問題社員134 退職届を提出したのに後になってから退職の撤回を求めてくる。

動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
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退職は書面があるかどうかではなく、適法な合意が成立しているかどうかで決まる

退職届は「申込み」にすぎず、会社の承諾によって初めて契約終了の効果が生じます。

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会社の承諾前であれば、従業員は原則として退職の申込みを撤回でき、承諾の時期と内容を明確に管理することが紛争予防の鍵となる

退職勧奨を経て提出された退職届では、心裡留保・錯誤・強迫の主張にも備える必要があります。

 従業員から退職届が提出されたにもかかわらず、後日「やはり撤回したい」と申し出がなされるケースは少なくありません。特に、退職勧奨を行った後や感情的対立があった直後に提出された退職届については、撤回トラブルに発展しやすい傾向があります。

 本記事では、退職届の撤回への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。

01退職届撤回トラブルの典型例と、合意退職成立の法的構造

 典型例としては、退職届提出の翌日や数日後に「冷静になって考え直した」「本意ではなかった」と主張してくるケースや、退職勧奨の場面でのやり取りを録音しており「強く迫られた」と主張する事案が挙げられます。「退職届を受け取ったのだから当然に有効だ」と安易に考えてしまうことは危険であり、退職の法的性質は単独の辞職なのか合意退職なのかによって結論が分かれます。特に退職日が将来日に設定されている場合や、会社側が承認を前提とする扱いをしている場合には、退職の法的構造を正確に理解しておかなければ、後に地位確認請求や未払賃金請求へと発展するリスクがあります。

 実務上、多くのケースは合意退職(合意解約)として評価されます。合意退職とは、従業員の退職申出に対し会社が承諾することで雇用契約が終了するという構造であり、退職届は「申込み」にすぎず、会社の承諾によって初めて契約終了という法律効果が生じます。「退職届が出た=自動的に終了」と考えてしまうことが、後の紛争を招きます。特に退職日が将来日に設定されている場合には、会社の承諾が明確でない限り、合意が成立していないと評価される可能性があります。合意がいつ成立したのかを客観的に説明できる状態にしておくことが重要であり、承諾の意思表示の有無や時期が曖昧であれば、撤回が有効だと主張される余地を残してしまいます。

02退職日の一致の重要性と、同意前なら撤回が可能となる原則

 退職届の撤回可否を判断するうえで実務上とりわけ重要なのが、退職日について会社と従業員の意思が一致しているかどうかです。従業員が明記した退職日を前提として会社が承諾した場合には、その時点で合意が成立している可能性が高くなり、その後に撤回を申し出られても法的には認められないと評価される余地が大きくなります。一方、会社が「検討します」といった曖昧な対応にとどまっている場合には、合意成立時期が争点になり、撤回が有効と主張されるリスクが生じます。退職日を含めた条件について、明確に承諾した事実を客観的に残しておくことが重要であり、口頭だけのやり取りでは後日の立証が困難になる場合があります。

 合意退職の構造を前提とすると、原則として会社の承諾前であれば、従業員は退職の申込みを撤回できると考えられています。退職届が「申込み」にすぎない以上、会社がこれを承諾するまでは契約終了の効果は生じておらず、承諾前に撤回の意思表示が到達すれば合意は成立せず雇用契約は継続することになります。問題は「いつ承諾があったと評価されるか」であり、退職届受領後に離職票の準備を進めていた場合など、実務対応が承諾と評価されるかどうかは個別事情によって判断が分かれます。承諾の有無とその時期を明確に管理することが重要であり、曖昧な対応は紛争の火種になります。

03速やかな承認がリスクを封じる理由と、心裡留保への備え

 退職届が提出されたにもかかわらず、会社側が承諾を留保し「検討する」といった曖昧な対応を取っている間は、法的には合意が未成立の状態が続きます。この間に撤回の意思表示がなされれば、原則として有効と評価される可能性が高くなる一方、退職日や条件について双方の意思が一致し会社が明確に承諾した事実を客観的に残していれば、その後の撤回主張は大きく制限されます。退職届の受領を「事務処理」と軽視せず、承諾を明確にしないまま時間が経過すること自体がリスクであるという認識を持つことが重要です。

