問題社員330 入社時より大幅に能力が低下した障害者社員。

動画解説

この記事の要点

能力不足とは、労働契約で予定された能力と現実の能力のギャップである

障害を分かって採用した場合、その障害に起因する部分は、能力不足として評価しにくい

採用後に能力が大きく低下し、ギャップが著しく広がれば、退職・解雇が問題となる場合もある

障害者だから一切できないわけではない。ただし合理的配慮を尽くしたかを慎重に検討する

障害の影響を受けない職務がないかを確かめる

障害は特定の部分に影響するだけで、別の職務では十分に活躍できることがある。配置転換や契約の結び直しを検討する

個別事情に応じたオーダーメイドの対応が必要。弁護士と相談しながら進める

最も理想的なのは、障害の影響を受けない才能を活かせる職務とのマッチングである

1. 入社時より能力が低下した障害者社員という問題

人を雇って仕事をしてもらおうと考えたとき、予定していた能力がない、仕事を処理する能力がないとなれば、会社は困ってしまいます。通常はまず教育指導を行いますが、いくら教えても改善しない、配置転換を考えてもどうにもならない、という場合には、辞めてもらわざるを得ないこともあります。こうした一般論が、障害者の雇用についても同じように当てはまるのか、悩んでおられる会社経営者は少なくありません。本記事では、入社時より大幅に能力が低下した障害者社員への対処法を、会社側の視点から検討します。

一般論だけで対応しない。個別事案は必ず弁護士と相談を

障害者雇用の問題は、差別の禁止や合理的配慮など、通常の能力不足の事案以上に気を配るべき要素が多く、非常に難しい問題です。本などで一般論を学んだとしても、実際の対応は、個別の事情に応じたまさにオーダーメイドのものになることが多いといえます。ですから、一般論だけで対処するのではなく、個別事案については必ず弁護士と相談しながら対応することを強くおすすめします。以下は、あくまで考え方の枠組みとしてお読みください。

2. 能力不足による退職・解雇の一般論

まず、能力不足を理由とする退職・解雇の一般論を確認します。ここでいう能力不足とは、労働契約で予定されている能力と、現実の能力とのギャップのことをいいます。このギャップが大きければ大きいほど、辞めてもらうしかない、という方向に傾きます。

もっとも、日本の会社では、通常「能力がないからすぐに終わり」という契約ではなく、ある程度は教育指導をして育てていくことが予定されているものと解釈されます。教育指導をせずに辞めさせられるのは、高い給料で雇った中途採用の管理職くらいのものです。たとえば、月給100万円で部長として採用した方がまったく仕事をできなければ、契約で予定された能力がないと言いやすく、「これから教育して育ててください」と言える立場ではありません。他方で、大学を出たての方を採用した場合、契約で予定された能力とは、教育指導と経験を通じて仕事ができるようになってもらうことだと解釈されることが多く、今すぐ完璧にできなくても、しばらく教育指導やOJTで育てて成長させ、それでもだめかどうかを見極めることが求められます。

また、職種や担当職務、部署などが限定されていないことも多いため、その場合は、あちこちへ配置転換をして他の仕事ができないかを確かめてから退職の話をするよう求められることが多く、とくに解雇の場面ではその傾向が強くなります。この原則論は、障害者雇用についても基本的に当てはまります。

3. 障害者雇用ならではの違い(求められる能力の水準)

一方で、障害者雇用ならではの違いも存在します。

当初から分かっていた障害に起因する部分は、能力不足として評価しにくい

障害があると分かっていて、最初からそのつもりで採用したのであれば、一定のことが苦手で、その障害に起因して何らかの支障が生じうることは、会社も承知のうえで採用しているはずです。分かって採用したのに、それを後から「おかしい、能力不足だ」と評価するのは、筋の通らない話です。ですから、当初から分かっていた障害に起因する不利な点については、能力不足として評価することは難しいことになります。これは、言い換えれば、その分だけ契約で求められる能力の水準が低いと解釈されうる、ということです。求められる能力の水準がそれほど高くなければ、現実の能力とのギャップも大きくなりにくくなります。障害者雇用では、場合によっては、障害の影響を踏まえて求められる能力がそれほど高くない契約なのだ、と解釈される可能性を覚悟して採用していく必要があります。

