問題社員180 体調不良の欠勤が多い。
動画解説
目次
安全配慮義務を踏まえ、体調の程度に応じた柔軟な対応を取ることが、経営者として求められる正しい姿勢です。
体調不良による欠勤が多い社員への対応は、経営者として最も難しい判断の一つです。「働かせて体調が悪化したらどうしよう」「仕事をどう割り振ればよいか」という悩みは多くの経営者が抱えるものです。しかし、この問題を「0か100か」で考えることは、かえって不合理な結果を招きます。安全配慮義務という法的責任を踏まえながら、体調の程度に応じた柔軟な対応を取ることが、経営者として求められる姿勢です。
■ 最初にすべきことは「働かせて大丈夫か」の確認
体調不良の欠勤が続いている社員に対してまず行うべきは、本人からの事情聴取と必要に応じた医師への受診勧奨です。雇い主には安全配慮義務があり、体調悪化を防ぐための適切な措置を取ることが求められます。「本人が大丈夫と言ったから」という判断は、この義務を果たしたことにはなりません。
■ 体調の程度に応じた労務管理を行う
体調不良といってもその程度は社員一人ひとりで大きく異なります。私傷病休職の要件に達するほどの欠勤なのか、月数回程度にとどまっているのかによって取るべき対応は異なります。残業の抑制・業務の割り振り・出張の可否など、実際の状況に応じた柔軟な判断が重要です。
■ 休職要件に達した場合は休職命令を出す
欠勤が就業規則上の私傷病休職の要件に達した場合は、休職命令を発令し療養に専念させることが必要です。休職命令の発令や本人が「働ける」と主張する場合の対応については、医師や弁護士と連携しながら進めることをお勧めします。
1. 体調不良による欠勤が多い社員への対応が難しい理由
経営者が直面する複合的な悩み
体調不良による欠勤が多い社員を抱える経営者は、複数の悩みを同時に抱えることになります。「このまま働かせて体調がさらに悪化しないか」「仕事をどこまで任せてよいのか」「突然休まれると業務が回らない」「休職させるべきなのかどうかの判断がつかない」といった問題が重なり、対応の方向性を見失いがちです。
こうした悩みが生じる背景には、体調不良の問題が当該社員の今後の人生や生活にも深く関わるものであるという事実があります。単なる業務上の問題として処理できない重みがあるため、経営者としての判断をより慎重にさせる要因となっています。
「0か100か」の発想が招く問題
体調不良の社員への対応において、陥りがちな誤りの一つが「体調が悪いなら何もさせない」あるいは「本人が大丈夫と言っているならすべて任せる」という二項対立的な発想です。
実際には、体調不良といってもその程度には大きな幅があります。軽度の体調不良であれば通常業務を継続しながら様子を見ることが適切な場合もあれば、医師の判断を仰いだ上で休職命令を出すことが必要な場合もあります。「体調が悪い」という事実一つを取っても、その状況に応じた段階的な対応が求められるのであり、極端な二択で判断しようとすることは、かえって不合理な結果を生みます。
2. 安全配慮義務:経営者が負う法的責任を理解する
安全配慮義務とは何か
使用者は、労働者が安全に働くことができるよう、必要な配慮をする義務を負っています。これを安全配慮義務といいます(労働契約法第5条)。この義務は、労働者の生命・身体・健康を使用者が危険から保護すべきという考え方に基づくものです。
体調不良の社員を無理に就労させ、その結果として体調が悪化した場合、使用者がこの安全配慮義務に違反したと評価される可能性があります。「本人が大丈夫と言っていた」という事情は、安全配慮義務を果たしたことの根拠にはなりません。あくまでも、客観的に見て安全な状態であるかどうかを確認した上で就労させることが、使用者に求められる対応です。
「本人が大丈夫と言った」では足りない理由
体調に関する本人の自己申告は、一つの参考情報にはなりますが、それだけに依拠することは危険です。体調の問題は、本人自身が正確に把握できていないケースも少なくありません。自覚症状と実際の体調には乖離があることがあり、「大丈夫です」「働けます」という言葉を鵜呑みにすることで、見えないところで体調が悪化していくこともあります。
