問題社員332 心療内科に通う社員が暴言を吐いたり物を蹴るなどし、顧客対応を任せられず周りの社員が不安になっている。
動画解説
この記事の要点
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周りの社員を守るのは経営者の義務。心療内科に通っていても、暴言や物を蹴る行為は正すべき 腫れ物に触るような対応だけで、周囲の不安を放置してはならない |
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注意指導は、抽象論ではなく「具体的な事実」で行う いつ・どこで・誰に・何をしたのかを特定し、どう改めるべきかを具体的に伝える |
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懲戒処分は、病気・障害の影響を考慮したうえで判断する 影響を考慮せずに通常どおり処分すると、相当性を欠くと評価されかねない。主治医・産業医の意見を確認する |
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影響が大きく仕事にならないなら、「休ませる」という選択肢もある ただし強制的に休ませて無給にできるかの判断は難しい。医師・弁護士とチームで対応する |
目次
1. 心療内科に通う社員の暴言・物を蹴る行為という問題
心療内科に通っている社員が、暴言を吐いたり、物を蹴ったりする。そのため顧客対応を任せることができず、周りの社員が不安を感じている。こうしたご相談は、対応の難しい案件の一つです。心療内科に通っているという事情があるだけに、どこまで踏み込んでよいのか迷われる経営者も多いでしょう。本記事では、このようなケースへの対処法を、会社側の視点から解説します。
2. まず押さえる前提(周りの社員を守るのは経営者の義務)
職場環境を良好に保つ義務がある
大前提として、暴言を吐いたり、物を蹴ったりしてよいはずがありません。会社経営者には、働く環境を良好に保つ義務があります。守るべき社員は、問題のあるこの方だけではありません。周りで働いている方々も、パート・アルバイトの方々も、みな自社の従業員です。そうした方々を守るのは、経営者の義務です。暴言や物を蹴る行為で人を不安にさせる方がいるのであれば、たとえ自社の社員であっても、いや、自社の社員だからこそ、しっかり注意指導して直してもらわなければなりません。これは、心療内科に通っていようが変わりはありません。
3. 注意指導は「具体的な事実」で行う
まず、本人を会議室などに呼び、実際にあった事実、すなわち「何月何日の何時ごろ、どこで、誰に対して、どのように、何をしたのか」が問題なのだ、ということを伝えたうえで、どのように改めればよいのかを具体的に話してください。
抽象度の高い話は、噛み合わない
暴言を吐いたり物を蹴ったりするほどの状態にある方は、精神状態の面から、物事を深く、抽象的に考えるのが難しくなっている可能性が高いといえます。そうした方に向かって、「暴言はだめだよ」「物を蹴ってはだめだよ」といった抽象度の高い話をしても、噛み合いません。いつ、どこで、この方が、どのように、何をしたのか、という事実をしっかり特定したうえで、その場面でどうすべきだったのか、どうすべきでなかったのかを、具体的に話していってください。
4. 治らない場合、病気・障害の影響かを確認する
いくら言っても改善しない場合、次にどうするかを考えます。心療内科に通っているという事情がありますので、病気や障害のせいで、そうした言動になっている可能性を、よく考える必要があります。
問題行動が改善しない方については、厳重注意書を交付したり、懲戒処分を検討したりしていくことになります。厳重注意書の交付は、当然のように行ってよいと考えられます。問題は懲戒処分ですが、その前に、私であれば、まずこの暴言や物を蹴る行為が、病気や障害の影響を受けているのかどうかを確認します。具体的には、心療内科の主治医に問い合わせをしたり、面談を申し込んだりして、こうした言動が病気の影響を受けているのかを確認する努力をします。もっとも、主治医に会ってもらえるか、問い合わせに答えてもらえるか、という問題もありますので、産業医のいる会社であれば、産業医面談を行い、この方の言動が病気や障害から来ているものなのかどうかについて、意見をもらうことも考えられます。
5. 懲戒処分は、病気・障害の影響を考慮して判断する
影響を考慮しない懲戒処分は、相当性を欠くと評価されかねない
懲戒処分をするにあたっては、その問題の言動が、病気や障害の影響を受けているかもしれない、という点を必ず頭に入れておかなければなりません。これを考慮したうえでの懲戒処分であれば行ってよいと考えられますが、こうした事情を考慮せず、病気や障害の影響があるとはいえない通常の事案と同じように懲戒処分をしてしまうと、処分の相当性を欠くと評価されかねません。懲戒処分は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合でなければ、権利の濫用として無効になりうるからです(労働契約法15条)。ですから、主治医や産業医の意見も踏まえ、影響を受けているのであればそれを考慮した対応をし、影響とは関係ないというのであればそれを踏まえて、懲戒処分をどの程度まで行うかを判断していくことになります。
6. 「休ませる」という選択肢と、その難しさ
