問題社員341 発達障害の診断書を提出した社員の人事評価

動画解説

この記事の要点

✓

診断書の有無にかかわらず、自社の人事評価制度どおりに評価するのが原則

結果から逆算して数字を操作してはいけない

✓

給料・処遇に反映する評価は、事実ベースで説明できるようにしておく

「発達障害だから低くつけた」は最悪の説明。実際の言動を根拠にする

✓

障害があれば、過重負担にならない範囲で合理的配慮が必要

障害者雇用促進法上の要請。本人が不当に不利にならないよう配慮する

✓

「受け入れる」で止まらず、才能を発揮できる仕事を探す発想を持つ

障害の影響を受けない仕事への配置は、本人だけでなく会社の業績にも資する

1. 発達障害の診断書が出た社員の人事評価という悩み

指示が理解できない、ルールを勝手に解釈して守らないなど、トラブルの多い社員から、発達障害の可能性が高いと記載された診断書が提出された。この場合、能力をそのまま人事評価、ひいては給料に反映させるべきなのか。こうしたご相談は、決して珍しくありません。本記事では、発達障害の診断書を提出した社員の人事評価について、会社側の視点から解説します。

2. 大原則(制度どおりに評価する。操作しない)

まず前提として、人事評価制度は会社によってまったく異なります。ですから、一概に「これがよい」と言うことはできません。基本的には、自社の人事制度に沿って、ルールどおりにそのまま評価するのが原則です。まずこれを、きっちり行っていただく必要があります。その結果どうなるかは、会社ごとの人事評価制度が優れているかどうかによって変わってくるかもしれませんが、それは制度の問題です。現場の人間としては、制度どおりに評価を行うことをまず基本と考えてください。

結果から逆算して評価を操作してはいけない

ここでやってはいけないのが、結果から逆算して評価を操作することです。ありのままに人事評価をすると問題が起きそうだから、数字を変えてしまえ、というのは絶対にやってはいけません。低くつけると文句を言われそうだから、高くつけておけば問題ないだろう、と数字を操作してしまいがちなのは、そもそも評価制度の基準が不明確であることに加え、「おかしいでしょう」と言われたときに説明できないことが大きな理由だと思われます。

3. なぜ数字を操作したくなるのか(説明できない不安)

抗議を受けるのが嫌なのであれば、どういった理由でこの評価にしたのかを、事実ベースでしっかり説明できるようにしておいてください。「発達障害だから低くつけました」というのは最悪の説明です。そんなことは絶対にやってはいけません。そうではなく、「あなたは何月何日の何時ごろ、こういうことをこのようにやりましたよね」「こういった指示を出したのにやりませんでしたよね」といった事実を踏まえて、この評価になったのだと説明できるようにしておけば大丈夫です。実際に言ったり、やったりしたこと、それをベースにこの評価になった、というところまで説明できるようにしておいてください。そうすれば、本人からクレームがついても、「この事実からすれば、この評価は妥当ですよね」と説明できるケースがほとんどのはずです。

4. 事実ベースで説明できる評価にする

事実で説明できないなら、人事評価制度自体がおかしい

もし、事実ベースで説明しようとするのが難しいのであれば、たいていの場合、人事評価制度自体がおかしいのです。その人事評価制度が、実際の事実に根拠を持って評価できるものではなく、単に上司の主観をつけているだけ、というものが多いからです。もっとも、単なる評価だけで給与などに反映されないもの、給与は変わらないという前提であれば、主観での人事評価でもそれほど大きな問題にはならないかもしれません。しかし、本人の処遇・給与に紐づけられている人事評価であれば、説得力のある根拠が必要になります。「単なる主観でしょう」と言われてしまうようなものではだめなのです。客観的な言動、実際に行った行動を踏まえて、「この事実からするとこうですよね」と言えるようにしておくべきです。

5. 処遇に反映するかどうかで、求められる根拠の強さが変わる

給料にまったく影響しないものであれば、主観であってもそれほど大きな問題は起きにくいかもしれません。しかし、給料や本人の労働条件・処遇に影響を与えるものについては、事実を根拠として、抗議されたときに説明できるようにしっかりしておいてください。もしそれが難しく、事実を踏まえた説明ができないのであれば、給料には反映させないようにする、という選択肢もあります。特に賞与などの評価が中心の会社では、昇級幅なども含め、事実ベースで説明できるようにしておくことが最低限必要です。

6. 合理的配慮を忘れない

障害者雇用促進法上、過重負担にならない範囲で配慮が求められる

当然のことですが、もし障害があるということになれば、合理的配慮が必要です。本人が不当に不利にならないよう、会社の負担が過重にならない限度で、本人の能力が発揮できるよう配慮する。これは、障害者雇用全般に言えることです(障害者の雇用の促進等に関する法律)。診断書があるからといって評価をゆがめてよいわけではありませんが、業務の割り振りや指示の出し方、環境面での配慮を尽くしたうえで、公正に評価していくことが求められます。

7. 才能を発揮できる仕事を探すという前向きな発想

ここからは、私の個人的な感覚も含めた話です。人の能力・適性・才能は、特定の仕事との関係で決まるものです。ある仕事は苦手で適性がないけれども、別の仕事であれば適性があって大活躍する、ということはよくあります。障害があるといっても、何もかもできないわけではありません。ある仕事では障害の影響を受けて不利な立場に立たされてしまうけれど、別の仕事であれば障害の影響をほとんど受けず、平均並みの仕事ができる、ということもあります。さらに言えば、障害とは関係なく、その仕事に適性があるために、平均的な人よりもよいパフォーマンスを上げる、ということさえあります。

