問題社員161 勤務時間中に自席で納豆を食べる。
目次
動画解説
1. 勤務時間中に臭いの強い食事をする問題社員はなぜ労働問題になるのか
勤務時間中に、納豆などの臭いの強い朝食を自席で食べる社員がいる場合、多くの会社経営者は「常識の問題だ」と感じるでしょう。しかし、問題社員対応としては、感覚論ではなく労働問題としての法的整理が不可欠です。
まず前提として、勤務時間とは労務提供の時間です。会社が賃金を支払い、社員が労務を提供するという労働契約の本質からすれば、勤務時間中は原則として業務に専念すべき時間です。そこに私的な朝食行為が入り込む場合、職務専念義務との関係が問題になります。
さらに、今回のように臭いの強い食事であれば、単なる「個人の自由」の問題では終わりません。周囲の社員が不快感を抱き、業務への集中を妨げられる可能性があります。この時点で、問題は個人の嗜好ではなく、職場環境や企業秩序の問題へと性質を変えます。
問題社員が「社内ルールに書いてあるのか」「禁止する根拠を示せ」と主張してきたとしても、議論の出発点は明確です。勤務時間中の行為である以上、会社の指揮命令権の範囲内に入り得ます。ここを曖昧にしてしまうと、「常識かどうか」という不毛な議論に引きずり込まれます。
会社経営者が押さえるべきなのは、これは単なるマナー問題ではなく、労働契約上の義務と企業秩序の問題であるという点です。そう整理して初めて、理屈っぽい反論にも動じない対応が可能になります。
感情的に「やめなさい」と言うのではなく、労働問題としての枠組みに乗せて対応すること。これが、問題社員対応の第一歩です。
2. 「常識」は通用しない|理屈で迫る社員への対応姿勢
勤務時間中に臭いの強い朝食を食べる問題社員に対し、「常識で考えれば分かるだろう」と言いたくなるのは自然な感情です。しかし、労働問題の場面で「常識」は決定打になりません。
実際、「なぜダメなのか」「就業規則のどこに書いてあるのか」「法的根拠は何か」と問い返してくる社員は少なくありません。このタイプの社員に対して感情で対抗すると、議論はすぐにこじれます。結果として、「説明できない会社側」という構図を作ってしまいかねません。
会社経営者として重要なのは、相手の思考枠組みに合わせて整理することです。ルールや条文を重視する社員には、条文と契約の論理で説明する必要があります。価値観やマナーの話ではなく、契約と義務の話に置き換えるのです。
例えば、「周囲が嫌がっている」という感情論ではなく、「勤務時間中は職務に専念する義務がある」「会社には職場環境を維持する責任がある」という構造で説明します。これにより、議論は主観から客観へ移ります。
また、理屈っぽい社員の主張は、一見もっともに聞こえることがあります。「ルールにないなら自由ではないか」という発想は、形式的には理解可能です。しかし、労働契約はすべてを細かく書き尽くす契約ではありません。条文に明記されていなくても、契約の本質から導かれる義務は存在します。
重要なのは、会社経営者が感情的にならないことです。「切れたら負け」というのは、実務上まさにそのとおりです。理屈には理屈で応じる。論理で整理し、落ち着いて説明する。この姿勢が、問題社員との無用な対立を防ぎます。
もし、相手の言い分が理解しにくい、どのように言い返せばよいか分からないと感じる場合には、労働問題に詳しい弁護士と事前に整理しておくことも有効です。言葉の選び方一つで、紛争化するかどうかが変わることも少なくありません。
3. 職務専念義務を根拠に禁止できる理由
勤務時間中に納豆など臭いの強い朝食を食べる行為を禁止できるのか。この問いに対する最も基本的かつ強力な根拠が、職務専念義務です。
職務専念義務とは、労働契約の本質から導かれる義務であり、勤務時間中は業務に専念しなければならないという原則を指します。就業規則に明記されていることも多いですが、仮に明記がなくても、労働契約を締結している以上、当然に認められる義務といえます。
