問題社員178 異常なほど誤りを認めない。
動画解説
「誤りを認めさせること」にこだわりすぎず、業務命令の履行に判断の軸を置くことが、経営者を守る最善策です。
誤りを認めない社員は、改善の動機づけが生まれにくく、職場の雰囲気を悪化させる要因にもなります。しかし、誤りを認めるかどうかは内心の問題であり、強制することには限界があります。経営者としては、指揮命令権という法的根拠に立ち返り、「指示どおりに仕事をさせること」に集中することが、実務上最も有効な対応です。
■ 具体的事実を題材に指導する:抽象論は「空中戦」になる
「ちゃんとできていない」といった抽象的な評価で話を進めると、見解の相違が埋まらないまま議論が平行線をたどります。その日に起きた具体的な出来事を題材に、何がどう問題だったかを事実レベルで話すことが指導の基本です。
■ 指揮命令権に立ち返る:雇い主に最終決定権がある
労働契約上、業務の進め方・やり方を決定する権限は雇い主にあります。本人が納得しなくても、合理的な業務命令であれば従わせることができます。「誤りを認めさせる」のではなく、「指示どおりに仕事をさせる」ことに判断の軸を移すことが重要です。
■ 業務命令違反には毅然と対処する:懲戒・解雇も視野に
合理的な業務命令に従わない場合は、厳重注意・懲戒処分、さらには解雇の対象となり得ます。トラブルを恐れて放置することは、周囲の社員への悪影響や経営者への信頼低下につながります。必要な局面では弁護士に相談し、毅然とした対応を取ることが重要です。
目次
1. 誤りを認めない社員が問題となる理由
改善につながらない:問題が繰り返されるメカニズム
仕事上のミスや問題点は、誤りとして認識した上で改善に取り組むことで、次の失敗を防ぐことができます。しかし、誤りを認められない社員には、そもそも改善しようという動機づけが生まれません。その結果、同様の問題が繰り返されることになります。
また、明らかな誤りであれば是正が必要ですし、見解の相違にとどまる場合でもすり合わせを行い、会社としての方針を決めていく必要があります。いずれの場合においても、誤りを認めない姿勢は、問題解決の妨げとなります。
職場環境への悪影響
誤りを認めない社員が職場に存在すると、指導や注意を行うたびに言い争いが生じやすくなります。その結果、職場全体の雰囲気が悪化し、周囲の社員の士気にも影響を与えます。
経営者としては、この問題を当該社員個人の課題としてだけでなく、職場全体の秩序・環境に関わる問題として捉え、適切に対処することが求められます。
2. 基本対応:具体的事実を題材に指導する
抽象的な評価では「空中戦」になる
誤りを認めない社員に対して指導を行う際、「ちゃんとできていない」「しっかりやれていない」といった抽象的な評価の言葉を使うと、議論が評価の妥当性をめぐる応酬になりがちです。相手が「自分はできている」と思っている場合、抽象的な批評だけでは話が噛み合わず、見解の相違が埋まらないままになります。
こうした「空中戦」を避けるためには、具体的な事実を題材にして話を進めることが基本となります。
具体的事実を題材にした指導の進め方
指導の際には、「今日、○○さんに対してこのような対応をした」「さっきのあの場面でこのようにやっていた」といった形で、いつ・誰に対して・どのような行動を取ったかを特定した上で話を進めます。その上で、「こうすべきだった」「この点が問題だ」という指摘を行います。
その日に起きた出来事をできる限り早いタイミングで取り上げることで、事実関係が明確になり、見解の相違が生じにくくなります。完全に見解の一致を得られなくても、話し合いが事実レベルで進むため、議論がかみ合いやすくなります。
3. 指揮命令権に立ち返る:雇い主に最終決定権がある
業務の進め方を決める権限は雇い主にある
具体的事実を題材にした指導を重ねても、なお誤りを認めない社員に対しては、労働契約の基本に立ち返ることが重要です。
労働契約は、使用者が賃金を支払い、労働者が指揮命令に従って労務を提供する契約です。この契約の性質上、業務をどのような方法・やり方で進めるかについての最終的な決定権は、雇い主側にあります。もちろん、あまりにも不合理な指示や契約の範囲を逸脱した指示は許されませんが、合理的な内容であれば、雇い主はその方法で仕事をするよう命じることができます。
本人が納得しなくても命令できる
社員本人が自分の考えを変えなくても、使用者は合理的な業務命令を出すことができます。「相手が納得するまで説得し続けなければならない」という発想は、労働契約の内容とは異なります。
周囲の意見を踏まえ十分に検討した上で、「この方法でやってください」と最終判断を下すのは、経営者の正当な権限行使です。見解の相違があったとしても、その結論に向けて明確な指示を出すことができます。
「誤りを認めさせること」にこだわりすぎない
異常なほど誤りを認めない社員の場合、多数派とは異なる行動原理で動いており、反省や謝罪の言葉を期待することが難しいケースもあります。そうした相手に対して「誤りを認めさせること」に過度なエネルギーを注ぐことは、得策とはいえません。
感情的になることでパワーハラスメントに近い言動を取ってしまうリスクもあります。「指示どおりに仕事をさせる」ことに判断の軸を移すことが、経営者として現実的かつリスクの少ない対応です。
