1 注意指導

  勤務態度が悪い社員は、注意指導してそのような勤務態度は許されないのだということを理解させる必要があります。訴訟や労働審判になって弁護士に相談するような事例では、当然行うべき注意指導がなされていないことが多い印象があります。
 勤務態度が悪い社員を放置することにより、他の社員のやる気がそがれたり、新入社員がいじめられたり、仕事を十分に教えてもらえなかったりして、退職してしまったりすることがありますし、金品の横領、手当等の不正受給の温床にもなります。
 上司が、勤務態度が悪い社員に対して注意指導した場合、反発を買うことは珍しくなく、トラブルになることもあるせいか、注意指導を怠る上司が散見されます。当然行うべき注意指導を行うことができる上司は、注意指導できない上司よりも高く評価する必要があります。勤務態度が悪い社員が注意指導に従わない場合には、直属の上司1人に任せきりにせず組織として対応して下さい。当然行うべき注意指導を行って勤務態度が悪い社員の反発を買うよりも、勤務態度が悪い社員を放置したままにしておいて異動を待った方がマイナス評価がつかず得だと考える上司が出てこないようにする必要があります。
 長年にわたって勤務態度の悪い社員を放置してきた職場において、新任の上司があるべき勤務態度に是正しようとして反発を買い、トラブルになることが多いところです。勤務態度が悪くても長年放置され、態度の悪さが年々悪化してきた社員の態度を改めさせるのは難易度が高く、解雇・退職の問題に発展することも多いですので、勤務態度の悪さが悪化する前に、対処する必要があります。こういった社員は、時間をかけて根気強く注意指導していく必要があり、注意指導しても従おうとしないからといって、放置してはいけません。 
 口頭で注意指導しても勤務態度の悪さが改まらない場合は、将来の懲戒処分、退職勧奨、解雇、訴訟活動を見据えて、書面で注意指導します。書面で注意指導することにより、本人の改善をより強く促すことになりますし、訴訟や労働審判になった場合、勤務態度の悪さを改めるよう注意指導した証拠を確保することもできます。
 当事務所に相談にいらっしゃった会社経営者から「自分の勤務態度が悪いことや何度も注意指導されてきたことは、本人が一番よく分かっているはずです。」との説明を受けることが多いですが、訴訟や労働審判では、労働者側から、自分の勤務態度は悪くないし、注意指導を受けたことは(ほとんど)ないと主張がなされるのがむしろ通常です。口頭で注意指導しただけで、書面等の客観的な証拠が残っていない場合、当該社員の勤務態度の悪さが甚だしいことや十分に注意指導してきたことを立証するのが困難となってしまいます。
 「上司も、部下も、同僚も、取引先もみんな、彼(女)の勤務態度が悪いことを知っていますし、法廷で証言してくれると言っています。」という話をお聞きすることも多いですが、一般的には、紛争が表面化してから作成された上司・同僚・部下の陳述書や法廷での証言はあまり証拠価値が高くありません。取引先の社員に訴訟で証人になるよう頼むことは、それ自体ハードルが高いことが多いです。「彼(女)の勤務態度が悪い。」という点では関係者の意見が一致していたとしても、何月何日の何時頃、どこで何をどのようにしたから勤務態度が悪いと評価することができるのかといった具体的事実を聞いても、具体的日時場所等を説明できないことは珍しくありません。勤務態度が悪いことを基礎付ける具体的事実を説明できないと証拠価値が高く評価されにくくなります。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが、メールでの注意指導は、口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合、コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず、かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。

2 懲戒処分

 書面で注意指導しても勤務態度の悪さが改まらない場合は、懲戒処分を検討することになります。まずは、譴責、減給といった軽い懲戒処分を行い、それでも改善しない場合には、出勤停止、降格処分と次第に重い処分をしていきます。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って、懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが、懲戒処分もせずにいきなり解雇したのではよほど悪質な事情がある場合でない限り、解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも、勤務態度が悪い社員に対して注意指導や懲戒処分ができないようでは、組織として十分に機能しているとはいえません。必要な注意指導や懲戒処分を行い、職場の秩序を維持するのは、会社経営者の責任です。

3 退職勧奨

 勤務態度の悪さの程度が甚だしく、十分に注意指導し、懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず、改善の見込みが乏しい場合には、会社を辞めてもらうほかありませんので、退職勧奨や解雇を検討することになります。十分に注意指導し、繰り返し懲戒処分を行っており、解雇が有効となりそうな事案では、解雇するまでもなく、退職勧奨に応じてもらえることが多いところです。
 他方、勤務態度の悪さの程度がそれほどでもなく、十分な注意指導や懲戒処分がなされていない等の理由から解雇が有効とはなりそうもない事案、誠実に勤務する意欲が低かったり能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案、本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等では、退職届を提出させる難易度が高く、退職に同意してもらうために支払う割増退職金等の金額も高くなりがちです。

4 解雇

 勤務態度の悪さの程度が甚だしく、十分に注意指導し、懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず、改善の見込みが低い場合には、退職勧奨と平行して普通解雇や懲戒解雇を検討することになります。
 普通解雇(狭義)とは、能力不足、勤務態度不良、業務命令違反等、労働者に責任のある事由による解雇のことをいい、懲戒解雇とは、使用者が有する懲戒権の発動により、一種の制裁罰として、企業秩序に違反した労働者に対し行われる解雇のことをいいます。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては、
 ① 就業規則の普通解雇事由、懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるためには、単に①就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく、②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないというためには、普通解雇や懲戒解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものである必要があります。
  普通解雇や懲戒解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには、「裁判官」が、労働契約を終了させなければならないほど社員の勤務態度の悪さの程度が甚だしく、業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者、上司、同僚、部下、取引先などが、主観的に普通解雇や懲戒解雇に値すると考えただけでは足りません。
 勤務態度が悪い社員の普通解雇や懲戒解雇が②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないかを判断するにあたっては、勤務態度の悪さが業務に与える悪影響の程度、態様、頻度、過失によるものか悪意・故意によるものか、勤務態度が悪い理由、謝罪・反省の有無、勤務態度の悪さを是正するために会社が講じていた措置の有無・内容、平素の勤務成績、他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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