問題社員317 私生活で飲酒運転や痴漢・暴行などの刑事事件を起こした社員を懲戒処分する際の注意点

動画解説

この記事の要点

プライベートな時間は、基本的に行動が自由。だからこそ、私生活上の非行への懲戒は限定される

仕事時間中の非行と比べて、懲戒処分を行える場合はその分だけ抑制される

それでも懲戒できる場合はある。会社の名誉・信用が毀損され、企業秩序を維持・回復する必要がある場合

懲戒の種類・事由を就業規則に定め周知させておくこと、私生活上の行為が懲戒事由に該当するかの確認が必要

職種、地位、繰り返しの有無によって、処分の重さは変わる

運送会社のドライバーの飲酒運転、電鉄会社社員の痴漢、管理職ほど重く、繰り返しは重く判断されやすい

加害者に優しくすることが、社員に優しい会社とは限らない

一緒に働く社員たちが安心して働けるよう、公平で相当な懲戒処分をしっかり行う必要がある

1. プライベートな時間は、基本的に行動が自由

会社を経営していると、社員がプライベートな時間に事件を起こすことが、たまにあります。その際の注意点として、まず頭に入れておかなければならないのは、プライベートの時間は、基本的に行動が自由だということです。もちろん、刑事事件を起こしてよいわけではありませんが。そこで本記事では、私生活で飲酒運転や痴漢・暴行などの刑事事件を起こした社員を懲戒処分する際の注意点について解説します。

仕事時間中に行われた不祥事であれば、比較的懲戒処分がやりやすいのです。仕事時間中は仕事に集中しなければなりませんし、まさに会社の指揮命令下に置かれている時間だからです。ところが、本来自由であるはずのプライベートな時間、そんな時間であっても刑事事件を起こした場合に、会社として懲戒処分ができるのかを考えていかなければなりません。

2. それでも懲戒処分ができる場合がある

結論として申し上げると、懲戒処分ができる場合もあります

なぜなら、プライベートな時間とは言っても、会社が雇っている社員の行った刑事事件によって、会社の名誉・信用が毀損されることがあるからです。ですから、仕事時間外であっても、会社として懲戒処分をして、毀損された企業秩序を維持・回復する必要がある場合が、当然に出てくるわけです。

3. 仕事時間中より、抑制的に判断すべき理由

もっとも、プライベートな時間ということは、仕事に集中してやらなければならない時間とは性質が随分違います。

仕事時間中との違い

仕事時間中であれば、「変なことをしないでしっかり仕事をしてください」と言えるわけです。その中で起こした問題であれば、「なぜ仕事と関係ないことをやっているのですか」としっかり注意でき、とても言いやすい。
それと違って、本来自由であるプライベートな時間に起こした刑事事件ですので、懲戒処分ができる事案は、その分だけ抑制・限定されてきます。もしかしたら、仕事時間中に同じことをやった方が、重い懲戒処分ができるケースが多いとも一般的に言えると思います。

プライベートの時間であっても懲戒処分はできる。しかし、仕事時間中に同じような行動を行った場合と比較して、抑制的に懲戒処分を行う必要があるケースが多い。これをまず頭に入れてください。

4. 懲戒処分を行う際に確認すること

次に、懲戒処分を行う場合に何を考えればよいか、思い出してみてください。通常の懲戒処分を行う場合と、基本は同じです。

確認すべき項目

  • 懲戒の種類・事由を就業規則に定め、周知させておく:見ようと思えば就業規則を見られる状態にしておく。これはこの場合でも当然に必要です
  • 懲戒事由に該当するかの確認:ただし、私生活上の行為に対して該当性を確認するわけですから、仕事時間中であることを前提とした定めは適用できません。私生活上の刑事事件を起こした場合でも該当する条項に合致しているか、しっかり見てください
  • 客観的に合理的な理由があること:これを欠く場合は無効になります
  • 社会通念上相当な懲戒処分であること

懲戒処分は、労働者が懲戒に該当する行為をした場合であっても、当該行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効になります(労働契約法15条)。ですから、懲戒事由への該当性とは別に、様々な事情を考慮して、実際にその懲戒処分を行っても不当なものではないかを確認していく必要があるのです。

5. 考慮すべき事情:日本鋼管事件の枠組み

では、どんな事情を考慮して決めるのか。古い判決ですが、昭和49年の日本鋼管事件という最高裁判決が、私生活上の非行に関する考え方を示しています。

考慮すべき要素

私生活上の行為が企業秩序に及ぼす影響を判断するにあたっては、次のような事情が考慮されるとされています。

  • 当該行為の性質・情状
  • 会社の事業の種類・態様・規模
  • 会社の経済界に占める地位、経営方針
  • その従業員の会社における地位・職種

これらを考慮して、企業の社会的評価に及ぼす悪影響が相当程度重大であると客観的に評価できる場合に、懲戒の対象とし得るという考え方です。

色々な事情を考慮して決めなければならず、イメージが持ちにくいと思いますので、少し具体的にお話しします。

6. 具体的なイメージ:職種・地位・繰り返し

職種との関連 運送会社のドライバーがプライベートな時間に飲酒運転で人身事故を起こせば、車の運転と関係のないもので起こした場合と比べて、会社の事業に与える悪影響が大きくなります。重い懲戒処分をしてもよいという方向に傾きやすくなります
立場との関連 電鉄会社の社員が私生活で痴漢を行ったら、大問題です。痴漢を防止すべき立場にある人が痴漢をしたとなれば、なおさらです。職種や立場と非行の内容が結びつくと、悪影響が大きくなります
地位 同じ刑事事件でも、部長がやった場合、パート・アルバイトがやった場合とでは、会社の名誉・信用に与える悪影響の程度が違います。地位が上の方が起こした場合は、プライベートな時間であっても懲戒処分が認められやすくなります。比較的日の浅い社員や、経営に近くない立場の方であれば、比較的軽めの処分に抑えるべきケースが多くなります
繰り返しの有無 以前にもやって懲戒処分を受けたのに改まっていない、というのも問題です。「今回はこれで済ませるが、もうやらないでね」と言ったのに、また同じことをやって逮捕された、という場合、初めての場合と比べて悪質性が高く、重い処分としやすくなります

