問題社員245 メンタルが不安定な問題社員の対処法

動画解説

この記事の要点

レッテルを貼らない——専門医の診断なしに病名で判断しない

「あの人はアスペルガーだから」「○○だから」と病名で安心すると、思考停止に陥り実態に即した対応ができなくなる。差別にもつながりうる。個々の言動・状況を丁寧に観察して判断する

健康確保が最優先——賃金・雇用の議論より先に安全配慮義務を果たす

会社には安全配慮義務がある。明らかに体調が悪い社員については、本人が「自己責任で働かせてほしい」と言っても、働かせてはいけない場面がある

判断の基準は「契約で予定されている仕事ができているかどうか」——病名の重さではない

職場は働く場所。メンタルの問題があっても仕事ができていれば介入する必要はない。反対に健康そのものでも仕事ができていなければ指導・教育の対象になる

休職は要件を満たしてから命令書を交付してスタートさせる——開始日と満了日を書面で明確にする

本人から休職申請書が出ても、就業規則の要件を満たさないまま休職スタートとすると、在籍期間が不当に短縮されたり休職開始日そのものが争われるリスクがある

医師と弁護士と連携して対応する——オンラインでのこまめな相談を活用する

メンタル系の専門医・産業医の意見と、弁護士からの法的助言を組み合わせながら進める。ZoomやTeamsでの短時間・頻繁な相談が現実的で効果的

1. ポイント1 レッテルを貼らない

会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

本日は、メンタルが不安定な社員への対処法について、経営者として押さえておくべき5つのポイントをお話しします。

メンタルに問題があるように見える方、性格がきつい方、挙動が不審に見える方がいると、つい「あの人はアスペルガーだから」「○○だから」と特定の病名や障害名のレッテルを貼って安心してしまいがちです。しかしこれは非常に危険です。

レッテルを貼ること自体が差別につながりうるだけでなく、レッテルを貼った瞬間に思考停止に陥り、実態に即した細やかな対応ができなくなるという問題があります。レッテルから直接答えを導こうとしてしまい、個々の言動・状況を観察して判断することを放棄してしまうのです。

実務でこうした発言が出てきたときに私がよくお聞きするのは、「そのことはお医者さんがおっしゃっているのですか」という質問です。専門の医師が診断を下した上で「この方はこういう特性があるから、こう接してください」という助言をしているのであれば、それは尊重してよいと思います。しかし、医師の診断もないのに、医師でも弁護士でもない経営者や管理職が病名でレッテルを貼って判断することは、大雑把な間違いにつながります。

まずは「レッテルを貼らない」——これがメンタル対応の第一歩です。楽ではあるのですが、レッテルを貼らずに個別に見ていくことが、結果として正しい対応につながります。

2. ポイント2 健康確保を最優先に考える

メンタルの問題が起きると、つい賃金の問題や雇用の継続、休職の話に先に進みがちです。しかし、最初に考えなければならないのは従業員の健康です。

会社は安全配慮義務を負っています。従業員が仕事のせいで健康を害することがないように配慮する義務があり、この義務は法律上の義務であると同時に、雇い主としての基本的な責務でもあります。元気に働いてもらわなければ、良い仕事はできません。

明らかに体調が悪くて、働かせれば悪化するのが見え見えの状態であれば、本人が「自己責任でやらせてください」と言っても働かせてはいけません。賃金をどう払うかという議論とは切り離して、健康を守る義務を果たすことを最優先に考えてください。

「自己責任論」で従業員の健康悪化を放置することは、安全配慮義務違反として会社の損害賠償責任につながるリスクがあります。賃金の問題・雇用継続の問題は、健康確保の後に考えるべきものです。

3. ポイント3 仕事ができているかどうかで判断する

職場は仕事をする場所です。そこで最も重要な判断軸は、「契約で予定されている程度の仕事ができているかどうか」です。

メンタルの問題があっても、仕事が問題なくできているのであれば、雇い主があれこれ介入すべき問題ではありません。一方、いかに体は健康であっても、仕事がまともにできていなければ、雇い主として指導・教育する権限があります。

病名や状態の重さそのものではなく、「契約で予定されている程度の仕事ができているかどうか」が判断の中心です。病気かどうかというのは、仕事ができているかどうかを判断するための材料にすぎません。

この判断軸を持つと、メンタル対応は格段にシンプルになります。「病気だから特別扱いすべきか、通常通り指導すべきか」という二択の迷いから解放され、「この方は今、契約で予定された水準の仕事ができているか」という事実ベースの判断に集中できるからです。

4. ポイント4 休職制度の正しい運用——命令書の交付と日付の明確化

メンタルが不安定になって仕事ができない状態になった場合、まずは年次有給休暇の取得を勧めます。年休を使い切っても出勤できない状態が続けば、欠勤を認めます。そして就業規則に定めた一定日数の欠勤を経た後、休職命令を書面で交付して休職をスタートさせます。

多くの会社が犯しがちな失敗

ここで多くの会社が犯しがちな失敗があります。本人から休職申請書が提出されると、休職要件を満たしているかどうかも確認せず、また休職命令書も出さないまま休職をスタートさせてしまうというものです。

休職開始日と満了日が書面で明確でなければ、休職期間満了による退職を正当に処理できません。必ず休職命令書を書面で交付し、開始日・満了日を明確にしてください。

在籍期間が短縮されるリスク

たとえば、就業規則で「1か月の欠勤で休職要件を満たす。休職期間は3か月」と定めているにもかかわらず、1週間で休職をスタートさせてしまうと、本来は計4か月在籍できるはずの期間が3か月と1週間に短縮されてしまいます。

