問題社員190 営業担当なのに指示しても営業業務を行わない。

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この記事の要点

「なぜ営業に出ないのか」という原因を特定することが最初のステップです。原因によって取るべき対応はまったく異なります。

 営業担当社員が指示を出しても営業活動を行わないという問題は、労働契約の根幹に関わる深刻な問題です。しかし「なぜ営業に出ないのか」という理由は一つではなく、その原因によって取るべき対応はまったく異なります。最初の大枠を正確に特定することが、すべての対応の精度を左右します。

営業に出ない理由はさまざまであり、まず原因の特定が最優先

 単純なサボり・営業手法への不満・能力不足による恐怖・体調不良・配置転換への不満という5つの典型的な原因があります。大枠の原因を間違えると、その後の対応がいかに緻密であっても的外れになります。まず面談で理由を確認することが、すべての出発点です。


業務命令に従わない場合は、懲戒処分・解雇・給与控除も選択肢

 単なるサボりや営業手法への不満を理由とした業務拒否は、労働契約の本質的な義務の違反です。明確な業務命令を出した上で従わない場合には、懲戒処分・解雇、そして業務不履行日の給与控除という対応手段を取ることができます。


配置転換後の業務拒否には「配転命令の有効性」という法的論点がある

 もともと営業職でなかった社員を営業に異動させた後に業務拒否が生じた場合、配転命令の有効性・権利濫用の有無という法的論点が生じます。紛争リスクが高い類型であり、早期の弁護士相談が不可欠です。

1. まず原因を特定する:営業に出ない5つの典型パターン

原因の特定が最初のステップである理由

 営業担当社員が指示を出しても営業に出ないという問題に対応する上で、最初にすべきことは「なぜ営業に出ないのか」という原因の特定です。この問題は、表面上は同じ「業務拒否」という行動でも、その背景によって取るべき対応がまったく異なります。

 弁護士として多くの相談を受ける中で感じるのは、大きな枠組みとして「何の問題なのか」を正確に見極めることができれば、その後の対応は通常のルートに乗せるだけで対処できるケースが多いということです。逆に、最初の大枠を誤ってしまうと、その後の細かい対応がいかに緻密でも、うまくいきません。

パターン①:単なるサボり・やる気の喪失

 最もシンプルなパターンが、特別な理由もなく単にサボっているケース、あるいは仕事へのやる気が完全に失われているケースです。労働契約の本質は、使用者が賃金を支払い、労働者が指揮命令に従って労務を提供するものです。営業社員として採用された以上、営業業務を行うことは労働契約上の基本的な義務であり、それを拒否することは契約の根幹に対する違反です。

 放置していると「この会社では何も言われない」という認識が広がり、仕事をせずに給料だけもらうという状況が常態化するリスクがあります。

パターン②:営業手法への不満・方針への異議

 「会社の営業方法が古い・非効率だ。もっと合理的なやり方があるはずだ」という不満を理由として、営業活動を拒否するケースがあります。こうした不満から有益なヒントが得られることもありますが、「提案を聞き入れてくれないから営業に行かない」という論理は成立しません。

 営業の方法を決定する権限は経営者・管理職にあり、担当社員にはありません。提案を行う機会は与えられてしかるべきですが、採用されなかったことを理由に業務を拒否することは、業務命令違反になります。

パターン③:能力不足・適性のなさによる回避

 営業が苦手で怖く、客先に出ていくことができないという状況です。事務所には出社するが、そこから営業先に出ていくことができないというパターンで、能力・適性の問題として捉えるべきケースです。もともと営業職として採用された社員であれば、まず同行指導・ロールプレイング・先輩社員による手本の提示など、段階的な教育を行うことが先決です。それでも改善しない場合には、社内に適性のある別の業務への配置転換、あるいは退職という方向を検討することになります。

パターン④:体調不良・疾病

 体調不良が原因で営業活動が行えない状態にあるケースです。体調不良の原因は、営業への適性のなさから来るメンタル的な不調(適応障害など)、私生活上のストレスによる体調悪化、癌などの身体疾患など、多岐にわたります。使用者には安全配慮義務がありますので、体調不良が疑われる状況を把握しながら無理に業務を続けさせることは、法的リスクが生じます。

