問題社員243 「休職を要する」という診断書のみで休職を認めてはいけない理由
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この記事の要点
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主治医の「休職を要する」は医学的意見であって、休職期間のスタートを命じる意味ではない 主治医は「このまま働かせると病状が悪化するので休ませてほしい」という意味で「休職を要する」と書いていることが多い。就業規則の休職要件を踏まえた上での意見ではない |
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多くの就業規則は「一定期間の欠勤を経て休職を命じる」という構造になっており、欠勤期間と休職期間は区別されている 「1か月の欠勤を経ても治らない場合に休職」というルールであれば、欠勤1か月+休職期間という合計の在籍期間が労働者の権利となる制度設計になっている |
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診断書が出た瞬間に休職をスタートさせると、本来認められるべき欠勤期間が失われ、労働者に不利益となる 「休職満了=退職」とする会社が増えている現状からすれば、休職開始日を前倒しすることは在籍期間を短縮することと同じ意味になる。手続き上も紛争のリスクが高まる |
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「その他前各号に準ずる事由があるとき」のような包括条項を根拠に休職を前倒しするのはリスクが高い 包括条項は「原則的な休職要件と同程度の状況にあるとき」にしか使えないと解釈されうる。原則どおり欠勤期間を経てから休職を開始させるほうが、紛争に耐えやすい |
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「欠勤」「休職」「年次有給休暇」「傷病休暇」を区別し、休職開始日は書面で明確に指定する 社内で漠然と「休職」と呼び続ける運用は紛争のもと。就業規則上のどの制度を適用しているのかを整理し、休職を開始する場合は休職命令書で開始日・満了日を明確に通知する |
目次
1. 「休職を要する」という診断書を書く医師の真意を理解する
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
本日は、主治医から「休職を要する」という診断書が提出された場合の、会社としての正しい対応についてお話しします。
主治医の診断書に「休職を要する」と書かれていると、会社経営者・人事担当者の多くは、直ちに休職期間を開始させなければならないと考えがちです。しかし、この発想には大きな落とし穴があります。
主治医の「休職を要する」は、「このまま働かせると病状が悪化するので休ませてほしい」という医学的意見です。就業規則上の休職制度の要件を踏まえて「休職期間をスタートさせよ」と述べているわけではありません。
主治医は医学の専門家であり、病気の診断や治療の専門家です。しかし、会社の就業規則や休職制度の構造を詳しく把握しているわけではありません。診断書に「休職を要する」と記載するときの主治医の関心は、患者の健康確保にあります。「仕事を休ませてほしい」という意味合いが中心であり、会社の制度上どのような区分(欠勤なのか休職なのか)で休ませるべきかまでは、医学的判断の対象外です。
したがって、会社経営者・人事担当者の仕事は、診断書の趣旨を受け取った上で、自社の就業規則に照らしてどの制度を適用すべきかを整理することです。診断書に引きずられて、いきなり休職命令を発出するのは避けてください。
2. 休職制度がない会社では「欠勤」扱いが基本
まず、就業規則に休職制度そのものがない会社について整理します。
休職制度は法律で設置が義務付けられているものではなく、小規模な会社を中心に、休職制度を設けていない会社も存在します。このような会社で「休職を要する」という診断書を受け取ったときに、社内で「休職します」という呼称を使うのは、適切ではありません。
制度がないのに「休職」と呼ぶと、あたかも休職制度があるかのような外観を作ってしまい、後に「いつまで在籍できるのか」「いつ退職となるのか」を巡って紛争の原因になります。
休職制度がない会社で傷病により働けなくなった社員については、まず年次有給休暇を消化してもらい、それでも休みが続く場合は「欠勤」として取り扱うのが基本です。社内でも「欠勤」と明確に呼んでください。
