問題社員259 不必要な残業と残業代請求
動画解説
この記事の要点
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残業代は労基法37条で定められた割増賃金——「法律と喧嘩しても勝てない」ことを前提に対応する 残業代の支払いは法律上の義務であり、感情論や会社の方針で回避することはできない。この前提を理解した上で、適切な対策を講じることが必要 |
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「残業しろと言っていない」は通じない——黙示の承認(放置・黙認)でも残業代は発生する 残業代が発生するのは「使用者の指示または黙示の承認があった場合」。知らなかった・指示していないと主張しても、認識しながら放置していた場合は残業代の支払い義務が生じる |
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最も有効な対策は「残業の事前許可制」の導入と徹底——事前許可なしの残業は認めないルールを就業規則に明記し運用する 事前許可制を導入して徹底すれば、無許可残業については原則として残業代の支払い義務が発生しない。ただし導入だけでなく実際の運用が重要 |
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業務効率の低い社員には具体的事実に基づいた指導を行う——「なぜこれだけ時間がかかるのか」を具体的に話し合い、改善を促す 「残業が多い」という評価的指摘ではなく、「〇月〇日の〇〇業務に〇時間かかった。何に時間がかかったか」という事実ベースで指導することが、業務効率改善の近道 |
目次
1. 残業代の法律的な仕組みを正確に理解する 労基法37条の割増賃金
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
本日は、不必要と思われる残業を繰り返して残業代を請求する社員への対処法についてお話しします。
まず絶対に理解していただきたい前提があります。残業代は法律(労働基準法37条)で定められた割増賃金であり、「法律と喧嘩しても勝てない」ということです。
「うちの会社はそんなに残業代を払う余裕はない」「あんな働きぶりで残業代を払うのは納得できない」という気持ちはよく分かります。しかし、法律で定められた残業代の支払い義務は、会社の方針や感情論で回避することはできません。交通信号で「赤信号を渡ってはダメ」というのと同じです。法律で決まっているものについて、その条文に文句を言っても始まりません。
この前提を腹に落とした上で、「では合法的にどう対処するか」を考えることが重要です。
2. 「残業しろと言っていない」では通じない 黙示の承認という落とし穴
「残業代が発生するのは、会社が残業を指示した場合だけだ。残業するとは一言も言っていないのに、なぜ残業代を払わなければならないのか」という声をよく聞きます。
確かに、会社が明示的に残業を指示した場合は残業代が発生します。しかしそれだけではありません。「黙示の承認」があった場合も残業代が発生します。
黙示の承認とは
使用者(会社)が、社員が残業していることを知りながら、それを止めさせることなく放置・黙認していた場合。明示的な残業指示がなくても、認識しながら放置していた場合は「黙示の承認」があったと評価され、残業代の支払い義務が生じます。
「本人が勝手にやっているだけだ」「誰も指示していない」という主張は、会社が残業を認識しながら放置していた場合には通用しません。上司が「まだいたのか」と声をかけながら帰宅していたようなケースでも、黙示の承認があったと評価されることがあります。
だからこそ、「認識していながら放置する」という状況を作らないための仕組みが必要です。それが次に説明する「残業の事前許可制」です。
3. 残業代の種類と計算の基礎 時間外・休日・深夜の割増賃金
残業代の種類と基本的な仕組みを確認しておきましょう。
割増賃金の種類(労基法37条)
| 種類 | 発生条件 | 割増率(最低) |
|---|---|---|
| 時間外割増賃金 | 1日8時間・週40時間を超えた労働 | 25%増し(月60時間超は50%増し) |
| 休日割増賃金 | 週1日の法定休日に労働させた場合 | 35%増し |
| 深夜割増賃金 | 午後10時〜午前5時の労働 | 25%増し(他の割増と重複適用あり) |
なお、所定労働時間(例えば7時間半)を超えて8時間までの「法内残業」については、割増しなしで通常の賃金単価で支払うことも(就業規則・労働条件通知書で定めれば)可能です。ただしこの扱いについては就業規則等で明記しておかないと争いのもとになります。
残業代の時効は3年間(令和2年4月以降に発生した残業代から)に延長されています。過去3年分の未払い残業代を一括請求されるリスクがあることも忘れないでください。
4. 最も有効な対策① 残業の事前許可制の導入と徹底
不必要な残業を繰り返す社員への最も有効な対策が、「残業の事前許可制」の導入と徹底です。
残業の事前許可制とは、残業を行う場合には事前に上司の許可を得ることを義務付けるルールです。これを就業規則に明記し、実際に運用することで、無許可残業については「会社が指示または承認した残業ではない」と主張できる根拠が生まれます。
残業の事前許可制のポイント
- 就業規則に「残業は事前に上司の許可を得ること」と明記する
- 許可の方法(口頭・書面・システム等)を明確にする
- 無許可残業は原則として認めないことを社員に周知する
- 許可なく残業している社員を発見した場合は、その都度指導する(放置しない)
- 許可なく残業した場合の取り扱いについても就業規則に定めることを検討する
重要:事前許可制は「就業規則に書いただけ」では不十分です。実際に運用されていること——つまり、許可申請を実際に処理しており、無許可残業を発見した場合には指導している——という運用実態が必要です。就業規則に書いても全く運用していない場合、「有名無実の制度」として事前許可制の効果が否定されることがあります。
