問題社員358 健康状態が良好だというので採用したのに体調が不安定。
動画解説
この記事の要点
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採用取消しは解雇にあたる。虚偽申告があれば一発アウトとはならない 虚偽申告は一事情として考慮されるにとどまる |
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体調安定が本当に業務上重要かで、判断の重みが変わる 採用時に健康の重要性を具体的に説明していたかも考慮材料になる |
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対応するなら試用期間中に。経過してしまうと本採用となり難易度が上がる 試用期間の長さが業務に合っていなければ、見直しも検討する |
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本採用後は、休職制度の有無を確認し、それぞれのルートで対応する 休職制度があるのに退職勧奨するのは論理矛盾になりやすい |
目次
1. 健康良好と聞いて採用したのに体調不安定という悩み
健康状態が良好だと申告されて採用したのに、実際は体調が不安定だった。よくいただくのが「虚偽を理由に採用を取り消せますか」というご相談です。就業規則の冒頭付近に、採用時の申告に虚偽があった場合は採用を取り消せる、と定めている会社も多いでしょう。健康に関する誓約書のようなものを取っている会社もあるかもしれません。本記事では、健康状態が良好だというので採用したのに体調が不安定な社員への対処法を、会社側の視点から解説します。
2. 採用取消しは「解雇」である
解雇規制が適用される
取り消せることもあれば、取り消せないこともある、というのが率直な回答です。「採用の取消し」といっても、これは将来に向かって雇用契約・労働契約を打ち切るものですから、法的には解雇にあたります。解雇である以上、当然に解雇規制が適用されますので、客観的に合理的な理由があるか、社会通念上相当なものであるかを考えたうえで、認められるかどうかを判断していくことになります。
3. 虚偽申告は「一事情」にとどまる
体調不良にもかかわらず「健康状態良好です」と言って入社してきた場合、これが解雇の正当な理由になるかというと、嘘をついたという点は一事情として考慮されますが、本当に働けないくらいの体調だったのかを見ていくことになります。実際に入社した後の勤務状況などを考慮し、雇った目的を達成できるかどうかを中心に検討していきますので、「虚偽があったから一発アウト」とはなかなかいきません。労働契約の目的を達成できなくなるくらい体調が不安定である必要があります。
たとえば、試用期間中に働き始めて早々、1か月に十数日も休んで全然仕事にならないような場合であれば、本採用拒否できるでしょう。ただ、これは虚偽申告があったかどうかというより、実際に働けなかったので正社員としての適格性がない、という理由でも成り立つものです。虚偽申告があったという理由も使えますが、実際働けなかったことと合わせての判断になりますので、虚偽申告だけで一発アウトになることは多くありません。
4. 体調安定が業務上どれだけ重要かで判断は変わる
どんな場合に虚偽申告がとくにまずいのか、解雇の理由になりやすいのかというと、世間一般の業務と比べて体調が安定していることがものすごく大事な仕事かどうかです。人の健康にすごく関わる仕事で、少し間違えると人命に関わってしまうような仕事、あるいは体調が悪いと危険で、本人の生命・身体にも悪影響が及ぶような危険性の高い仕事であれば、重視してもらえると思います。
採用時に健康の重要性を具体的に説明していたかも、考慮材料になる
採用面接の段階から、「このような仕事をやってもらう予定だから、健康はすごく大事な基準で、体調不安定な人はとても任せられない、そこは厳しく審査させてもらうし、入社後体調不安定だと思ったら辞めてもらうからね」と、はっきり詳しく念押しして採用したような場合であれば、結構いけるように思います。多くの会社は、そこまで強く念押しせず、軽く「今健康です」と申告させ、虚偽があれば採用取消しという同意書を取る程度のことを考えていることが多いですが、そういった形式的な備えも意味はあります。ただ、実質が伴うかも大事です。よく見てみると通常の事務仕事で、他の会社で普通にやっている仕事とあまり変わらないレベルのものであれば、他の会社の同種業務と同程度の審査基準で解雇の有効性を審査すればよい、と見られる可能性があります。念押しし、説明し、誓約書まで取っていれば一事情としては考慮されますが、それだけで一発OKとはならないと考えてください。
