問題社員256 教育指導の仕方
動画解説
この記事の要点
|
✓
|
注意指導で最も大切なのは「具体的事実を伝えること」——5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・どのように)で伝えることがすべての出発点 「勤務態度が悪い」「常日頃から迷惑をかけている」などの評価的言葉で終わらせる注意指導は失敗の元。具体的事実を特定して伝えることで、教育効果・パワハラ防止・裁判対策がすべて実現する |
|
✓
|
注意指導の目的は「裁判のアリバイ作り」ではなく「本人に問題行動を改めてもらうこと」——この原点を見失うと注意指導は形骸化する 「以前は放置していたが、ダメだと判断したから今後はうるさく言う」という人工的な注意指導は本人の行動改善につながらない。本当に直してもらいたいからこそ具体的事実に基づいて伝える |
|
✓
|
「自分で気づかせる」指導法(ソクラテス式)は問題社員には通用しない——問題のある社員には直接・明確に事実を伝えることが必要 自分の頭で考えて気づける人は最初から問題行動をしない。問題社員に対しては、遠回しにせず「何月何日の何時頃、あなたが誰に対してどのように何をしたのか」をずばり伝えることが原則 |
|
✓
|
事実を礼儀正しい日本語で伝えることはパワハラにならない——むしろ評価的な言葉を連発する方がパワハラになりやすい パワハラになるのは、仕事と関係のない事実を話したり、あまりにも侮辱的な言葉を用いた場合。業務上適切な事実を礼儀正しく伝えてパワハラになることは、裁判所では認められることがほぼない |
目次
1. 注意指導の最重要原則 「事実を伝えること」
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
本日は、問題社員に対する注意指導の仕方について、私が最も大事だと考えることをお話しします。その答えはシンプルです。「事実をしっかり伝えること」——これに尽きます。
ここでいう「事実」とは、いわゆる5W1Hで表現されるものです。
事実(5W1H)の要素
| いつ | 何月何日の何時頃 |
| どこで | どの場所・状況で |
| 誰が | 当該社員が(誰に対して) |
| 何を | どのような行為・言動を |
| どのように | どのような態様・方法で行ったのか |
| なぜ | (本人の内心なので推測になることが多い。他の5Wで十分な場合も多い) |
この5W1Hに沿った具体的事実を示した上で、「このような行動は業務上問題があり、改めていただく必要があります」という形で注意指導を行うことが、教育効果・法的有効性・パワハラ防止のすべてを一度に実現します。
2. よくある失敗:評価的言葉で終わらせる注意指導の問題点
実際に相談を受けていると、多くの会社の注意指導が次のようなものになっています。
❌ よくある失敗例
「あなたは常日頃から勤務態度が悪く、周りに迷惑をかけてばかりいるので、今後そのようなことのないよう注意してください」
このような注意指導には根本的な問題があります。「勤務態度が悪い」「迷惑をかけてばかり」という言葉は、評価であって事実ではありません。
こうした評価的言葉による注意指導を受けた問題社員は、「一体何のことを言っているのか分からない」「社長が自分のことを嫌いだから言っているだけだ」「好き嫌いで物を決める経営者だ」という受け取り方をすることがあります。それは行動改善につながらず、反発を招くだけです。
また、「これはみんなの共通認識だから言わなくても分かるでしょ」「胸に手を当てて考えればあなた自身分かっていることでしょ」という発想で、具体的事実を伝えることを省略してしまう経営者の方も少なくありません。これは失敗の元です。
✓ 事実に基づく注意指導の例
「○月○日○時頃、○○会議室において、あなたが△△さんに対して大声で怒鳴る形で『□□□』と述べました。このような言動は、他の社員の就業環境を害するものであり、就業規則第○条に該当しますので、今後行わないよう強く指導します」
3. 注意指導の目的は「裁判のアリバイ作り」ではない
注意指導の目的は何でしょうか。裁判のアリバイ作りではありません。本人に態度なり問題行動を改めてもらいたいから行うものです。ここをしっかり押さえてください。
