問題社員244 「復職可」という診断書のみで復職を認めてはいけない理由
動画解説
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「復職可」という診断書は「日常生活に支障がない程度の回復」を意味することが多く、職場で求められる業務遂行能力の回復を保証するものではない 主治医は職場の仕事内容・業務強度を直接知らない。「復職可」は医学的観点からの回復度合いの判断であり、「その仕事ができる」という保証ではない |
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復職判断の基準は「職場で求められている担当業務ができるかどうか」——主治医の診断書だけではこの判断はできない 厚生労働省「職場復帰支援の手引き」にも同趣旨の記載がある。診断書だけで復職を認めると、再休職となるリスクが高い |
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産業医がいる会社では産業医面談を実施し、主治医の意見と合わせて多角的に判断する 産業医は職場の業務内容を知る立場にある。主治医と産業医の意見が食い違った場合は確認作業を継続し、機械的にどちらか一方を優先しない |
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主治医照会・試し出社・リワークを活用して、実際の就労可能性を客観的に確認する 本人の同意を得た上で主治医に直接照会したり、試し出社で始業時刻に出勤できるかを確認するのが有効。始業時刻に出社できない状態では復職はまだ早い |
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復職判断の最終決定権は医師ではなく会社にある——確認が足りない場合は休職期間延長も選択肢 医師や弁護士は意見を述べる立場。判断するのは会社。ギリギリで復職を求めてきた場合に焦って復職させると、体調悪化・安全配慮義務違反のリスクがある |
目次
1. 「復職可」の診断書で復職させた結果、再び休むケースが多発している
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
主治医の「復職可」という診断書が提出されたので復職させてみたところ、まともに仕事ができず、結局また休むことになってしまった——労働問題を扱う弁護士のもとには、このような相談が頻繁に寄せられます。
どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか。主治医は「復職可」と書いてくれている。それを信じて復職させたのに働けない。なぜでしょうか。
この失敗を繰り返さないためには、「復職可」という診断書の意味を正しく理解し、診断書が出てきたときにどのように対応すべきかをマスターすることが重要です。
2. 主治医は職場の状況を知らない——診断書の意味を正しく読む
まず理解すべきは、主治医が「復職可」という診断書を書くとき、どのような前提で書いているのか、という点です。
主治医は医学の専門家であり、病気の診断や治療の専門家です。しかし、職場の状況や、本人が職場で担当している業務の内容を詳しく知っているわけではありません。会社に行って現場を見ているわけではなく、患者である社員から「このような仕事をしています」と聞く程度がほとんどです。
「復職可」の意味は、多くの場合「症状が随分良くなったので、日常生活にはそれほど支障がないでしょう」「大抵の仕事をしても、そう大きな問題にはならないのではないか」「医学的にみて体調を崩す可能性はそれほど高くないのではないか」という医学的な回復度合いの判断です。
主治医の関心は、患者の体調・健康面に向いていることが多く、「仕事を実際にこなせるかどうか」「いい仕事ができるレベルまで回復しているか」までは、必ずしも重点を置いて考えていない傾向があります。そのため、日常生活に支障がない程度に回復していても、職場で求められる業務水準まで回復しているとは限りません。
加えて、「復職できないと休職期間満了で退職になってしまう」と本人から訴えられれば、主治医が情状面を考慮して診断書を書くこともあり得ます。診断書を必要条件として受け取りつつも、それだけで復職の可否を判断しないことが重要です。
3. 厚生労働省「職場復帰支援の手引き」の記載も同趣旨
この問題については、厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、同趣旨の指摘がなされています。
この手引きでは、主治医による診断書の「職場復帰可能」の判断は、多くの場合日常生活における病状の回復程度によってなされていることが多いため、「必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているという、職場復帰に際して事業者が必要とする情報とは限らない」と説明されています。
厚生労働省の手引きは、会社経営者・人事担当者・産業保健スタッフが参照すべき公的な指針として広く用いられており、復職判断のプロセスを争う労働審判・訴訟においても、この手引きが参照されることがあります。
