この記事の要点

「業務の遂行に通常必要とされる時間」とは、通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことをいう

特定の日の例外的な長時間や短時間ではなく、「通常の状態」での時間が基準です

「平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要か」により判断される——個別の日の実績ではなく業務の性質・通常の所要時間で判断

業務全体として平均的にどれだけの時間がかかるかが基準です

「通常必要とされる時間」は労使協定で定めることができる(労基法38条の2第2項)

「通常必要とされる時間が所定労働時間を超える」場合は、労使協定の締結・届出が必要です

「通常必要とされる時間」が週40時間・1日8時間を超える場合、その超えた部分について時間外割増賃金の支払義務が生じる

みなし時間が長く設定されるほど残業代が発生しやすくなります(294番参照)

01「業務の遂行に通常必要とされる時間」の意味

 294番で解説したとおり、事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる事案では、「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」(例えば、1日10時間とか11時間といった時間)労働したものとみなされます(労基法38条の2第1項ただし書)。

 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは、通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり、平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより、当該時間を判断することになります。

02「通常の状態で客観的に必要とされる時間」とは

 「通常の状態で客観的に必要とされる時間」という表現には、2つの重要なポイントが含まれています。

「通常の状態で客観的に必要とされる時間」の2つのポイント
「通常の状態で」:特定の日の例外的な事情(突発的なトラブル対応・特定の大口顧客への対応等)による長時間・短時間の事案ではなく、通常の業務実施状況を前提とした時間であることを意味します。

「客観的に必要とされる」:特定の労働者が主観的に「必要だ」と思った時間ではなく、その業務を遂行するために、客観的にみて必要とされる時間であることを意味します。個々の労働者の効率の違いではなく、業務の性質・内容・量から客観的に判断された時間です。

03「平均的にみれば当該業務にどの程度の時間が必要か」による判断

 「平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要か」により判断するということは、個別の日ごとの実績時間ではなく、業務全体として平均的にどれだけの時間がかかるかを基準として、「通常必要とされる時間」を判断することを意味します。

判断の視点 具体的な意味
「平均的にみれば」 特定の日の実績ではなく、業務全体を通じた平均的な所要時間が基準となる
「当該業務の遂行に」 対象となる事業場外業務の遂行全体(移動・準備・実務・報告等を含む)に必要な時間が基準となる
「どの程度の時間が必要か」 業務の性質・内容・量・難易度・移動距離等から客観的に判断した所要時間が基準となる

 例えば、外回り営業職について、1か月間の実績を調査したところ、1日の平均所要時間が概ね10時間であった場合、「通常必要とされる時間」は10時間と判断される可能性があります。一方、特定の日に顧客トラブルで12時間かかったとしても、それは例外的な事情によるものであり、通常必要とされる時間の判断には直接影響しません。

04実務上の取り扱い——労使協定による時間の設定

 「通常必要とされる時間」は、労使協定(書面による労使合意)によって定めることができます(労基法38条の2第2項)。労使協定で定めた場合は、その協定で定めた時間を労働したものとみなされます。

 労使協定で「通常必要とされる時間」を定める場合、その時間が所定労働時間を超えるときは、労使協定を所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です(労基法38条の2第3項)。

労使協定で定める場合の実務上の注意点
①労使協定で定めた「通常必要とされる時間」が所定労働時間を超える場合は、その超えた部分が法定労働時間を超えるかどうかで時間外割増賃金の発生が決まる(294番参照)
②「通常必要とされる時間」が実態と乖離している(例:実際には10時間かかるが協定では8時間と定めている)場合は、労働者から実態に基づいた残業代請求を受けるリスがある
③労使協定の有効期間・内容については、定期的に業務実態に照らして見直すことが重要

05まとめ

 「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは、通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことであり、平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより、当該時間を判断することになります。

 特定の日の例外的な事情による長時間・短時間を基準とするのではなく、業務全体を通じた平均的な所要時間が基準となります。この時間は労使協定で定めることもでき(労基法38条の2第2項)、所定労働時間を超える場合は届出が必要です。「通常必要とされる時間」が週40時間・1日8時間を超える場合は、その超えた部分について時間外割増賃金が発生します(294番参照)。みなし労働時間制の設計・就業規則の整備については、使用者側弁護士・会社側弁護士に相談することをお勧めします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。みなし労働時間制の設計・就業規則の整備・残業代トラブルの予防でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

Q&Aよくある質問

Q1. 「業務の遂行に通常必要とされる時間」とはどのような時間ですか。

A. 通常の状態でその業務を遂行するために客観的に必要とされる時間のことです。平均的にみれば当該業務の遂行にどの程度の時間が必要かにより判断されます。特定の日の例外的な事情(突発的なトラブル等)による長時間・短時間は基準となりません。

Q2. 特定の日に例外的に長時間かかった場合、その日の労働時間はどう計算されますか。

A. みなし労働時間制が適用される場合、特定の日の実際の労働時間ではなく、「通常必要とされる時間」または「所定労働時間」でみなされます。したがって、特定の日に例外的に長時間かかったとしても、「通常必要とされる時間」でみなされるため、その超過分については時間外割増賃金が発生しません(みなし制の適用が否定されない限り)。

Q3. 「通常必要とされる時間」はどのように決めればよいですか。

A. 業務全体を通じた平均的な所要時間を客観的に調査・分析して判断します。実務上は、過去の業務記録・日報・タイムレポート等から平均的な所要時間を算出することが考えられます。また、労使協定で定めることも可能です(労基法38条の2第2項)。「通常必要とされる時間」が所定労働時間を超える場合は、労使協定を所轄の労基署に届け出ることが必要です。

Q4. 「通常必要とされる時間」が所定労働時間を超える場合、残業代はどうなりますか。

A. 「通常必要とされる時間」でみなした結果、週40時間または1日8時間を超える場合には、その超えた部分について時間外割増賃金(25%以上)の支払義務が生じます。例えば、「通常必要とされる時間」が1日10時間と判断された場合、8時間を超える2時間分について時間外割増賃金が発生します(294番参照)。

最終更新日:2026年5月10日




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