問題社員346 若手社員より仕事ができない中途採用社員。

動画解説

この記事の要点

✓

やる気がないというより、多くは「向いていない」だけ。本人に悪気はない

別の仕事なら才能を発揮できる可能性もある

✓

配置転換が難しい中小企業では、退職していただく方向も選択肢になる

本人にとっても、向いていない仕事を続けるより、他社での再スタートが良い場合がある

✓

対応するなら試用期間中が望ましい。納得感を得やすく、解雇のハードルもやや低い

それでもハードルがなくなるわけではない。客観的合理的理由・社会通念上の相当性は必要

✓

退職を求める理由は、抽象的な評価でなく具体的な事実で説明する

説明できないと、退職条件(相場)が高くなりやすい。事実ベースの説明はパワハラのリスクも下げる

1. 若手より仕事ができない中途社員という悩み

中途採用した社員のやる気が感じられず、入社したばかりの若手社員でもできるような仕事もできない。若手社員より給料が高いこともあり、周りの不満が溜まっている。中小企業のため部署異動も難しい。どうすればよいか。こうしたご相談をいただくことがあります。本記事では、若手社員より仕事ができない中途採用社員への対処法を、会社側の視点から解説します。

2. 多くは「向いていない」だけ。本人に悪気はない

この相談の内容からすると、かなりの確率で、その方は今やっている仕事に向いていないのでしょう。体調が元々悪かったという事情がないのであれば、自分に向いていない仕事に就いている可能性が高いといえます。だとすれば、やる気が感じられないのも、若手社員でもできる仕事ができないのも、ある意味仕方がないことです。

わざとサボっているのではなく、やろうとしてもうまくできない

わざとサボっているというより、向いていないから、サボる気がなくても力が入らず、結果も出せない。こういうケースが、経験上多くを占めると感じています。もちろん、本当はできるのにわざとサボっている、というケースもあるかもしれませんが、ほとんどのケースは違います。「やる気を出せ」と言われても出せない、やらなければいけないのは分かっているけれど、その気になれない。そういうケースがほとんどです。本人には悪気がなく、できないのです。

3. 別の仕事なら才能を発揮できる可能性もある

人の能力は、絶対的・全般的なトータルの数値のようなものとして考えるべきものではありません。仕事は職場でするものです。今の仕事との関係でどれだけできるかが問題なのであって、この方は、今の仕事ではうまくできなくても、別の仕事になった途端、優秀に仕事ができる可能性だってあるのです。

一つのことがだめでも、別なことならできる

自分だったら当然のようにできるのに、なぜかできない人がいる。逆に、自分では絶対無理だと思うことを、すらすらと簡単にできてしまう人がいる。誰しも、こうした場面を経験したことがあるのではないでしょうか。それと同じで、この方は今たまたまこの仕事はできないかもしれませんが、他の仕事だったら才能を発揮できるかもしれません。向いていない仕事を続けていると体を壊しやすく、下手をすると適応障害などの診断書が出てくるかもしれません。本人が活躍できる場を見つけてあげるという意味でも、別の仕事に就けることを考える価値があります。

4. 配置転換が難しいなら、退職も選択肢に

もっとも、企業規模が中小企業で、部署異動も難しいということであれば、自社内で本人に向いている仕事を見つけられない可能性が高いといえます。検討してみた結果、向いている仕事が見つかることもあるでしょうが、配置転換が難しいということであれば、それもきついかもしれません。

本人のためにも、周りのためにも退職という選択肢

こうした場合、退職していただいて、他の会社に移っていただくことも大事な選択肢になります。本人だけの話ではありません。自分より給料の高い人が、普通の若手社員より仕事ができない、となれば、「なぜこんな人より自分の給料が低いのか」と周りの不満が溜まるのも当然でしょうから、そちらへのケアも必要になってきます。

5. 対応するなら試用期間中(納得感とハードルの違い)

退職していただくタイミングとしては、試用期間中が望ましいといえます。一番の理由は、納得感が得られやすいからです。試用期間のある会社で、試用期間が経過して本採用されると、「自分はこの会社に受け入れてもらったのだ、普通にやっていれば定年まで少なくとも勤められるだろう」と思うのが普通です。ところが、試用期間中に何も言わず本採用しておいて、試用期間終了後になって急に「能力が低い、やる気が感じられない」と言われると、言いがかりをつけられているように感じてもしょうがありません。「だったら、もっと早く言ってくれればよかったのに」と思う人がいるのも仕方のないことです。試用期間中に話をつければ、「試用期間中だったらしょうがないか」と思ってくれる人も多いものです。

本採用拒否・解雇のハードルは、試用期間中のほうがやや低い

本採用拒否・解雇の有効性の判断にあたっても、試用期間中のほうが有効になりやすいといえます。もっとも、試用期間中だからといって、簡単に本採用拒否・解雇できるわけではありません。解雇には客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が必要であることに変わりはなく、ハードルが下がるといっても、超えなければならない一定の水準がある、というイメージです。それでも、試用期間経過後とはずいぶん違いますから、本採用拒否・解雇を検討する場合であっても、試用期間中に決着をつけておくことが大事なのだと思います。

6. 退職に納得してもらうための事実ベースの説明

すでに試用期間が経過してしまった、というご相談も多くあります。試用期間経過後は、試用期間中よりも納得感を得る難易度が上がり、解雇のハードルも上がります。まずはこれを前提として理解したうえで対応する必要があります。難しいと感じる場合や、解雇が有効にできると思える場合であっても、まずは合意で辞めていただく努力をしましょう。会議室でしっかり時間を取り、面談で話をします。

