問題社員87 能力不足を理由とした解雇が認められるかどうかは、どのように判断すればよろしいでしょうか?

この記事の結論
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判断基準は「労働契約で求められた能力が欠如しているか」。単なる見込み違いでは足りない

長期雇用を予定した新卒採用者・勤続が長い社員・低賃金の社員は認められにくく、特定の能力や地位を条件に高給で採用された社員は比較的認められやすい傾向があります。

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いずれの場合も、具体的事実の記録と、労働契約書への能力・地位の明示が有効性を支える

「みんなが知っている」という抽象的な主張や関係者の証言だけでは立証は困難です。何月何日に何があったかという具体的事実の客観的証拠と、採用時の契約内容の明示が結果を左右します。

01能力不足解雇の基本的な判断基準

 能力不足を理由とした解雇が認められるかどうかは、基本的には、その社員が労働契約で求められている能力を欠いているかどうかで判断されます。ここで大切なのは、「思っていたほど能力がなかった」「採用してみたら見込み違いだった」というだけでは、解雇は認められないということです。採用側の期待と、契約上求めてよい水準とは、別のものだからです。

 つまり、「期待外れだった」という感覚と、「労働契約で求められた能力を欠いている」という評価との間には、はっきりとした線があります。この線をどちら側にいるのかを、具体的事実に照らして冷静に見極めることが、能力不足解雇を考えるときの出発点になります。

02認められにくいケースと認められやすいケース

認められにくいケース:新卒・長期雇用予定者・低賃金者

 長期雇用を予定して採用した新卒者については、社内教育などを通じて会社が能力を育てていくことが、そもそも前提とされています。ですから、能力不足を理由とした解雇は、例外的な場合でない限り認められません。育てる前提で採用しておきながら、育たなかったから解雇する、という理屈は通りにくいのです。

 また、一般的な傾向として、勤続年数が長い社員や、賃金が低い社員についても、能力不足を理由とする解雇は認められにくくなります。採用の募集広告に「経験不問」と記載して採用したのであれば、一定の経験がなければ身につかないような能力を、採用当初から備えていることを求めることはできません。どういう条件で採用したかが、後で問われることになります。

認められやすいケース:特定能力・地位を条件に高給採用された中途採用者

 これに対して、特定の能力を有することを労働契約の条件として高給で採用された社員や、地位を特定して高給で採用された社員が、労働契約で予定された能力を備えていなかった場合には、解雇が比較的認められやすい傾向があります。「その能力があるからこそ、その待遇で採用した」という関係がはっきりしているからです。

 ただし、この比較的緩やかな判断が受けられる前提として、「その契約で求められている能力の内容」や「地位を特定して採用したという事実」を、会社の側で主張立証しなければなりません。ここが抜けていると、せっかくの前提が使えなくなります。ですから、求める能力の内容や地位は、労働契約書等の書面に明示しておくべきです。書面に残っていないと、これらの事実を立証すること自体が難しくなり、「高給で特定能力を前提に採った」という主張が空回りしてしまいます。

よくある会社経営者の誤解

 「採用時の見込みよりずっと能力が低かった。これで解雇できる」→ それだけでは足りません。「見込み違い」は解雇理由として認められません。労働契約で求めた能力を欠いていることを、具体的事実の客観的証拠で立証できる必要があります。

 「長年働いているベテラン社員でも、能力が低ければ解雇できる」→ 原則として難しいです。勤続年数の長い社員の能力不足解雇は認められにくく、長期の雇用の中で能力向上や配置転換の機会を与えてきたかどうかも考慮されます。

03能力不足解雇を有効にするための証拠整備

「具体的事実」の記録が欠かせない

 能力不足を理由とする解雇を有効にするためには、能力不足を示す「具体的事実」を立証できるようにしておく必要があります。抽象的に「能力が足りない」と言ってみても、裁判の場ではほとんど意味を持ちません。

 何月何日に、能力不足を示すどのような具体的な出来事があったのかを、記録に残しておく必要があります。たとえば、「○年○月○日、△△業務において××というミスをし、○件の顧客に迷惑をかけた。その後、□□の指導を行ったが改善されなかった」というように、日時・内容・指導の経過まで具体的に残っている記録が力を持ちます。評価の言葉ではなく、事実の積み重ねが決め手になるということです。

「みんなが知っている」では足りない

 「あの人の能力が低いことは、周りの社員も取引先もみんな知っている」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は、それ単独では証拠としての価値が高く評価されにくいため、紛争が表面化する前に作成された書面等の客観的証拠がないと、解雇の有効性を支える事実を立証するのに苦労することが多いのが実情です。「周知の事実」という感覚と、「証拠で示せる事実」との間の距離を、あらかじめ埋めておく必要があります。

実務でよく見られるパターン

・新卒採用した社員を能力不足として解雇したところ、「長期雇用を予定した新卒社員には能力向上の機会を与えるべきだった」として解雇無効とされた。注意指導・配置転換等の対応を経ずに解雇に踏み切ったことが問題となった。

・専門職として高い年収で採用した中途社員が、期待した成果をまったく出せなかった。労働契約書に専門能力と担当業務を明示していたため、能力不足の事実を立証でき、解雇が有効とされた。

経営上のポイント 能力不足解雇の有効性は、労働契約で求められている能力を欠いているかどうかで判断され、単なる見込み違いでは認められません。長期雇用を予定した新卒採用者・勤続の長い社員・低賃金の社員は認められにくく、特定の能力や地位を条件に高給採用された社員は比較的認められやすい傾向があります。いずれの場合も、採用時に労働契約書へ求める能力・地位を明示しておくこと、そして能力不足の具体的事実を記録した客観的証拠を準備しておくことが欠かせません。能力不足社員の解雇能力不足の立証の進め方は、早めに会社側専門の弁護士にご相談ください。具体的な事情に応じて、実務で使える方針をアドバイスします。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月1日


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