問題社員254 注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない。

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この記事の要点

「パワハラだ」と言われても必要な注意指導は諦めない——周りの社員を守るのは経営者の義務

パワハラと言われたくない気持ちは分かるが、嫌がらせを受けている社員がいるのに注意指導できなければ職場の雰囲気はどんどん悪くなる。周りの社員を守り、業務を円滑に進めるため必要な注意指導は必ず行う

「相手がパワハラと感じたらパワハラ」は誤り——客観基準(平均的労働者の感じ方)で判断される

厚労省パンフレットにも、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導はパワハラに当たらないと明記されている。「内心でどう感じたか」を基準にすれば職場は麻痺する

ポイント① 事実を具体的に伝える——評価的な日本語は避ける

「協調性がない」「勤務態度が悪い」と評価的に叱っても効果は低く、むしろイライラが高じて侮辱・人格否定につながりやすい。5W1Hで事実を特定して指導すれば教育効果が高く、ほぼパワハラと評価されない

ポイント② ギリギリのセーフを狙わない——「注意指導として効果的か」を基準にする

「セーフかアウトか」の発想は後ろ向きで危険。注意指導の目的は周りの社員を守り業務を良くすること。客観的に効果的な指導を心がけていれば、パワハラと評価されることはまずない

ポイント③ 練習する——知識のインプットだけでは対応できない

スポーツや楽器と同じで、本を読むだけでは使えるようにならない。弁護士とのロールプレイや社内での受け答え練習などで、アウトプット力を身につけることが大切。個人の適性頼みでは組織の戦力にならない

1. 「パワハラだ」と言われても必要な注意指導は諦めない——周りの社員を守るため

 会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

 本日は、注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない社員への対処法についてお話しします。

 会社で問題のある行動をした社員に対して、注意指導が必要となる場面はどうしても発生します。業務の進め方が間違っていれば正しく直してもらわなければいけませんし、周りの社員に迷惑をかける嫌がらせのような言動をしている人がいれば、止めさせなければいけません。ところが、経営者として「そのやり方はやめなさい」「こう改善しなさい」と話したところ、本人から「それはパワハラです」と反発され、指導に従ってもらえない——こうした経験をお持ちの社長も多いのではないでしょうか。

「パワハラ」という言葉に委縮する気持ちは分かるが

 「パワハラ」という言葉が日本社会に広く浸透してから、少なくとも10年以上が経ちます。コンプライアンス意識の高まりとともに、「パワハラ上司」「パワハラ経営者」というレッテルは、会社にとっても社長個人にとっても大きなダメージになるものです。ですから、社員から「それってパワハラですよ」と言い返されたとき、社長としてドキッとして、一瞬対応を迷ってしまう——そのお気持ちは非常によく分かります。

 しかし、ここで踏ん張れるかどうかが、その後の職場のあり方を大きく左右します。仕事を進める上で、どうしても言わなければならないことはあります。注意指導をしないわけにはいかない場面は、経営を続ける限り必ず発生するのです。

注意指導を諦めると職場の雰囲気が崩壊する

 もし、周りの社員に嫌がらせをしている人に対して注意指導ができなかったら——そう想像してみてください。周りの社員たちは、「社長は助けてくれない」「この会社に訴えても無駄だ」と感じるようになります。嫌がらせを受けて嫌な思いをしても誰も守ってくれない職場であれば、「こんな会社は辞めて、別の会社で働こう」と思われても仕方ありません。

注意指導を避けた結果、起こること

  • 問題のある社員の言動が止まらず、周囲の被害が拡大する
  • 真面目に働いている社員が「守ってもらえない」と感じて離職する
  • 残った社員のモチベーションが下がり、職場の生産性が低下する
  • 業務の進め方の誤りが修正されず、業績・品質に悪影響が出る
  • 「声を上げる者が損をする」文化が定着し、問題がさらに顕在化しにくくなる

 問題のある行動をする社員がいたら、しっかり注意指導して、周りの社員たちを守ってあげること——これは会社経営者の義務です。パワハラと言われたくないという気持ちで指導を避ければ、それは結果として、真面目に働いている他の社員を見捨てることになります。パワハラだと言われたとしても、必要な注意指導は毅然と行わなければなりません。