こうした様々な事情を考慮して、懲戒権の濫用にならないかをチェックした上で、さじ加減を考えて懲戒処分をしていくことになります。

7. 加害者に優しくすることが、社員に優しい会社とは限らない

プライベートな時間と言っても、情報が入ってきたり、ニュースで報道されたりすれば大問題です。そうでなくても、社内で「あの人がこんなことをやったのだ」と噂が流れたような場合など、会社として何もやらないというのは、乱された企業秩序を放置することになってしまいます。

ですから、事案によってはきっちり懲戒処分をしなければなりませんし、そこまでひどくないものであっても、厳重注意にするなど、何らかの対応をすることが大切です。それが、「自分たちが働いている職場の秩序を、しっかり守ってくれている経営者のもとで働いているのだ」という実感を社員に持ってもらい、安心感を与えることにもつながります。

一面的に考えてはいけない

くれぐれも、問題を起こした人に優しくすることが「社員に優しい会社」だと、一面的に思ってはいけません。不祥事を起こした方だけでなく、一緒に働いている方々もいるわけです。彼らが安心して働けるようにするためには、公平で、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当な懲戒処分を、しっかり行っていく必要があるのです。
「もうやりたい放題、何をやっても処分もできないのだ」となると、こちらは優しく寛容な態度を取っているつもりでいても、その結果、他の方々が不安になることもあります。

8. まとめ

  1. プライベートな時間は、基本的に行動が自由。私生活上の非行への懲戒は限定される
  2. それでも、会社の名誉・信用が毀損され、企業秩序を維持・回復する必要がある場合は懲戒できる
  3. 仕事時間中より、抑制的に判断すべきケースが多い
  4. 就業規則の定めと周知、懲戒事由該当性、客観的合理性、社会通念上の相当性を確認する(労働契約法15条)
  5. 日本鋼管事件の考慮要素で判断する。行為の性質・情状、事業の種類・態様・規模、地位・職種など
  6. 職種・地位・繰り返しの有無で、処分の重さは変わる
  7. 加害者に優しくすることが、社員に優しい会社とは限らない。周囲の安心のために、しっかり対応する

さじ加減が正直わからないというケースもあると思います。本業がありますし、こうしたことの勉強にそれほど時間は割けません。ただ、基本をしっかり押さえておきたいという方が、こうした動画や音声を流し聞きされているのだと思います。基本を押さえるのは、とても良いことです。それだけでも随分と頭の整理になったはずです。

もっとも、実際に自社で問題が起きて、いざ懲戒処分をするとなったとき、さじ加減がわからないことがあると思います。そんな場合は、いつも懲戒処分の相談を受けている弁護士に相談しながら、その重さや手続を含めて聞きながら、二人三脚で進めていくのが現実的です。会社の秩序を守るというのは、一見、会社や経営者のためにやっているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。安全な場所で安心して働いてもらうためです。私生活で刑事事件を起こした社員への懲戒処分でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 逮捕されたという段階で、懲戒解雇してもよいですか。

A. 慎重な判断が必要です。逮捕は、犯罪の嫌疑があるという段階にすぎず、有罪が確定したことを意味しません。事実関係が固まっていない段階で重い処分を行うと、後にその前提が崩れたときに処分が無効となり、会社が大きなリスクを負います。まずは本人からの事情聴取や、報道・捜査の状況などから事実確認を進め、弁明の機会を与えた上で、事実の裏付けと処分の相当性を見極める必要があります。急ぐべき事情がある場合の対応も含め、弁護士に相談してください。

Q2. 報道もされておらず、社内でも知られていない事件でも、懲戒できますか。

A. 難しくなります。私生活上の非行を懲戒の対象とできるのは、それによって会社の名誉・信用が毀損され、あるいは企業秩序に影響が及ぶ場合です。報道もされず、社内でも知られていないのであれば、企業秩序への影響が現実化しているとは言いにくく、懲戒処分を基礎づける事情が乏しいことになります。もっとも、職種や地位との関連が強い事案では別途の考慮もあり得ますので、一律に判断せず、事案ごとに検討してください。

Q3. 本人が「私生活のことに会社は口を出すな」と主張しています。

A. 私生活上の行動が原則として自由であることは、そのとおりです。ですから、会社が問題にできるのは、その行為が企業秩序と関連性を持つ範囲に限られます。逆に言えば、会社の名誉・信用の毀損や職種との関連など、企業秩序への影響が具体的に説明できる事案であれば、私生活上の行為であることは懲戒を否定する理由にはなりません。処分を検討する際は、「なぜこの行為が企業秩序に影響するのか」を客観的に説明できる状態にしておくことが重要です。

最終更新日:2026年7月17日


Return to Top ▲Return to Top ▲