問題社員258 解雇のタイミング

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この記事の要点

解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」の両方が必要——社長の主観だけでは解雇は無効になる

「裁判官でも客観的に合理的な理由があると思えるもの」があって初めて解雇は有効となる。社長個人がダメだと思うだけでは不十分

解雇の準備より先に「具体的事実関係の議論」が必要——証拠作りを先に考えると大体失敗する

面談で「いつ・どこで・あなたが・どのように・何をしたのか」を具体的に話し合い、その記録を残すことが、最終的に解雇の証拠にもなる

早期に具体的事実を伝えて指導すれば8〜9割は解雇不要で解決する——問題が大きくなる前の対応が最善

初期段階で事実に基づいた指導を行うことで、多くの場合は改善されるか、自主退職する。エスカレートしてから対応すると解雇しか選択肢がなくなることも

問題社員が好む2つの状況——「放置」と「無理筋の解雇」。どちらも避けることが問題解決の鍵

問題社員は放置されるか、無理な解雇をして裁判で勝てる状況を好む。適切な事実に基づく対応を続けることが、どちらのリスクも回避する最善策

1. 解雇の法的要件 「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」

会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

問題社員への対応が進まず、最終的に解雇を検討しなければならないケースがあります。本日は、解雇のタイミングと、そのために何が必要なのかについてお話しします。

まず解雇の法的要件を理解してください。普通解雇であろうと懲戒解雇であろうと、解雇の種類に関わらず、以下の2つの要件を満たさなければ解雇は無効になります。

解雇の2つの要件(労働契約法第16条)

① 客観的に合理的な理由 解雇する理由が、主観ではなく客観的に見て合理的だと認められること
② 社会通念上の相当性 解雇という手段が、社会常識的に見て相当だと認められること

これら2つの要件を満たさない解雇は、裁判で無効とされます。無効とされた場合、解雇の通知をした日からその後の給与を全額支払い続けなければならないなど、会社に大きな損害が生じます。

2. 「客観的に」とはどういう意味か 社長の主観だけでは不十分な理由

解雇要件の中で最も重要なポイントは「客観的に」という部分です。社長が「この社員はダメだ。会社に置いておけない」と思うだけでは不十分です。

一言で言えば、「裁判官が見ても客観的に合理的な理由があると思ってもらえるもの」が必要です。社長の主観の評価ではなく、裁判官を含む誰が見ても「この状況ではやむを得ない」と思えるだけの客観的な事実と証拠が必要です。

客観的に合理的な理由として認められにくいもの

  • 「勤務態度が悪い」という社長の主観的評価だけ
  • 「会社に合わない人材だ」という印象だけ
  • 「業務改善が見られない」という評価だけ(具体的事実なし)
  • 他の社員の「あの人は問題だ」という証言だけ

重要なのは、その評価を裏付ける具体的な事実関係が存在し、それが証明できる状態になっているかどうかです。

3. 証拠より先に「具体的事実関係の議論」が必要な理由

解雇を検討する際、「証拠が何かあれば勝てますか」という質問をよく受けます。しかし、そのような発想では大体失敗します。証拠を考える前に、まず具体的事実関係を議論することが先決です。

多くの会社を見ていると、注意指導や面談において、「態度が悪い」「調整性がない」「パフォーマンスが低い」という評価的なやり取りだけで終わってしまっていることが多くあります。これは、「社長は自分に満足していないぞ」という気持ちを伝えているだけで、具体的に何が問題なのかを伝えられていません。

面談で必ず話すべき具体的事実

何月何日の何時頃、どこで、あなたが、どのような形で、何をしたことが問題か」——これを具体的に示した上で、相手の反論や言い分を聞き、それに対して会社の考えを説明する。この事実に基づく対話を面談で行い、その内容を書面・メールに記録することが、最終的に証拠にもなります。

面談でしっかり事実関係を議論できている会社は、証拠の方も自然と整っていることが多いのです。事実関係の議論をすっ飛ばして証拠だけを集めようとすると、大体失敗します。

4. 具体的事実を伝えた面談・指導で8〜9割の問題は解決する

「ではいつ解雇すればいいのか」という問いに対する、私の基本的な考えをお伝えします。

具体的事実を礼儀正しく伝えて問題行動を指導するようにすると、8〜9割の問題は解雇しなくても解決します。大体は、しぶしぶながら受け入れて改善されるか、「この会社は自分に合わない」と感じて自主的にやめていくかのどちらかになることが多いです。

特に初期段階でしっかり具体的事実に基づいた指導を行っていると、問題がエスカレートする前に解決することが多くなります。逆に放置して問題が大きくなってから対応しようとすると、なかなか改善されず、解雇しか選択肢がなくなってしまうことがあります。

「客観的に何があったのか、どこが問題だと考えているのか」を礼儀正しい日本語で丁寧に話すと、相手は「この会社とは合わないな」と感じて自主退職することも多くなります。解雇するまでもないケースが実際には多いのです。

5. 問題社員が好む2つの状況 「放置」と「無理筋の解雇」を避ける

問題のある社員が快適に感じる状況は主に2つあります。

問題社員が「快適」に感じる2つの状況

① 放置される会社 問題行動をやっても何も言われない。「自分の頭で考えてもらいたい」「あまりうるさく言うと自分の頭で考えなくなる」という名目で放置している会社。周りの社員が大迷惑を被る
② 無理筋の解雇をしてくれる会社 解雇に値することをしていないのにいきなり解雇すると、裁判で争えばお金を多く取れる。悪質な問題社員の中には、これを意図的に狙う人もいる