勤務時間中に朝食を取る行為は、明らかに業務そのものではありません。もちろん、業務に支障のない軽微な飲食を一律に禁止しなければならないという意味ではありません。しかし、始業時刻を過ぎているにもかかわらず食事を続ける、周囲に強い臭いを発するような食品を選ぶといった行為は、業務への専念という観点から合理的に制限し得る範囲に入ります。
問題社員から「就業規則に納豆禁止とは書いていない」と反論されることがあります。しかし、就業規則はあらゆる具体的行為を列挙するものではありません。「勤務時間中は職務に専念すること」といった抽象的規定があれば、それで足ります。
ここで重要なのは、会社経営者が説明の軸をぶらさないことです。「臭いが嫌だ」という感情的理由ではなく、「勤務時間中は業務に専念すべきであり、私的な朝食行為は認められない」という契約上の整理で説明するのです。
さらに、職務専念義務は単なる理念ではありません。違反が継続し、指導にも従わない場合には、服務規律違反として懲戒処分の対象になり得る義務です。この位置づけを理解しておくことで、対応の選択肢が明確になります。
4. 就業規則に明記がなくても指示できるのか
問題社員から最も多く出る反論の一つが、「就業規則に納豆を食べてはいけないと書いてありますか」というものです。ここで会社経営者が迷ってしまうと、主導権を失います。
結論からいえば、就業規則に具体的な食品名まで明記されていなくても、指示は可能です。
就業規則は、すべての細かな行為を網羅的に規定するものではありません。通常は、「勤務時間中は職務に専念すること」「職場環境を害する行為をしてはならない」といった抽象的な規定が置かれています。そして、個別具体的な事案に当てはめて運用するのが実務です。
仮に就業規則が存在しない小規模事業所であっても、労働契約の本質から導かれる義務は存在します。勤務時間中は業務に従事するという契約関係にある以上、私的な朝食行為を制限することは、指揮命令権の範囲内に入ります。
問題社員が「ルールにないなら自由だ」と主張する背景には、「明文化されていないものは拘束されない」という発想があります。しかし、労働契約はそうした形式主義だけで運用されるものではありません。契約の趣旨や企業秩序の維持という観点が常に前提にあります。
また、会社には勤務時間中の業務運営について一定の裁量があります。何を許容し、何を制限するかは、合理性を欠かない限り、会社経営者の判断に委ねられます。お茶やコーヒーを一定範囲で認めつつ、臭いの強い食事を禁止することは、直ちに不合理とはいえません。
5. コーヒーはよくて納豆はダメなのかという反論への対応
問題社員から想定される反論として、「他の社員はコーヒーを飲んでいる」「お菓子を食べているのに、なぜ自分の納豆だけがダメなのか」というものがあります。この問いに答えられなければ、対応は説得力を失います。
まず整理すべきは、勤務時間中の行為については会社に一定の裁量があるという点です。労働契約の範囲内であれば、何を許容し、何を制限するかは会社経営者が合理的に判断できます。
お茶やコーヒーは、短時間で摂取でき、周囲への影響も通常は限定的です。一方で、納豆など臭いの強い食品を始業後に自席で食べる場合、周囲に強い影響を及ぼし、業務への集中を妨げる可能性があります。影響の程度が異なる以上、取扱いが異なっても不合理とはいえません。
ここで重要なのは、「違い」を明確に説明することです。「私が気に入らないからダメ」ではなく、「業務への影響と職場環境への影響が大きいから認められない」と説明するのです。
さらに、会社が一定の行為を許容しているのは、あくまで裁量による運用です。許容しているからといって、すべての私的行為が当然に許されるわけではありません。許容範囲をどこに設定するかは、会社側の合理的判断に委ねられています。
問題社員が形式的な平等を主張しても、労働契約上求められるのは「合理的な区別があるかどうか」です。コーヒーと納豆の違い、軽微な飲食と本格的な朝食の違い、周囲への影響の差異を丁寧に説明すれば、論理的な整合性は保てます。
6. 職場環境配慮義務からみた禁止の正当性
