問題社員316 転勤・配置転換・担当業務の変更といった人事異動に従わない社員を解雇する場合の注意点
動画解説
この記事の要点
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最初に確認すべきは、そもそも命令を出しているのかという点。打診しただけのケースがある 打診にどう答えるかは本人の自由。断られただけでは命令違反を問えない。せいぜい空気の読めない人だ、という程度の話である |
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次に、その人事異動命令が有効なものかどうかを確認する 無効な命令を根拠に解雇はできない。命令が有効だと判断できれば、解雇が有効になる可能性は非常に高くなる |
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最も大事なポイントは、命令を断られたからといって、すぐに解雇しないこと 説得活動に1か月以上かけることが多い。最低でも2週間。2か月かけて丁寧に説得することもある |
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「異議を留めた上で従う」と言ってくる社員がいる。この場合、解雇はできない 命令どおり働いているのだから、そこはぐっとこらえて、異動自体は維持し、裁判を起こされたら淡々と対応する |
目次
1. この記事が前提とする状況
担当業務の変更、配置転換、転勤などを命じたとき、多くのケースでは従ってもらってきています、という会社も多いことと思います。最近では「転勤しなければならないなら辞めます」という話も出てきて、辞められるのであれば命じることができないな、というケースもあります。
本記事は、そこは問題としてクリアしていて、転勤などに応じないのであれば辞めてもらうことも厭わない、そうしなければ会社が成り立たない、会社として秩序が保てないという会社からのご相談として、人事異動を拒んでいる社員を解雇する場合の注意点について解説します。
2. 最初のチェック:そもそも命令を出していますか
まず、最初にチェックしなければならないのは、その担当業務の変更、配置転換、転勤について、命令を出していますかという点です。
打診しているだけのときが、あるのです。ご相談を受けたときには、「しっかり命令を出していますか。それとも、本人の意向を確認したら嫌だと言われただけですか」と、まず最初に確認します。
意向を確認して断られただけなら、それは本人の自由
意向を確認しただけで嫌だと言われたという場合、それにどう答えるかは本人の自由です。そうしたものを理由として、解雇などできません。
他方、普通に転勤や担当業務の変更、配置転換を多く行っている会社で、きっちり命令を出したにもかかわらず、それを断って応じないというのであれば、解雇できる可能性はきわめて高くなるのです。
3. 命令していないのに、命令違反は問えない
前提として、どんなに配置転換や転勤の多い会社であったとしても、命令していないものについて命令違反を問うことはできません。この当たり前のところを、まず確認してください。
打診を断っただけでは、命令違反ではありません。打診をして、それでもやはり命令を出す必要がある、転勤してもらう必要がある、配置転換や担当業務の変更をしていく必要があるという判断をしたら、しっかり命令を出すようにしてください。
命令は、形の残るもので
基本的には書面を交付することが多いかと思いますが、そうでない場合でも、メールで明確に通知するなど、何か形の残るものは最低限必要だと考えてください。
これは、証拠の問題であると同時に、内容の問題でもあります。書面にすれば、異動先、異動の時期、業務内容といった命令の内容が特定されます。口頭でのやり取りだけでは、どこへいつまでに異動せよという命令だったのかが曖昧になり、それに従わなかったという事実自体を立証できなくなってしまうのです。
打診を断ったというだけだと、せいぜい空気の読めない人だとか、それくらいの話なのです。それでは業務命令違反、人事異動の命令違反を問うことはできませんので、まずしっかり命令を出してから解雇を考えるようにしてください。
4. 次に、その命令が有効かどうか
命令をしっかり出したけれども断ってきた。そうした場合に次に考えなければならないのが、そもそも当該人事異動の命令が有効なものかどうかという点です。
もしそれが無効だったら、その無効な人事異動の命令を根拠として解雇できないのは、仕方のないことです。ですから、そもそも転勤などを命ずる権限があるのか、それが濫用にならないのかといった基本的な確認は、しっかりやってください。
その結果、しっかり確認して色々と考えた結果、まず間違いなくこの転勤命令・配置転換の命令・担当業務の変更の命令が有効だ、これはいけると判断できた場合、解雇が有効になる可能性はきわめて高くなります。自滅しない限り、よほど下手なやり方をしない限り、解雇は有効になりやすいのです。
5. 最も大事なポイント:すぐに解雇しない
最も大事なポイントを挙げるとすれば、命令を断られたからといって、すぐに解雇しないということです。しっかり説得しましょう。
「命令に従うのは当然でしょう」という意識が強すぎると、あっという間に解雇してしまう経営者がいらっしゃいます。しかし、そこはぐっとこらえていただいて、しっかり説得活動をやってください。解雇は大事ですから。
説得活動を行って、誠心誠意説得してもそれでも応じなかったというのであれば、配置転換・転勤命令といった人事異動の命令違反を理由として解雇しても、勝てるケースは多いのです。
なぜ、説得の有無が結論を左右するのか
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
有効な命令に従わなかったという事実があれば、客観的に合理的な理由の方は満たしやすいところです。問題は社会通念上の相当性です。命令を出した翌日に解雇したというのでは、他に取り得る手段を尽くしていないと評価され、相当性を欠くと判断されかねません。「もう少し説得しなさいよ」と裁判官に言われることもあるのです。