この2つのどちらでもない対応——つまり、「適切な事実に基づく指導を続けること」——が正解です。感情的にならず、淡々と礼儀正しい日本語で問題のある事実を指摘して、それについて議論していくことが、問題社員対応の王道です。

6. 事実に基づく指導はパワハラにならない 礼儀正しい日本語で事実を伝えることの安全性

「こんなことを言ったらパワハラだと言われるのではないか」という心配から、具体的な事実を伝えることを躊躇する経営者の方がいます。しかしこれは逆効果です。

業務上関係のある事実を礼儀正しく伝えてパワハラだと裁判所で認定されることはほぼありません。むしろ、「態度が悪い」「出来が悪い」などの評価的な言葉を相手に向ける方が、相手に嫌な思いをさせやすく、パワハラとして問題になりやすいのです。

具体的事実を伝えてパワハラだと言われるケースは、仕事と関係のない個人的なことを攻撃した場合や、あまりにも侮辱的な言葉を用いた場合です。業務上の問題について具体的事実を淡々と伝えることは、適切な指導として認められます。

7. 書面(厳重注意書・懲戒処分通知・解雇通知)への事実記載の重要性

口頭での指導に加えて、書面での記録・通知も非常に重要です。厳重注意書・懲戒処分通知書・解雇通知書のいずれにおいても、具体的な事実を記載することが必須です。

書面への記載のポイント

  • 「何月何日の何時頃、あなたはどこで、誰に対して、どのような形で何をしました」という具体的事実を記載する
  • 「勤務態度が悪い」などの評価だけではなく、その評価の根拠となる事実を必ず記載する
  • 「これは就業規則第○条に違反します」など、就業規則の根拠条文も明示する
  • 本人の言い分も聞いた上で事実認定していることが分かるよう記録する

面談でしっかり事実関係を話し合い、本人の言い分も踏まえた上で事実を認定し、それを書面に記載して証拠化する——このプロセスを経ることで、後に裁判になった場合でも十分な証拠となります。

解雇の通知書についても同様です。解雇理由証明書を求められた際に具体的な理由を書けるかどうか、事前に確認してから解雇に踏み切ることが重要です。具体的事実をしっかり書けるかどうかを事前にチェックしてから判断することで、無効解雇のリスクを大幅に低減できます。

8. まとめ

問題社員の解雇のタイミングと判断基準をまとめます。

  1. 解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要——社長の主観だけでは無効になる。裁判官でも合理的と思える事実の積み上げが必要
  2. 証拠より先に具体的事実関係の議論が先決——面談で「いつ・どこで・誰が・何を・どのように」を具体的に話し合うことが解雇への道を開く
  3. 早期の具体的事実に基づく指導で8〜9割は解雇不要になる——初期対応が最善策。エスカレートしてからでは遅い
  4. 「放置」と「無理筋の解雇」のどちらも避ける——問題社員が好む2つの状況を作らないことが問題解決の鍵
  5. 書面には必ず具体的事実を記載する——厳重注意書・懲戒処分通知・解雇通知のすべてに具体的事実の記載が必要

解雇の判断・手続きについてお悩みの経営者の皆様は、必ず事前に弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 解雇が無効とされた場合、会社にどのような影響がありますか。

A. 解雇が無効とされると、解雇通知日以降の給与をすべて支払い続けなければならない(バックペイ)ことになります。また、元の職場への復職を命じる判決が出る場合もあります。さらに、解雇無効の裁判は長期化することが多く、その間の弁護士費用・担当者の労力も大きな負担となります。解雇は必ず弁護士に相談してから行うことが重要です。

Q2. 試用期間中の解雇と本採用後の解雇では違いがありますか。

A. 試用期間中の解雇(本採用拒否)は、本採用後の解雇より要件が緩やかとされています。ただし「試用期間だから自由に解雇できる」という誤解は禁物です。採用後14日以内の解雇を除き、試用期間中でも客観的に合理的な理由が必要であることに変わりはありません。また、試用期間経過後の本採用拒否はさらに要件が厳しくなります。具体的な状況については弁護士に相談してください。

Q3. 「解雇してくれ」と求めてくる問題社員がいます。応じてよいですか。

A. 慎重に対応してください。解雇に値する事実の積み上げが不十分な状態で解雇すると、解雇無効として多額のバックペイを請求されるリスクがあります。問題社員の中には、意図的に解雇を求め、解雇無効の裁判で金銭を得ることを狙う方も存在します。「解雇してくれと言っているのだから解雇していい」とは限りません。退職勧奨で合意退職を目指す方が安全な場合が多いです。必ず弁護士に相談してください。

Q4. 懲戒解雇と普通解雇はどう使い分ければよいですか。

A. 懲戒解雇は、就業規則上の懲戒事由に該当する重大な問題行為があった場合に行うものです。普通解雇は、能力不足・協調性の欠如・勤怠不良など、懲戒とは別の理由で労働契約を終了させるものです。懲戒解雇の方が厳しい要件が必要とされ、無効とされた場合の退職金問題なども絡みます。どちらを選択するかは個別の事情によりますので、弁護士と相談の上判断してください。

Q5. 解雇の30日前に予告したのに解雇が無効になるケースがあると聞きました。なぜですか。

A. 解雇予告(30日前の予告または解雇予告手当の支払い)は、労働基準法上の手続き的な要件です。これを守ったとしても、解雇の実体的要件(客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性)が満たされていなければ、解雇は無効とされます。労働基準監督署が「問題ない」と言ったとしても、裁判での判断は別問題です。労基署の確認だけで解雇が有効になるわけではありません。

最終更新日:2026年4月30日


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