問題社員297 後輩や新入社員に嫌がらせして辞めさせる。

動画解説

この記事の要点

典型的な原因は、会社が自分に頼らざるを得ない状況を作ろうとしていること。自分の代わりになりそうな人材を、入るたびに追い出してしまう

仕事の出来が良くない、トラブルが多いといった社員が、いつ辞めさせられるか分からないという不安から、このような行動に及ぶことがある

気づいたらすぐ着手する。時間が経つほど、その社員なしでは業務が回らない状態に近づき、会社はますます踏み込めなくなる

嫌がらせを受けた社員、キャリアを台無しにされた社員の人数も増え続けることになる

基本的な方針は、後輩や新入社員との接触機会を減らすこと。とりわけ、その社員に育成や教育指導を任せない

問題があると認識しながら、その社員に育成を任せ続けている会社は少なくない。難しい場合でも、同じ場所で働かせて嫌がらせをしにくい状況を作る

放置は、会社自身の法的責任にもつながる。直接の加害者は当該社員でも、会社が対応しないまま被害が生じれば、会社が責任を問われる

介入すれば反発を受けるのが通常だが、ここで妥協するとかえって状況が悪化する

1. 後輩や新入社員に嫌がらせして辞めさせる社員がいると何が起きるか

後輩や新入社員に嫌がらせをして辞めさせることを繰り返している社員がいる会社では、業務に必要な人員を揃えることができなくなってしまいます。その部門の人員は減り続け、事業が先細りになりかねません。

そして何より、嫌がらせを受けて辞めさせられた後輩や新入社員の立場を考えなければなりません。本来であれば、その会社で経験を積み、キャリアを築いていくことができたはずの社員です。会社経営者には、こうした社員を守る責任があります。そこで本記事では、後輩や新入社員に嫌がらせして辞めさせる社員への対処法について解説します。

2. 典型的な原因:自分に頼らざるを得ない状況を作ろうとしている

なぜ後輩や新入社員に嫌がらせをするのか、そしてなぜ辞めさせるところまで至ってしまうのか。その原因は千差万別であり、一概には言えません。もっとも、典型的なものを挙げるとすれば、会社が自分に頼らざるを得ない状況を作るためという動機があります。

すでにいる後輩や、新しく入ってきた新入社員に嫌がらせをして辞めさせ、その業務を担える人材が自分しかいないという状況を作り出す。そうした社員が一定の割合で存在します。

このような行動に及ぶ社員に見られやすい特徴

  • 仕事の出来がそれほど良くない
  • 業務上のトラブルが多い
  • 勤務態度に問題がある
  • 過去に退職を余儀なくされた経験があるなど、雇い主との関係を良好に築けた経験に乏しい
  • いつ辞めさせられるか分からない、マイナス評価を受けるかもしれないという不安を抱えている

会社から信頼されているわけではありません。しかし、本人は信頼されることまでは期待していません。「他に代わりがいない。この社員が突然いなくなったら困る」と経営者に思わせることさえできれば、当面は自分の立場を守ることができるからです。

3. 「辞められると困る」と考えているうちは、注意指導ができない

その業務を担える社員が他にいなければ、会社としても強い対応を取りにくくなります。仕事の出来が悪くても、改善を求めて機嫌を損ねられては困る。突然辞められては業務が止まってしまう。せめて引き継ぎをしてから辞めてほしい。そう考えて、新たに人を配置したり新入社員を採用したりするものの、そのたびに嫌がらせを受けて辞めさせられてしまう。いつまで経っても引き継ぎができないまま、同じことが繰り返されていく。このような経過をたどるケースが多く見られます。

問題があるとは認識しているのに、状況を変えられない。まさに、それこそが本人の狙いです。

問題行動があっても、辞められると困るからと考えていては、まともな注意指導はできません。よほどのことがない限り踏み込めないという状態に陥っている経営者は少なくありません。その結果、職場の雰囲気は悪化し、被害を受ける社員が増え続けることになります。

4. 最も重要なのは、気づいたらすぐ着手すること

このようなケースで最も重要なのは、気づいたらすぐに着手するということです。時間が経てば経つほど、ダメージは大きくなっていきます。

先送りによって拡大する損失

  • 被害者が増え続ける:嫌がらせを受けた社員、辞めさせられてキャリアを損なわれた社員の人数が増えていく
  • 業務が特定の社員に集中していく:その業務を任せられる社員が減り、最悪の場合、その社員一人だけになってしまう
  • ますます対応しにくくなる:「いなくなったら困る」状況に近づくほど、踏み込んだ対応が難しくなる
  • 他の問題行動にも対応できなくなる:強く出られないため、顧客とトラブルを起こして取引を打ち切られるような事態が生じても、有効な手を打てなくなる

状況が進行するほど、踏み込んで対応した場合に会社が受けるダメージも大きくなります。だからこそ、多少の痛みを覚悟の上で、できるだけ早い段階で介入する必要があります。このまま同じやり方を続けていても、必要な人員が揃うことは永遠にありません。

5. 放置は会社自身の法的責任につながる

後輩や新入社員をいじめて辞めさせる社員がいた場合、直接の加害者はその社員です。しかし、会社が手をこまねいたまま、あるいは「まあまあ、うまくやってください」といった対応で放置した結果、被害が生じたのであれば、それは会社の責任でもあります。これは、経営姿勢の問題であると同時に、法的な問題でもあります。

会社が問われ得る法的責任

職場環境配慮義務・安全配慮義務 会社は労働契約上、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法5条)。嫌がらせを認識しながら放置し、社員が精神的な不調をきたした場合などには、この義務に違反したとして損害賠償責任を問われることがあります
使用者責任 社員が事業の執行につき他の社員に損害を与えた場合、会社が使用者として賠償責任を負うことがあります(民法715条)
ハラスメント防止措置義務 会社は、職場におけるパワーハラスメントを防止するため、相談体制の整備や事案への迅速・適切な対応など、雇用管理上必要な措置を講ずる義務を負っています(労働施策総合推進法30条の2)