2. 「相手がパワハラと感じたらパワハラ」は誤り——客観基準で判断される

 注意指導を行う上で、まず経営者の皆様にしっかり理解していただきたい大前提があります。それは、「相手がパワハラだと感じたらパワハラ」という世間でまことしやかに言われている説明は、完全に誤りであるということです。

パワハラの3要件を押さえる

 そもそもパワハラとは、次の3要件を満たすものを指します。

職場におけるパワハラの3要件

  1. 優越的な関係を背景とした言動(上司・部下という上下関係が中心。ただし、同僚・部下からの言動でも力関係次第でパワハラになり得る)
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(業務に必要のないことを言ったりやったりする必要はない。注意指導と言っても必要性の乏しいものは許されない)
  3. 労働者の就業環境が害される言動(職場で行われるものであり、結果として仕事をする上での環境が悪化する効果を伴うもの)

厚労省パンフレットが明記する「適正な業務指示・指導はパワハラではない」

 ここでしっかり覚えておいていただきたいのが、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラではないという点です。これは私が勝手に言っているセリフではありません。厚生労働省のパンフレットにも明記されている公式な見解です。

客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、相手がパワハラだと言い出しても、パワハラではありません。これは経営者として絶対に押さえておくべき基本です。

「相手の内心」を基準にしたら職場は麻痺する

 ちょっと想像してみてください。もし「相手がパワハラと感じたらパワハラ」という説明を真に受けてしまったら、どうなるでしょうか——相手はどんな本音でも言えてしまう状況ができてしまいます。

 なぜなら、「どう感じるか」は内心の問題だからです。内心の問題ということは、いかに正当な業務指示や指導であっても、本人が「パワハラだと感じた」と言い出せば、それを覆すことは事実上不可能になってしまいます。「そんな風に感じているはずがない」と反論しても、「私の内心があなたに分かるんですか。私はそう感じたのだからパワハラです」と返されて、議論が成立しなくなるのです。

「内心基準」を認めてしまったら起こること

  • 誰かがひどい目に合っていても注意指導ができなくなる
  • 問題社員が「パワハラだ」と言えば、すべての指導が封じられる
  • 職場秩序を守る手段を経営者が失う
  • 真面目な社員を守れなくなる

 このような事態を招いてはいけません。問題のある行動をする人がいたら、しっかり注意指導して、周りの社員たちを守る——これが経営者の役割です。ここを勘違いしないでください。

「客観的」とは「平均的な労働者の感じ方」

 もう一つ豆知識として押さえておきたいのが、「客観的に判断する」と言うときの「客観的」とは何なのかという点です。これは、平均的な労働者の感じ方を基準とすると言われています。

 「平均的な労働者」と言われても少し分かりにくいかもしれませんので、もう少し砕けた言い方をすると、同じような状況で同じような立場の労働者だったら、大多数の人がこのように感じるのではないか——というイメージで考えていただけば、大きく外しません。

 もちろん、「社長である自分に、大多数の労働者がどう感じるかなんて分からない」というケースもありますし、実際の実務では判断が微妙なケースも多くあります。そのような場合は、弁護士にご相談いただければリスクの程度についてアドバイスができます。大事なのは、「パワハラか、パワハラでないか」という白黒二元論ではなく、「どの程度のニュアンスのものなのか」を見極めていく発想です。

3. ポイント①:事実を具体的に伝える——評価的な日本語を使わない

 それでは、客観的に見てパワハラとならない注意指導を行うために必要なことを、3つのポイントに分けてお話しします。まず最も大切な第1のポイントは、「事実」を具体的に伝えることです。評価ではなく事実を、具体的に伝えるのです。

事実を具体的に伝える指導は教育効果が高い

 なぜ「事実を具体的に伝える」ことが重要なのか——それは、事実ベースの指導は教育効果が高いからです。イメージしてみてください。

事実ベースの注意指導の例

「あなたが○月○日の○時頃、どこで、誰に対して、どのように、何をやったこと、これが○○という理由で問題です。あのような場面では、こういう言い方・やり方をすべきではありませんでした。むしろ○○のように対応すべきでした」