5. 最も有効な対策② 業務効率の低い社員への具体的指導
事前許可制の導入と並行して重要なのが、業務効率の低い社員への具体的な指導です。
長時間残業が続いている社員の中には、「本当は必要のない残業を行っているわけではなく、業務能力が低いために仕事が終わらない」という場合もあります。このような場合、単に残業を禁止するだけでは仕事が終わらないという問題が残ります。
業務効率の改善のための指導においても、具体的事実に基づいて行うことが重要です。
❌ 効果のない指導例
「残業が多すぎます。もっと効率よく仕事してください」
✓ 具体的事実に基づいた効果的な指導例
「○月○日、△△の業務に○時間かかっていました。何にそれだけ時間がかかったのですか?具体的に、どのプロセスに時間が取られているか教えてください。一緒に改善策を考えましょう」
業務効率改善の指導では、「残業が多い」という結果を指摘するだけでなく、「何にどれだけ時間がかかっているのか」「なぜそれだけ時間がかかるのか」「どのプロセスを改善すれば時間を短縮できるか」という具体的な内容を話し合うことが大切です。
それでも改善しない場合は、業務効率の低さを理由とした注意指導・懲戒処分という方向に進むこともあります。その場合も、やはり具体的事実に基づいた対応が必要です。
6. 就業規則・労働条件通知書への明記が紛争を防ぐ
残業に関するルールを明確にするためには、就業規則と労働条件通知書の整備が重要です。
就業規則・労働条件通知書に明記すべき事項
- 残業の事前許可制に関する規定(許可の手続き・無許可残業の取り扱い)
- 所定労働時間(例:7時間半)を超えて法定労働時間(8時間)までの時間(法内残業)に対する割増賃金の扱い(割増なし・割増ありのどちらか)
- みなし残業代(固定残業代)制度を採用する場合は、その計算方法・金額・対象時間数
- 三六協定の締結と届出(残業させるには三六協定が必要)
「何時間残業しても一定額しか払わない」「残業代は一切発生しない」という内容を就業規則に定めることはできません。これは労基法に反するため無効です。一方、「事前許可なしの残業については申告に基づく割増賃金を支払わない」という内容は、一定の条件のもとで有効と認められることがあります。就業規則の内容については弁護士のチェックを受けることをお勧めします。
7. まとめ
不必要な残業を繰り返して残業代を請求する社員への対処法をまとめます。
- 残業代は法律上の義務——法律と喧嘩しても勝てないことを前提にする。残業代の支払い義務を感情論で否定することはできない
- 「言っていない」では通じない——黙示の承認に注意する。残業していることを知りながら放置すると黙示の承認と評価される
- 残業の事前許可制を導入・徹底する——就業規則に明記し、実際に運用することで無許可残業への対応が可能になる
- 業務効率の低い社員には具体的事実に基づいた指導を行う——「残業が多い」という評価ではなく、具体的なプロセスを話し合い改善を促す
- 就業規則・労働条件通知書を整備する——法内残業の扱い・固定残業代の設定など、残業に関するルールを明確化する
残業代問題・労働時間管理でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 残業の事前許可制を導入していれば、無許可残業の残業代は全く払わなくてよいですか。
A. 就業規則に残業の事前許可制を明記し、実際に運用していれば、無許可残業に対する割増賃金の支払い義務が否定されやすくなります。ただし、会社が無許可残業の存在を認識しながら黙認していた場合は、事前許可制があっても黙示の承認があったと評価されるリスクがあります。事前許可なしの残業を発見した場合には、その都度注意指導を行うことが重要です。
Q2. 固定残業代(みなし残業代)を設定することで残業代問題を解決できますか。
A. 固定残業代制度は、一定時間分の残業代をあらかじめ給与に含めて支払う制度です。有効に設定すれば、固定残業時間内であれば追加の残業代支払いが不要になります。ただし固定残業代が有効とされるには、基本給部分と残業代部分が明確に区分されていること、固定残業時間・金額が労使協定等で明記されていることなどの要件が必要です。設定にあたっては弁護士に相談することをお勧めします。
Q3. 残業代の未払いが発覚した場合、どう対応すればよいですか。
A. 未払い残業代が判明した場合は、早期に弁護士に相談することをお勧めします。未払いの金額・期間・支払い方法について検討が必要です。残業代の時効は現在3年間ですので、過去3年分の未払い残業代が請求される可能性があります。労働審判や民事訴訟に発展する前に、適切な対応を弁護士と検討することが重要です。
Q4. 「残業代目当て」で意図的に残業している社員にはどう対処すればよいですか。
A. 残業の事前許可制を導入・徹底することが最も有効な対策です。許可なしの残業については認めないことを明確にし、許可なく残業している場合は即座に帰宅を命じてください。それでも無許可残業を繰り返す場合は、就業規則違反として注意指導・懲戒処分の対象となります。業務指示に従わない問題としての対応(注意指導→懲戒処分)と並行して進めてください。
Q5. テレワーク中の残業代はどう管理すればよいですか。
A. テレワーク中であっても残業代の支払い義務は変わりません。労働時間の把握方法(PC稼働記録・タスク管理ツール等の活用)、残業の事前許可制の徹底、一定時間以降の業務システムへのアクセス制限など、テレワーク下での労働時間管理のルールを整備することが必要です。テレワーク規程の策定については弁護士に相談することをお勧めします。
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最終更新日:2026年4月30日