問題社員157 喫煙で長時間離席する。
目次
動画解説
1. 問題社員による喫煙・長時間離席はなぜ労働問題になるのか
勤務時間中に喫煙のため長時間離席する社員がいる場合、それは単なるマナーの問題ではありません。会社経営者にとっては、明確な労働問題であり、放置すれば組織秩序に影響を及ぼすリスクを孕んでいます。
そもそも労働契約とは、「会社が賃金を支払い、社員が労務を提供する」という交換関係です。勤務時間中は、原則として労務を提供する時間です。その時間帯に私的行為のために長時間席を外す行為は、労務提供義務との関係で問題が生じます。
喫煙そのものが直ちに違法というわけではありません。しかし、勤務時間中に繰り返し長時間離席することが常態化すれば、職務専念義務違反の疑いが生じます。特に、周囲の社員がその穴を埋めている状況であれば、不公平感が広がり、職場の規律が崩れていきます。
問題社員対応で重要なのは、「その人がタバコを吸うかどうか」ではなく、「勤務時間中にどれだけ業務から離脱しているか」という点です。業務に支障が出ているのであれば、それは明確に会社の管理領域の問題です。
さらに注意すべきは、会社が曖昧な態度を取り続けることによって、「長時間の喫煙離席は黙認されている」という空気が生まれることです。これは企業秩序の弱体化につながります。いったん秩序が緩めば、他の労働問題にも波及しかねません。
したがって、問題社員による喫煙・長時間離席は、単なる嗜好の問題ではなく、労働契約上の義務違反の可能性を含む経営問題として整理する必要があります。感情的に対応するのではなく、労働契約の原則に立ち返って、冷静に位置づけることが、会社経営者に求められる第一歩です。
2. 勤務時間中の喫煙と職務専念義務の関係
問題社員による喫煙の長時間離席を法的に整理する際、中心となるのが職務専念義務です。これは、勤務時間中は業務に専念しなければならないという、労働契約の基本的義務を指します。
多くの就業規則には、「勤務時間中は職務に専念すること」といった服務規律が定められています。仮に明文がなくても、労働契約の本質から当然に導かれる義務と考えられています。つまり、勤務時間中は原則として会社の指揮命令下で業務を遂行する時間であり、私的行為に費やす時間ではありません。
喫煙は、業務そのものではありません。そのため、喫煙のために長時間席を外す行為が繰り返されれば、職務専念義務違反が問題になります。ポイントは「喫煙かどうか」ではなく、「業務からどの程度離脱しているか」です。
もちろん、短時間の合理的な休憩や生理的行為まで全面的に否定されるものではありません。しかし、1回あたりの離席時間が長く、かつ回数も多い場合、全体として相当な労務提供時間の欠落が生じます。この状態を放置することは、会社経営者としての管理責任にも関わります。
さらに重要なのは、職務専念義務違反は懲戒事由になり得る重大な義務違反だという点です。単なる注意レベルで終わる問題ではなく、繰り返しや態様次第では懲戒処分の対象にもなり得ます。
問題社員対応においては、「喫煙は禁止できるのか」という議論にとどまらず、「勤務時間中の労務提供義務をどのように確保するか」という本質に立ち返ることが重要です。ここを軸に整理すれば、感情論ではなく、法的根拠に基づいた対応が可能になります。
3. 「長時間」の判断基準と経営上のリスク
喫煙による離席が問題になるかどうかは、「喫煙している」という事実だけでは決まりません。実務上の争点は、どの程度が「長時間」に当たるのかという点です。
法律に「何分以上なら違法」といった明確な基準があるわけではありません。そのため、会社経営者としては、個別具体的な状況を踏まえて判断する必要があります。1回あたりの離席時間、1日の回数、業務への支障の有無、他の社員との均衡など、総合的な評価が求められます。
例えば、1回5分程度の離席が1日1回であれば、直ちに重大な労働問題とは評価されにくいでしょう。しかし、1回20分〜30分の離席を1日に複数回繰り返している場合、実質的に相当な労働時間が失われていることになります。このようなケースでは、職務専念義務違反としての性質が強まります。
さらに見落としてはならないのが、組織への波及効果です。特定の問題社員が長時間喫煙で離席しているにもかかわらず、会社が有効な対応を取らない場合、他の社員は「なぜあの人だけ許されるのか」と感じます。不公平感は、企業秩序を静かに侵食します。