 この粒度で注意指導されれば、本人も具体的に何を改めればよいかが明確に分かります。うっかりミスをしてしまうタイプの社員に対しても、「どの行動が悪かったのか」「どう直せばよかったのか」を具体的に伝えることは、極めて教育効果の高い指導になります。

 そして、事実を具体的に伝える指導は客観的に見てパワハラに当たりません。事実であれば業務と関係のない話にはなりませんし、そこに評価的・感情的な要素が入り込む余地も少ないからです。まずは相手をよく観察して、どの言動が問題だったのかを特定し、それについて「どうすべきだったのか」「何をすべきでなかったのか」を具体的に指導する——この流れをしっかり守れば、ほぼ失敗はありません。

危ないのは「評価」——抽象的な日本語は逆効果

 他方で、注意指導の場面で非常に危ないのが、「評価的な日本語」を使ってしまうことです。実際には、事実に踏み込むほうが(パワハラと評価されにくい意味で)安全であるにもかかわらず、多くの社長・上司は、具体的な事実に触れるのを怖がって、遠回しな評価の言葉でお茶を濁してしまいがちです。

効果の低い(そして危険な)評価的な日本語の例

  • 「ちょっと協調性がないんじゃないの?」
  • 「勤務態度が悪いんじゃないの?」
  • 「最近、評判があまり良くないよ」
  • 「もう少し大人になってくれないかな」
  • 「やる気を感じないんだけど」

 このような抽象的・評価的な言い方では、一体どの言動について言っているのか本人にはまったく伝わりません。「何となく社長が自分を嫌っている」「なぜかイライラをぶつけられている」という印象だけが残り、行動の修正にはつながりません。教育効果が低いのです

 もっとも、こうした遠回しな言葉だけで終わらせる分には、パワハラと評価されることはそれほど多くはないでしょう。問題は、遠回しに無難な言葉で済ませていると事態が改善しないので、そのうちイライラが募ってしまう点にあります。

評価的日本語→侮辱・人格否定→パワハラ認定の負のスパイラル

 抽象的な評価の言葉で指導しても相手は変わらないので、社長・上司はだんだん苛立ってきます。すると何が起きるか——ついつい踏み込んで具体的な指導をすべき場面で、具体的な事実を題材にして話せばよいものを、人格否定的なセリフを口にしてしまうのです。

イライラから出やすいNGワードの典型

  • 「君はだから能力がないんだ」
  • 「そんなことも分からないのか」
  • 「いるだけ迷惑だ」
  • 「辞めてもらった方が会社のためだ」
  • 人格・出自・容姿などに関する嫌悪感の表明

 こうした人格否定的・侮辱的な発言があると、裁判で争われた際にパワハラと認定され、不法行為・違法行為と評価されてしまうことになります。事実ベースで具体的に話しておけば避けられたはずのリスクを、評価的な日本語から入ってしまったために招き寄せてしまう——実務では本当によくあるパターンです。

具体的事実ベースで話す人は、そもそもパワハラ的言動をしない

 私の経験上、問題のある言動を取り、パワハラだと評価されやすいタイプの方は、具体的な事実を指摘せず、評価的な言葉だけを相手にぶつける傾向があります。何を言いたいのかがよく分からず、ただ「自分がイライラしていること」だけが伝わって、「それを察して動け」という状態になってしまう。これがまさにパワハラと評価されるタイプの指導です。

 逆に、具体的に相手を観察して、具体的な議論ができる人は、そもそも間違った言動を取ることが非常に少ないのです。ですから、ここは怖がらずに、具体的な事実をベースに話すようにしてください。よほど差別的な事実を指摘したような場合でない限り、事実ベースの指導がパワハラになることはほぼありません。「具体的な事実をテーマに話す」——たったそれだけのことでも、パワハラというものは恐れるに足らずとなる可能性が高いと理解してください。

