問題社員315 出向・転籍に応じない。

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この記事の要点

出向・転籍は、指揮命令の主体が変わるという点に大きな特徴がある

社内での職種変更、転勤、部署の変更は、指揮命令の主体が同じ会社で変わらない。ここが決定的に違うため、難易度が上がる

転籍は、必ず同意を取って異動してもらう。同意なく一方的に命じられるとは考えない方がよい

同じグループ会社であっても同様である。「転籍がある前提で採用した」というだけでは足りない

在籍出向も、原則は説得して同意を得て異動してもらうと考えた方がよい

納得できずしぶしぶ出向先へ行っても、やる気を出してもらえない。出向の目的が達成できない

説明すべきは、二つ。なぜ応じてもらう必要があるのかという必要性と、出向・転籍の条件

賃金はどうなるのか、ずっと出向先にいるのか、いずれ戻るのか。ここを口頭だけでなく書面でも示す

1. 出向・転籍の最大の特徴は、指揮命令の主体が変わること

ある程度規模の大きい会社であれば、グループ会社があるなど様々な事情で、他社に転籍してもらう、あるいは自社に在籍したまま他の会社で働いてもらうということがあります。前者を転籍、後者を在籍出向などと呼びます。そこで本記事では、出向・転籍に応じない社員への対処法について解説します。

指揮命令の主体が変わるという特徴

転籍 完全に移ってしまうので、雇い主自体が変わります。そのまま新たな雇い主のもとで、その指揮命令に従って働くことになります
在籍出向 元の会社に雇われ続けた状態ではあるものの、出向先の指揮命令を受けて働くという特徴があります

普通は、そうしたことはありません。労働者派遣であれば、雇い主である派遣会社とは別の派遣先の指揮命令で働くということをやりますが、通常はないのです。請負や業務委託で他社での仕事を行ったとしても、指揮命令の主体はあくまでも雇い主であって、お客様ではありません。変にお客様が指揮命令をしてしまったら、それは偽装請負ということになってしまいます。

これは、社内での職種変更、転勤、部署の変更、配置転換などは指揮命令の主体が同じ会社で変わらないというのと、大きな違いがあります。そうした違いがありますので、出向や転籍をしてもらう場合、できること・できないことについて法律的に色々と問題があり、難易度が上がってくるのです。

2. 転籍は、必ず同意を取る

まずは転籍です。転籍については、必ず同意を取って異動してもらってください。同意を取らずに一方的に転籍の命令を出して他に移せる、などとは考えない方がよいと思います。仮に裁判で勝ったとしても救済的な判決にすぎず、そんなものは当てにできませんから。

グループ会社であっても同じ

同じグループ会社であって、グループ会社間では転籍が普通にありますよという前提で採用したとしても、雇い主である会社から別の会社に雇用主を変更する完全な転籍を行う場合については、しっかり本人の同意を取ってください。そうでなければ、たまたま救済的な判決が出た場合を除き、転籍の命令は無効だという判断になると思います。
転籍は、労働契約の当事者そのものが入れ替わるものです。使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができないとされており(民法625条1項)、雇い主の地位を移すには労働者の同意が必要になるのが原則です。
「グループ会社であちこち行く、雇い主が変わる可能性があるというのは分かって入社したのだからいいだろう」と軽く考えて転籍命令を強行し、従わないから解雇だとやると、裁判で思わぬ敗訴判決をもらってしまうことになりかねません。

3. 転籍の説得で説明すべきこと

具体的にどうすればよいのか。転籍の必要性と、転籍の条件について、丁寧に話して説得活動を行います。

説明すべき二つの柱

必要性 なぜ別の会社に移らなければならないのかを、しっかり具体的に説明します。「会社の指示なのだから移りなさい」という抽象的な話ではいけません
条件 転籍先での雇用条件はどうなるのか。賃金が変わらないのであれば、割と説明しやすいかもしれません。また、転籍先にずっといなければならないのか、いずれ戻ってくるのか、といった話もあります

これらをしっかり説明して、転籍については説得活動を行うようにしてください。繰り返しますが、これは同じグループ会社であっても同様です。完全に転籍してしまう場合については、必ず説得活動をして同意を取ってから異動させるようにしてください。

4. 在籍出向も、原則は説得して同意を得る

次に、在籍出向です。元の会社に在籍したまま、別の会社に出向して働いてもらうというものです。

在籍出向については、命じられる場合ももちろんあります。もちろんあるのですが、原則論としては、説得して異動してもらう、同意を取って異動してもらうと考えた方がよいと思います。