つまり、「主治医の診断書だけで復職を認めると再休職を招きうる」という認識は、弁護士業界だけの見解ではなく、行政の立場からも共有されている実務的な前提なのです。
4. 復職判断の基準は「担当業務を遂行できるか」
では、会社は何を基準に復職の可否を判断すべきでしょうか。
復職判断の基準は、「労働契約で予定された労務提供ができるかどうか」——つまり、職場で求められている担当業務を遂行できる状態まで回復しているかどうかです。
仕事で予定された業務ができないのであれば、原則としては戻すわけにはいきません。そこまで治っていない状態で戻せば、結果としてさらに体調を崩す可能性が高く、安全配慮義務の観点からも問題があります。
負担軽減措置を前提とした復職判断
ただし、一定の負担軽減措置(残業なし・短時間勤務・軽易業務への一時的配置転換など)を3か月程度取ることを前提とすれば、回復が完全ではなくても復職を認めることができる、というケースもあります。退職よりは復職を優先したいという価値判断のもとで、業務の性質に応じて個別に検討されるべきものです。
軽易業務が現実にあるか、周囲の社員の協力が得られるか、3か月程度で本来業務に戻れる見込みがあるか——こうした要素を総合的に考慮して判断してください。業務の性質によって結論が変わるため、個別に弁護士に相談されることをお勧めします。
5. 産業医の意見を活用するポイント
復職判断において、産業医の意見は極めて重要です。産業医は主治医と異なり、職場の業務内容を知る立場にあります。実際の業務を前提として「この方が働ける状態かどうか」について意見を述べることができます。
産業医がいる会社では、復職の前に必ず産業医面談を実施してください。その際、以下の点を意識します。
- 本人が復帰した場合に担当する業務の内容・業務量・業務強度を書面で整理し、産業医に共有する
- 休職前の症状・治療経過・現在の状態について、主治医の診断書および本人の申告をまとめて提供する
- 「復職可否」だけでなく、「どの程度の負担軽減措置が必要か」「どの時期から本来業務に戻せる見込みか」についても意見を求める
- 産業医面談の結果は書面で記録に残す
産業医と主治医の意見が食い違う場合
産業医と主治医の意見が食い違うケースは珍しくありません。主治医は治療継続や退職回避という患者側の利益を優先する傾向があり、産業医は業務遂行能力と職場の安全という会社側の視点を持ちやすいためです。
意見が食い違う場合、どちらか一方を機械的に優先するのではなく、確認作業を継続することが重要です。主治医への追加照会、本人同意の上での主治医面談、試し出社での実地確認などを組み合わせて、総合的に判断してください。
判断するのは、医師ではなく会社です。会社経営者または人事担当者が、最終的な判断権者であることを明確に意識してください。
6. 主治医への情報提供・意見照会のすすめ
産業医がいない会社や、産業医の意見だけでは判断が難しい場合は、主治医への情報提供・意見照会が有効です。
主治医が「復職可」と書くときに業務内容を正確に把握していないのは、情報提供がなされていないからです。そこで、本人の同意を得た上で、以下のような情報を主治医に提供して意見を求めます。
主治医への情報提供資料の例
- 本人の担当業務の具体的な内容(業務内容・業務量・拘束時間・対人対応の有無・外勤の有無など)
- 職場環境の概要(社員数・部署構成・勤務シフトなど)
- 想定される負担軽減措置の内容と期間
- 復職後に求められる業務遂行水準
こうした情報を踏まえた上で、主治医に「この業務を前提として、復職可能と判断できるか」「どの程度の負担軽減措置が必要か」を改めて照会します。本人の同意があれば、会社担当者が主治医を直接訪問して面談することも可能です。
主治医が面談・情報提供に応じないような場合は、その事実自体が後の判断において考慮される事情になります。
7. 試し出社・リワーク制度を活用した実地確認
書面上の確認に加えて、実地で就労可能性を確認する方法も有効です。
(1) 試し出社
試し出社は、正式な復職の前に、本人が実際に始業時刻に出社できるか、職場の環境に耐えられるか、簡単な作業ができるかを確認する仕組みです。
特に重要なのは「始業時刻に出社できるかどうか」です。始業時刻に出社できない状態では、そもそも復職の土俵に乗っていません。始業時刻出社が安定してできるようになることが、復職判断の最低ラインです。
試し出社期間中は、業務命令による労働ではなく、復職準備のための自主的な出社として位置付けるのが一般的です。就業規則・運用ルールの整備と弁護士への事前相談が必要となります。
(2) リワーク制度の活用
リワーク(職場復帰支援プログラム)は、医療機関や独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構などが提供する、復職準備のための集団プログラムです。規則正しい生活リズムの回復、対人関係対応力の回復、業務遂行能力の確認などを段階的に行います。
リワークを完了できたという事実は、就労可能性の客観的な証拠として有力です。会社として「リワークの修了」を復職条件の一つに位置付けることも検討できます。
8. 時間が足りない場合は休職期間の延長も検討する