結局のところ、本当にそんなに体調が不安定だとできない仕事なのか、他の仕事と同程度の必要性なのかを、実質的にも判断されることになります。客観的に合理的な理由があると言えるか。人の生命・健康に関わる重要な仕事、危険性の高い仕事で、本人の安全を守るためにも体調不安定では任せられない、あるいは責任が重く、いきなり休まれると会社全体が回らなくなる、というものであれば、解雇の有効性判断でも重視されるでしょう。逆に、他に代わりがいて、休んでも他の人がフォローできるようなものであれば、実際にどれだけ働けるのかが重要になってきます。
5. 大幅な欠勤なら試用期間中に決着させる
実際にこうした方を採用してしまい、初日から休み始めた、あるいは1か月で10日以上も休んでしまった、という場合は、試用期間中に決着をつけましょう。さすがに半分も出勤できないような方であれば、本採用拒否できます。これも解雇ではありますが、半分以上休むような方であれば有効になる可能性が高いといえます。特別な事情がない限り、大体認められます。さらに言えば、半分以上休むような方は、話し合いで合意退職がまとまりやすい傾向もあります。「さすがにこれでは本採用できないので退職届を出してください」と言っても、応じてくれる方が多いでしょう。微妙なさじ加減のものについては、退職条件を話し合って合意退職という形にするのがよいと思います。
6. 試用期間を経過させてしまうことのリスク
大事なのは、試用期間中に話をつけることです。ついつい試用期間を経過してしまうケースが結構あり、これだと大変になります。
試用期間中は納得感が得やすい。経過すれば本採用とみなされる
試用期間中であれば、本人の納得感が得られやすいのです。「試用期間だから仕方ないか」と思ってもらいやすく、合意退職や退職届の提出にも応じてもらいやすく、解雇しても争われにくい傾向にあります。逆に、本採用拒否をせず試用期間が経過したらどうなるでしょうか。「自分は体調が不安定だったかもしれないが、本採用された、試用期間中に解雇されなかったということは、この程度の体調でもこの仕事をやっていいのだ、雇い続けるということだ」と解釈するのが普通です。働く側からすれば当然そうなります。「よかれと思って」ゆっくり様子を見ているうちに試用期間が経過してしまうと、その後、辞めさせにくくなるのです。本採用拒否をせず試用期間が経過すれば、本採用通知を出していなくても本採用になります。対応するなら、試用期間中に話をつけて辞めてもらうか、解雇するかしなければなりません。そうしなければ、本人は本当に受け入れられたと思っていますから、「なぜ今更辞めなければならないのか」と言われてしまいます。
解雇の有効性についても同じことが言えます。こんなに体調不安定なのがだめなら、本採用しないはずだ、試用期間中に本採用拒否するはずだ、と裁判官からも見えてしまいます。だから、試用期間中に話をつける必要があるのです。「この期間だと無理なんですよ」というご相談もあります。「うちの会社の試用期間は3か月だが、辞めてもらう決断がついたのは4、5か月経ってから」というケースです。ただ、試用期間を3か月にしたのは自社で決めたことです。3か月では判断がつかないというなら、試用期間を3か月にすべきではありません。判断に必要な期間は業務によって違いますから、3か月では判断がつかない業務であれば、6か月程度に試用期間を延ばすなどの工夫が必要になります。
試用期間中の解雇は、本採用後よりハードルが下がる
解雇の有効性・本採用拒否の有効性についても、本採用後と比べてハードルは下がります。イメージとしては、本採用後は80センチのハードルを越えなければならないのが、試用期間中は60センチでよくなる、というくらいの違いです。「試用期間中の解雇でも意外と負けているケースがある」と聞いたことがあるかもしれませんが、それは60センチのハードルすら越えられていなかった、というだけの話です。どうせ解雇するのであれば、本採用する前、試用期間中に行うのが大事です。ただし、その60センチのハードルにさえ届かない場合は、解雇できないのは仕方ありません。その場合は、退職条件を交渉して辞めていただく工夫が必要になります。
7. 本採用後の対応(休職制度の有無で分かれる)