4. 採用後に能力が低下した場合の考え方

もっとも、仕事を始めた後に、何らかの理由で障害が悪化したり、別の障害が生じたり、あるいは障害以外の理由で能力が大きく低下したりすることは起こりえます。その場合、元々の要求水準と比べてギャップがさらに広がることになりますから、そのギャップの程度次第では、退職や解雇の話に持っていくことが差し支えないケースもあります。障害者だからといって、退職・解雇が一切できないというわけではありません。

ただし、根本的な視点として、そもそも障害の影響で契約上求められる能力の水準自体がそれほど高くないのかもしれない、ということを第一に押さえたうえで、本当に、求められる能力と現実の能力の差が大きいといえるのかを、しっかり検討していく必要があります。この検討を飛ばして、単に「能力が低い」と決めつけてしまうと、対応を誤ることになります。

5. 合理的配慮を尽くすことが前提

過重な負担にならない限り、合理的配慮は尽くさなければならない

障害者に対しては、働くうえで合理的配慮が求められます。障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)は、障害者であることを理由とする不当な差別的取扱いを禁じるとともに、事業主に対し、過重な負担にならない範囲で、支障を改善するために必要な措置を講じること(合理的配慮の提供)を求めています。対応しなければならないことが多く大変だと感じる場面もあるかもしれませんが、これは法律で定められたルールですので、過重な負担にならない限りは、しっかり配慮していただく必要があります。こうした配慮を尽くしたうえで、なお雇用を維持できないほどの能力不足だといえるのであれば、退職勧奨や、所定の手続を踏んだうえでの解雇なども、検討の対象になっていきます。障害者を解雇する場合には、事業主はハローワークに届け出なければならないなど、通常の解雇とは異なる手続にも注意が必要です。

6. 障害の影響を受けない職務を確かめる

ここで、ぜひ意識していただきたい大切な視点があります。それは、障害は特定の部分に影響を及ぼすだけで、その障害の影響を受けない能力もある、ということです。大まかに「能力が高い・低い」というイメージで捉えていると、障害があると聞いただけで、つい「能力が低いのではないか」と思い込んでしまいがちです。しかし、一概にそうとはいえません。障害のある方でも、ある職務ではまったく問題なくパフォーマンスを上げ、むしろ出来のよい部類だ、ということは十分にありえます。

配置転換、あるいは契約の結び直しという方法

よく調べてみると、その障害の影響をほとんど受けない仕事が社内にあるかもしれません。職種を限定せず、通常の正社員として採用したような場合には、そうした職務への配置転換を検討してみるとよいでしょう。他方、職務を限定して採用した場合には、理論的には他の職務への配置転換を命じる権限はありません(権限がなければ、それに対応する義務もありません)。しかし、この人ならこちらの仕事でうまくいくかもしれない、という事情があるのであれば、「職務を限定して採用したので配置転換命令で移すことはできませんが、もしよろしければ、新たに契約を結び直す形でこの仕事をやっていただけませんか」と打診することは考えられます。元々の仕事よりも、かえってよい成果を上げることもあるからです。

こうしたことをいろいろ検討してもどうにもならない、配置転換も現実的ではなく、しっかり調べたけれども無理だ、という理由をきちんと説明できる状況であり、なおかつ、採用後の能力低下・パフォーマンスの低下が当初の想定とあまりにもかけ離れているのであれば、退職勧奨をしたうえでの合意退職や、ハローワークへの届出など所定の手続を踏んだうえでの解雇も、やむを得ない場合があります。ただし、繰り返しになりますが、障害者に対しては差別の禁止や合理的配慮など考慮すべき要素が多いため、実際の対応にあたっては、弁護士に相談しながら進めていただくことが不可欠です。

7. 最も大切なこと(才能を発揮できる職務との出会い)

最後に、障害者雇用において、最も大切だと考えていることをお伝えします。障害は、一定のスキルやパフォーマンスに悪影響を及ぼすものもありますが、その障害によって不利な影響を受けない能力というものも必ずあります。障害とは、いわば一定の何かが欠けているだけで、他の部分はまったく問題ない、ということがありうるのです。