また、業務上のトラブルが発生した際、「その時間、本人は喫煙で離席していた」という事情が判明すれば、顧客対応や管理体制の問題に発展する可能性もあります。単なる内部の問題にとどまらず、対外的な信用リスクに発展することもあるのです。
したがって、「長時間かどうか」の判断は、単なる時間計測の問題ではなく、業務への影響と企業秩序への影響を踏まえた経営判断です。会社経営者としては、感覚的な「長い・短い」ではなく、客観的な事実を整理した上で対応方針を決めることが重要になります。
4. トイレ離席と喫煙離席の法的な違い
問題社員から「トイレに行くのと何が違うのですか」と反論されることがあります。しかし、トイレと喫煙は法的性質が異なります。
トイレ利用は、生理的に不可避な行為です。合理的な範囲でのトイレ離席は、労働契約上当然に予定されているものと考えられています。勤務時間中であっても、一定の範囲で許容されることは社会通念上明らかです。
一方、喫煙は生理現象ではありません。嗜好行為であり、労働契約上当然に保障される行為ではないと整理されます。したがって、勤務時間中に喫煙のために長時間離席することは、労務提供義務との関係で制限し得る行為です。
もちろん、現実の職場では短時間の喫煙が一定程度黙認されているケースもあります。しかし、それは法的権利として保障されているわけではなく、会社の裁量による運用にすぎません。ここを混同すると、「喫煙は当然の権利だ」という誤解を生みます。
会社経営者として重要なのは、「禁止できるかどうか」という抽象論ではなく、「勤務時間中の労務提供をどこまで確保するか」という具体的な管理の問題として整理することです。喫煙は労働契約上の本質的権利ではありませんから、業務に支障がある場合には制限することが可能です。
したがって、トイレと喫煙を同列に扱う必要はありません。問題社員からの反論に備える意味でも、この法的整理を理解しておくことが、労働問題を冷静に処理するうえで重要です。
5. 社長や上司の黙認が招く法的リスク
喫煙による長時間離席の問題で、実は最も多い失敗は、会社側の黙認です。問題社員の行為そのものよりも、会社経営者や上司の対応のほうが、後に大きな労働問題へ発展するケースが少なくありません。
例えば、社長や幹部が一緒に喫煙していた、長時間の離席を知りながら注意していなかった、あるいは「まあ今回はいいでしょう」と曖昧な態度を取っていた場合、それは事実上の許可と評価される可能性があります。
この「事実上の許可」が認定されると、後から突然厳しく処分することは困難になります。なぜなら、守るべき企業秩序が明確に存在していたとは言いにくくなるからです。秩序が形成されていない状態で懲戒処分を行えば、懲戒権の濫用と判断されるリスクも生じます。
さらに、不統一な対応も危険です。ある部署では注意しているのに、別の部署では黙認しているという状況では、企業秩序は一貫しているとは評価されません。問題社員から「なぜ自分だけなのか」と反論されれば、会社側の説明は難しくなります。
会社経営者にとって重要なのは、「自分は直接許可していない」という主観ではありません。外形的に見て、長時間の喫煙離席が容認されているように見えるかどうかが判断のポイントになります。
したがって、喫煙による長時間離席を問題視するのであれば、まずは経営トップを含めた対応の統一が不可欠です。気づいたら注意する、一貫した姿勢を示す。この積み重ねがなければ、後の懲戒処分や退職勧奨は法的に不安定になります。
問題社員対応では、社員の行為だけでなく、会社側の態度も厳しく問われます。まずは自社の運用実態を冷静に点検することが、労働問題を拡大させない第一歩です。
6. 問題社員対応で最初に行うべき実務対応
喫煙による長時間離席が問題化した場合、いきなり懲戒処分を検討するのは適切ではありません。会社経営者としてまず行うべきは、事実の把握と正式な注意です。
第一に確認すべきは、客観的事実です。いつ、何時頃から何時頃まで離席していたのか。1日の回数は何回か。業務にどのような支障が出ているのか。感覚的な「長い気がする」ではなく、具体的な事実を整理することが出発点になります。
第二に、正式な面談の場を設けることです。立ち話や軽い注意では足りません。会議室などで時間を確保し、勤務時間中の長時間喫煙は職務専念義務との関係で問題があることを明確に伝えます。ここで重要なのは、人格を非難することではなく、業務上の問題として指摘することです。