「以前は放置していたが、あいつはダメだと判断したから今後はしっかりうるさく言っていこう」という、いわば人工的な注意指導が生み出す問題があります。本人の行動を改善させるためではなく、後々の解雇や懲戒処分のための証拠作りを目的として、急に注意指導を始めるケースです。
これは注意指導の本来の目的から逸脱しており、また証拠としての価値も低くなりがちです。注意指導は、しっかりその人の行動を改めてもらいたいから行うものです。教育効果が高くない注意指導は、単なるパフォーマンスに過ぎません。
「本人に直してもらいたいから、問題行動を改善してもらいたいからする」——この姿勢で注意指導することで、教育効果が高まり、結果として裁判上の証拠にもなります。目的の順序を間違えないでください。
4. 「自分で気づかせる」指導は問題社員に通じない理由
「相手が自分で気づいて改善することが理想だから、直接言わずに遠回しに伝えよう」「ソクラテス式に自問自答させて気づかせよう」という指導法を採る方がいらっしゃいます。
しかし、これは問題社員には通用しません。そのような指導法が効果を発揮するのは、自分の頭でものを考えて気づくことができる、ある程度優秀な社員に対してのものです。そのような方は、そもそも最初から問題行動をすることがほとんどないのです。
周りに迷惑をかけていて、なんとか直さなければいけない問題社員に対して、自分で気づかせるという指導法は大体失敗します。そのような遠回しの方法では、直接「何月何日の何時頃、あなたが誰にこんなことをやった。これはやりましたよね」と事実を特定して伝えることにはなりません。
問題社員への指導に必要な姿勢
- 遠回しにせず、ずばり事実を伝えること
- 「言わなくても分かるはず」という前提を持たないこと
- 「パワハラになるかも」という恐れから言うべきことを言わないことをやめること
- 「本人のため」という言い訳で事実を伝えることを避けないこと
5. 具体的事実を伝えることで議論の対象がはっきりする
具体的な事実を特定して伝えることには、教育効果以外にも大きなメリットがあります。議論の対象・テーマがはっきりするという点です。
「何月何日の何時頃、どこであなたが誰に対してどんな風にどんなことをやったのか」と具体的事実を示されれば、相手も「やったけど、こういう理由で正当な理由があります」などと反論を具体的に出さざるを得なくなります。
事実が特定されてしまえば、議論の対象がはっきりします。どちらの言っていることが正しいのか、客観的に判断できるようになります。これは、注意指導が後に懲戒処分・解雇へと進む場合においても、証拠としての価値が大幅に高まることを意味します。
一方、「勤務態度が悪い」「協調性がない」などの評価的言葉だけで終わると、相手は「そんなことはない」「社長の評価がおかしい」と言うだけで、議論はどこまでも平行線をたどります。事実を特定した議論ができないままでは、後の懲戒処分や解雇においても証拠として弱いものにしかなりません。
6. パワハラを恐れて事実を伝えないことの危険性
「具体的なことを言ったらパワハラになるのではないか」と心配して、事実をはっきり伝えることを躊躇する経営者の方が多くいらっしゃいます。しかし、これは逆です。
パワハラとして裁判所で認められるのは、業務上必要のない侮辱的な言葉を用いたり、仕事と関係のない個人的なことを攻撃したりした場合です。業務上の問題に関する具体的事実を、礼儀正しい日本語で伝えてパワハラと認定されることは、裁判所ではほぼありません。
むしろ「態度が悪い」「出来が悪い」などの評価的な言葉を連発する方が、相手に嫌な思いをさせやすく、パワハラになりやすいです。事実を礼儀正しく伝えることへの恐れは、不必要なものです。
「違法かどうか」「パワハラかどうか」という低いレベルを目標にするのではなく、「どうすれば教育効果が高くなるか、相手の行動を改善させられるか」という高いレベルを目指してください。教育効果の高い適切な日本語を使って指導すれば、違法になることはほとんどありません。
7. 事実を伝える注意指導は「立派な経営者」への評価につながる