なお、心の中でどう思っていようとも、命じられたとおりに仕事をきっちりこなしているのであれば、労働契約上の義務は果たされています。重要なのは内心ではなく、指示に従って業務を履行しているかどうかという点です。
4. 業務命令の発令:明確な指示で仕事をさせる
口頭指示から業務命令書へ:記録の重要性
通常の口頭指示に従わない場合は、「これは業務命令です」と明確に伝えることが必要です。それでもなお従わないようであれば、業務命令書や業務指示書として書面化することが有効です。メールやチャットによる指示も、記録として残る点で同様の効果があります。
書面化することで、後に「そのような指示は受けていない」という主張を封じるとともに、指導の経緯を記録として蓄積することができます。この記録は、後に懲戒処分や解雇を検討する際の重要な根拠となります。
業務命令違反には懲戒処分・解雇も視野に
契約の範囲内かつ合理的な内容の業務命令に従わない場合、厳重注意や懲戒処分の対象となります。繰り返し従わない場合や、その態様が悪質である場合には、解雇の対象となることもあります。
ここで重要なのは、処分の対象となるのは「本人が内心で誤りを認めていないこと」ではなく、「合理的な業務命令に従わなかったこと」であるという点です。比重の置き方を誤らないようにすることが、適切な対応につながります。
5. 毅然とした対応が組織を守る
トラブルを恐れた放置が招くリスク
業務命令違反に対して毅然と対応することは、時としてトラブルを招くことがあります。しかし、トラブルを恐れるあまり放置することは、さらに大きなリスクを生みます。
周囲の社員は経営者がどのような行動を取るかを見ています。職場の雰囲気を乱している社員に対して何の措置も取られないと、「会社は自分たちを守ってくれない」という不信感が生まれ、経営者への支持と信頼が低下するおそれがあります。
対応に迷ったときは弁護士への相談を
業務命令違反への対応、懲戒処分・解雇の検討といった局面は、手順や表現を誤ると法的リスクを招きます。どのような順序で、どのような内容の指示・通知を行うべきかは、個別の状況によって異なります。
対応に迷いが生じた段階で、会社側の労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。手順の設計から業務命令書・懲戒処分通知書の作成まで、実務的なサポートを受けることで、法的リスクを最小化しながら対応を進めることができます。
6. 適正配置の検討:特性を踏まえた業務アサイン
自己の意見に固執するタイプの特性を理解する
異常なほど誤りを認めない社員は、自己の意見に固執する傾向があります。この特性を前提として、担当業務を検討することも有効な対応の一つです。
柔軟な対応や周囲との協調が求められる業務には、このタイプの社員は向かない可能性があります。一方、専門性を活かして一定の方針のもとで仕事を進めることが求められる業務であれば、その特性がプラスに作用することもあります。
適正配置の可能性と留意点
もし当該社員の特性に合致した業務があるのであれば、配置の見直しを検討することも実務上の選択肢となります。現在の業務でのトラブルが深刻であるほど、適正配置の効果は大きくなる場合があります。
ただし、意図的に不向きな業務に就かせることは避けるべきです。もともと問題が生じている相手であり、さらに状況を悪化させることになりかねません。配置を変える場合は、本人の能力・特性と業務内容の合理的な対応関係を踏まえた判断が求められます。
7. まとめ:経営者が取るべき対応戦略
具体的事実の指摘→業務命令→懲戒処分という流れを踏む
誤りを認めない社員への対応は、具体的な事実を題材にした指導から始め、改善が見られない場合は業務命令として明確に指示を出し、それでも従わなければ懲戒処分・解雇を検討するという、段階的なアプローチが基本となります。
各段階での対応を記録として残しておくことが、後の法的判断において会社の立場を守ることにつながります。
内心ではなく業務履行に判断の軸を置く
誤りを認めるかどうかは内心の問題であり、強制することには限界があります。経営者としては、「本人が指示どおりに仕事をしているかどうか」という点に判断の軸を置くことで、感情的な対立を避けながら冷静に対応を進めることができます。
内心がどうであれ、命じたとおりに業務を履行しているのであれば、労働契約上の義務は果たされています。逆に、合理的な業務命令に従わない場合にこそ、毅然とした措置を取るべき局面となります。
対応に迷いが生じたら早めに弁護士へ
誤りを認めない社員への対応が業務命令・懲戒処分の検討に及ぶ段階では、手順・表現・記録の整備が法的リスクを左右します。また、当該社員との関係がすでに紛争的な様相を帯びている場合には、早期の専門家関与が不可欠です。
会社側の労働問題に精通した弁護士への相談は、問題が深刻化する前の段階でも十分に意義があります。誤りを認めない社員への対応についてお困りの会社経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/03/26
