問題社員257 退職勧奨の進め方

動画解説

この記事の要点

退職勧奨は「合意退職」を目指すもの——相手が同意しなければ成立しない。テクニックより前に押さえるべき基本がある

退職勧奨はあくまで合意退職であり、相手の同意なしには何も成立しない。説得できなければ会社の雰囲気が悪化するだけで終わるリスクがある

退職勧奨の前提として、注意指導・懲戒処分の積み上げが必須——これなしにいきなり退職勧奨しても断られた時に手がなくなる

退職勧奨を断られた後に解雇できるだけの積み上げがなければ、問題のある社員が職場に残り続け、ますます態度が悪化することになる

退職勧奨成功の最重要ポイントは「退職しなければならない理由を具体的に説明すること」——意外と実践できていない会社が多い

「勤務態度が悪い」などの評価的言葉を繰り返すだけでは相手は納得しない。具体的な事実に基づいた説明ができて初めて相手の同意を得やすくなる

退職届・合意書の取得が必須——口約束では後にトラブルになる。「退職した」と「解雇された」の争いを防ぐために書面化が不可欠

話がまとまったと思っても退職届・合意書がなければ、後日「解雇された」「退職を強要された」と主張される可能性がある

1. 退職勧奨とは何か 「合意退職」を目指すものであることを正確に理解する

会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

日本では解雇が難しいことはご存知の方も多いと思います。そのため、やめてもらいたい問題社員がいる場合に、話し合いで合意退職を目指す「退職勧奨」という方法を選択する経営者が増えてきています。

ただ、退職勧奨についての細かいテクニック(何人で話すか、何時間話すか、どんな場所で行うかなど)を考える前に、もっと大事な基本的なことを押さえておかなければなりません。今回はそこをお話しします。

まず退職勧奨の基本を正確に理解してください。退職勧奨は「合意退職」を目指すものです。特定の日にやめてもらうという合意が双方の間で成立して、初めて意味があるものです。つまり、相手が同意しなければ、退職勧奨はいつまでたっても成立しません。

2. 退職勧奨が失敗するケース 断られた後のリスクを知っておく

退職勧奨を試みたものの、相手が同意してくれない場合、どうなるでしょうか。

退職勧奨失敗時のリスク

  • 会社の雰囲気がものすごく悪くなる
  • 元々勤務態度が悪かった社員がますます態度を悪化させ、扱いにくくなる
  • やめないと言われれば、給料を払い続けなければならない
  • その後の解雇にも積み上げ不足で踏み切れなくなる

退職勧奨は諸刃の剣であり、事前の準備なしに行うのは非常に危険です。

3. 退職勧奨の前提条件 注意指導・懲戒処分の積み上げが必須の理由

退職勧奨を行う前に、必ず踏んでおかなければならないステップがあります。注意指導・懲戒処分の積み上げです。

なぜこれが必要なのでしょうか。退職勧奨を断られた場合に、解雇という選択肢を行使できる状態になっているかどうかが、退職勧奨全体の成否を左右するからです。

退職勧奨前に積み上げておくべきこと

  • 具体的事実に基づいた口頭での注意指導(記録を残す)
  • 書面による注意指導(厳重注意書など)
  • 懲戒処分(けん責・減給・出勤停止など段階的に)
  • 上記のすべてにおいて、具体的事実の記録・証拠化

これらの積み上げがない状態でいきなり退職勧奨を行い、断られた場合——後の解雇は極めて難しくなります。そして解雇できない問題社員が職場に残り続け、「やめてくれと言われたのに解雇もされない」という状況でますます態度を悪化させることになります。

注意指導・懲戒処分を粘り強く積み上げた上で退職勧奨に臨むことが、退職勧奨全体の成功率を大きく高めます。

4. 退職勧奨成功の最重要ポイント 「退職しなければならない理由」を具体的に説明する

退職勧奨に臨む際、何よりも大事なことは何でしょうか。退職条件の交渉テクニックでも、何人で話すかでも、どこで話すかでもありません。

「退職しなければならない理由をしっかり説明すること」——これが最も重要で、意外とできていない会社が多いです。

具体的にやめなければならない理由をしっかり説明できていない会社が結構あります。それがなぜ問題かというと、相手から見れば「なぜやめなければならないのか分からない」「納得できない」ということになるからです。納得していない相手が退職に同意することは難しく、話し合いがうまくいかないことになります。

逆に言えば、退職しなければならない具体的な理由を丁寧に、かつ具体的に説明できれば、相手も「仕方がないかもしれない」という気持ちになりやすくなり、合意に至る可能性が高まります。

5. 具体的事実に基づいた説明のやり方 評価的言葉を使わず事実で語る

退職勧奨の場で退職理由を説明する際も、注意指導と同様に具体的事実に基づいて行うことが必要です。

❌ 失敗する説明パターン

「あなたは勤務態度が悪く、周りに迷惑をかけてばかりで、会社に貢献していません。このままでは一緒に仕事を続けることができません」

✓ 具体的事実に基づく説明パターン

「○月○日、□□でこのような行動がありました。○月○日にはこのようなことがあり、その都度注意指導を行いましたが改善が見られません。○月○日には懲戒処分も行いましたが、その後もこのような問題が継続しています。これらの状況を踏まえ、このまま継続雇用することが難しいと判断しました」

また、相手から反論が来ることがあります。しかし、自分の言っていることが社会的に通用するものであれば、反論されても怖くも何ともありません。具体的な事実を説明して、相手が「いや違う」と言ってきたとしても、事実に基づいた対話を続けることができます。