 従業員側から「本心ではなかった」といった主張がなされることがあり、これは法的には心裡留保の主張として位置付けられる可能性があります。もっとも、心裡留保が直ちに認められるわけではなく、原則として表示された意思が相手方に到達し、その表示を相手方が信頼した場合には効力は否定されません。会社側が従業員の真意を知っていた、あるいは容易に知り得たといえる事情がない限り、退職の意思表示は有効と評価されるのが通常です。退職届提出時の状況を客観的に説明できる状態にしておくこと、すなわち落ち着いた環境で説明がなされたか、即断を迫っていないかといった点が、後日の判断材料となります。

04退職勧奨と錯誤・強迫リスク、録音時代の対応の注意点

 退職届の撤回が争われる事案では、従業員側から錯誤や強迫の主張がなされることがあります。錯誤とは、重要な事実について誤解したまま意思表示を行った場合にその効力が否定され得るという問題であり、「退職しなければ即時解雇される」といった誤った前提で提出したと主張されるケースが典型です。強迫が問題となるのは、心理的圧力が社会通念上許容範囲を超えていた場合であり、執拗な退職勧奨や威圧的発言があったと評価されれば、退職の意思表示が無効と判断される可能性も否定できません。退職勧奨はあくまで「選択肢の提示」であり、決定は本人の自由意思に委ねられているという構造を明確に保つことが最も重要です。

 スマートフォンの普及により、退職勧奨の面談が録音されているケースは珍しくありません。録音の存在は後日初めて明らかになることが多く、発言の一部が切り取られて証拠として提出されることもあります。「辞めないなら解雇するしかない」といった断定的な表現や心理的圧力と受け取られ得る発言は、後日の強迫主張を補強する材料となりかねません。常に第三者が録音を聞いても問題がない説明内容かどうかを意識し、退職理由、選択肢、検討期間の付与などを明確に伝え、即断を迫らない姿勢を示すことが防御力を高めます。面談記録を会社側でも適切に残しておくことで、録音が提出された場合でも全体の文脈を示すことができます。

05損害賠償請求リスクと予防策

 退職届の撤回問題がこじれた場合、単なる地位確認請求にとどまらず、損害賠償請求へと発展するリスクがあります。典型的には「違法な退職強要により精神的苦痛を受けた」として慰謝料請求がなされるケースであり、退職が無効と判断された場合には退職日以降の未払賃金や社会保険料相当額の請求が生じることもあります。退職をめぐる紛争は金銭的影響が予想以上に大きくなり得るという点を認識し、退職勧奨の方法に問題があったと評価された場合には会社の対応姿勢そのものが問われる点にも留意が必要です。

 予防策として最も重要なのは、退職勧奨から退職合意成立までのプロセスを可視化し、適正な手続を踏んでいることを説明できる体制を整えることです。面談記録の作成、文書での確認、検討期間の付与など、基本的な対応が後日の防御力を左右します。退職は「書面があるかどうか」ではなく「適法な合意が成立しているかどうか」で決まるという点を核心として押さえ、撤回申出があった場合には感情的に対応せず、法的評価を踏まえた慎重な対応を心がけてください。退職トラブルは、提出直後の初動対応でほぼ勝負が決まります。判断に迷う場合は、会社側専門の弁護士にご相談ください。

06よくある質問(FAQ)

Q. 従業員が退職届を出した翌日に「やはり辞めない」と言ってきました。拒否できますか。

会社が既にその退職届を承諾(合意成立)していれば、原則として拒否可能です。承諾前であれば撤回は有効となるため、受領後の迅速な承諾と証拠化が防御の鍵となります。

Q. 「家族に反対された」という理由は、退職届を撤回する正当な理由になりますか。

合意が成立した後であれば、個人的な事情は法的な撤回理由にはなりません。ただし、合意形成過程に強迫や錯誤がなかったかという実務的な精査が必要となります。

Q. 退職届を受領した際、その場で「承認する」と伝えるだけで十分でしょうか。

法的には有効ですが、立証責任の観点からは不十分です。承認通知書の交付や、確定日付の残るメールでの返信など、後日の紛争に耐えうる証拠を残すことをお勧めします。

経営上のポイント 退職は書面があるかどうかではなく、適法な合意が成立しているかどうかで決まります。会社の承諾前であれば従業員は原則として撤回でき、承諾の時期と内容を明確に管理することが紛争予防の鍵です。退職勧奨を経て提出された退職届では、心裡留保・錯誤・強迫の主張にも備え、面談記録の作成と検討期間の付与を徹底してください。具体的な事情に応じて、実務で活用いただける方針をご案内します。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。退職届・退職勧奨に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月9日


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