経営者としては、本人の言葉だけでなく、客観的な状況の観察と必要に応じた医師の意見を踏まえた上で判断することが求められます。安全配慮義務は「本人が言ったから」という理由で免れるものではありません。
3. まず行うべきこと:本人からの事情聴取と医師への受診勧奨
本人からの事情聴取
体調不良による欠勤が増えてきた社員に対して、まず行うべきことは本人から直接話を聞くことです。「最近体調はどうですか」「欠勤が続いているようですが、何か身体の具合が悪いのですか」といった形で、丁寧に状況を確認します。
この段階では、詳細な医学的判断を求めるのではなく、本人が話せる範囲で現状を把握することを目的とします。いつ頃から体調不良が続いているのか、どのような症状があるのか、医師の診察を受けているのかどうかといった基本的な情報を確認するところから始めます。事情聴取の内容は記録として残しておいてください。後に休職命令の発令や業務上の配慮の内容を判断する際の根拠となるとともに、万一トラブルが生じた場合に「会社として適切に状況を把握しようとした」という事実を示すことができます。
医師への受診勧奨と産業医の活用
本人からの事情聴取だけでは、体調不良の原因や程度を正確に把握することには限界があります。経営者を含め、医師でない者が症状の程度や就労可否を判断することは、専門性の観点から難しいためです。体調不良の状態が継続しているようであれば、医師への受診を勧めることが必要です。「一度お医者さんに診ていただくことをお勧めします」「症状がひどいようであれば、診断書を提出していただけますか」といった形で受診勧奨を行います。
産業医が在籍している会社であれば、産業医との面談を活用することが特に有効です。産業医は当該社員の職場環境や業務内容を踏まえた上で判断することができるため、「この業務をこの状態で続けさせても大丈夫か」「どのような配慮が必要か」といった実務的な観点からの助言を得ることができます。産業医の専門分野と体調不良の原因が必ずしも一致しない場合でも、必要であれば専門医への受診を促すといった対応を取ることができます。
4. 体調の程度に応じた労務管理の実務
欠勤の程度による対応の分岐
体調不良による欠勤が多いといっても、その頻度や日数は社員によって大きく異なります。就業規則上の私傷病休職の要件として定められている欠勤日数に達しているかどうかが、対応の方向性を分ける一つの重要な基準となります。
欠勤日数が休職要件に達していない段階、例えば月に数回程度の欠勤にとどまっており基本的には出勤できている状態であれば、就労を継続させながら状況を注意深く観察するという対応が基本になります。この段階では、体調悪化の兆候を見逃さないよう常にアンテナを張り、少しでも様子がおかしいと感じたら早めに声をかけて確認することが重要です。
日常的な観察と早期対応の重要性
出勤している日であっても、明らかに体調が悪そうな状態で業務を続けているようであれば、放置することは安全配慮義務の観点から問題となり得ます。本人が「大丈夫です」と言っていても、客観的に見て業務遂行が困難な状態であると判断できる場合は、早退を促したり、欠勤・年次有給休暇の取得を勧めたりする対応が求められます。
こうした対応を行う際は、できる限り本人の同意を得た上で進めることが望ましいといえます。本人が同意した上での早退・休養であれば、後のトラブルになりにくいからです。ただし、本人が「働ける」と主張して同意が得られない場合には、医師や弁護士と連携しながら対応を進める必要があります。
残業・出張などへの配慮
体調不良の状態にある社員への配慮として、残業の抑制と出張の見直しも検討すべき事項です。体調がある程度悪い状態であれば、通常の勤務時間の業務をこなすこと自体に負荷がかかっています。そこに残業や遠方への出張が加わることで、体調がさらに悪化するリスクが生じます。
ただし、ここでも程度の判断が重要です。体調不良がそれほど深刻ではない状態であれば、短時間の残業や近距離の出張については許容できる場合もあります。すべての残業・出張を一律に禁止するのではなく、実際の状況を踏まえた上で判断することが求められます。
業務の割り振りへの配慮
体調不良による欠勤が頻発している社員については、突然の欠勤が生じても業務に大きな支障が出ないよう、仕事の割り振りを工夫することも重要です。締め切りの厳しい業務や、当該社員でなければ対応できない業務を集中させることは、欠勤が生じるたびに組織全体に影響を与えることになります。