加害者への対応を先送りにすることは、被害を受けた社員を守れないというだけでなく、会社自身をリスクにさらす行為でもあります。会社経営者として、避けなければならない事態です。

6. 具体的なマネジメント:接触機会を減らし、育成を任せない

具体的なマネジメントの方法は事情に応じて個別に検討する必要がありますが、分かりやすい方針としては、後輩や新入社員との接触機会を減らすことが挙げられます。

とりわけ重要なのが、その社員に後輩や新入社員の育成・教育指導を任せないことです。実際には、問題があると認識しながら、まさにその社員に育成を任せ続けている会社が少なくありません。

「他に任せられる人がいない」という場合でも

人数の限られた会社では、他に育成を任せられる人材を用意できないという事情があるかもしれません。しかし、それでも何とかしなければ、同じことが繰り返されるだけです。経営者自身か、別の幹部がしっかり対応する。社内で対応できないのであれば、対応できる人材を招き入れる。結果を変えたいのであれば、そこに手を付けるほかありません。
どうしても育成や教育指導を任せざるを得ないのであれば、せめて同じ部屋、同じスペースで働かせ、嫌がらせをしにくい状況を作ることが最低限必要です。それでも見えないところで嫌がらせが行われる可能性はありますが、できるだけ引き離し、後輩や新入社員と接触させないよう努めることが基本的な方針になります。

状況によっては別の方法を検討せざるを得ないこともありますし、他の方法の方が効果的な場合もあります。個別の状況に応じた対応については、弁護士に相談することをお勧めします。

7. 反発を覚悟して、逃げずに注意指導・懲戒処分を進める

このように介入していくと、本人から反発を受けるのが通常です。しかし、ここで逃げて妥協すると、状況はさらに悪化します。会社の業務に相応の支障が生じることになったとしても、できるだけ早い段階で着手する必要があります。

注意指導もしっかり行っていかなければなりません。状況次第では、相手が態度を硬化させることを覚悟の上で、厳重注意書を交付したり、懲戒処分通知書を交付したりせざるを得ないこともあります。懲戒処分を行うには就業規則上の根拠規定が必要であり、処分の内容も、行為の性質・態様、被害の程度等に照らして相当なものでなければなりません(労働契約法15条)。

反発が強く、辞められてしまうのではないかという不安を抱えながらの対応になりますので、経営者にとって負担の大きい局面です。その中で、適切な程度と時機を見極めていく作業が必要になります。書面の作成や交付のタイミングを含め、不安がある場合は弁護士に相談されることをお勧めします。

8. まとめ

  1. 典型的な原因は、会社が自分に頼らざるを得ない状況を作ろうとしていること。代わりになりそうな人材を入るたびに追い出してしまう
  2. 「辞められると困る」と考えているうちは、まともな注意指導ができない。それこそが本人の狙いである
  3. 気づいたらすぐ着手する。時間が経つほど被害者が増え、業務が集中し、ますます対応しにくくなる
  4. 放置は会社自身の法的責任につながる。職場環境配慮義務、使用者責任、ハラスメント防止措置義務の問題となり得る
  5. 後輩や新入社員との接触機会を減らす。とりわけ育成・教育指導を任せない
  6. 反発を覚悟して逃げずに進める。厳重注意書・懲戒処分の程度と時機は弁護士に相談する

会社を守るためだけでなく、嫌がらせさえなければ辞めずに済んだかもしれない後輩や新入社員を守るためにも、経営者が対応していく必要があります。後輩や新入社員に嫌がらせして辞めさせる社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 嫌がらせをした社員を、後輩と接触しない部署へ配置転換することはできますか。

A. 就業規則等に配転を命じ得る根拠規定があり、職種や勤務地を限定する合意がない場合、会社には配転命令について比較的広い裁量が認められています。ハラスメントの再発防止という業務上の必要性は、配転の合理的な理由になり得ます。もっとも、不当な動機・目的による場合や、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合には、権利の濫用として無効となることがあります。なお、被害を受けた側の社員を異動させると、事実上の不利益取扱いと受け取られかねませんので、原則として加害者側の環境を調整する方向で検討すべきです。具体的な進め方は弁護士に相談してください。

Q2. すでに辞めてしまった社員が受けた嫌がらせについて、会社が責任を問われることはありますか。

A. あり得ます。会社は労働契約上、労働者が安全に働けるよう必要な配慮をする義務を負っており(労働契約法5条)、ハラスメントを認識し、または認識し得たにもかかわらず適切な措置を講じなかった場合、退職後に損害賠償を請求されることがあります。また、社員が事業の執行につき他の社員に損害を与えた場合、会社が使用者責任を負うこともあります(民法715条)。すでに退職者が出ている状況であれば、対応の緊急性は高いと考えるべきです。早めに弁護士に相談してください。

Q3. 嫌がらせの事実を、どのように確認すればよいですか。

A. まず被害を受けている社員から、いつ・どこで・誰から・どのような言動があったのかを具体的に聴取し、記録に残してください。他の社員が見聞きしている場合には、その社員からも事情を聴取します。その上で、加害者とされる社員本人からも言い分を聴く必要があります。一方の話だけで処分を決めると、後に事実認定を争われた際に会社側が不利になります。なお、聴取の過程で申告者が特定され、報復を受けることのないよう、進め方には十分な配慮が必要です。事実確認の手順や記録の残し方について不安がある場合は、弁護士に相談してください。

最終更新日:2026年7月17日


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