち込むことも、本採用後よりもスムーズに進みます。
(2) 試用期間の長さは業種・仕事内容で決める
試用期間として最も多いのは3ヶ月、次いで6ヶ月です。3ヶ月あれば「雇い続けるかどうか」の判断ができる会社もありますが、業種や仕事内容によっては、4〜5ヶ月経ってからやっと「やっぱりダメだ」と判断できる場合もあります。
3ヶ月の試用期間では判断がつかず困った経験のある会社は、試用期間を6ヶ月に設定することを検討してください。これは「試用期間の延長」ではなく、最初から就業規則や労働契約書に6ヶ月と定めておくという意味です。
自分の会社の仕事内容であれば、どれくらいの期間があれば判断できるのか——これは会社や業種によって違います。自社に合った試用期間の長さを設定することが重要です。
(3) 「解雇しやすい」の意味を誤解しない
試用期間中は「解雇しやすい」と言われています。確かにその通りですが、この言葉の意味を誤解してはいけません。
「解雇しやすい」というのは、解雇のハードルが「やや下がる」だけです。イメージとしては、合格ラインが80点から60点になるようなもの。しかし、客観的に合理的な理由が必要であることに変わりはありません。
⚠ 証拠なき解雇は試用期間中でも無効になる
「みんながダメだと言っている」「長年の経験からダメだと思う」というレベルの理由では不十分です。何月何日のどんな出来事から能力不足と判断したのか、具体的な事実を証拠に基づいて示せなければ、試用期間中の解雇でも無効になります。
試用期間中に解雇できるだけの証拠がそろっているなら、それをもとに話し合いで退職してもらう手順を取ることもできます。証拠がそろっていない段階で解雇に踏み切ると無効になるリスクが高いため、その場合は話し合いによる合意退職を目指すしかありません。
6. まとめ
能力が極端に低い社員への対処は、採用の段階からすでに始まっています。採用時の見極め・適正な賃金設定・試用期間の活用——この3つを事前に正しく整えておくことが、後のトラブルを大幅に減らします。
採用前 違和感を感じたら不採用に 能力不足の予感がある時点で採用しない。採用するなら能力に見合った賃金水準を設定する | 採用後 具体的な指導と記録 育てるなら具体的に・根気よく。辞めてもらう可能性があるなら具体的な事実を記録しておく | 試用期間 満了前に判断・決断を 試用期間中に判断して話をつけることが最善。3ヶ月で足りなければ6ヶ月に設定する |
それでも自分だけでは判断が難しい、どう進めるべきか分からないという場合は、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/14