欠勤が長期化し、回復の見込みが立たない状況になった場合には、普通解雇事由に該当する可能性が出てきます。ただし、他の社員との公平性や過去の運用との整合性を考慮しながら、どの段階で解雇に踏み切るかを個別に判断する必要があります。この段階では弁護士に相談しながら進めてください。
3. 休職制度がある会社——欠勤期間を飛ばしてよいのか
一定以上の規模の会社では、休職制度が設けられていることが多く、就業規則では「傷病により一定期間の欠勤が続き、なお治らない場合には休職を命ずる」「休職期間は勤続年数に応じて3か月、6か月、2年など」というような定め方がなされています。休職期間満了までに復職できなければ、自動退職または解雇となるのが一般的です。
ここで重要なのが、「休職を要する」という診断書を受け取ったからといって、直ちに休職期間を開始させてはいけないという点です。
具体例——「欠勤1か月+休職3か月」の会社
例えば、「1か月欠勤してもまだ働けないようであれば休職に該当し、この社員の勤続年数からすると休職期間の上限は3か月」というルールの会社があったとします。
この会社では、傷病による休みは原則として「欠勤1か月+休職3か月=合計4か月」、会社に在籍できる制度設計になっていると読むことができます。
もし、診断書が出た時点で直ちに休職をスタートしてしまうと、本来入れたはずの4か月が3か月しか入れないことになります。労働者にとっては不利益な扱いとなり、当初予定されていた制度運用とも食い違います。特別な事情がない限り、この4か月をしっかり使えるように運用する必要があります。
「休職満了=自動退職」とする会社が増えている現状からすれば、休職開始日を前倒しすることは、在籍できる期間を短縮することと同じ意味になります。労働者から「本来であれば、まだ欠勤期間が使えたはずだ」と争われた場合、休職開始日そのものが無効と判断されるリスクもあります。
4. 「包括条項」で休職命令を出す場合のリスク
就業規則の中には、休職事由として「その他前各号に準ずる事由があるとき」といった包括条項が設けられていることがあります。これを根拠として、欠勤期間を経ずに休職をスタートさせるケースもあります。
「特別な事情があるのだから、主治医が『休職を要する』と書いてくれているのだから、直ちに休職にしてしまって構わない」と考えたくなるかもしれません。しかし先ほど述べたとおり、主治医は「このまま働かせると病状が悪化するので休ませてほしい」という程度の意味で「休職を要する」と書いていることが多く、それだけでは包括条項の発動要件を満たしているとは言い切れません。
包括条項に基づいて休職を命じた場合、その解釈として「原則的な休職要件(一定期間の欠勤)と同程度の状況にあるときでないと、この包括条項は使えない」と判断される可能性があります。ケースバイケースの判断にはなりますが、リスク管理の観点からは、原則どおり一定期間欠勤してもらった上で休職開始とするほうが、紛争リスクが低くなります。
事前の対応としては、原則どおり所定の日数の欠勤を経てから休職をスタートさせる——これが基本です。年休の残日数があれば年休を消化させ、傷病休暇制度があればそれを使った上で、欠勤のカウントに入っていくという運用でも問題ありません。
5. 「欠勤」「休職」「休暇」の区別を意識する
「休職を要する」という診断書が出てくると、社内でその後の休みをすべて「休職、休職」と呼んでしまう会社が少なくありません。会社経営者としても、「お医者さんが言うのだから間違いないだろう」という感覚で「休職」と呼びがちです。
ところが、就業規則を見てみると、「欠勤」「休職」「年次有給休暇」「傷病休暇」はそれぞれ明確に区別して規定されています。社内で使われている「休職」「休業」という言葉が、一体どの制度を指しているのかを整理しておかなければ、今後の対応が取りにくくなるだけでなく、本人に対する説明でも誤解を招き、紛争につながりやすくなります。
診断書の「休職」「休業」は日本語として大雑把
「休職を要する」「休業を要する」と診断書に書かれていても、日本語としては大雑把な表現にすぎません。会社経営者・人事担当者の仕事は、その表現を自社の制度に当てはめ、「これは欠勤なのか」「本当に休職期間に入るという意味なのか」「何らかの休暇として処理すべきなのか」を整理することです。
「休職を要する」と書いてあるから即休職スタート、というわけにはいきません。「まず休んでほしい」という意味であるケースがむしろ普通——そう理解していただければと思います。具体的な手順は、弁護士に相談しながら進めれば大丈夫です。
6. 休職を開始する場合は休職命令書で開始日を明確にする
欠勤期間を経て、就業規則の休職要件を満たす段階まで来たら、いよいよ休職をスタートさせます。ここで必要なのが、休職命令書の交付です。