パターン⑤:配置転換後の業務拒否

 もともと営業職ではなかった社員を営業部門に異動させた後、「営業の仕事はやりたくない」として業務を拒否するケースです。これは他のパターンと異なり、配置転換命令の有効性という法的論点が絡むため、特に慎重な対応が必要です。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 こうした問題をめぐる経営者からのご相談でよく聞かれるのは、次のようなパターンです。

・「営業職として採用したのに、いざ客先訪問を命じると『やり方が古い』と言って出社はするが一切営業に出ない。給料だけ払い続けている」

・「事務員として長年勤務していた社員を営業に異動させたところ、『辞めさせるための嫌がらせだ』と主張され、労働審判を申し立てられた」

・「能力不足で営業に出られない社員に無理に指示を続けていたところ、適応障害の診断書が出てきてパワーハラスメントと言われた」

 いずれも、原因の特定を誤ったまま対応を進めた結果、問題が複雑化したケースです。最初の対応の方向性が非常に重要です。

2. パターン①②への対応:業務命令と段階的な制裁

面談で理由を確認した上で業務命令を出す

 単なるサボりや営業手法への不満が理由の業務拒否であることが確認できた場合、まず面談を行い、本人の言い分を丁寧に聞いた上で、明確に業務命令を出すことが基本的な対応です。面談では、「営業社員として採用されているのだから、営業に行くことはあなたの基本的な仕事だ」という事実を明確に伝えた上で、理由を率直に聞きます。

 営業手法への提案がある場合は、提案として聞くことは構いませんが、それは意見として受け取るものであり、採用されない場合でも業務命令には従う義務があることを明確にします。

業務命令違反への段階的な対応:懲戒処分・解雇・給与控除

 明確な業務命令を出した上で従わない場合、段階的に以下の対応を進めることになります。まず厳重注意書の交付、次に懲戒処分(減給・出勤停止など)、さらに改善がなければ解雇の検討という流れが基本です。

 また、業務命令に従わず営業に出なかった日については、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき、給与を支払わないという対応を取ることも選択肢の一つです。ただし、この判断は個別の事情によって微妙なケースがあるため、弁護士のコンサルティングを受けながら進めることをお勧めします。

✕ よくある経営者の誤解

「営業に出ない日も、出社している以上は給与を払わなければならない」→ 誤りです。
 業務命令に違反して営業に出なかった場合、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、その時間分の給与を支払わないという対応が可能なケースがあります。ただし適用には法的な判断が必要です。

「提案を聞き入れなかった会社が悪いから、業務拒否は仕方ない」→ 誤りです。
 営業方法を決定する権限は経営者・管理職にあります。提案が採用されなかったことを理由に業務を拒否することは認められず、業務命令違反として懲戒処分・解雇の対象となり得ます。

 業務命令書の作成・給与控除の適法性判断・懲戒処分の手順について、具体的なご相談はお気軽にどうぞ。書面の文言から手続の進め方まで、実務に即したサポートが可能です。→ 経営労働相談はこちら

3. パターン③への対応:能力不足・適性のなさへの対処

まず段階的な教育指導で改善を試みる

 能力不足・適性のなさが原因である場合、まず丁寧な教育指導を行うことが必要です。同行指導・先輩社員による手本・ロールプレイングなど、実践的なサポートを通じて、営業活動への恐怖心を軽減し、スキルを習得させる試みを行います。こうした対応を通じて改善が見られるようであれば、育成を続けることが有効です。

 しかし、どうしても向いていないと判断できる場合には、無理に継続させることは本人にとっても会社にとっても得策ではありません。向いていない営業を強要し続けることは、適応障害などのメンタルヘルス問題を引き起こし、パワーハラスメントの問題にも発展するリスクがあります。