もっとも、体調不良の程度が軽度であるにもかかわらず重要な業務をすべて取り上げてしまうことは、本人のためにも組織のためにも適切ではありません。体調の実態に見合った業務を割り当てるという観点で、バランスの取れた判断をすることが求められます。
5. 本人が「働ける」と主張する場合の対応
同意が得られない場合のリスクと対処
体調不良の状態が明らかであるにもかかわらず、本人が「自分は働ける」「体調は問題ない」と主張して早退や休養に同意しないケースがあります。こうした場合、経営者として対応に迷いが生じることは理解できますが、本人の主張を無条件に受け入れることは、安全配慮義務の観点から危険です。
このような状況に至った場合は、一人で判断しようとするのではなく、医師や弁護士と連携して対応を進めることが重要です。医師からの就労制限の意見や、弁護士からの法的な対応方針の助言を踏まえながら、会社として適切な判断を下す必要があります。
就労制限と休職命令の関係
医師から「現状の業務を継続することは難しい」という判断が示された場合、あるいは欠勤が就業規則上の私傷病休職の要件に達した場合には、休職命令の発令を検討する段階に入ります。休職命令は、本人の同意がなくとも、就業規則上の根拠があれば発令することができます。
休職命令を適切に発令し、十分な療養期間を設けることは、社員の回復を促すとともに、会社としての安全配慮義務を果たすことにもつながります。休職命令の発令に際しては、就業規則の規定を確認した上で、手続を適正に進めることが必要です。
6. 私傷病休職の要件に達した場合:休職命令の発令
休職命令を発令すべきタイミング
欠勤の日数が、就業規則上の私傷病休職の要件として定められた日数に達した場合は、休職命令を発令し療養に専念させることが必要です。就業規則に休職制度が定められている場合、要件を満たした社員に対して休職命令を出すことは使用者の権限であり、また安全配慮義務を果たす観点からも重要な対応となります。
休職中は、定期的に本人の状況を確認し、復職の可否について医師の意見を踏まえながら判断を進めます。休職期間満了時に復職できる状態にないと判断される場合の対応についても、就業規則の規定に従って適切に処理することが必要です。
休職命令に関して弁護士に相談すべき場面
休職命令の発令、休職期間中の対応、復職可否の判断、休職期間満了後の取り扱いは、いずれも法的な判断が必要な場面です。手続や判断を誤った場合には、後に紛争となるリスクがあります。
特に、本人が休職命令の発令に異議を唱える場合や、復職の可否をめぐって争いが生じる場合には、早期に会社側の労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。
7. まとめ:経営者として取るべき対応の基本姿勢
体調の程度に応じた個別対応が原則
体調不良の欠勤が多い社員への対応において、最も重要な原則は「体調の実際の程度に応じた対応を取る」ということです。一律に「何でも認める」でも「業務に支障が出るから認められない」でもなく、客観的に把握した体調の程度に合わせて、柔軟かつ個別具体的に対応することが求められます。
この判断を支えるのが、本人からの丁寧な事情聴取と医師の意見です。経営者自身が医師ではない以上、体調の程度について客観的な根拠を持って判断するためには、専門家の助言を積極的に活用することが重要です。
一人で抱え込まず専門家と連携する
体調不良の社員への対応は、経営者一人で完結しようとすることには限界があります。産業医・主治医・弁護士・管理職といった関係者と連携しながら対応を進めることが、会社としての安全配慮義務を果たすとともに、適切な労務管理を実現する上で不可欠です。
対応の方針や手順に迷いが生じた場合、あるいは本人との間でトラブルの兆候が見えてきた場合には、早い段階で会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。休職命令の発令・懲戒処分通知書の作成・復職可否の判断など、実務に直結したサポートを提供することができます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/03/26
