この記事の要点

あっせんの対象は労働問題に関するあらゆる分野の紛争(募集・採用を除く)。解雇・配置転換・労働条件変更・いじめ・嫌がらせ等、対象範囲が広い

幅広い労働問題が対象となるため、会社経営者として制度を正確に理解しておく必要があります

手続が迅速・費用不要・非公開・専門家担当。低コストで手軽に利用できるため労働者側に積極的に使われる傾向がある

あっせんの申請を受けた場合の対応方針は使用者側弁護士と協議して決定することが重要です

合意した場合のあっせん案は民法上の和解契約の効力を持つ。軽視せずに法的評価を行った上で合意するかどうかを判断すること

あっせん案への安易な合意も、安易な拒否も危険です

01あっせんの7つの特徴(概要)

 東京労働局によると、紛争調整委員会が労働局長の委任を受けて行うあっせんには、次の7つの特徴があるとされています。

あっせんの7つの特徴

①対象の広さ:労働問題に関するあらゆる分野の紛争(募集・採用に関するものを除く)が対象
②手続の迅速・簡便さ:多くの時間と費用を要する裁判に比べ、手続が迅速かつ簡便
③専門家担当:弁護士・大学教授等の労働問題の専門家である紛争調整委員会の委員が担当
④費用不要:あっせんを受けるのに費用はかからない
⑤和解効力:当事者間でのあっせん案の合意は民法上の和解契約の効力を持つ
⑥非公開:あっせんの手続は非公開であり、紛争当事者のプライバシーを保護
⑦不利益取扱禁止:労働者があっせんの申請をしたことを理由として、事業主が労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは法律で禁止

02特徴①:対象範囲の広さ

 あっせんの対象は、労働問題に関するあらゆる分野の紛争(募集・採用に関するものを除く)です。具体的には次のような紛争が対象となります。

あっせんの対象となる主な紛争

労働条件に関する紛争:解雇・雇止め・配置転換・出向・降格・労働条件の不利益変更等
職場環境に関する紛争:いじめ・嫌がらせ等(パワハラ・セクハラを含む)
労働契約に関する紛争:労働契約の承継・同業他社への就業禁止等
その他:退職に伴う研修費用の返還・営業車等会社所有物の破損に係る損害賠償をめぐる紛争など

 会社経営者にとって重要なのは、幅広い労働問題がこのあっせん制度の対象となるという点です。解雇・配置転換・ハラスメント問題等でトラブルが生じた場合、相手方がこのあっせん手続を利用してくる可能性があります。

03特徴②〜④:迅速・専門家・無料

 あっせんは、多くの時間と費用を要する裁判に比べ、手続が迅速かつ簡便です(特徴②)。弁護士・大学教授等の労働問題の専門家である紛争調整委員会の委員が担当します(特徴③)。あっせんを受けるのに費用はかかりません(特徴④)。

 これらの特徴から、あっせんは労働者にとって非常に使いやすい制度です。無料・迅速・専門家による対応という特徴が、訴訟・労働審判のハードルを意識せず気軽に申請できる環境を生み出しています。会社経営者としては、「あっせんは行政の簡易手続だから大したことはない」という軽視は危険です。

04特徴⑤:あっせん案の民法上の和解効力

 あっせんにおいて紛争当事者間でのあっせん案に合意した場合、その合意されたあっせん案は民法上の和解契約の効力を持ちます(特徴⑤)。

 これは、あっせんによる合意が単なる「覚書」ではなく、法的拘束力を持つ和解契約として扱われることを意味します。したがって、会社側がいったんあっせん案に合意した後で「やはり合意しなければよかった」という形での翻意は困難になります。

あっせん案への安易な合意の危険性

あっせんの場では、専門家委員から和解を勧められる形で圧力を感じることがあります。しかし、あっせん案への合意は民法上の和解契約としての拘束力を持つため、安易に合意することは危険です。あっせんに参加する場合は、事前に使用者側弁護士と対応方針(どのような条件なら合意できるか・できないか)を具体的に検討しておくことが不可欠です。

05特徴⑥〜⑦:非公開・不利益取扱禁止

 あっせんの手続は非公開であり、紛争当事者のプライバシーが保護されます(特徴⑥)。訴訟(原則公開)とは異なり、あっせんの内容や経緯が外部に公表されることはありません。この点は、使用者側にとっても一定のメリットとなる場合があります。

 また、労働者があっせんの申請をしたことを理由として、事業主が労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています(特徴⑦)。あっせんを申請した従業員に対して報復的な措置(解雇・降格・嫌がらせ等)を取ることは、法律違反となり、新たな紛争の原因となります。会社経営者として、この点には特に注意が必要です。

06会社側としての実務上の対応方針

 あっせんの申請を受けた場合、会社側として次の選択肢があります。

あっせん申請への対応選択肢と留意点

参加して解決を目指す:早期・低コストでの解決が可能。ただし合意案の内容を慎重に検討した上で合意すること。安易な妥協は後に問題となりうる
参加を拒否する:あっせんは任意手続であり拒否は可能。ただし拒否した場合、相手方が訴訟・労働審判に移行する可能性が高まる。「拒否して解決しない」という選択の代償を意識すること
どちらの場合も:あっせんの申請を受けた時点で速やかに使用者側弁護士に相談し、参加・不参加の判断と対応方針を確定することが最優先

07まとめ

 紛争調整委員会が労働局長の委任を受けて行うあっせんは、①対象の広さ、②手続の迅速・簡便さ、③専門家担当、④費用不要、⑤あっせん案の民法上の和解効力、⑥非公開、⑦不利益取扱禁止という7つの特徴を持ちます。無料・迅速という特徴から労働者に積極的に利用される傾向があります。あっせんの申請を受けた場合は、参加・不参加の判断を含む対応方針を速やかに使用者側弁護士と協議して決定することをお勧めします。アドバイスします。

SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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Q&Aよくある質問

Q1. あっせんに参加しないことにしました。相手方はその後どのような行動を取りますか。

A. あっせんへの不参加または不合意により手続が打ち切られた場合、相手方は労働審判または通常訴訟に移行することが多くなります。あっせんで解決しなかったことが直ちに訴訟での不利につながるわけではありませんが、早期解決の機会を逃したことになります。不参加を選択した場合は、次の司法手続に備えて速やかに使用者側弁護士と準備を進めることが重要です。

Q2. あっせんに参加して合意した内容を後から変更することはできますか。

A. あっせん案への合意は民法上の和解契約の効力を持つため、一方的な変更は原則としてできません。合意した内容には拘束されます。ただし、双方の合意によって変更することは可能です。あっせんに参加する場合は、合意する前に内容の法的評価を必ず使用者側弁護士に確認することをお勧めします。

最終更新日:2026年5月31日


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