問題社員342 試用期間経過後すぐに適応障害を発症した中途社員。

動画解説

この記事の要点

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「依願退職させる」は言葉として矛盾している。実態は退職勧奨

建前と実際がずれると、かえって話がこじれる。会社の方針を正面から決める

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適応障害の診断がある以上、体調悪化への配慮(安全配慮義務)が最優先

「ここに居場所はない」と伝わること自体が、体調悪化のリスクになりうる

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最も失敗の少ないやり方は、私傷病休職制度を淡々と運用すること

こうした利用者が出るのは制度上想定の範囲内。制度自体を会社が作った以上、当然の利用

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「戦力にならない」懸念は、復職時のチェックを厳格にすることで対応する

主治医の診断書だけで復職させない。制度設計を見直すのは経営者の責任

1. 試用期間経過後すぐに適応障害を発症した中途社員という問題

中途入社した社員が、試用期間経過後すぐに適応障害の診断書を提出し、休職し始めた。前の職場でも休職していたそうだ。依願退職させることはできないか。こうしたご相談に対する回答を、本記事では解説していきます。

2. 言葉の整理(「依願退職させる」の矛盾)

まず最初に、ここで出てきた「依願退職させる」という言葉が適切かどうかを考えてみる必要があります。会社の方から辞めてもらいたくて、退職の方向へ誘導しようとしているわけですから、結果として依願退職に至るケースはあるにせよ、どちらかというと「退職勧奨」という言葉がぴったりくると思います。辞めるよう主体的に会社から働きかけて退職勧奨をし、合意退職に持っていきたい。そう考えたほうが、実態に合った言葉の整理になるはずです。

「依願退職させる」は言葉として矛盾している

依願退職というのは、自分から願い出て退職するケースを指します。それを「依願退職させる」とこちらから要求するのは、言葉として無理があります。実際には退職勧奨だと言われても仕方がありません。もちろん、理論的には「働きかけて自主的に退職してもらう」とも言えなくはありませんが、日本語として違和感が強いものです。実体としては、退職勧奨をして辞めていただく、というものなのだと思います。

3. 建前と実際をずらさない

もしかしたら、「自分から辞めると言い出してほしい、会社から働きかけたようには見えないようにしたい」というご要望かもしれません。ただ、そういうやり方をすると、恐る恐る「退職してほしいのですか、辞めてほしいのですか」と聞かれたとき、「いや、そんなことはないのだけど、あなたのためを思って」などと言って、一体何を言いたいのか、やりたいのかよく分からないような会話になりがちです。

建前と実際が違うと、トラブルになりやすい

ここは、会社の方針をしっかり決めて、その方針に則ったやり方で進めることが大切です。建前と実際が違うと、トラブルになることが多いのです。一体何をやりたいのかを会社として決め、下手に隠さずに進めていただいたほうが、かえってすっきりするのではないかと思います。

4. 最優先は体調悪化への配慮(安全配慮義務)

今回のようなケースで大事なのは、体調悪化への配慮です。適応障害の診断書が提出されているわけですから、依願退職への誘導であれ、退職勧奨であれ、「辞めてください」と辞める方向に誘導しようとする意図が、相手に見えてしまいます。それを実現しようとすると、相手からすれば、はっきり「辞めてください」と言われるのか、それとも辞めてほしそうな言動をにおわせてくるのかは別にしても、いずれにせよ、「自分の居場所はこの会社にはない」ということが、会社の側から態度や言葉で示されてしまいます。

「居場所がない」と伝わること自体が、体調悪化の懸念になる

想像してみてください。すでに適応障害を発症している中で、「辞めてほしい」と言われれば、ますますストレスがかかるケースが、やり方次第ではあるでしょう。もちろん、こんな適応障害を起こすような状態であれば、いっそ会社を辞めたほうがすっきりしてストレスから解放される、というケースもあるでしょうが、しっかり気を使って対応しないと、体調を悪化させてしまうケースもあるため、注意が必要です。会社には、安全配慮義務といって、働いてくれている社員たちの体調が悪化しないよう配慮する義務があります(労働契約法5条)。会社経営者の立場からすれば、体調が悪化しないよう配慮しながら対処していく必要があります。

5. 最も失敗の少ないやり方(制度どおりの運用)

