問題社員333 「パワハラをしている社員にパワハラを認めさせる方法はありますか」という質問への回答
動画解説
この記事の要点
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出発点は「パワハラかどうか」で考えないこと 大事なのは、パワハラと評価するに値する言動があったかどうか。定義の暗記では答えは出ない |
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具体的な事実が確定すれば、評価は後からできる いつ・どこで・誰が・誰に・どのように・何をしたのか。事実が固まれば、懲戒や解雇の可否も判断できる |
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事実は、被害者・目撃者・客観資料から丁寧に確認する 「パワハラされました」では足りない。5W1Hで具体的に聞き取る |
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被害者の名前を出せるかが、対応の分かれ道になることがある 客観証拠も目撃者も乏しい場合、名前を出さずに踏み込んだ対応をするのは難しい |
目次
1. 「パワハラを認めさせる方法はあるか」という相談
パワハラの問題が起きたとき、加害者とされる方を聴取しても「パワハラなんてしていません」と言われることがあります。誰も見ていないところで何かをやったと思われ、みんなが嫌な思いをしているらしいと分かっていても、「パワハラをやったと聞いたが、どうなのか」と尋ねて「やっていません」と答えられたら、どうするのか。これは、経営者にとって、あらかじめ考えておくべき大切な課題です。本記事では、「パワハラをしている社員にパワハラを認めさせる方法はありますか」という質問への回答を、会社側の視点から解説します。
2. 発想を転換する(「パワハラかどうか」で考えない)
こうした疑問が浮かんだら、まず「そもそもパワハラとは何のことを言っているのか」を考えてみてください。これは、パワハラの定義を勉強しても答えは出ません。そうではなく、一体、何を言ったり、やったりしたから、パワハラをしたと言っているのか、ということです。
大事なのは「言動があったかどうか」
ここで発想を転換しなければなりません。大事なのは、パワハラをやったかどうかではなく、パワハラと評価するに値するだけの言動があったのか、なかったのかです。参考までに、パワハラは、法律上、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、と整理されています(労働施策総合推進法)。しかし、この定義を暗記しても、そもそも何があったのかという事実が分からなければ、あてはめようがありません。
3. 事実が確定すれば、評価は後からできる
実際に言ったこと、やったことが確定してしまえば、それがパワハラなのか、不法行為でいう違法行為に当たるのか、懲戒事由に該当するのか、解雇に値するのか、といった評価は、後から判断できます。逆に、一体何があったのかが分からなければ、たとえ本人が「確かにパワハラをしました」と言ったところで、後で全部ひっくり返るかもしれません。「パワハラをやったと言ったが、大したことでもないものをパワハラと呼んで認めただけだ」と言われれば、実際に言ったこと・やったことを証明できない限り、それを理由に解雇でもしようものなら、裁判ではひっくり返る可能性が高いのです。
証明できなければ、社員を守れない
懲戒処分や解雇の有効性が裁判で争われた場合、その根拠となる事実(問題の言動)は、基本的に会社の側が立証しなければなりません。事実を特定して証拠として確保できていれば、裁判にも対応できます。しかし、「パワハラをやった・やっていない」という議論だけでは、懲戒処分がひっくり返ったり、被害を受けた社員を守るためにした解雇が無効になったりして、かえって社員を守れなくなってしまうことがあります。だからこそ、いつ・どこで・その人が・どのように・何をやったのか、という事実が大事なのです。
4. 質問は「事実を認めさせる方法」に変える
ですから、弁護士にする質問も、変える必要があります。「パワハラをやったと認めさせる方法はないか」と聞くと、話が空中戦になってしまい、ほとんど意味をなしません。そうではなく、「この人が、今日の午後2時ごろ、どこそこで、誰々さんに対して、大声でこういう暴言を吐いたのに、本人がしらばっくれている。どうすればその事実を立証できるか、あるいは本人に認めさせることができるか」という、具体的な事実に即した質問にすべきなのです。これは前向きで、意味のある問いです。あくまで「パワハラかどうか」ではなく、「何を言ったり、やったりしたのか」という事実ベースで物事を考えていただくと、対応がぐっと進めやすくなります。
5. 事実を確認する方法(被害者・目撃者・客観資料)
本人がしらばっくれている場合、基本的には、被害者とされる方からの聞き取りを行うのが通常です。目撃者がいれば、あるいはメールや録音などの客観的な資料が残っていれば、それらもあわせて使っていきます。しかし、客観的な資料や目撃者に乏しい場合には、被害者ご本人から、どんなことがあったのかを聞いていく必要があります。
「パワハラされました」では足りない
ここでも大事なのは、「パワハラされました」ではだめだ、ということです。何月何日の何時ごろ、どこで、この方に、どのように、何をされたのかを、はっきりさせないといけません。そうした聞き取りを行ったうえで、加害者とされる方に「あなた、こういうことをやったのか」と確認していくと、中身のある聞き取りになります。あいまいなまま加害者に問いただしても、水掛け論に終わってしまいます。
6. 被害者の名前を出せるかという壁