才能の発揮は、本人だけでなく会社にとってもメリットがある

ですから、人材を一括りにせず、本人の適性に応じた仕事に就けてあげる、あるいは本人にも選んでいただき、障害の影響を大きく受けない、適性にぴったり合った仕事に配置転換する、そういった枠で雇用する、といった工夫が大事になってきます。これは、障害のある方のためだけの話ではありません。才能を発揮して活躍してもらえれば、会社にとっても大きなメリットがあります。単にイメージがよくなるといった小さな話ではなく、業績が上がるのです。本人に向いていないタイプの仕事に就けるのは、本人にとっても会社にとっても不幸なことです。障害の影響をほとんど受けず、本人の才能が発揮できる仕事が見つかるのであれば、しぶしぶ配慮してあげるということではなく、適材適所で会社の業績を上げていくための経営施策として、その人に向いた仕事は何かをよく考えていただくことが大切です。

障害者雇用の話をすると、「どこまでが義務なのか」「やってあげている」といった、社会貢献のようなイメージで考えてしまう経営者は少なくありません。そういう面がまったくないわけではありませんが、それだけではないと思います。障害の影響をほとんど受けない仕事が見つかる人は多くいますし、さらに言えば、影響を受けないにとどまらず、本人に適性があってそこで活躍していただけることだってあるのです。障害があるという話を、「みんなで受け入れていこう」という福祉的な発想だけで止めてはいけません。そうではなく、その方が才能・適性を発揮して活躍できる仕事はないかを常日頃から考え、実際にそこに配置していく。これが大切になってきます。

今の仕事のままだと人事評価も低めにつけざるを得ない、給料も下げなければならない、というのであれば、それはそれで、どういう事実があるからこの評価なのかを、事実ベースでしっかり説明できるようにしていただくことが最低限必要です。そのうえで、できれば、単に本人の得意でない仕事に就けて評価を低くするだけでなく、その方が向いている仕事は何かをよく探り、活躍の場を提供できないか検討していただくことが大切です。それでもだめであれば、結果としてやむを得ないこともあるでしょう。しかし、そもそもの発想として、「みんなと同じでよい」という考え方はやめましょう。障害があっても、みんなと同じような仕事を受け入れてあげる、という後ろ向きな話ではなく、障害の影響を受けず、さらにはその人の才能・適性のある仕事に就けて、本人が活躍できるようにしてあげる。これが、今の時代の経営者に求められる発想だと考えています。

8. まとめ

  1. 診断書の有無にかかわらず、自社の人事評価制度どおりに評価するのが原則である。結果から逆算して数字を操作してはいけない
  2. 給料・処遇に反映する評価は、事実ベースで説明できるようにしておく。「発達障害だから」という説明は最悪
  3. 事実で説明できないなら、たいてい人事評価制度自体がおかしい。処遇への影響が大きいほど、根拠の強さが求められる
  4. 障害があれば、過重負担にならない範囲で合理的配慮が必要である(障害者雇用促進法)
  5. 「受け入れる」で止まらず、才能を発揮できる仕事を探す発想を持つ。本人にも会社の業績にも資する

経営者は、単に法律やルールを守るだけでは足りません。雇った方々に活躍できる場を提供し、あるいは活躍できるような仕事に就けて、そこで才能を発揮していただく。そこまで考えていただく必要があります。発達障害の診断書が提出された場合の人事評価は、まず制度どおりに、事実に基づいて公正に行うこと。そのうえで、合理的配慮を尽くし、本人の適性に合った仕事を探していくこと。この両輪で進めていただくのが理想です。大変な作業ですが、ぜひ頑張っていただければと思います。人事評価や障害者雇用の対応にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 発達障害の診断書が出た社員は、人事評価を甘くしなければなりませんか。

A. 診断書の有無にかかわらず、自社の人事評価制度に沿って、ルールどおりに評価するのが原則です。診断書が出たからといって、結果から逆算して評価を操作すべきではありません。ただし、障害があるのであれば、業務の割り振りや指示の出し方などで、過重負担にならない範囲の合理的配慮を尽くしたうえで評価する必要があります。評価そのものをゆがめるのではなく、配慮を尽くした結果としての事実に基づいて、公正に評価してください。

Q2. 評価を下げると本人からクレームが来そうです。どう備えればよいですか。

A. 「発達障害だから低くつけた」という説明は最悪です。そうではなく、何月何日の何時ごろ、こういった指示を出したのにこうだった、といった具体的な事実を根拠に、この評価になったと説明できるようにしておいてください。事実ベースで説明できる評価であれば、抗議を受けても、その事実からすれば妥当だと言えるケースがほとんどです。逆に、事実で説明できない評価は、人事評価制度自体に問題がある可能性が高いといえます。

Q3. 評価が低くなるだけでなく、何かできることはありますか。

A. 単に評価を下げて終わりにするのではなく、本人が障害の影響を受けずに、あるいは適性を発揮できる仕事はないかを探ることをおすすめします。人の能力・適性は特定の仕事との関係で決まるため、ある仕事では苦手でも、別の仕事では平均以上のパフォーマンスを上げることも珍しくありません。適性に合った仕事への配置は、本人にとってだけでなく、会社の業績にとってもプラスになりうる経営施策です。

最終更新日:2026年7月19日


Return to Top ▲Return to Top ▲