すでに休み始め、休職と呼んでいる状態になったのであれば、最も失敗の少ないやり方は、普通に制度どおりの対応をすることです。所定の日数欠勤しても治らなければ休職をスタートさせ、休職期間満了までに働けるようになれば復帰していただく。そこまでに治らなければ退職していただく。そうした制度どおりの運用をするのが、基本的な対応になります。

こうした方が出てくるのは、制度上、想定の範囲内である

「前の職場でも休職していたような方だから、また休職ばかりで戦力にならないのではないか」と考える方もたくさんいらっしゃるでしょうし、実際そうなることも少なくありません。しかし、冷静に考えてみてください。この休職制度を作ったのは会社です。しかも、この方を採用したのも会社であり、試用期間中には、大きな問題行動を拒否するような問題は見つけられなかったはずです。となると、こうした方が出てくるのは、ある意味想定の範囲内なのです。この制度がおかしいと言うのであれば、制度を変えればよいだけです。休職制度は元々なくてもよい制度で、解雇を猶予するために、私傷病休職制度をわざわざ会社が作っているのです。「この制度を設けることで、安心して長く働いてくださいね」という制度のはずです。安心して長く働いてほしくて作った制度なのであれば、制度を利用するのは当然の労働者の権利でもありますので、よほどの事情がない限りは、普通に休職を利用させ、休職期間満了までに治らなければ退職していただく、という扱いでよいのではないでしょうか。もしこれがおかしいということになれば、そもそも制度自体が自社に合わないということですから、そんな制度は作るべきではなかった、という話になります。

6. 「また休職するのでは」という懸念への対応(復職チェック)

制度自体に大きな問題はなくても、チェックが甘いことはあります。「そんなことを言っても、また働けない状態で復職してきたらどうするのか」と思われるかもしれませんが、それは別の話で、しっかり復職時のチェックをすればよいのです。ひどい場合、主治医から復職可の診断書が出ただけで、自動的に復職させている職場もあります。そういう職場に限って、「診断書が出たから戻したら、全然使い物にならない、全然働けない、また体調を崩して休み始めた、どうすればよいですか」というご相談を、とても多くいただきます。

主治医の診断書だけを重視しすぎているのが原因

何がいけないかというと、主治医の診断書だけをあまりに重視しすぎて、すぐに戻しているから良くないのです。本当に働けるかどうかのチェックをしていない、していないとまでは言わなくても、甘いからです。主治医は、日常生活はとりあえず送れるでしょう、というくらいの水準で「復職可」の診断書を書くことが少なくありません。今やっているこの仕事を、普通に働けるのか、近い時期にはしっかり働けるようになるのか、というところまでしっかりチェックしていないことが多いのです。ですから、働けないのに戻ってくるのではないかという懸念には、復職時のチェックをしっかり行うことで対応できます。産業医面談をして、仕事の中身をよく把握している産業医の意見を聞いて復職させるかどうかを決めたり、休職期間中に試しに出社させ、始業時刻までに出社できるような体調かどうかをチェックしたり、本人の同意を得て主治医と面談し、本当にこの仕事ができるのかを確認したり、場合によっては主治医への問い合わせを行ったりするのも一つの手です。もちろん、問い合わせに回答が来なかったり、主治医が面談してくれなかったりすることもありますが、その事情も考慮したうえで、働けるかどうかを確認していただくべきだと思います。

あわせて、休職期間の通算規定などを設けるといった、事前の備えもいろいろあります。こうしたことをしっかりやっていただくことが大事なのではないでしょうか。

7. 制度設計は経営者の責任である

「依願退職を、本人から遠回しに言い出してくれないかな」と考えるよりも、経営者としては、どうするのかを主体的に考えるべきです。まず第一に、休職制度の利用が制度となっているのであれば、それを利用させるべき、という結論になりそうです。もしこれがおかしい、結果として自社に合わないということであれば、休職制度自体にメスを入れるべきです。これを考えるのは経営者の仕事です。現場の対応自体は他の社員に任せることができても、経営者や上級管理職の立場からすれば、どんな制度設計が自社に合っているのかを考えていかなければなりません。これは現場の社員では対応できません。制度設計は、会社経営者や管理職が考えていくべき問題であり、とくに社長の決断・判断・検討が非常に大事になってきます。