ここで、気づかれた方もいらっしゃると思います。加害者とされる方に「こういうことを聞いているのだが」と話すには、被害者とされる方の名前を出さざるを得なくなることが多いのです。ところが、被害を受けたとされる方の中には、「今後もこの職場で付き合っていかなければならないので、表に立ちたくない、名前を出さないでほしい」とおっしゃる方が、大勢いらっしゃいます。
客観証拠も目撃者も乏しい場合は、踏み込んだ対応が難しくなる
被害者を特定せずに懲戒処分をするのは、なかなか大変です。客観的な証拠があり、なおかつ目撃者もいる場面であれば、本人の意向にかかわらず、諸事情を考慮したうえで処分をすることもありえます。しかし、客観情報が少なく目撃者もいない中で、加害者とされる人物に「こんな被害があった」と話せば、被害者が話したに決まっている、と相手に伝わってしまいます。それが嫌だという被害者は、かなりの割合でいらっしゃいます。その場合には、「名前を出さないのであれば、本件で懲戒処分をするのは難しい。どうしますか」と、本人の言い分などを聞いたうえで、その後の対応を考えていくことになります。なお、ハラスメントの相談者や被害者に対して、相談したことを理由とする不利益な取扱いをしてはならず、プライバシーへの配慮も求められますので、この点にも注意が必要です。
具体的な事実を具体的に話すのが難しい状況では、聞き取りも注意指導もあまりできなくなります。その場合は、そうした情報があることを踏まえて、本当にこの方にパワハラ的な言動がないか、今後しっかり見ていく、という程度の対応にとどまることもあります。ですから、被害者とされる方からの事情聴取にあたっては、事実をしっかり聞き取ることに加え、名前を出せないと踏み込んだ対応が難しくなるという事情も、よくよく説明したうえで対応していく必要があります。
7. 面談で事実を引き出す
被害者が名前を出してよいということであれば、具体的な事実、すなわち何月何日の何時ごろ、どこで、この方が誰々さんに対して、どのように何をやったのか、という事実について議論できます。本当にあったことであれば、しらばっくれるにも限度がありますから、対話の中で事実に迫っていくことができるはずです。
会議室で、面と向かって、事実をベースに話す
具体的なやり方としては、会議室での面談が中心になります。その場で面と向かって嘘をつくのは、大多数の人にとって大変なことだからです。社長を相手に、会議室で平気で嘘をつき続けるのは、相当なプレッシャーと心理的抵抗を伴います。もちろん、嘘をつくのが平気だという例外的な方もいるかもしれませんが、多くのケースでは、ある程度は本当のことを話さざるを得ません。事実をベースに「これこれこういうことをやったと聞いているのだが」と話してみると、ある程度は事実に近いことを言うものです。自分に有利な方向に多少アレンジしたり、不利な部分を「忘れました」と言ったりする傾向はありますが、ベースとなる出来事自体は認める、ということも多いのです。こうした聞き取りを、丁寧に行っていきましょう。
8. まとめ
- すべての出発点は、「パワハラかどうか」で考えないことである。評価に値する言動があったかどうかを問う
- いつ・どこで・誰が・誰に・どのように・何をしたのか、という事実が確定すれば、評価は後からできる
- 事実を証明できなければ、懲戒や解雇はひっくり返り、かえって社員を守れなくなる
- 質問は「パワハラを認めさせる方法」ではなく「事実を認めさせる方法」に変える
- 事実は、被害者・目撃者・客観資料から、5W1Hで具体的に確認する
- 被害者の名前を出せるかが分かれ道になる。相談者の保護とプライバシーにも配慮する
パワハラ問題は、大切な社員たちを守るために、どうしても避けては通れない問題です。その対応の要は、「パワハラかどうか」という抽象論ではなく、何月何日の何時ごろ、どこで、誰が誰に、どのように何をやったのか、という事実をベースに話すことにあります。事実を軸に据えれば、それを認める・認めないの議論ができ、面談を上手に進めていけば、事実を知ることもできます。パワハラ的な言動をする社員から従業員たちを守り、よい会社にしていきましょう。ハラスメント対応にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 加害者が「パワハラなんてしていない」と否認します。どうすればよいですか。
A. 「パワハラをしたかどうか」を認めさせようとするのではなく、具体的な事実を確定させることに切り替えてください。何月何日の何時ごろ、どこで、誰に対して、どのように、何をしたのか、という事実が固まれば、それがパワハラや懲戒事由に当たるかどうかの評価は後から判断できます。事実は、被害者・目撃者からの聞き取りや、メール・録音などの客観資料から確認します。面談では会議室で面と向かって、事実をベースに話すと、ある程度は本当のことを話さざるを得ないことが多いものです。
Q2. 本人が「パワハラをした」と認めれば、それで懲戒処分できますか。
A. 本人が「パワハラをした」と言っただけでは、後で「大したことでもないのをパワハラと呼んで認めただけだ」とひっくり返されるおそれがあります。懲戒処分や解雇の有効性が争われた場合、根拠となる具体的な事実は基本的に会社が立証しなければなりません。ですから、抽象的な「パワハラを認めた」という言葉ではなく、いつ・どこで・どのような言動があったのかという具体的な事実を確定し、証拠として確保しておくことが重要です。
Q3. 被害者が「名前を出さないでほしい」と言います。処分はできますか。
A. 客観的な証拠があり、目撃者もいる場合には、被害者を前面に出さずに対応できることもあります。しかし、客観情報が乏しく目撃者もいない中で、加害者に具体的な事実を問いただせば、被害者が話したと相手に伝わってしまい、被害者がそれを望まないことが少なくありません。その場合には、「名前を出さないのであれば、本件で踏み込んだ処分をするのは難しい」ことを丁寧に説明し、本人の意向を確認したうえで対応を考えます。相談者・被害者への不利益取扱いは禁じられ、プライバシーへの配慮も必要です。
最終更新日:2026年7月18日