本採用拒否せず試用期間が経過してしまった場合、どう対応すればよいでしょうか。まず、私傷病休職制度の適用があるかどうかを確認する必要があります。休職制度がある会社は結構あり、適用したことがないと思っていても、就業規則に書いてあることがあります。休職制度は法律上必須の制度ではありませんので、設けたくなければ書かなければよいものですが、実際には書いてあることが多いのです。試用期間中の方には適用がないと定めている会社もあれば、本採用後は即適用対象になる会社もありますので、就業規則のチェックが必要です。
休職制度があるのに退職勧奨するのは論理矛盾
私傷病休職制度の適用があると分かった場合は、所定の日数欠勤させたうえで、それでも治らなければ休職をスタートさせ、休職期間満了までに治らなければ退職していただく、というルートになります。休職制度のない会社であれば、長期間の欠勤は普通解雇の対象になりますので、普通解雇の条文を根拠として解雇を検討してください。就業規則がない会社でも普通解雇はできます。解雇に先立ち、合意退職を目指して退職勧奨を行うのが通常です。他方で、休職制度があるのに退職勧奨をしたいという相談を受けることもありますが、慎重に進めてください。私傷病で働けなくなっても休職できる、安心して働いてくださいという制度をわざわざ作っておきながら、体調が悪くなったから辞めてもらいたいと退職勧奨するのは、論理矛盾になりかねないからです。休職を取らせ、休職期間満了までに治らなければ退職、というルートが基本です。それでもなお休職制度を使わず辞めてもらう方向に進めたいのであれば、特別な事情がある場合に限定し、その事情がある場合は弁護士にご相談ください。
8. まとめ
- 採用取消しは「解雇」にあたる。解雇規制が適用される
- 虚偽申告は一事情として考慮されるにとどまり、一発アウトにはなりにくい
- 体調安定が業務上どれだけ重要かで判断の重みが変わる。採用時の説明の有無も考慮材料になる
- 大幅な欠勤があれば、試用期間中に本採用拒否や合意退職で決着させる
- 試用期間を経過させると本採用となり、後から辞めさせにくくなる。期間が短すぎるなら見直す
- 本採用後は、休職制度の有無を確認し、それぞれのルートで対応する。休職制度との整合性に注意する
健康状態良好だと聞いて採用したのに体調が不安定だったというケースは、虚偽申告があったからといって即座に解雇できるわけではありません。業務の性質、採用時の説明の有無、そして何より対応のタイミングが、解雇や本採用拒否の有効性を大きく左右します。試用期間中に決着をつけること、試用期間の長さが自社の業務に合っているかを見直すこと、休職制度との整合性を意識することが、リスクの少ない対応につながります。こうしたケースにお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 健康状態について虚偽の申告があれば、採用を取り消せますか。
A. 採用取消しは法的には解雇にあたり、解雇規制が適用されます。虚偽申告があったこと自体は一事情として考慮されますが、それだけで自動的に解雇が認められるわけではありません。本当に労働契約の目的を達成できないほど体調が不安定だったかどうかが、実際の勤務状況などを踏まえて審査されます。誓約書を取っておくことには一定の意味がありますが、それだけで一発解雇が認められるわけではないと理解しておく必要があります。
試用期間内に決断できず、本採用の時期を過ぎてしまいました。
A. 本採用拒否をせずに試用期間が経過すると、本採用通知を出していなくても本採用となり、その後は本人の納得感を得るのが難しくなります。解雇の有効性も、本採用後は試用期間中よりハードルが上がります。判断に必要な期間が3か月では足りない業務であれば、試用期間自体を6か月など長めに設定するといった見直しを検討してください。今後同様の判断が必要になる場合に備えて、制度自体の見直しが有効です。
私傷病休職制度がある場合、退職勧奨してもよいですか。
A. 休職制度があるにもかかわらず、それを使わせずに退職勧奨するのは、論理的に矛盾していると評価されるおそれがあり、慎重な対応が必要です。基本的には、所定の日数欠勤させたうえで休職を開始し、休職期間満了までに回復しなければ退職していただく、というルートが適切です。それでも休職制度を使わず退職を求めたい特別な事情がある場合は、弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。
最終更新日:2026年7月19日