それでも退職勧奨をするなら、リスクをよく考える

それでもなお、体調悪化の懸念をしっかり踏まえたうえで、上手に退職勧奨する自信があるというのであれば、やっていただいてもよいと思います。ただ、やはりリスクは高いといえます。元々適応障害の診断書が出ている方だからです。そのリスクを負いながら踏み込むことを、本当にする必要があるのかは、よくよく考えてみるとよいと思います。事情もよく聞いたうえで、休職制度の利用などをしていただくのが、無難と言えば無難でしょう。それ以外のやり方は、少し難易度が高いかもしれません。ただ、働く側にとってもばつが悪いもので、こちらとしては辞めさせる気がなくても、普通の対応を淡々とやっていたら、本人から自然に依願退職してくる、というケースも実際には多くあります。依願退職に持っていこうと考えなくても、結果として出てくることも少なくないのです。

逆に、自分から辞めると言ってこない方に働きかけて辞めさせようという発想を持つと、トラブルの元になります。体調悪化にもなりやすいのです。そもそも、そのやり方は、今の休職制度自体が自社に合っていない、と言っているようなものですから、会社経営者としては見過ごせない事態です。もし今回の件だけでなく、複数の案件で休職制度の利用が自社に合わないと感じるのであれば、それは制度自体を変えていかなければなりません。何が自社の職場に合っているのかを考えるのは、会社経営者の責任です。とにかく大事なのは、現場の対応よりも、制度設計自体から考えていくこと。これが、経営者にとって最も大事なポイントです。

8. まとめ

  1. 「依願退職させる」は言葉として矛盾している。実態は退職勧奨と正しく認識する
  2. 建前と実際をずらさず、会社の方針をはっきり決めて進める
  3. 適応障害の診断がある以上、体調悪化への配慮(安全配慮義務)を最優先する
  4. 最も失敗の少ないやり方は、私傷病休職制度を淡々と運用すること。こうした利用は想定の範囲内
  5. 「戦力にならない」懸念は、産業医面談や試し出社など、復職時のチェックを厳格にすることで対応する
  6. それでも退職勧奨するならリスクをよく考える。制度設計は経営者の責任である

試用期間経過後すぐに適応障害を発症した中途社員への対応は、体調悪化への配慮と、会社としての制度運用の両立が求められる難しい問題です。無理に退職へ誘導しようとするよりも、私傷病休職制度を淡々と運用し、復職時のチェックをしっかり行うほうが、リスクは低く、失敗も少なくなります。そのうえで、こうした事例が繰り返し起こるようであれば、それは現場の問題ではなく制度設計の問題ですから、経営者として休職制度そのものを見直すことを検討してください。こうしたケースにお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 試用期間直後に休職に入った中途社員を、辞めさせることはできますか。

A. 会社側から積極的に辞めるよう働きかけるのは、法的には退職勧奨にあたります。適応障害の診断がある方への退職勧奨は、体調を悪化させるリスクが高く、慎重な判断が必要です。最も失敗の少ないやり方は、私傷病休職制度を淡々と運用することです。休職期間が満了しても働けるようにならなければ退職とする、という制度どおりの扱いであれば、無理な誘導をせずに済みます。

Q2. 前の職場でも休職していた社員です。制度を利用させてよいのでしょうか。

A. 利用させてよいと考えられます。休職制度は、会社が解雇を猶予するために任意に設けた制度であり、安心して長く働いてもらうためのものです。要件を満たしたうえでの利用を非難することは、原則としてできません。前職での休職歴があったとしても、採用時にそれを踏まえて雇い入れた以上、こうした利用者が出ることは、ある意味制度上想定の範囲内といえます。もし自社に合わないと感じるのであれば、それは個別対応の問題ではなく、制度設計自体を見直すべき問題です。

Q3. 休職から戻ってきても、また働けない状態だったらどうすればよいですか。

A. この懸念は、復職時のチェックを厳格にすることで対応できます。主治医の「復職可」の診断書だけで自動的に復職させると、実際には働けない状態で戻ってきてしまうことが少なくありません。産業医面談で仕事の内容を踏まえた意見をもらう、試し出社で始業時刻に出社できる体調かを確認する、本人の同意を得て主治医と面談するなど、複数の方法を組み合わせて確認してください。あわせて、休職期間の通算規定を設けておくことも有効です。

最終更新日:2026年7月19日


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