なぜか。出向の目的が達成できないから

在籍出向には、目的があるはずです。何のために移ってもらうのか、何のために出向してもらうのか。
本人が納得できず、しぶしぶ命令だからと言って従って出向先に行った場合、あまりやる気を出してもらえないと思うのです。「なぜこんなところに来たのだろう」と思ってしまうかもしれません。
ですから、原則的な話としては、どうして在籍出向に応じてもらわなければならないのか、その必要性をしっかり説明し、なおかつその条件、賃金などの条件、場合によっては賃金が下がるようなこともあるかもしれませんが、どうしてそうなるのか、ずっと出向先にいなければならないのか、いずれ戻ってくるのかをしっかり説明して、それで行ってもらうようにしていただけるとよいと思います。

とりわけ、本人が「それには従いたくありません。どうして私が行かなければならないのですか」と言ったときは、丁寧にやっていただく必要があります。もしかしたら、そうした話が出なくても、ある程度は機械的に、マニュアル的に説明するような社内体制、仕組みにしていただくのが望ましいかもしれません。おそらく、トラブルも起きにくくなるはずです。

そして、辞めてしまうこともあります。納得がいかずに出向ということになると、辞められてしまうリスクがあるのです。そう考えると、納得感はとても大事なのです。

5. 在籍出向の権限があるかどうか

法律的、契約論的な話をすると、そもそも出向の権限が会社にあるのかという確認もしなければなりません。とりわけ、本人が嫌だと言っているのに出向を命じるような場合です。

就業規則がある会社では、少なくとも抽象的な定めがあることは普通です。出向を命じることがある、といった程度の規定があることが普通ですので、一応は権限がありそうにも見えます。

実態がなければ、抽象的な定めだけでは危うい

ただし、普段から出向が普通に行われているという実態がない場合で、なおかつ就業規則の定めも抽象的なものにとどまる場合、「こう書いてはいるけれども、実はこんな出向などないという約束だったのだ」といった話が、やや通りやすい方向に行ってしまうわけです。
毎年100人出向しています、毎年10人出向していますというくらいの話であれば、そうした前提で雇用しているのだろうと推測できます。ところが、この10年間、一人も在籍出向したことがありませんという会社で出向を行う場合、「出向させることがある」という抽象的な定めがあるだけで本当に権限があるのかどうか、チェックしなければなりません。
なお、出向を命ずるには根拠が必要であることに加えて、使用者が出向を命ずることができる場合であっても、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして権利を濫用したと認められる場合には、その命令は無効となるとされています(労働契約法14条)。出向については、濫用に関する規定が条文上も置かれているのです。

普段から出向をたくさんやっているというものであれば、在籍出向については権限があると言われやすいと思います。しかし、この10年間で1件も在籍出向がありませんという会社の場合は、権限のあたりからリスクが生じるケースがあり得ます。出向を数多く行うのであれば、しっかり出向の規定を整備すべきでしょう。

ですから基本的には、本人を説得して在籍出向をしてもらう。どうして在籍出向に応じなければならないのかという必要性と、在籍出向の条件について提示して説得し、それで同意を得るという作業をするとよいと思います。仮に在籍出向命令で行ってもらう場合であっても、同じように必要性の説明と条件の説明をしっかり行い、口で言うだけでなく書面などもきちんとお渡しして説明した上での命令であれば、色々とやりやすくなります。どうせ必要となることですから、しっかり説明するようにしてみるとよいと思います。

6. 権限があっても、濫用のチェックが必要

権限自体はあるというケースも、それなりに多いと思います。しかし、さらにその在籍出向命令が権利の濫用に当たらないかの確認が必要となります。

おおむね、いつもと同じようなことを確認すればよいと思います。まず、どうして在籍出向をしなければならないのかという必要性です。この必要性自体は、他の条件が問題なければ抽象的なもので足りることも多いかもしれませんが、不当な動機・目的で出向させられたのだと言われないようにするためには、こういった必要があって出向するのですとしっかり説明できるようにした方がよいのです。そうすれば、不当な動機・目的があるなどと言われにくくなります。

また、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものかどうかもチェックすべきでしょう。出向についての考慮要素は、転勤などとはまた少し違ってくるかもしれませんが、発想としてはこうしたものを考慮していただければ、大きな間違いはないと思います。