この段階では、あくまで是正の機会を与える姿勢が基本です。「今後は勤務時間中の長時間離席は控えてください」と具体的に求め、改善を促します。曖昧な表現ではなく、何が問題で、どう改善すべきかを明確に伝える必要があります。
また、注意した内容は記録に残しておくべきです。後に懲戒処分を検討する場合、「事前に指導していたかどうか」が重要な判断要素になります。口頭注意であっても、日時や内容を整理しておくことが不可欠です。
問題社員対応で失敗するケースの多くは、最初の対応が曖昧であることに起因します。軽く注意しただけで放置し、改善しないまま突然重い処分を行えば、処分の相当性が疑われます。
したがって、喫煙による長時間離席という労働問題に対しては、まず事実確認と正式な注意というステップを踏むこと。ここを丁寧に行うことが、その後の対応の成否を大きく左右します。
7. 厳重注意・書面注意の正しい進め方
口頭注意にもかかわらず、喫煙による長時間離席が改善しない場合、次に検討すべきは厳重注意です。この段階では、「指導」から一歩進み、企業秩序違反であることを明確に位置づける必要があります。
まず、再度面談の場を設けます。ここでも重要なのは、感情的にならないことです。「なぜ守れないのか」と責めるのではなく、「これまで注意してきたにもかかわらず改善が見られない」という事実を整理して伝えます。そして、職務専念義務違反に該当し得る行為であることを明確にします。
可能であれば、書面による厳重注意書の交付を行います。書面には、問題となる具体的事実(日時・離席時間・回数など)、これまでの指導経緯、今後改善されない場合には懲戒処分の可能性があることを記載します。抽象的な表現ではなく、客観的事実を中心に構成することが重要です。
この書面注意には二つの意味があります。一つは本人への警告です。もう一つは、後に懲戒処分を検討する際の重要な資料となる点です。段階を踏んだ対応をしていることが示せなければ、重い処分は正当化しにくくなります。
なお、「長時間喫煙禁止」と就業規則に明示していない場合でも、多くの会社では職務専念義務や服務規律が定められているはずです。勤務時間中の業務専念義務違反として整理すれば、ルールの根拠は十分に説明可能です。
問題社員への対応は、強く出ればよいというものではありません。重要なのは、段階的かつ一貫した対応です。厳重注意を経ることで、会社としての本気度と企業秩序の存在を明確にし、その上で次のステップへ進む準備が整います。
8. 懲戒処分はどこまで可能か
厳重注意や書面注意を行ってもなお、喫煙による長時間離席が改善しない場合には、懲戒処分を検討する段階に入ります。
もっとも、懲戒処分は自由に行えるものではありません。就業規則に懲戒事由が定められていること、当該行為がその懲戒事由に該当すること、そして処分の内容が重すぎないこと、これらが必要になります。
多くの就業規則には、「職務専念義務違反」「服務規律違反」「会社の秩序を乱す行為」といった条項があります。勤務時間中に繰り返し長時間喫煙で離席する行為は、通常これらに該当し得る。問題は、企業秩序が実際に確立されているかどうかです。
前述のとおり、社長や上司が黙認していた状況では、「長時間喫煙は許されない」という秩序が明確だったとは言いにくくなります。その場合、重い懲戒処分は無効と判断されるリスクがあります。
また、処分の重さも重要です。いきなり減給や出勤停止、ましてや懲戒解雇といった重い処分に進むのは通常困難です。一般的には、口頭注意、書面注意を経て、それでも改善しない場合に軽い懲戒(譴責など)を検討するという流れが現実的です。
懲戒処分通知書を作成する際には、問題となる具体的事実、これまでの注意経緯、該当する就業規則条項を明確に記載します。抽象的な「態度が悪い」といった表現は避け、あくまで客観的事実に基づいて構成することが重要です。
懲戒処分は、問題社員への制裁であると同時に、企業秩序を維持するための手段です。感情に任せた処分は紛争の火種になりますが、段階を踏んだ合理的な対応であれば、有効性は大きく高まります。
判断に迷う場合、処分の重さや手続の妥当性については専門的な検討が不可欠です。ここでの対応を誤ると、喫煙という比較的小さな労働問題が、解雇無効や損害賠償請求といった大きな紛争に発展しかねません。
9. 退職勧奨・解雇を検討すべきケースとは
喫煙による長時間離席が続く場合でも、直ちに退職勧奨や解雇を検討すべきケースは多くありません。会社経営者としては、まず冷静に「その行為の重大性」を見極める必要があります。