4. ポイント②:ギリギリのセーフを狙わない——「効果的か」を基準にする

 続いて2つ目のポイントは、「注意指導として何が効果的なのかを考える」「ギリギリのセーフを狙わない」ということです。

「セーフかアウトか」発想の落とし穴

 世の中の書籍や研修を見ると、「これはパワハラ、これはセーフ」「ここからアウト、ここまではギリギリセーフ」といった整理の仕方が大変人気です。分かりやすいので、多くの社長や管理職がこうした整理を好みます。しかし、この発想には根本的な問題があります。

「セーフかアウトか」だけを考えるのは、そもそも注意指導の目的を見失った後ろ向きな発想です。私たちは、何のために注意指導をしているのでしょうか。良い職場にするため、良い仕事をしてもらうため、周りの社員たちを守るため——これが本来の目的です。「自分がパワハラと言われないかどうか」だけを基準にすると、指導そのものの質が落ちてしまいます。

「注意指導として効果的か」を基準にする

 発想を転換しましょう。「注意指導として効果が高いやり方かどうか」——これを考えるのです。

 客観的に見て注意指導として効果の高いやり方をしていれば、パワハラと評価されることはまずありません。なぜなら、業務上必要かつ相当な範囲の適正な指導は、そもそもパワハラの定義から外れるからです。「どうすれば相手に伝わるか、行動が変わるか、周りの社員が守られるか」——この問いから指導を組み立てると、結果的にパワハラ認定のリスクも小さくなるという構造になっています。

ギリギリを狙う発想は、なぜ危険なのか

 逆に、ギリギリのセーフを狙う発想はリスクが高くなります。

 まず第1に、最も大事なはずの「注意指導の効果」を考えていない時点で、どこかずれています。「自分がセーフかどうか」が主目的になってしまえば、指導の中身は薄くなり、相手は変わりません。

 第2に、ギリギリを狙うのは技術的にもリスクが高いという問題があります。ハードルぎりぎりすれすれで飛んだほうが速く先に進めるということはあるかもしれませんが、それと似た発想で「あまり高く飛びすぎるともったいない、やりすぎ・オーバースペックだ」と考えてギリギリを攻めると、少し踏み外しただけでパワハラになってしまいます。

 もちろん、「不必要に殴ったり蹴ったりしたほうが効果的だ」という発想が許されないのは当然です。ここで申し上げている「効果的」とは、現代の日本社会で受け入れられている価値観の中で、注意指導として何が効果的かということです。その枠内で効果的な指導を追求していただければ、まず安心です。

5. ポイント③:練習する——アウトプット力を身につける

 3つ目のポイントは、「練習する」ことです。これは知識のインプットだけでは身につかない、実務でもっとも差がつく部分です。

知識のインプットだけでは足りない

 パワハラ問題を考えるとき、熱心に勉強されている方は非常に多くいらっしゃいます。本を読み込んだり、セミナーに参加したり、厚生労働省のパンフレットを読み込んだり、裁判例の研究をしたり——いずれも非常に良いことです。しかし、知識のインプットだけでは足りません

 注意指導というのは、現実の場面で、リアルタイムに、相手の反応を見ながら言葉を繰り出していく活動です。アウトプットがスムーズにできるようになっていなければ、本番で使えないのです

スポーツや楽器と同じ——練習しなければ本番で動けない

 これはちょうど、スポーツや楽器と同じようなところがあります。

野球・サッカー・バスケットボールは、本を読んだだけでは上手にはなりません。ピアノ・バイオリン・笛(弦楽器でも管楽器でも)何でも、本を読んだだけでは足りないのです。走り込みをしたり、素振りをしたり、実際に楽器に触ったり——練習によってアウトプットのスキルが身につきます。パワハラ対応の注意指導も、まったく同じです。

練習しないと、本番で知識が使えなくなる

 練習をしないとどうなるか。知識はものすごく増えているはずなのに、本番ではスムーズに言葉が出てこないのです。まさに、ボールをうまくキャッチできない、スイングできない、ピアノに向かっても指が動かない——それと同じ状況になります。

