1 「解雇してくれ」と言われた際の対処方法

 退職勧奨した社員から解雇してくれと言われたからといって、安易に解雇すべきではありません。
 後日、解雇が無効であることを前提として、多額の賃金請求を受けるリスクがあります。有効な解雇をすることは、必ずしも容易ではありません。
 当該社員が退職することに同意しているのであれば、解雇するのではなく、退職届か退職合意書に署名押印してもらうべきです。

2 解雇予告手当の請求

 即時解雇した場合、解雇予告手当の請求を受けることがありますが、解雇予告手当は平均賃金の30日分を支払えば足りますので(労基法20条1項)、その金額はたかが知れています。
 解雇予告手当の請求は、解雇の効力を争わないことを前提とした請求なので、解雇予告手当の請求を受けた場合は、むしろ運がよかったと考えられます。

3 解雇無効を前提とした賃金請求(バックペイ)のリスク

 解雇の無効を前提として、解雇日以降の賃金請求がなされた場合に会社が負担する可能性がある金額は、高額になることがあります。
 単純化して説明すると、月給30万の社員を解雇したところ、解雇の効力が争われ、2年後に判決で解雇が無効と判断された場合は、既発生の未払賃金元本だけで、30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。
 解雇が無効と判断された場合、実際には全く仕事をしていない社員に対し、毎月の賃金を支払わなければならないことを理解しておく必要があります。

4 近年の傾向と労働者側弁護士の動き

 最近では、経営者を挑発して解雇させ、多額の金銭を獲得してから転職しようと考える社員も出てきています。
 労働者側弁護士事務所のウェブサイトの中には、解雇されるとお金をもらえるチャンスであるかのような宣伝をしているものも見受けられます。解雇問題を「ビジネス」として考えている労働者側弁護士もいることに注意しなければなりません。

5 無断録音への備え

 退職勧奨、解雇のやり取りは、無断録音されていることが多く、録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は、証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨、解雇を行う場合は、感情的にならないよう普段以上に心掛け、無断録音されていても不都合がないようにしなければなりません。
 退職勧奨は、やり過ぎると不法行為になることがありますが、無断録音されている覚悟で行えば、不法行為が成立することは滅多にないのではないかと思います。

6 解雇の効力が争われた場合の解雇撤回

 解雇してくれと言われて解雇したところ、解雇の効力が争われ、解雇が無効と判断されるリスクが高いような場合は、解雇を撤回し、就労を命じる必要がある場合もあります。
 この場合、概ね、解雇日の翌日から解雇撤回後に就労を命じた初日の前日までの解雇期間に対する賃金の支払義務を負うことになります。

7 就労命令に対する復職の実態

 解雇を撤回して就労を命じた場合、実際に戻ってくるのは3人~4人に1人程度という印象です。
 解雇期間中の賃金請求をする目的で形式的に復職を求める体繕いをする労働者が多いですが、要望どおり解雇を撤回して就労命令を出してみると、いろいろ理由を付けて、実際には復職してこないことも多いというのが実情です。ただし、労働組合の支援がある場合は、復職してくる確率が高くなるものと思われます。

8 ありのままの解雇理由を伝えることの重要性

 勤務態度不良等を理由とした解雇を、本人が傷つくから等の理由で「会社都合(整理解雇)」とする事案が散見されますが、これは極めて危険です。整理解雇の有効要件を満たさない以上、争われれば会社側が負ける可能性が高くなります。
 無用の気遣いをして事実と異なる理由を伝えず、ありのままの解雇理由を伝える必要があります。

9 退職勧奨と失業手当(特定受給資格者)

 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと」は特定受給資格者に該当するため(雇用保険法23条等)、退職勧奨による退職は会社都合の解雇と同様の扱いとなり、労働者が失業手当を受給する上で不利益を受けることにはなりません。
 失業手当のために解雇という形式を取る必要はないことを丁寧に説明し、誤解を解く努力をすべきです。なお、助成金との関係では会社都合の解雇と同様の取り扱いとなる点には注意が必要です。

10 解雇無効時の負担額と諸手当・賞与の扱い

 使用者が負担すべき金額は、労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。

  • 通勤手当:実費保障的性質の場合、通常は負担不要です。
  • 残業代:原則不要ですが、一定の残業が確実に見込まれる場合は支払を命じられる可能性があります。
  • 賞与:支給額が確定できる場合は支払を命じられることがあります。

11 解雇期間中の中間収入の控除

 解雇期間中に他で得た収入(中間収入)がある場合、平均賃金の6割を超える部分については控除の対象となります(あけぼのタクシー事件等最高裁判決参照)。また、中間収入が平均賃金の4割を超える場合には、賞与等の全額を対象として利益額を控除することが許される場合があります。

12 源泉徴収と仮払金の処理

 判決では所得税等控除前の金額の支払が命じられ、実際の支払時に源泉徴収等を行います。また、仮処分で仮払いをしていた場合、判決では差し引いてもらえないため、確定後に労働者側と充当の調整を行う必要があります。

弁護士 藤田 進太郎
解説者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 
「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026/02/28

 

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