勤務時間中の臭いの強い食事を制限する根拠は、職務専念義務だけではありません。もう一つ重要なのが、会社の職場環境配慮義務です。
会社は、社員が安全かつ円滑に働ける環境を整える責任を負っています。過度なストレスや不快な環境を放置すれば、生産性の低下だけでなく、体調不良や退職者の増加といった経営リスクにもつながります。
納豆など臭いの強い食品を始業後に自席で食べる行為は、周囲の社員に不快感を与え、業務への集中を妨げる可能性があります。実際に「隣で食べられると仕事に集中できない」といった声が出ている場合、それはすでに職場環境の問題です。
会社経営者がこれを放置すれば、今度は「なぜ改善しないのか」という不満が経営側に向かいます。場合によっては、「あの行為をやめさせてほしい」「改善されないなら自分が辞める」といった声に発展することもあります。
このような状況下では、臭いの強い食事を禁止することは、特定の社員を狙い撃ちにする措置ではなく、職場環境を維持するための合理的な管理行為と位置づけられます。
また、就業規則に「職場環境を害する行為をしてはならない」といった条項がある場合には、それを根拠に明確に説明できます。仮に明文化がなくても、企業秩序維持の観点から指示することは可能です。
重要なのは、問題を「納豆かどうか」というレベルで捉えないことです。論点は、「勤務時間中に周囲へ影響を与える私的行為をどこまで許容するか」という経営判断です。職場環境配慮義務の視点に立てば、禁止の合理性は十分に説明できます。
7. 面談による説得の具体的進め方
理屈で整理したとしても、実際に問題社員へどのように伝えるかが極めて重要です。対応を誤れば、単なる注意が本格的な労働問題へ発展しかねません。
まず、自席で軽く注意するだけでは足りません。正式な面談の場を設けることが必要です。会議室などで時間を確保し、冷静に話をする環境を整えます。感情的なやり取りを避けるためにも、場の設定は重要です。
面談では、「常識でしょう」といった抽象的な表現は避けます。代わりに、「勤務時間中は職務専念義務がある」「職場環境を害する行為は認められない」といった法的根拠を軸に説明します。理屈を重視する社員には、条文や契約の構造に沿って説明することが効果的です。
また、単に禁止を伝えるのではなく、「始業前に食事を済ませてほしい」「休憩時間中に取ってほしい」など、代替手段を示すことも重要です。全面否定ではなく、合理的な範囲での調整を提示することで、対立を和らげることができます。
面談内容は記録に残しておくべきです。日時、出席者、伝えた内容、本人の反応などを整理しておけば、後に厳重注意や懲戒処分へ進む場合の重要な資料になります。問題社員対応では、手続の積み重ねが法的安定性を左右します。
さらに、相手の反論を遮らず、一度受け止めたうえで論理的に返す姿勢も大切です。頭ごなしに否定すれば、感情的対立が深まり、収拾が難しくなります。
8. 厳重注意・懲戒処分へ進む場合の実務対応
面談による指導を行っても改善が見られない場合、次の段階として厳重注意や懲戒処分を検討することになります。ここからは、より慎重な対応が求められます。
まず行うべきは、書面による厳重注意です。口頭注意を重ねただけでは、後に「正式な警告は受けていない」と争われる可能性があります。問題となる行為、これまでの指導経緯、今後改善が見られない場合には処分の対象となり得ることを明確に記載します。
この段階で重要なのは、段階を踏んでいることを示すことです。いきなり重い処分に進めば、処分の相当性が争われやすくなります。労働問題においては、「改善の機会を与えたかどうか」が厳しく見られます。
それでもなお、始業後の臭いの強い朝食行為を繰り返し、業務命令にも従わない場合には、譴責などの軽い懲戒処分を検討します。就業規則の懲戒事由に該当するかを確認し、条文を明示したうえで処分通知を行います。
ここでのポイントは、感情を排除し、あくまで義務違反に対する措置として整理することです。「態度が気に入らない」という理由ではなく、「職務専念義務違反」「服務規律違反」として位置づける必要があります。
