問題社員215 入社時より大幅に能力が低下した障がい者。
動画解説
目次
1. 障害者雇用における「能力不足」の考え方——通常雇用との違い
障害者として雇用した社員のパフォーマンスが低下した場合、通常の能力不足への対応と同様に考えてよいか——これは多くの経営者が悩む問題です。
基本的な考え方(能力不足=雇用契約で予定された能力と現実のギャップ)は障害者雇用でも共通します。しかし障害者だと分かって採用した場合に、通常雇用と異なる重要なポイントがあります。
⚠ 障害者雇用での能力不足主張の壁
障害者だと分かって採用した場合、その障害に起因する不利な点は最初から知っていたことになります。分かって採用したにもかかわらず「障害のせいで能力が低い」と主張することは難しく、むしろ契約で予定された能力の水準自体が低く設定されると解釈されます。つまり「求められる能力が低い→ギャップが生まれにくい」という構造になります。
逆に言えば、月給100万円で即戦力の中途管理職として採用した場合は、障害者であっても「高い能力が予定されていた」と解釈されやすく、ギャップが問題になりやすいということでもあります。採用形態と給与水準が、障害者雇用においても判断基準になります。
2. 採用後に能力が大幅低下した場合——解雇・退職の根拠になりうる
採用時点では問題なかったのに、その後に障害が悪化したり新たな障害が生じたりして、パフォーマンスが大幅に低下したという場合は状況が変わります。
この場合、採用時の期待値(契約で予定された能力)と現実の能力のギャップが、当初の想定を超えて広がったと評価できます。すべての配慮・検討を尽くした上でなお改善が見られない場合は、退職勧奨・解雇という対応も選択肢に入ってきます。
▶ 解雇・退職が検討できる流れのイメージ
① 採用後に障害が悪化・新たな障害が生じた
② 合理的配慮を検討・実施した
③ 配置転換できる職務がないか検討した
④ それでも雇用を継続できないほどのギャップがある
⑤ 退職勧奨または解雇を検討(ハローワークへの届出など所定手続きを踏む)
ただし、障害者の解雇・退職については差別禁止・合理的配慮など考慮すべき要素が多く、個別事情に応じたオーダーメイドの対応が必要です。必ず弁護士と相談しながら進めることを強くお勧めします。
3. 合理的配慮の義務と配置転換の検討
(1) 合理的配慮の義務
障害者雇用促進法に基づき、民間企業も障害のある社員に対して合理的配慮を提供する義務があります。障害が悪化した場合は、その悪化後の状態に応じた配慮を改めて検討する必要があります。
「過大な負担にならない範囲」での配慮が求められますが、この「過大な負担」の判断は会社の規模・体制・コストなど個別事情によって異なります。まず配慮の検討を尽くさなければ、解雇・退職の話には進めません。
(2) 配置転換の検討と職務限定採用の違い
職務を限定せずに通常の正社員として採用した場合は、解雇の前に配置転換を検討するよう求められることが一般的です。障害が悪化しても、その障害の影響を受けにくい別の職務があれば、そちらへの配置転換を試みることが必要です。
一方、職務を限定して採用した場合は、他職務への配置転換命令権限がありません。ただし、本人の意向を確認した上で「新たに契約を結び直す形で別の仕事に就いてもらう」という合意による解決を模索することは可能です。
▶ 配置転換検討のポイント
・障害が悪化しても影響を受けにくい職務がないか確認する
・本人の適性・得意分野と照らし合わせる
・現実的に配置できるポストがあるかを確認する
・「配置転換を検討したが無理だった」という理由を説明できる状況にする
4. 障害者雇用の理想——障害の影響を受けない職務へのマッチング
藤田弁護士が障害者雇用で最も大事と語るのが、採用前の職務マッチングです。
障害があるからといって、全ての能力が低いわけではありません。特定の職務においては障害の影響をほとんど受けず、むしろ障害のない方より優れたパフォーマンスを発揮できることがあります。
▶ 理想的な障害者雇用のあり方
・障害の影響を受けない職務を事前に特定する
・その職務に適性のある障害者を採用・配置する
・本人が才能を発揮して生き生きと働ける環境を作る
・結果として会社の業績にも貢献してもらう
「障害者雇用だから多少パフォーマンスが低くても仕方ない」という受け身の発想ではなく、「この障害のある方が活躍できる職務はどれか」という前向きな発想で採用・配置を設計することが、問題を未然に防ぐ最大の対策です。
これは会社にとっても利益になります。本人の才能が発揮される職務であれば、業績向上に貢献してもらえます。また本人にとっても、自分の才能で生き生きと活躍できることは大きな喜びです。
5. まとめ
入社時より大幅に能力が低下した障害者社員への対処について、ポイントを整理します。
① 採用時から知っていた障害は能力不足の根拠にできない
障害者として採用した以上、最初から分かっていた障害の影響は能力不足の理由にはなりません。採用後の能力低下(障害の悪化など)が解雇の根拠になりえます。
② 合理的配慮と配置転換を尽くしてから
解雇・退職の話に進む前に、合理的配慮の検討と配置転換の検討を尽くすことが必要です。これを怠ると解雇無効のリスクが高まります。必ず弁護士に相談しながら進めてください。
③ 採用前の職務マッチングが最大の予防策
問題を未然に防ぐには、障害の影響を受けない職務・才能が活きる職務に配置することです。採用前に職務と適性のマッチングをしっかり考えることが、会社にとっても本人にとっても最善策です。
よくある質問(FAQ)
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日 2026/04/14