「病気や障害の影響が大きいほど重い懲戒処分ができないのなら、ひどい社員ほど処分できず、会社はお手上げなのか」と思われた経営者もいらっしゃるかもしれません。しかし、そうではありません。
病気や障害の影響がものすごく大きいために、暴言を吐いたり物を蹴ったりして周りを不安にさせている、という状況なのであれば、それはやるべき仕事ができていないとも言えるわけです。そうであれば、医師の意見や診断を踏まえたうえで、「休みなさい」という話ができるかもしれません。程度によりますが、「休んだほうがよいのではないか」と勧めること自体は、そう難しくありません。
強制的に休ませて無給にできるかは、非常に難しい判断
最も難しいのは、本人の意向に反して強制的に休ませ、給料も払わないということができるかどうかの判断です。本当にひどい場合には、労務の提供を受領するのを拒絶して出社を拒み、給料も払わずに解雇へ向かうルートや、私傷病休職をスタートさせ、休職期間が満了しても働けるようにならなければ退職とするルートも考えられます。しかし、本人が「自分は働ける、問題ない」と言って出社しようとしたときに、それを拒めるか、拒めたとして給料を払わずに済むか、欠勤扱いにしてよいか、さらには休職開始の要件を満たす就労拒絶といえるのか、といった判断は非常に難しいものです。会社都合の休業と評価されれば、休業手当(労働基準法26条)や賃金(民法536条2項)の問題も生じます。医学的な意見・診断や、弁護士の判断が不可欠になります。
7. 社長だけで抱えない(医師・弁護士とのチーム対応)
ここまで見てきたように、この種の案件は、懲戒処分の程度、休ませることの可否、無給の可否など、いずれも微妙で難しい判断を伴います。社長だけで頑張るのは危険です。医師や弁護士と協力しながら、個別の事案に応じて慎重に対処していきましょう。
いずれにしても、メンタルの問題を抱えているのか、障害なのか、スポットの病気なのか、単に調子が悪いだけなのか、その中身がどうであれ、周りにいる社員たちを守らなければならない、という点に変わりはありません。社長であるからには、腫れ物に触るような対応だけをして、周りの人たちが嫌な思いや怖い思いをし、不安になっているのを放置することは許されません。職場の環境を良好に維持し、働く人たちが嫌な思いをしたり、健康を害したりしないように保つ。その環境を守ることが、経営者の仕事です。
8. まとめ
- 周りの社員を守るのは経営者の義務。心療内科に通っていても、暴言や物を蹴る行為は正すべきである
- 注意指導は、抽象論ではなく、いつ・どこで・誰に・何をしたのかという具体的な事実で行う
- 治らない場合、その言動が病気・障害の影響を受けているかを、主治医や産業医の意見で確認する
- 懲戒処分は、病気・障害の影響を考慮して判断する。考慮しないと相当性を欠くと評価されかねない
- 影響が大きく仕事にならないなら、「休ませる」という選択肢もある。ただし強制・無給の判断は難しい
- 社長だけで抱えず、医師・弁護士とチームで対応する
心療内科に通う社員の暴言や物を蹴る行為への対応は、加害行為を正すことと、本人の病気・障害への配慮とを、両立させなければならない難しい案件です。しかし、どのような事情があっても、周りの社員を守るという経営者の役割は変わりません。対応が難しいからこそ、医師や弁護士と協力し、慎重に、しかし毅然と対応して、社員たちを守っていきましょう。こうしたケースにお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 心療内科に通う社員でも、暴言や物を蹴る行為を注意してよいのですか。
A. 注意してかまいませんし、注意すべきです。会社には職場環境を良好に保つ義務があり、周りの社員を守るのは経営者の役割です。心療内科に通っているという事情があっても、暴言や物を蹴る行為が許されるわけではありません。ただし、注意指導は、抽象論ではなく、いつ・どこで・誰に・どのように・何をしたのかという具体的な事実に基づき、どう改めるべきかを具体的に伝えることが大切です。抽象度の高い話は噛み合わないことが多いためです。
Q2. 問題行動が病気のせいかもしれない場合、懲戒処分はできないのですか。
A. 一切できないわけではありませんが、病気や障害の影響を考慮したうえで判断する必要があります。こうした事情を考慮せず、通常の事案と同じように処分すると、処分の相当性を欠き、無効と評価されるおそれがあります(労働契約法15条)。まずは主治医への問い合わせや面談、産業医面談などを通じて、問題の言動が病気・障害の影響を受けているのかを確認し、その結果を踏まえて処分の程度を判断してください。厳重注意書の交付自体は、一般に行ってよいと考えられます。
Q3. 「自分は働ける」と言う社員を、強制的に休ませて無給にできますか。
A. これは非常に難しい判断です。本当に仕事ができない状態であれば、労務の受領を拒絶したり、私傷病休職を適用したりする道もありますが、本人が働けると主張して出社しようとする場合に、出社を拒め、給料を払わずに済ませ、欠勤扱いにできるか、休職開始の要件を満たすといえるかは、慎重な検討を要します。会社都合の休業と評価されれば、休業手当(労働基準法26条)や賃金(民法536条2項)の問題も生じます。医学的な意見・診断や弁護士の判断が不可欠ですので、社長だけで進めず、医師・弁護士とチームで対応してください。
最終更新日:2026年7月18日