職務と本人の資質のマッチングを、採用の段階から考える

障害の影響を受けない能力を活かせる職務があるのであれば、その職務で働いてもらう。これが、障害者雇用の理想的な姿です。会社としても、才能を発揮して活躍してもらえるのですから嬉しいことですし、何より、ご本人にとっても幸せなことです。パフォーマンスがそれほど高くないから給料もこの程度で、という形で働くよりも、自分の障害の悪影響をほとんど受けずに、自分の才能・能力を活かしてよいパフォーマンスを上げられる仕事に就いたほうが、はるかに幸せでしょう。障害のない方よりも、かえってよいパフォーマンスを上げることさえあります。だからこそ、職務と本人の持っている資質とのマッチングを、採用の段階からしっかり考えてあげることが、非常に大切になります。

このマッチングを誤ると、会社経営として不合理になってしまうだけでなく、本来であれば得意な職務で生き生きと活躍できたはずの人を、向いていない仕事に就けて、いわば飼い殺しのようにしてしまう、という残念な結果を招きかねません。会社の合理的な経営のためにも、そして障害のある方の才能・能力の発揮のためにも、採用にあたっては、この職務とのマッチングをぜひ丁寧に考えていただきたいと思います。

8. まとめ

  1. 能力不足とは、労働契約で予定された能力と現実の能力のギャップである。障害に起因する部分は評価しにくい
  2. 障害を分かって採用した場合、求められる能力の水準が低いと解釈され、ギャップは大きくなりにくい
  3. 採用後にギャップが著しく広がれば、退職・解雇が問題となる場合もある。障害者だから一切できないわけではない
  4. 過重な負担にならない限り、合理的配慮は尽くさなければならない。解雇にはハローワークへの届出など所定の手続がある
  5. 障害の影響を受けない職務がないかを確かめる。配置転換や、契約の結び直しの打診を検討する
  6. 最も理想的なのは、才能を発揮できる職務とのマッチングである。採用の段階から考える

障害者社員の能力に関する問題は、差別の禁止や合理的配慮など、慎重に考えるべき要素が多く、一般論だけでは対応しきれません。個別の事情に応じたオーダーメイドの対応が求められます。そして、対応を考える出発点として忘れてはならないのが、障害の影響を受けない才能を活かせる職務との出会いこそが、会社にとっても本人にとっても最も望ましい、ということです。障害者社員への対応にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 障害者社員は、能力不足を理由に解雇することは一切できないのですか。

A. 一切できないわけではありません。ただし、慎重な検討が必要です。まず、当初から分かっていた障害に起因する部分は、能力不足として評価しにくく、その分、契約で求められる能力の水準も低いと解釈されうる点を押さえる必要があります。そのうえで、採用後に能力が大きく低下し、要求水準とのギャップが著しく広がっているといえるか、合理的配慮を尽くしたか、障害の影響を受けない職務への配置転換など雇用維持の努力を尽くしたか、を検討します。これらを踏まえてもなお雇用維持が難しい場合には、退職勧奨や、所定の手続を踏んだ解雇が検討対象となります。判断が難しいため、弁護士と相談しながら進めてください。

Q2. 合理的配慮は、どこまで対応しなければならないのですか。

A. 障害者雇用促進法は、事業主に対し、過重な負担にならない範囲で、障害者が働くうえでの支障を改善するために必要な措置(合理的配慮)を講じることを求めています。したがって、過重な負担にならない限りは、しっかり配慮する必要があります。何が過重な負担にあたるかは、会社の規模や費用、業務への影響などを踏まえた個別判断になります。配慮を尽くしたかどうかは、後に退職・解雇の相当性を判断する場面でも重視されますので、どのような配慮を検討し、実施したのかを記録に残しておくことが大切です。

Q3. 職務を限定して採用した障害者社員を、別の仕事に移すことはできますか。

A. 職務を限定して採用した場合、理論上は他の職務への配置転換を一方的に命じる権限はありません。もっとも、この人なら別の仕事でうまくいくかもしれない、という事情があるのであれば、「職務を限定して採用したため配置転換命令では移せませんが、よろしければ新たに契約を結び直す形でこの仕事をやっていただけませんか」と打診することは考えられます。本人にとっても、元の仕事より才能を発揮できる可能性がありますので、雇用を維持し、双方にとってよい結果につながることもあります。

最終更新日:2026年7月18日


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