「なぜ辞めなければならないのか」を具体的事実で説明する

大事なことの一つが、辞めなければならない理由の丁寧な説明です。「やる気が感じられない」「給料の割に能力が足りない」といった大まかな説明で終わっているケースが多いのですが、それでは相手を説得するには不十分です。単に自分のことが嫌いで、嫌がらせや気分で辞めさせようとしているように、相手には受け止められがちです。ですから、どういった言動があったからそのような評価ができたのかを、具体的に伝える必要があります。たとえば、「何月何日の何時ごろ、あなたは、新入社員であれば1日10個できる仕事を3つしかできませんでした。まずいということで面談し、頑張ってみますと言ったのに、翌日も3つしかできませんでした」というように、事実をベースに説明することが大切です。

事実に基づく説明は、むしろパワハラのリスクを下げる

事実をしっかり確認して伝えると、パワハラになるのではないかという質問を受けることも多いのですが、逆です。実際にあった事実をしっかり伝えることで、違法なパワハラだと評価されることはほとんどありません。大抵は、事実の裏付けもなく評価的な言葉を気軽に伝えた結果、それがパワハラだと言われてしまうのです。実際にあったことを伝えて、それがパワハラだと外部で認められるケースは、本当に少ないものです。実際にあった事実をベースに話すようにすると、いつ・どこで・どのように・どんなことをやったのが問題なのか、それに対してどう注意指導するのか、どう改めるよう指導するのかも、具体的に考えられます。事前の対応もしやすくなるのです。

7. 説明できないと退職条件が高くなりやすい

もう一つ大事なのが、退職条件の提示です。具体的な理由を説明できず、単に「頭が悪い」「結果が良くない」「やる気が感じられない」といった理由で辞めてほしいと話すと、納得してもらうのが大変で、同意してもらいにくくなります。最終的に話が付かないケースすらあります。

「本人も分かっているはず」という思い込みに注意

「自分のやる気がないことや出来が悪いことは、本人も分かっているはずだ、わざわざ言う必要はない」と思い込んでいる社長は少なくありませんが、本人がそう思っていないことも結構あります。せいぜい薄々そうかなと感じている程度の人もいますが、それなりにやっているつもりで、「言いがかりだ、自分が嫌いだからこんなことを言うのだ」と本気で思っている方もたくさんいます。ですから、具体的に辞めなければならない理由を事実に基づいて説明できないと、退職にあたって支払うお金の額が高くなりがちです。「認めないなら辞めません」という話になることも、実際によくあります。本来払わなくてよいお金を上積みで払うのを防ぐためにも、辞めなければならない理由を具体的に説明できるようにしておきましょう。

8. まとめ

  1. やる気がないというより、多くは「向いていない」だけ。本人に悪気はない
  2. 別の仕事なら才能を発揮できる可能性もある。向いていない仕事の継続は体調悪化のリスクにも
  3. 配置転換が難しいなら、退職していただく方向も選択肢になる。周りへのケアも必要
  4. 対応するなら試用期間中が望ましい。納得感を得やすく、解雇のハードルもやや低い(ただし相当性は必要)
  5. 退職を求める理由は、抽象的な評価でなく具体的な事実で説明する。事実ベースの説明はパワハラのリスクも下げる
  6. 説明できないと退職条件(相場)が高くなりやすい。まずは合意退職を目指す

仕事ができない社員をいつまでも抱え続けるわけにはいきませんし、給料の高い方が仕事できないとなれば、若い社員たちが不満に思って会社を辞めてしまうかもしれません。多くのケースは適性の問題であり、本人に悪気はないという前提を理解したうえで、試用期間中の早めの対応と、事実に基づいた丁寧な説明を心がければ、本人にも納得してもらいやすくなります。大変な対応になりますが、こうしたケースにお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 試用期間中なら、簡単に本採用を拒否できますか。

A. 試用期間中は、試用期間経過後と比べて解雇・本採用拒否のハードルがやや低くなる傾向があります。ただし、簡単にできるわけではありません。客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が必要であることに変わりはないためです。それでも、試用期間経過後とは判断の傾向が異なりますので、対応するなら試用期間中に決着をつけることをおすすめします。

Q2. 「能力不足だ、やる気が感じられない」と伝えるだけでは、なぜだめなのですか。

A. 抽象的な評価だけでは、相手に「自分のことが嫌いだから、嫌がらせで言っているのだ」と受け止められがちです。何月何日に、どのような仕事を、どの程度できなかったのか、といった具体的な事実に基づいて説明することで、初めて納得してもらいやすくなります。実際にあった事実をしっかり伝えることは、パワハラと評価されるリスクを下げることにもつながります。むしろ、事実の裏付けのない評価的な言葉のほうが、パワハラだと言われやすい傾向があります。

Q3. 退職に納得してもらえず、条件面での折り合いもつきません。

A. 辞めなければならない理由を具体的な事実で説明できていないと、本人が納得できず、退職条件の交渉で提示額が高くなりがちです。「本人も自分の能力不足を分かっているはずだ」という思い込みは危険で、本気で「言いがかりだ」と感じている方も少なくありません。まずは合意退職を目指し、具体的な事実に基づいて丁寧に説明することが、無用な上積みを防ぐことにつながります。

最終更新日:2026年7月19日


Return to Top ▲Return to Top ▲