休職期間の満了日が迫っていると、会社としても「復職させるかどうか」を早期に決めなければならず、確認作業を十分にできないまま復職判断を迫られることがあります。
このような場合、休職期間の延長を検討することも選択肢です。就業規則に延長規定がない場合でも、個別同意により延長することは可能です。
ギリギリで復職を求められて焦って復職させると、再休職のリスクが高く、安全配慮義務違反の主張を招きやすくなります。「復職を認めないなら休職期間延長に同意してもらう」という選択肢も視野に入れた対応のほうが、結果的に会社・本人の双方にとって望ましいケースがあります。
延長の条件・期間・延長中の取り扱いは個別事案ごとに異なります。弁護士と相談しながら進めてください。
9. まとめ——会社・周囲・本人の三者すべてのために必要な確認作業
「復職可」という診断書が出たからといって即復職を認める運用は、会社・周囲の社員・本人の三者すべてにとって不幸な結果を招きやすい対応です。
社長からすれば、専門家の診断書が出た以上は従うしかないと感じるかもしれません。しかし、主治医も、目の前の患者さんに「復職できなければ休職期間満了で退職になってしまう」と訴えられれば、情状面を汲み取った診断書を書くことがあります。
本当に働けるのかをしっかり確認することは、周囲の社員に余計な負担をかけないために必要ですし、「ろくに確認もせず復職させた」と言われないためにも必要です。そして何より、仕事ができないまま戻してしまえば、再び体調を崩すリスクが高く、本人のためにもなりません。
復職判断のポイントを整理します。
- 「復職可」の診断書は必要条件だが十分条件ではない。日常生活の回復を意味することが多い
- 復職判断の基準は「担当業務を遂行できるか」。厚労省「職場復帰支援の手引き」も同趣旨
- 産業医がいれば面談を実施。意見が主治医と食い違う場合は確認作業を継続する
- 主治医への情報提供・意見照会、試し出社、リワークを組み合わせて客観的に確認する
- 最終的な判断権者は会社。時間が足りない場合は休職期間の延長も検討する
しっかり仕事ができるようになってから、あるいは想定されている軽減業務が少なくともできるようになってから、段階的に戻す——これが会社・周囲の社員・本人の三者を守るための基本運用です。判断に迷う場面では、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 主治医から「復職可」の診断書が出ました。復職を拒否することはできますか。
A. 主治医の「復職可」という診断書だけでは、復職を認める義務はありません。復職判断の基準は「担当業務を遂行できるかどうか」であり、職場で求められる業務ができる状態になっているかを会社として独自に確認し、判断する権限があります。産業医面談・試し出社・主治医への照会などを行い、実際に仕事ができる状態になっているかを確認してから復職の可否を判断してください。
Q2. 産業医と主治医の意見が食い違う場合、どちらを優先すべきですか。
A. どちらか一方を機械的に優先するのではなく、確認作業を継続してください。主治医への追加照会、本人同意の上での主治医面談、試し出社での実地確認などを組み合わせて総合的に判断します。最終的な判断権者は医師ではなく会社です。本人が主治医面談を拒否した場合は、その事実自体も判断の考慮事情になります。
Q3. 試し出社は業務命令ですか。試し出社期間中の賃金はどうすればよいですか。
A. 試し出社は通常、業務命令としての労働ではなく、復職準備のための自主的な出社として位置付けます。したがって原則として賃金は発生しません。ただし、試し出社の中で実質的に業務を行わせた場合は労働時間とみなされ賃金支払義務が発生するリスクがあるため、運用ルールを就業規則等で明確化し、事前に弁護士と相談してください。
Q4. 休職期間満了が迫っているのに、まだ本当に働けるか確認しきれていません。どう対応すべきですか。
A. 休職期間の延長を検討してください。就業規則に延長規定がない場合でも、本人との個別同意により延長することは可能です。焦って復職させると再休職・安全配慮義務違反のリスクが高まります。「満了退職か延長同意か」という選択肢を提示して、本人と話し合うことも実務的な対応です。具体的な延長条件は弁護士と相談しながら決めてください。
Q5. 軽減業務での復職を認めるべきかどうか、判断の目安はありますか。
A. ①軽易業務が現実に用意できるか、②周囲の社員の協力が得られるか、③3か月程度で本来業務に戻れる見込みがあるか、が主な判断要素です。これらを満たすのであれば、退職よりも負担軽減措置付きの復職を優先するのが穏当な対応です。ただし、業務の性質によって結論が異なるため、個別事案ごとに弁護士にご相談ください。
Q6. 復職不可の判断をしたら、そのまま退職になりますか。
A. 休職期間満了までに復職できなかった場合、就業規則の定めに従って自動退職または解雇となるのが一般的です。ただし、復職不可の判断は慎重に行う必要があり、判断のプロセス(産業医・主治医の意見収集、試し出社、情報提供等)が尽くされていたかが後の紛争で問われます。復職不可の判断をする前に、必ず弁護士に相談してください。
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最終更新日:2026年4月17日