不利益が我慢すべき範囲に収まりやすい要素

  • 賃金が変わらない:割と「我慢しなさい」という話になりやすくなります
  • 転勤を伴う場合でも、それについての配慮がなされている
  • 期間限定で、いずれ戻る約束になっている

これらがあれば、不利益の程度は我慢すべき程度の範囲内に収まると言いやすくなるのではないでしょうか。賃金が下がるケースもあると思いますが、その場合はより慎重な判断が必要となります。どうしてもその必要性があるということをしっかり説明できるようにしておくなどして、不利益も過度なものにならないよう考えていくべきです。

7. 社内の異動よりハードルが高い

このように在籍出向は、転勤、部署の配置転換、担当業務の変更を同じ会社内でやる場合と比較して、ハードルが高くなりがちです。とりわけ、過去の実態・実績が少ない会社では、ハードルが高くなります。

毎年10人、20人と在籍出向させていて、これが普通で、うちに雇われた人は出向前提で来ているのですという会社であれば、割と認められやすいものではあります。しかし、滅多に在籍出向していませんという会社だと、労働者も不満に思いやすくなりますし、裁判でのハードルも上がってきます。

ですから、過去の実績がほとんどないような微妙な事案については、在籍出向についても弁護士に相談しながら、個別の判断、本人とのやり取り・対話などを通じてリスクの程度なども考えていって、その上で在籍出向命令を出すのかどうかを判断していくのがよいかと思います。

8. まとめ

  1. 出向・転籍は、指揮命令の主体が変わる。社内の異動とは性質が違い、難易度が上がる
  2. 転籍は、必ず同意を取る。グループ会社間であっても同じ
  3. 在籍出向も、原則は説得して同意を得る。納得がなければ、出向の目的が達成できない
  4. 説明すべきは、必要性と条件。賃金、期間、戻るのかどうか。口頭だけでなく書面でも
  5. 出向の権限があるか確認する。抽象的な定めだけで実態がなければ、危うい
  6. 権限があっても濫用のチェックが必要(労働契約法14条)
  7. 過去の実績が少ない会社ほど、ハードルが高い

出向・転籍の必要性がそれほど高くない会社であれば、無理にやる必要はないと思いますし、同意を取って必要であればやればよいと思います。しかし、会社によっては、出向・転籍を行わなければ会社の仕組みが回っていかないということもあります。そうした場合、必要性が高いのであれば、しっかり多方面に配慮して出向を命じなければならないケースもあるでしょうし、説得して転籍に応じてもらわなければならないケースもあると思います。

本人が嫌だと言っているものについて出向・転籍をしてもらおうとする場合、説得がどうしても必要になりますし、反発を受けることも多くてストレスが溜まり、大変かもしれません。出向・転籍に応じない社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 入社時に「グループ会社への転籍がある」と包括的に同意を得ていれば足りますか。

A. 足りないとお考えください。転籍は雇い主が変わるものであり、転籍先の労働条件がどうなるかによって、労働者にとっての意味がまったく変わります。入社時点で転籍先も条件も特定できていない包括的な同意では、その効力が認められないのが通常です。転籍を行う都度、転籍先、労働条件、時期を具体的に示した上で、改めて同意を得てください。同意書には、説明を受けた内容と本人が同意した旨を記載します。

Q2. 在籍出向中、指揮命令は出向先が行いますが、会社の責任はどうなりますか。

A. 出向元と出向先の双方が、それぞれの関与の度合いに応じて使用者としての責任を負い得ます。労働時間の管理や安全衛生については、実際に指揮命令を行う出向先が担うのが基本ですが、出向元も労働契約の当事者である以上、安全配慮義務を免れるわけではありません。トラブルを避けるため、出向契約において、賃金の負担、労働時間管理、休暇の取扱い、労災時の対応、懲戒権の所在などを明確に取り決めておく必要があります。契約書の作成は弁護士に相談してください。

Q3. 出向命令に従わない社員を、解雇できますか。

A. まず、その出向命令が有効であることが前提です。権限があり、濫用にも当たらないと判断できるのであれば、業務命令違反として次の段階を検討することになりますが、社内の配転命令の場合と比べて、命令自体が無効とされるリスクが高い点に注意が必要です。転籍であれば、同意なしに命令する余地がそもそも乏しいため、拒否を理由とする解雇は困難です。また、有効な命令であっても、直ちに解雇せず、十分な期間をかけて説得を尽くすことが不可欠です。必ず事前に弁護士に相談してください。

最終更新日:2026年7月17日


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