休職申請書だけを本人から受け取って、休職の要件を満たしているかどうか曖昧なまま休職をスタートさせている会社が少なくありません。しかし、休職期間満了による退職を争われた場合、「休職開始日はいつだったのか」が重大な争点になります。
休職命令書に記載すべき事項
- 休職を命じる根拠(就業規則の該当条項)
- これまでの欠勤経過および休職要件を満たした旨
- 休職の開始日
- 休職期間の満了日
- 休職期間中の取り扱い(賃金・社会保険・連絡頻度など)
- 復職の手続き・判断基準(診断書の提出、産業医面談など)
- 休職期間満了までに復職できない場合の取り扱い(自動退職・解雇)
休職命令書を書面で交付し、本人の受領を記録に残してください。バックデートや曖昧な扱いは、後の紛争で休職開始日そのものが否定されるリスクがあります。
7. まとめ
「休職を要する」という診断書への対応ポイントを整理します。
- 主治医の「休職を要する」は医学的意見であって、休職期間のスタートを命じるものではない
- 休職制度がない会社では「欠勤」として扱うのが基本。社内で漠然と「休職」と呼ばない
- 休職制度がある会社は「欠勤期間+休職期間」の在籍権を尊重する。診断書が出た瞬間に休職をスタートさせると、本来認められるべき欠勤期間が失われる
- 包括条項を根拠に休職を前倒しするのはリスクが高い。原則どおり欠勤期間を経てから休職を開始させる
- 「欠勤」「休職」「年次有給休暇」「傷病休暇」を区別し、休職を開始する場合は休職命令書で開始日・満了日を明確に通知する
休職制度の運用は、「休職期間満了=退職」という重大な効果につながります。診断書の言葉に引きずられず、就業規則に照らして丁寧に制度運用を行ってください。判断に迷う場面では、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 主治医から「休職を要する」という診断書が出たら、直ちに休職をスタートさせるべきですか。
A. 直ちに休職を開始させるべきではありません。主治医の「休職を要する」は「仕事を休ませなければならない」という医学的意見であり、会社の休職制度の要件を踏まえた意見ではないからです。多くの就業規則では一定期間の欠勤を経てから休職を命ずる建て付けになっているため、原則どおり所定日数の欠勤を経てから休職を開始させる運用が安全です。
Q2. 休職制度がない会社では「休職します」と呼んでよいですか。
A. 呼ぶべきではありません。休職制度がないのに「休職」と呼ぶと、あたかも制度があるかのような外観を作り、在籍期間や退職日をめぐって紛争の原因となります。制度がないのであれば「欠勤」とはっきり呼び、年次有給休暇を消化した後に欠勤として扱う運用が基本です。
Q3. 就業規則に「その他前各号に準ずる事由があるとき」という包括条項がある場合、これを根拠に直ちに休職を命じることはできますか。
A. 形式的には可能ですが、包括条項は「原則どおりの休職要件と同程度の状況にあるとき」にしか使えないと解釈される可能性があります。リスク管理の観点からは、欠勤期間を経てから休職を開始させる原則的な運用のほうが安全です。どうしても包括条項での発動を検討したい場合は、事前に弁護士と相談してください。
Q4. 本人が「早く休職に入れてほしい」と希望してきた場合、本人の希望どおりに進めてよいですか。
A. 本人の希望であっても、就業規則の休職要件を満たしていない段階で休職を開始させることは勧められません。休職期間満了=退職という効果が生じる制度である以上、開始日は就業規則どおりに機械的に決めてください。本人には「欠勤として扱いながら療養していただき、所定の欠勤日数を経た時点で休職に入ります」と丁寧に説明することが望ましいです。
Q5. 年次有給休暇と欠勤期間の関係はどう整理すればよいですか。
A. 実務上は、①本人が希望する範囲で年次有給休暇を消化、②消化後に欠勤としてカウント、③欠勤が所定日数に達した時点で休職命令、という順に整理することが多いです。ただし、就業規則の定め方によっては「年休取得日も欠勤期間に通算する」という定めがある場合もあり、各社の規則を確認してください。
Q6. 休職命令書は必ず書面で交付する必要がありますか。
A. 法律上の義務ではありませんが、書面交付を強くお勧めします。休職期間満了による退職を争われた場合、「休職開始日はいつだったのか」が最大の争点となります。書面で開始日・満了日・復職の手続きを明確にしておくことが、後の紛争回避に直結します。本人の受領を記録に残してください。
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最終更新日:2026年4月17日