懲戒処分に進む段階では、証拠の整理も不可欠です。注意日時、改善がなかった事実、周囲への影響などを客観的にまとめておきます。準備不足のまま処分を行うと、後に無効と判断されるリスクがあります。
9. 退職勧奨や解雇を検討すべきケースとは
勤務時間中に臭いの強い朝食を食べるという行為それ自体だけで、直ちに退職勧奨や解雇が正当化されるケースは多くありません。会社経営者としては、ここを冷静に見極める必要があります。
通常は、面談、厳重注意、軽い懲戒処分といった段階を経ることで改善が期待できます。それでも改善せず、業務命令に明確に反抗し続ける場合には、問題の性質が変わります。もはや単なる「臭いの強い食事」の問題ではなく、企業秩序への継続的な違反行為という位置づけになります。
例えば、繰り返しの注意にもかかわらず、「従うつもりはない」と明言する、社長や幹部に対し攻撃的・挑発的態度を取り続ける、周囲の社員から多数の苦情が出て業務に具体的支障が生じているといった事情がある場合には、より踏み込んだ対応を検討せざるを得ません。
特に、他の社員が「改善されないなら退職を考える」とまで言い出す状況は、経営上看過できません。会社経営者には、組織全体を守る責任があります。一人の問題社員を放置することで、複数の有為な人材を失う事態は避けなければなりません。
もっとも、解雇は最終手段です。裁判実務では、「指導を尽くしたか」「処分の段階を踏んだか」「他に選択肢はなかったか」が厳しく問われます。単に価値観が合わないという理由だけでは足りません。
10. 問題社員対応をこじらせないために弁護士を活用する意義
勤務時間中に納豆など臭いの強い朝食を食べる問題社員への対応は、一見すると小さなトラブルに見えます。しかし、対応を誤れば本格的な労働問題へと発展します。
多くの会社経営者がつまずくのは、「常識で分かるはずだ」という前提で話をしてしまう点です。しかし、理屈を重視する社員に対しては、契約構造や就業規則、職務専念義務、職場環境配慮義務といった法的枠組みで整理しなければ通用しません。
ここで弁護士を活用する意義があります。弁護士は、問題社員の主張を法的に翻訳し、どの論点が本質かを整理します。そして、会社経営者が使うべき言葉、避けるべき表現、手続の順序を具体的に設計します。
とりわけ理屈っぽい社員とのやり取りでは、言葉の選び方一つで紛争化するかどうかが変わります。事前に弁護士と想定問答を整理しておくだけで、面談の安定感は大きく向上します。
また、厳重注意や懲戒処分に進む場合には、処分の重さと手続の適法性が重要になります。ここを誤ると、処分無効を争われ、かえって会社側が不利になります。初動の段階から法的視点で設計しておくことが、結果的にコスト削減につながります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「就業規則に納豆禁止と書いていない」という反論にはどう答えるべきですか?
A. 就業規則はすべての行為を網羅的に列挙するものではありません。「職務に専念すること」や「職場環境を維持すること」といった抽象的規定に基づき、具体的行為を制限する指揮命令権が会社には認められています。契約の本質から導かれる当然の義務であることを説明してください。
Q2. コーヒーやお菓子は良くて、なぜ臭いの強い食事はダメなのですか?
A. 合理的な区別は法的に認められます。コーヒー等は短時間で摂取でき周囲への影響も限定的ですが、納豆など臭いの強い食品は周囲の集中力を削ぎ、職場環境を悪化させる可能性が高いからです。影響の程度が著しく異なる以上、取扱いが異なることに合理性があります。
Q3. 食事を注意しただけでパワハラだと言われませんか?
A. 正当な業務指示の範囲内であれば、パワハラには該当しません。人格否定や威圧的言動を避け、職務専念義務や職場環境への影響という「事実と理屈」に基づいて淡々と注意・指導を行えば、法的なリスクは極めて低いです。
最終更新日 2026/03/20

