問題社員179 席を立つ回数が多い。
動画解説
まず「理由」を把握し、事情に応じた段階的対応を取ることが、経営者として求められる正しい対処法です。
デスクワークを主な業務とする社員が席を立つ回数が多い場合、単に作業時間が減るだけでなく、集中力の低下や業務の停滞、周囲の社員への悪影響など、組織全体に関わる問題へと発展する可能性があります。経営者としては、感情的に対応したり、逆に見て見ぬふりをするのではなく、職務専念義務という法的根拠を踏まえた上で、段階的かつ適切な対応を取ることが重要です。
■ まず「理由」を把握することが大前提
席を立つ頻度が高い社員への対応は、「なぜ離席しているのか」という理由の把握から始まります。体調不良・家庭の事情・副業・単純なサボりなど、状況によって取るべき対応はまったく異なります。事情を確認しないまま注意・処分に踏み込むことは、判断の誤りを招くリスクがあります。
■ 会議室での面談が持つ二つの機能
事情聴取の場としては、会議室での面談が有効です。本人が説明しやすい環境を整えると同時に、やましい理由で離席している社員に対しては抑止効果も期待できます。面談の記録は、後の注意指導・懲戒処分の正当性を支える根拠にもなります。
■ 合理的理由のない離席が続く場合は毅然と対処する
理由の把握と指導を経てもなお改善しない場合は、厳重注意書の交付や懲戒処分の検討へと段階的に対応を強化します。対応のタイミングや踏み込む程度の判断は個別事情によって異なるため、迷いが生じた場合は弁護士に相談することをお勧めします。
目次
1. 席を立つ回数が多い社員が問題となる理由
デスクワークにおける離席の影響
デスクワークを主な業務とする社員にとって、席に着いて集中して作業を行うことは、業務遂行の基本となります。席を立つ回数が多くなると、まず純粋な作業時間が減少します。1回の離席が短時間であっても、それが何度も繰り返されると、1日を通じた業務時間に無視できない影響を与えます。
また、作業への集中が一度途切れると、再び同じ水準の集中状態を取り戻すまでに時間と労力を要します。これは人によって程度が異なりますが、細かい作業や思考を要する業務であれば、集中力の回復に相当のコストがかかることがあります。その結果、業務の進捗が滞り、必要な対応が期日内に完了しないという事態につながることもあります。
周囲の社員への悪影響と職場の秩序
席を立つ頻度が高い社員が存在すると、周囲の社員にも影響が及びます。自分は真剣に仕事に取り組んでいるのに、隣の社員が頻繁に離席している状況は、不公平感や不満の原因になります。「自分だけが真面目に仕事をしていることがばかばかしい」と感じる社員が出てくることも珍しくありません。
また、経営者や管理職がこうした状況に対して何も対処しない場合、「この職場ではある程度サボっても問題ない」という認識が広がりかねません。職場の規律と秩序を維持するためにも、経営者として適切な対応を取ることが求められます。
2. 職務専念義務という法的根拠を理解する
職務専念義務とは何か
就業時間中、労働者には職務に専念する義務があります。これを職務専念義務といいます。労働契約は、使用者が賃金を支払い、労働者が指揮命令に従って労務を提供する契約です。この契約の内容として、就業時間中は会社の業務に専念することが当然に含まれています。
したがって、会社経営者として、「就業時間中は仕事に専念してください」と求めることは、正当な権限の行使です。就業時間中に仕事と無関係の行動を取ることは、原則として許容されません。休憩時間やプライベートの時間に行うよう求めることも、使用者として当然に行使できる権限です。
トイレ・体調対応など合理的な離席との区別
もちろん、就業時間中のすべての離席が問題となるわけではありません。トイレに行くことや、軽い体調不良への対応として一時的に席を外すことは、労働契約上当然に予定されている行動といえます。こうした合理的な範囲の離席に対して、逐一口を出すことは適切ではありません。
問題となるのは、その頻度や時間が通常の範囲を大きく超えており、業務遂行に支障が生じているような場合です。「席を立つ回数が多い」と周囲が認識するほどの状態が続いているのであれば、何らかの対応を検討する必要が生じます。経営者としては、この区別を明確に意識した上で判断することが重要です。