 その結果どうなるかというと、注意指導への対応力が個人の適性・才能、あるいはこれまでの経験値に依存してしまうことになります。

たまたま注意指導に適性のある人物が社内にいれば対応できる。たまたまこれまでの仕事の経験で、難しい相手と話す機会が多くて経験豊富な人物がいれば対応できる——その人がいなくなった瞬間に、会社として対応できなくなってしまう。これでは組織としての戦力になりません。

組織としての対応力を高めるには、練習で底上げする

 会社経営者として強い組織を作ろうと考えたとき、特別な適性のある人だけに依存しない体制をつくる必要があります。もちろん、本当に難易度の高い相手には、適性のある人や経験豊富な人に対応してもらうのが現実的です。しかし、そこまで難易度が高くない相手であれば、ごく普通の適性・経験の管理職でも対応できるようにしておくべきです。

 それを実現する方法が、「練習」です。野球の才能がそれほどなくても、正しいトレーニング方法で練習すれば、野球をやっていない人よりは上手になります。ピアノやバイオリンも同じです。プロになれるかどうかは別として、ある程度レッスンを受けて練習すれば、ある程度のレベルには達するはずです。注意指導もまったく同じ構造です。

具体的な練習方法——弁護士とのロールプレイ・社内ロールプレイ

 それでは、具体的にどう練習すればよいでしょうか。

注意指導の練習方法

  • 弁護士とのロールプレイ:弁護士が「パワハラだと騒ぐ問題社員役」を演じ、社長・上司が受け応えを練習する。筆者は実物の問題社員より「嫌な受け応え」をすることが多いため、ここで受け答えできれば実戦はおおむね大丈夫
  • 社内ロールプレイ:社長が社内の人を1人つかまえて、問題社員をよく知っている方にその人物役を演じてもらう。実際の口ぶり・理屈を再現してもらうことで、より実戦的な練習になる
  • オブザーバーを置く:練習する2人のほかに1人を傍から見てもらい、終了後にコメント・フィードバックをもらう。これでさらに精度が上がる

 弁護士相手の練習は費用もかかるので、まずは社内ロールプレイから始めるだけでも十分効果があります。大切なのは、本番の前に一度「口を動かしてみる」こと。頭の中でリハーサルするのと、実際に声に出して受け応えするのとでは、習熟度がまったく違います。

6. まとめ

 注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない社員への対処法を整理します。

  1. 「パワハラだ」と言われても必要な注意指導は諦めない——周りの社員を守るのは経営者の義務
  2. 「相手がパワハラと感じたらパワハラ」は誤り。厚労省パンフレットも、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲の適正な業務指示・指導はパワハラに当たらないと明記している
  3. ポイント①:事実を具体的に伝える。評価的な日本語(「協調性がない」「勤務態度が悪い」)は教育効果が低く、人格否定・侮辱に発展するリスクがある
  4. ポイント②:ギリギリのセーフを狙わない。「注意指導として効果的か」を基準に考えれば、結果的にパワハラ認定のリスクも下がる
  5. ポイント③:練習する。知識のインプットだけでは足りない。スポーツ・楽器と同じで、ロールプレイによるアウトプット力の習得が組織の底力をつくる

 今はコンプライアンスの時代ですから、パワハラだと言われるとドキッとして、ひるんでしまう気持ちも分からないではありません。「いい社長」と言われたい気持ちも、経営者なら自然なものでしょう。しかし、注意指導は何のためにやるのか——そこに立ち返ってみてください。嫌がらせを受けている周りの社員を守るため、業務を円滑に進めるため、仕事を前に進めるため——どうしても必要なものなのです。

 この注意指導が、周りの社員を守るために、仕事を進めるために、どうしても必要なものであるならば、パワハラと言われたぐらいでひるんではいけません。必要な注意指導はしっかり行って、良い職場にしていく——これが会社経営者としての責任です。個別の事案で「この指導はどこまで踏み込んでよいか」「どんな日本語を使えばよいか」などでお困りの場合は、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 注意指導をしたら「パワハラだ」と言われました。いったん指導を止めた方がよいでしょうか。