具体的事実に基づいた注意指導を続けていくと、思わぬ効果があります。以前は「単に自分の感情を発散するだけで、俺は怒っているぞということを示しているだけだ」と思われていた社長が、「最近、何がどう問題なのかしっかり言ってくれるから本当に助かる。立派な人に見えてきた」と言われるようになったという例があります。
これは単に裁判対策・パワハラ対策という話だけではありません。しっかり教育ができ、コミュニケーションが取れ、従業員が納得して言うことを聞いてくれる立派な経営者になるために、この「事実を伝える注意指導」を習得していただきたいと思います。
事実を伝えて注意指導するというのがスタートラインです。これを習得することで、問題社員への対応の質が根本的に変わります。
8. まとめ
教育効果が高く、裁判でもパワハラと評価されない注意指導のポイントを整理します。
- 事実を伝えることが最重要——5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・どのように)に基づいて具体的事実を示す
- 評価的言葉で終わらせない——「勤務態度が悪い」などの評価ではなく、その評価の根拠となる具体的事実を伝える
- 注意指導の目的は本人の行動改善——裁判のアリバイ作りではなく、本当に直してもらいたいという姿勢で行う
- ソクラテス式は問題社員に通用しない——直接ずばり事実を伝えることが必要
- 事実を伝えることはパワハラにならない——礼儀正しい日本語で業務上の事実を伝えることが最も安全で効果的
注意指導の仕方でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 注意指導をしたのに「パワハラだ」と言われました。どうすればよいですか。
A. まず、どのような言葉・内容で注意指導を行ったかを振り返ってください。業務上の具体的事実に基づき、礼儀正しい日本語で伝えた注意指導であれば、パワハラと裁判所で認定されることはほぼありません。「パワハラだ」と言われた場合でも、必要な注意指導を委縮して行わないことは避けてください。ただし、自分の感情に任せた言い方や、侮辱的な表現を用いた場合は問題になりえます。具体的な状況を弁護士に相談しながら対応を検討することをお勧めします。
Q2. 注意指導の記録はどのように残せばよいですか。
A. 注意指導を行った後、その内容を書面(報告書・メール)で記録することが重要です。記録には必ず「いつ・どこで・誰が・何を・どのようにしたか」という具体的事実を書いてください。「勤務態度について指導した」などの抽象的な記録では証拠価値が低くなります。上司から報告書を作成させたり、注意指導後に経緯をまとめたメールを残す方法が有効です。
Q3. 口頭での注意指導と書面での注意指導はどちらが有効ですか。
A. 口頭での面談と書面の両方を組み合わせることが最も効果的です。口頭だけでは「言った・言わない」のトラブルが生じやすく、書面だけでは本人が真剣に受け止めず、教育効果が下がりがちです。口頭で直接面談を行い(Zoom・Teamsでも可)、その内容を書面やメールでも確認・通知することで、教育効果と証拠価値の両方を高めることができます。
Q4. 何度注意指導しても改善しない場合、次のステップは何ですか。
A. 具体的事実に基づいた注意指導を重ねても改善が見られない場合は、懲戒処分(けん責・減給・出勤停止など)を段階的に行うことを検討します。懲戒処分も、具体的事実に基づいて行うことが必要です。懲戒処分を繰り返しても改善しない場合には、退職勧奨や解雇という選択肢に進む場合がありますが、いずれも弁護士と相談しながら進めることが不可欠です。
Q5. 上司が問題社員への注意指導を苦手としています。どうすればよいですか。
A. 上司が注意指導を苦手とする原因の多くは、「何を言えばいいか分からない」「パワハラになるのでは」という不安です。まず、具体的事実に基づいて伝えることが基本であることを社内で共有してください。また、注意指導の前に弁護士と相談し、具体的な言葉・文言についてアドバイスを受けることも有効です。Zoom等を使ったこまめな相談を通じて、その都度対応方針を確認しながら進めると、上司の不安を軽減することができます。
最終更新日:2026年4月30日