3. まず「理由の把握」から始める
事情を確認しないまま対処することのリスク
席を立つ頻度が高いと気づいた場合、すぐに「サボっている」「仕事をしていない」と決めつけて注意・指導に入ることは避けるべきです。離席が多い理由は、表面上似ていても、その背景はさまざまです。事情を把握しないまま対応してしまうと、後に判断の誤りが明らかになり、対応の正当性を問われるリスクが生じます。
例えば、体調不良を抱えながら働いている社員に対して、事情も聞かずに「サボりだ」として注意書を交付した場合、安全配慮義務との関係で会社側の対応が問われることにもなりかねません。まず理由を把握する努力をすることが、正しい判断のための前提条件です。
想定される離席の理由①:体調不良・疾患への対応
何らかの体調不良や治療中の疾患により、定期的に席を立たざるを得ない状況にある社員がいます。この場合、単に「席に座り続けなさい」と指示するだけでは不十分であり、場合によっては逆効果になります。使用者には安全配慮義務がありますので、本当に体調が悪い状態であれば、無理に就労させず、休息や帰宅を促すことが求められる場面もあります。
治療と就業の両立を希望している社員については、主治医の意見や産業医の助言なども踏まえながら、合理的な範囲での配慮を検討することが必要です。ただし、配慮の内容や範囲は個別の事情に応じて判断すべきであり、安易に「何でも認める」という対応も適切ではありません。
想定される離席の理由②:家庭の事情・緊急の連絡対応
家族の介護や子どもの急病など、家庭側の事情により、就業時間中であっても定期的に連絡を取らなければならない状況が生じる場合があります。こうした事情は、本人にとっても精神的な負担を伴うものであり、頭ごなしに否定することは適切ではありません。
ただし、事情があるとしても、就業時間中に頻繁に席を外すことが常態化しているのであれば、会社として看過できない問題です。事情をきちんと説明した上で、対応の仕方について話し合い、合理的な範囲での取り決めを行うことが求められます。口頭での取り決めにとどまらず、内容をメールや書面で確認しておくことが望ましいといえます。
想定される離席の理由③:副業・兼業に関連する行動
副業や兼業を行っている社員が、就業時間中に副業先との連絡や対応のために席を立っているケースも考えられます。副業・兼業を一定の条件のもとで認めている会社であっても、就業時間中に会社以外の業務に従事することは、職務専念義務に違反します。
就業規則上、副業・兼業の届出制や就業時間中の副業禁止が定められている場合には、その規則に基づいて明確に指導を行うことが必要です。事実関係を把握した上で、規則違反として対応を進めることになります。
想定される離席の理由④:単純なサボり・気分転換目的の離席
特段の事情があるわけではなく、仕事から気分転換したい、あるいは単に仕事をしたくないという理由で頻繁に席を立っているケースも存在します。この場合は、職務専念義務に違反する行為として、注意指導の対象となります。
ただし、「サボりだ」と断定できるのは、本人の説明を聞いた上で合理的な理由がないと判断した後のことです。最初から決めつけることなく、まず説明を求めるという手順を踏むことが重要です。
4. 会議室での面談:事情聴取と抑止の両方に効果がある
面談の場を会議室に設定する理由
離席の頻度が問題となっている社員に対して事情を聴く際は、その場での立ち話やデスク越しの会話ではなく、会議室を確保して面談の場を設けることが効果的です。
会議室という場を設定することで、本人にとっては「きちんと向き合って話し合わなければならない場面だ」という意識が生まれやすくなります。他の社員の目や耳を気にせず話せる環境が整うため、本人が話しにくい事情についても説明しやすくなります。また、初期の段階では立ち話や席での簡単な声かけで対応することもあり得ますが、離席が繰り返されていたり、理由がはっきりしない場合には、早めに会議室での面談に切り替えることをお勧めします。
会議室面談が持つ抑止効果