A. 止める必要はありません。客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示・指導は、相手が「パワハラ」と主張しても、パワハラには当たりません(厚生労働省パンフレットでも明記されています)。むしろ、そこで指導を止めてしまうと、周囲で嫌がらせを受けている社員を見捨てることになり、職場全体の信頼を失います。事実を具体的に示して、効果的な指導を淡々と続けてください。ただし、人格否定・侮辱的な発言にまで踏み込んでしまうとパワハラと評価されるリスクが高まりますので、指導の内容・進め方について不安がある場合は弁護士にご相談ください。

Q2. 「相手がパワハラと感じたらパワハラ」という説明を社内研修で聞きました。間違いなのでしょうか。

A. 誤りです。パワハラの該当性は、「相手の内心」ではなく、客観的に——平均的な労働者の感じ方を基準として判断されます。同じような状況で同じような立場の労働者であれば大多数の人がどう感じるか、というイメージです。もし「相手がそう感じたかどうか」で決まるとしてしまえば、いかに正当な業務指示・指導でも、本人が「パワハラだ」と主張するだけで封じられてしまい、職場秩序を守る手段が失われます。社内研修の資料も、この点を厚労省のパンフレットに沿って修正することをお勧めします。

Q3. 「協調性がない」「勤務態度が悪い」と伝えることは、パワハラになりますか。

A. それ自体だけでパワハラになることは通常ありませんが、教育効果が非常に低い表現です。何について言われているのかが本人に伝わらず、行動が改まりません。結果として社長・上司のイライラが募り、次第に人格否定的な発言に発展してしまう——というパターンが多く見られます。最初から「○月○日の○時頃、△△さんとの打合せであなたが○○と言ったことは、○○という理由で適切ではなかった。次回はこう言うべきだった」という事実ベースの指導に切り替えることで、教育効果も高く、パワハラと評価されるリスクも下がります。

Q4. ついイライラして、強い言葉を使ってしまいます。感情的にならずに指導するコツはありますか。

A. ポイントは2つです。第1に、指導に入る前に「何をどう指導するか」を具体的な事実ベースで準備しておくこと。準備なしで話し始めると、抽象的な言葉でお茶を濁し、相手が改善しないのでイライラが募り、強い言葉に発展するという悪循環に陥りがちです。第2に、事前にロールプレイで練習しておくこと。スポーツや楽器と同じで、知識だけでは本番で口が動きません。社内の人や弁護士に「問題社員役」を演じてもらい、受け答えの練習をしておくと、本番でも感情的にならずに淡々と事実ベースで指導できるようになります。

Q5. 書籍で「これはセーフ、これはアウト」の表を見ましたが、これを覚えておけば大丈夫ですか。

A. 覚えておいて損はありませんが、それだけでは不十分です。「セーフかアウトか」の発想は、そもそも「自分がパワハラと言われないかどうか」だけを気にする後ろ向きの視点であり、注意指導の本来の目的(周りの社員を守る・業務を進める)が抜け落ちています。また、ギリギリのラインを狙うと、少し踏み外しただけでアウトに転ぶリスクが高いのです。推奨されるのは、「注意指導として効果的か」を基準に考える発想です。効果的な指導を追求していれば、結果的にパワハラ認定のリスクも大きく下がります。

Q6. ロールプレイはどう始めればよいですか。社内に適任者がいない場合は?

A. まずは、問題社員をよく知っている社員(直属の上司や同僚)に「その人物役」を演じてもらうのが取り組みやすい方法です。実際の口ぶり・よく使う言い訳・怒ったときの反応などを再現してもらえると、実戦に近い練習になります。可能であれば、第三者を1人観察役として置き、終了後にフィードバックをもらうとさらに効果的です。社内に適任者がいない、あるいは本当に難易度の高いケースであれば、弁護士が問題社員役を担うロールプレイを行う選択肢もあります。当事務所でも依頼を受けており、実際の問題社員よりも「嫌な受け応え」をしますので、ここで対応できれば本番はおおむね大丈夫と考えてよいでしょう。

最終更新日:2026年4月17日


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