つまり、説得に費やした時間と労力そのものが、相当性を基礎づける事実になります。
6. どれくらいの期間、説得活動をするのか
では、どれくらいの期間、説得活動をするのでしょうか。
実務上の目安
| 1か月以上 | 私の場合、少し長めに1か月以上かけることが多いところです。場合によっては2か月ほど、のんびり丁寧に説得活動を行って、それでもだめだったのでやむなく解雇、という助言をすることが多いです |
| 最低2週間 | 最低でも2週間は必要かなという感覚です。2週間ですぐに解雇したりは、まずしません |
とりわけ、ノーワーク・ノーペイの会社であれば、つまり働いてもらえなくても賃金を払わなくてよいというのであれば、会社の負担はもちろんありますが、解雇が無効だと判断された場合のリスクなどを考えると、十分に時間をかける価値があります。
そうすることで、解雇が無効だと言われにくくなります。それに、本人も色々な思いがあって拒絶しているケースもなくはありません。会社からすればわがままに見えるようなものだったとしても、ある程度考える時間を与えるというのは、良いことかもしれません。
7. 「異議を留めた上で従う」と言われた場合
なお、人事異動には異議があるので従いたくはないけれども、異議を留めた上で従うと言ってくる方もいらっしゃいます。
「担当する仕事が変わったこれには異議があるので、裁判で争うつもりだけれども、一応その仕事はやってあげましょう」「この転勤命令は無効だと思っているけれども、一応転勤先で働きます。働きますが、裁判で争わせてもらいますよ」。そう言ってくる人がいるのです。
なぜ、そうするのか
人事異動の命令に従わなかった場合、それが有効な命令であったときの解雇は、たいてい有効になってしまいます。ですから、会社を辞めたくはないけれども、異議があるので戦いたいという方は、両方のいいとこ取りをしようとするのです。言うことを聞いた上で転勤先や新しい部署で働くけれども、裁判でも争わせてください、というやり方です。
この場合、解雇はできません。何しろ、命令どおり働いているのですから。あえて言うのであれば、会社に対して反抗的なことを言っているというくらいの話です。しかし、そんなことで解雇や懲戒処分は無理ですので、そこはぐっとこらえてください。
正当な人事異動だと考えるのであれば、その人事異動自体は維持し、裁判を起こされたら淡々と対応していく。必要性のある人事異動で、なおかつ不利益の程度もそれほど大きくない、我慢すべき程度のものだ、不当な動機・目的もないのだと自信があるのであれば、冷静に対応していただく。それができれば、100点満点と言ってよいかと思います。
8. まとめ
- まず、命令を出しているかを確認する。打診を断られただけでは、命令違反を問えない
- 命令は、書面かメールなど形の残るもので。内容も特定される
- 次に、その命令が有効かを確認する。無効な命令を根拠に解雇はできない
- 命令が有効なら、解雇が有効になる可能性はきわめて高い。自滅しない限り
- すぐに解雇しない。1か月以上、最低でも2週間、説得活動を尽くす
- 説得に費やした時間そのものが、社会通念上の相当性を基礎づける
- 異議を留めて従うと言われたら、解雇はできない。異動を維持し、淡々と対応する
人事異動にどうしても応じてもらわなければ困るような状況で拒絶されると、経営者としても本当に辛いところです。ですから、解雇もやむなしと言えるケースも多いかと思います。他方で、有効な人事異動の命令だったとしても、いきなり解雇してしまうと、もう少し説得しなさいと裁判官に言われることもありますので、しっかり時間をかけて説得し、それでもだめな場合に解雇するようにしてください。
そして、最初にお話ししたとおり、そもそも人事異動の命令を出しているのかどうかが前提として大事になります。単に打診しただけで解雇はできません。しっかり人事異動の命令を出した上で、それでも拒絶してきた、説得活動をやったけれどもそれでもだめだった。そうした場合に解雇するようにしてください。人事異動を拒む社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 異動日を過ぎても出社してきません。賃金は支払わなければなりませんか。
A. 命令が有効であることを前提とすれば、本人が就労していない以上、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金の支払義務は生じないのが基本です。もっとも、その前提が崩れると話が変わります。命令が無効であった場合、就労できなかったのは会社側の事情によるものと評価され、働いていない期間の賃金も支払わなければならなくなり得ます(民法536条2項)。命令の有効性の判断が、そのまま賃金リスクに直結しますので、賃金の取扱いを決める前に弁護士に相談してください。
Q2. 解雇の前に、懲戒処分を挟んだ方がよいのでしょうか。
A. 事案によります。懲戒処分を経ることで、会社が段階を踏んだという事実は残りますが、同一の行為について懲戒処分をした上で、さらに同じ行為を理由に解雇すると、二重処分ではないかという主張を招くことがあります。他方、処分後も拒否が継続しているという新たな事実があれば、それを理由とする解雇は別途あり得ます。順序の設計は結論を左右しますので、自己判断で進めず、弁護士に相談してください。
Q3. 説得を尽くしたことを、どう記録に残せばよいですか。
A. いつ、誰が、どのような内容を伝え、本人がどう答えたのか。これを面談ごとに簡潔に記録してください。面談後すぐに社内で共有するメールを送っておく方法は、後から日付を遡らせることができないため、証拠としての価値が高い方法です。また、命令書の交付、異動の必要性を説明した書面、本人が提出した書面なども保管してください。何回、何日間にわたり説得したのかが客観的に示せる状態が理想です。
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最終更新日:2026年7月17日