会議室での面談には、事情を把握するという目的以外に、抑止効果という側面もあります。正当な理由のある離席であれば、上司や経営者に説明しても何ら問題はありません。しかし、やましい理由で頻繁に席を立っている社員にとっては、会議室に呼ばれて面談されること自体がプレッシャーになります。「このまま続けると会社に知られる」「また呼ばれることになる」という意識が働き、離席の回数を自然と抑えようとする動機が生まれます。
このように、面談という行為そのものが問題行動の抑止につながることがあるため、早い段階で会議室での面談を実施することが有効です。
面談記録を残すことの重要性
会議室で行った面談の内容は、必ず記録として残しておいてください。いつ・誰と・どのような内容を話し合ったかを記録しておくことで、後に注意指導や懲戒処分を行う際の根拠として活用することができます。
「事情を聴く機会を十分に与えた上で対応した」という事実は、処分の正当性を支える重要な要素となります。面談後に簡単な記録をつける習慣をつけておくことが、後のトラブルを防ぐ上で有効です。
5. 事情把握後の対応:状況に応じた段階的アプローチ
合理的な理由がある場合:必要な配慮と取り決め
面談の結果、離席の理由として合理的な事情が認められた場合は、その内容に応じた対応を検討します。体調上の問題であれば安全配慮義務の観点から適切な措置を取り、家庭の事情であれば合理的な範囲での取り決めを行います。
ただし、「事情がある」ことと「どのような対応が必要か」は別問題です。事情を踏まえながらも、業務遂行への影響を最小化するという観点から、双方が納得できる形での取り決めを行うことが求められます。口頭での取り決めにとどまらず、内容をメールや書面で確認しておくことが望ましいといえます。
合理的な理由がない場合:注意指導と改善要求
面談を経ても合理的な理由が確認できず、職務専念義務に反する離席が継続している場合は、明確な注意指導を行います。「そのような行動は就業時間中に行うべきものではない」「改善を求める」という点を明確に伝え、その内容を記録として残します。
注意指導は、口頭から始め、改善が見られない場合には書面(注意書・指導書)へと移行していくことが基本です。書面による注意・指導は、「会社として正式に問題を認識し、改善を求めた」という事実を明確にするものであり、後の懲戒処分の正当性を支える根拠にもなります。
改善が見られない場合:厳重注意書・懲戒処分の検討
注意指導を重ねても改善が見られない場合、あるいは離席の態様が特に問題のある場合には、厳重注意書の交付や就業規則に基づく懲戒処分の検討が視野に入ります。
懲戒処分の実施にあたっては、①就業規則上の根拠があること、②事情聴取を含む適正な手続を経ていること、③処分の内容が行為の程度に照らして相当であることが求められます。これらの要件を満たさない処分は、後に無効と判断されるリスクがあります。処分の検討段階に入る前に、会社側の労働問題に精通した弁護士に相談されることを強くお勧めします。
6. 対応のさじ加減と弁護士への相談
タイミングと踏み込む程度の判断が難しい理由
席を立つ回数が多い社員への対応において、「どの段階でどの程度の対応を取るか」というさじ加減の判断は、個別の事情によって大きく異なります。同じ「離席が多い」という状況であっても、その理由・頻度・業務への影響・これまでの指導の経緯などによって、適切な対応は変わってきます。
このような判断は、日常的にこうした対応を行っている経験がなければ、適切なタイミングを見極めることが難しい面があります。対応が早すぎても、遅すぎても、組織にとって好ましくない結果を招くことがあります。
弁護士への相談で得られるサポート
対応に迷いが生じた場合、あるいは懲戒処分などの法的措置を検討する段階に入った場合には、会社側の労働問題を専門とする弁護士に相談することをお勧めします。弁護士への相談では、現状の把握・対応方針の設計・業務命令書や厳重注意書・懲戒処分通知書といった書類の作成まで、実務に直結したサポートを受けることができます。
問題が深刻化する前の早い段階での相談が、結果として対応コストの低減につながります。席を立つ回数が多い社員への対応についてお困りの会社経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/03/26