評価的な言葉を連発する説明の方が、相手に嫌な思いをさせやすく、「これはパワハラではないか」と主張される可能性が高くなります。具体的事実を礼儀正しく伝えることがかえって安全です。

6. 退職条件の交渉 上乗せ条件の提示とその考え方

退職勧奨をスムーズに進めるために、退職条件の提示も重要な要素です。通常の退職条件(退職金・退職日など)に加えて、何らかの上乗せ条件を提示することで、相手が同意しやすくなる場合があります。

退職条件として検討する項目

  • 退職日の設定(相手の希望を一定程度考慮する)
  • 退職金・解決金の上乗せ(一定条件での支払い)
  • 離職票の離職区分(会社都合退職にするかどうか)
  • 在籍中の有給休暇の消化
  • 守秘義務・競業避止の範囲

ただし、退職条件は慎重に検討する必要があります。根拠のない高額の解決金を支払うことが会社の損失につながる場合もあります。また、条件が高すぎると「もっと要求すれば応じてくれる」という印象を与えてしまうこともあります。弁護士と相談しながら適切な条件を設定することをお勧めします。

7. 退職届・合意書の取得 書面化が不可欠な理由

退職の話がまとまったと思ったら、必ず退職届または合意書を書面で取得してください。口約束だけでは不十分です。

なぜ書面が必要なのでしょうか。話がまとまったように見えても、後から「退職はしていない」「解雇された」「退職を強要された」という主張が出てくるケースが実際に多くあります。退職届も合意書も取っておらず、会社は「辞めた」と思っていたところ、後から内容証明が届いて「解雇は不当なので毎月の給料を払い続けろ」と書いてある——これは実際に起きているトラブルです。

書面取得のポイント

  • 退職届には「一身上の都合により」などの文言と退職日を明記させる
  • より確実にするには退職合意書を交わし、双方が署名押印する
  • 合意書には「互いに何らの債権債務がないことを確認する」などの清算条項を入れることも検討する
  • メールやLINEで退職の意思確認を取る方法も有効(書面が取れない場合の代替手段)

退職届・合意書が取得できた段階で、初めて「退職勧奨が成功した」と言えます。それまでは、たとえ口頭で「分かりました」と言われても気を抜かないことが重要です。

8. まとめ

問題社員への退職勧奨を成功させるためのポイントを整理します。

  1. 退職勧奨は「合意退職」を目指すもの——相手の同意なしには何も成立しない。この基本を常に念頭に置く
  2. 退職勧奨の前に注意指導・懲戒処分を積み上げておく——断られた時に解雇の選択肢を行使できる状態にしておくことが必須
  3. 退職しなければならない理由を具体的に説明する——評価的な言葉ではなく、具体的事実に基づいた説明が相手の納得を得やすくする
  4. 退職条件の提示も重要——適切な条件設定で合意を得やすくする(弁護士と相談して決める)
  5. 退職届・合意書を必ず書面で取得する——口約束は後のトラブルの元。書面化して初めて「成功」

退職勧奨についてお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 注意指導・懲戒処分なしにいきなり退職勧奨を行ってはいけませんか。

A. 絶対に行ってはいけないわけではありませんが、非常にリスクが高いです。退職勧奨を断られた場合に、その後の選択肢(解雇など)がなくなってしまいます。注意指導・懲戒処分の積み上げがある状態で退職勧奨に臨むことで、相手も「断ったとしてもその後の展開がある」と認識でき、合意に至りやすくなります。また、退職しなければならない理由の説明も、積み上げがあれば具体的に行えます。

Q2. 退職勧奨を繰り返すことは許されますか。

A. 退職勧奨は合意退職を目指す話し合いですので、一定の範囲内で繰り返すことは許されます。ただし、断られた後も長時間にわたり何度も執拗に迫ったり、退職を強要するような態様で行うと、違法な退職強要と評価されるリスクがあります。退職勧奨の頻度・方法については弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。

Q3. 退職勧奨と解雇はどう使い分ければよいですか。

A. 退職勧奨は相手の合意が必要ですが、合意さえ得られれば裁判上のリスクが低い方法です。解雇は会社が一方的に労働契約を終了させるものですが、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要であり、要件が厳しいです。原則として、まず退職勧奨を行い、それでも合意が得られない場合に解雇を検討するという順序が一般的です。ただし、退職勧奨に臨む前から、解雇できるだけの積み上げを並行して進めておくことが重要です。

Q4. 退職合意書には何を記載すべきですか。

A. 退職合意書には、退職日・退職理由(合意退職である旨)・退職金等の条件・清算条項(互いに何らの債権債務がないことの確認)・秘密保持義務(場合による)などを記載することが一般的です。特に清算条項を入れることで、後から「まだ請求できる権利がある」という争いを防ぐことができます。合意書の作成については弁護士に相談しながら行うことをお勧めします。

Q5. 退職届を出した後に「撤回したい」と言われました。どうすればよいですか。

A. 退職届を受け取った後、会社がそれを承認した旨を通知するまでの間は、一定の条件のもとで撤回が認められる場合があります。退職届を受け取ったら、速やかに「承認した」旨を書面またはメールで通知することが重要です。撤回の申し出があった場合の対応は個別の事情によって異なりますので、すぐに弁護士に相談することをお勧めします。

最終更新日:2026年4月30日


Return to Top ▲Return to Top ▲