これは労働者に不利益を与える運用であり、後に休職期間満了退職を争われた場合、休職開始日そのものが無効と判断されるリスクがあります。本人から休職申請書が出てきたとしても、まずは所定の欠勤日数を欠勤として取り扱い、要件が整ったところで休職命令を発出する——この手順を守ってください。

休職命令書には、開始日・満了日、復職手続き、満了までに復職できない場合の取り扱いを明記します。本人の受領を記録に残してください。

5. ポイント5 医師と弁護士と連携して対応する

メンタル疾患による「働けるか・働けないか」の判断は、医学的な知見が不可欠です。できれば精神科・心療内科の専門医の意見を聞くことが理想です。

メンタルに強い医師の意見を得る

産業医がいる会社では産業医に相談し、産業医がメンタルを専門としていない場合は、紹介状を書いてもらって専門医に見てもらうことも検討してください。

医師に意見を求める際は、本人がどんな仕事をしているのかという職場の状況を説明した上で意見を求めることが重要です。職場環境を知らない医師の意見は、実態と乖離することがあります。

最終判断権者は会社——医師・弁護士は意見を述べる立場

また、会社が最終的に判断するのは医師ではなく、会社経営者です。医師は意見を述べる立場であり、復職させるかどうか、退職させるかどうかの判断権は会社にあります。この点を間違えないようにしてください。

「医者の判断だから」「弁護士の判断だから」という言い回しをしてしまうと、判断の主体があいまいになり、人任せの無責任な運用に陥りがちです。医師・弁護士はあくまで意見を述べる立場であり、判断するのは会社——この意識を持ってください。

オンラインでのこまめな弁護士相談を活用する

休職期間満了での退職を正確に運用したい会社では、弁護士と継続的に相談しながら進めることが不可欠です。雑な処理のままでは後々トラブルになるリスクが高まります。

かつては弁護士への相談は事務所まで出向くものでしたが、現在はZoomやTeamsを使ったオンライン相談が一般的になりました。長い時間をかけてまとめて相談するのではなく、短時間でもその都度頻繁に相談するスタイルのほうが、メンタル対応のように状況が刻々と変化する事案には向いています。

「この診断書が出てきました。どうすべきでしょうか」「本人からこういう要望が来ました。どう返事をすればよいでしょうか」といった個別の場面ごとに、15〜30分のオンライン相談を重ねていく。これが実務的で効果的な進め方です。

6. まとめ

メンタルが不安定な社員への対応は、5つのポイントを押さえていけば、大きく道を外すことはありません。

  1. レッテルを貼らない——専門医の診断なしに病名で判断しない
  2. 健康確保が最優先——賃金・雇用の議論より先に安全配慮義務を果たす
  3. 判断の基準は「契約で予定されている仕事ができているかどうか」——病名の重さではない
  4. 休職は要件を満たしてから命令書を交付してスタートさせる——開始日と満了日を書面で明確にする
  5. 医師と弁護士と連携して対応する——オンラインでのこまめな相談を活用する

とはいえ、個別事案には必ず独自の事情があり、一般論だけでは乗り切れない場面が出てきます。判断に迷う場面では、早めに専門家にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. メンタルが不安定な社員への対応で、最初に気をつけるべきことは何ですか。

A. 安易にレッテルを貼らないことです。「あの人は〇〇だから」と特定の病名や障害名で決めつけてしまうと、細やかな観察や個別判断ができなくなり、判断が大雑把になって誤りにつながります。専門医の診断があって初めて、病名を前提とした対応を検討すべきです。個々の言動・状況を丁寧に観察して判断してください。

Q2. 本人が「自分で働けます」と言えば、体調が悪くても働かせてよいですか。

A. 働かせてはいけない場合があります。会社には安全配慮義務があり、働かせれば明らかに体調が悪化する状態であれば、本人が希望しても働かせるべきではありません。賃金支払義務の議論とは別の次元の問題です。「自己責任で働かせてほしい」という本人の言葉を受け入れて悪化させた場合、会社は損害賠償責任を問われる可能性があります。

Q3. メンタル不調を理由に業務に支障が出ている場合、どの段階で指導や注意ができますか。

A. 判断の基準は「契約で予定された仕事ができているかどうか」です。メンタル不調があっても仕事に支障が出ていなければ、特別な介入は不要です。反対に、健康であっても仕事に支障が出ていれば、通常どおり指導・教育の対象になります。ただし、指導によって体調を悪化させないよう、業務量の調整・産業医面談の活用など、安全配慮義務を踏まえた配慮を併せて行ってください。

Q4. 休職はどのタイミングでスタートさせればよいですか。

A. 就業規則に定められた休職要件(例:一定期間の欠勤が継続すること)を満たしてから命令を出します。本人の休職申請書だけに頼った運用や、バックデートになる運用、要件未達のまま休職を開始させる運用は、特に休職期間満了退職を予定する会社では非常に危険です。休職命令書を書面で交付し、開始日と満了日を明確化してください。

Q5. 産業医がメンタルを専門としていない場合はどうすればよいですか。

A. 産業医から紹介状を書いてもらって専門医に見てもらう、という段取りが有効です。産業医は社員の健康管理の窓口であり、専門医への橋渡しを担える立場にあります。産業医がいない会社でも、主治医への情報提供・意見照会、本人同意の上での主治医面談などを通じて、医学的意見を得る工夫が必要です。

Q6. 「医者の判断」「弁護士の判断」という表現はなぜ避けたほうがよいのですか。

A. 復職・退職・休職など雇用に関する判断の主体は、医師でも弁護士でもなく会社です。医師・弁護士はあくまで意見を述べる立場にあります。「医者の判断だから」という言い回しをしてしまうと、判断主体があいまいになり、人任せの無責任な運用に陥ります。「医師の意見を踏まえ、会社として判断した」という構造を意識してください。

最終更新日:2026年4月17日


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