単に所定の喫煙場所で長時間離席していた、という事情だけで直ちに解雇が有効と評価される可能性は高くありません。特に、これまで黙認的な運用があった場合には、いきなり退職を迫ることは法的リスクが大きいといえます。
他方で、状況が変わるケースもあります。例えば、繰り返しの注意や懲戒処分にもかかわらず改善が見られない場合、あるいは「なぜ喫煙してはいけないのか」と合理的理由なく明確に反抗し、業務命令に従わない態度を示す場合です。このようなケースでは、単なる喫煙問題を超えて、業務命令違反や企業秩序への重大な挑戦と評価され得ます。
また、喫煙による長時間離席が原因で重大な業務トラブルが発生した場合も事情は異なります。顧客対応の不履行や安全管理上の重大な支障が生じたような場合には、処分の重さを再検討する余地があります。
もっとも、退職勧奨や解雇は最終手段です。裁判実務では、「段階的な指導を尽くしたか」「改善の機会を与えたか」が厳しく問われます。いきなり退職を迫るのではなく、これまでの注意経緯や処分履歴を踏まえた総合判断が不可欠です。
喫煙という一見小さな問題でも、対応を誤れば深刻な労働問題へ発展します。逆に言えば、冷静に段階を踏んでいれば、過度に恐れる必要はありません。
退職勧奨や解雇を視野に入れる局面では、法的有効性の見極めが極めて重要になります。会社経営者だけで判断せず、会社側の立場で実務に精通した弁護士に相談しながら進めることが、紛争リスクを最小限に抑える現実的な方法です。
10. 喫煙をめぐる労働問題を紛争化させないために
問題社員による喫煙・長時間離席の問題は、適切に対応すれば管理可能な労働問題です。しかし、対応を誤れば、懲戒無効や解雇無効といった深刻な紛争へ発展する可能性があります。
最大のポイントは、一貫性と段階性です。社長を含めた経営陣が統一した姿勢を取り、気づいたら注意するという運用を徹底すること。口頭注意、書面注意、懲戒処分という順序を踏むこと。この基本を外さなければ、法的安定性は大きく高まります。
逆に、黙認しておきながら突然重い処分を下す、感情的に叱責する、証拠や記録を残していないといった対応は、紛争の典型的な原因になります。問題社員の行為以上に、会社側の対応が厳しく検証されるのが労働問題の特徴です。
また、「喫煙がけしからん」という道徳的評価ではなく、「勤務時間中の労務提供義務をどう確保するか」という契約上の整理で進めることが重要です。ここを軸にすれば、議論は冷静になります。
喫煙問題は一見すると小さなトラブルに見えます。しかし、企業秩序の形成、就業規則の運用、懲戒権の行使といった重要なテーマが凝縮されています。対応を誤れば、他の問題社員対応にも影響が及びます。
もし、懲戒処分の重さに迷う場合や、退職勧奨・解雇を検討せざるを得ない状況にある場合には、早い段階で会社側の立場に立つ弁護士へ相談し、法的リスクを整理したうえで進めることが賢明です。
会社経営者に求められるのは、感情ではなく合理的判断です。喫煙というテーマに振り回されるのではなく、企業秩序をどう守るかという視点で、冷静に対応していただきたいと思います。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「喫煙は休憩時間の範囲内だ」という社員の主張は法的に通りますか?
A. 労働基準法上の「休憩時間」は原則として一斉付与または自由利用ですが、所定の休憩時間外の喫煙は「私的行為」であり、職務専念義務違反に該当します。会社が明示的に許可していない時間帯の離席は、労務提供義務の不履行として整理されます。
Q2. 離席時間を理由に賃金をカットすることは可能ですか?
A. 離席時間が客観的に記録されており、その時間に労務が提供されていないことが明確であれば、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、その分の賃金を支払わないことは理論上可能です。ただし、トラブル防止のためには就業規則の整備と正確な時間管理が前提となります。
Q3. 全面禁煙を導入することで問題を解決しても良いでしょうか?
A. 企業の施設管理権やサービス維持の観点から、就業時間内禁煙を定めることは合理性があれば認められます。ただし、長年喫煙が黙認されていた職場では、不利益変更の議論を避けるためにも、十分な周知期間と段階的な導入を検討すべきです。
最終更新日 2026/03/15