別業務への配置転換または退職の方向へ

 教育指導を尽くしても改善が見込めない場合は、社内に他の適性ある業務があれば配置転換を検討します。社内に適した業務がない場合には、退職勧奨・合意退職という方向を検討することになります。会社の安全配慮義務の観点からも、体調を崩すほど向いていない業務を無理に継続させることは避けるべきです。

4. パターン④への対応:体調不良が原因の場合

体調不良の内容を確認し安全配慮義務を果たす

 体調不良が原因で営業に出られない状態にある場合、まず体調不良の内容と程度を確認することが重要です。一時的なものなのか、長期にわたるものなのかによって対応が変わります。体調不良が確認された場合には、無理に営業を続けさせることは安全配慮義務違反のリスクがあります。

 状況に応じて、欠勤扱い・年次有給休暇の取得促進・休職命令といった対応を取ることが必要です。体調が回復するまでの間、事務所内でできる別の業務に就かせるという柔軟な対応も、実務上は有効な場合があります。長期的な就労困難が見込まれる場合には、私傷病休職の要件に達した段階で休職命令を発令し、療養に専念させることが必要です。

5. パターン⑤への対応:配置転換後の業務拒否と配転命令の有効性

配転命令の有効性という法的論点

 もともと営業職ではなかった社員を営業に異動させ、その後業務拒否が生じた場合、最初に問題となるのは「配転命令自体が有効か」という法的論点です。配転命令の有効性は、①配転の必要性があったか、②不当な動機・目的(例えば退職させる目的・嫌がらせ目的)がなかったか、③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものでないか、という観点から判断されます。

 正社員で広範な配転権限がある会社であれば、人事異動の自由は基本的に認められます。しかし、長年営業以外の業務に従事してきた社員を突然営業に異動させる場合、特に給与が実質的に下がる(例えば歩合制への移行で成果が出ず収入が大幅減少する)ケースでは、配転権限の濫用と判断されるリスクが生じます。

紛争リスクが高いケースでは早急に弁護士へ

 配置転換後の業務拒否をめぐっては、「辞めさせる目的で営業に異動させたのではないか」という主張や、「営業の仕事をしなくても給与を払え」「配転命令自体が無効だから解雇もできない」という主張が生じ、労働審判・団体交渉・労働訴訟に発展するケースが実際に多くあります。対応を誤ると大きなトラブルに発展するリスクがあります。配転命令の有効性に疑問がある場合や、社員から異議申立て・抗議がなされた場合には、早急に弁護士のコンサルティングを受けながら対応を進めることが不可欠です。

 配転命令の有効性や配置転換後の業務拒否への対応について、個別の状況に応じたご相談をお受けしています。問題が深刻化する前の早い段階でのご相談をお勧めします。→ 経営労働相談はこちら

6. まとめ:経営者が取るべき対応の全体像

「なぜ営業に出ないのか」を最初に確認する

 営業担当社員が指示を出しても営業活動を行わない問題への対応は、まず面談を行って理由を確認することから始まります。単なるサボりなのか、営業手法への不満なのか、能力・適性の問題なのか、体調不良なのか、配置転換への不満なのかによって、対応はまったく異なります。最初の大枠を正確に特定することが、すべての対応の精度を左右します。

原因に応じた対応を段階的に進める

 原因が特定できれば、あとはそれぞれに応じた通常の対応を段階的に進めることになります。業務命令違反であれば注意指導・懲戒処分・解雇という手順を、適性の問題であれば教育指導・配置転換・退職勧奨という手順を、体調不良であれば安全配慮義務を果たした上での適切な措置をというように、原因に対応した手順を踏むことが重要です。

配転命令の有効性が争われる場合は早急に弁護士へ

 特に配置転換後の業務拒否が生じているケースでは、法的な紛争リスクが高く、早期の弁護士相談が不可欠です。また、業務命令不履行に対する給与控除の適用、解雇の正当性判断など、専門的な判断が必要な局面も多くあります。対応に迷いが生じた段階で、早めに会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。営業担当社員の業務拒否問題についてお困りの会社経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/04/05


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