問題社員213 能力が極端に低く仕事ができない社員の対処法

動画解説

この記事の要点

能力が低い社員への対応はまずマネジメントが中心。やめてもらうことは「失敗した場合の最後の手段」として位置づける

採用してしまったからには有効活用を最優先に考える。適材適所の配置と具体的な教育指導がマネジメントの核心

「能力が低い」「仕事ができない」は評価であり事実ではない。根拠となる具体的な事実を記録・説明できることが不可欠

退職勧奨・解雇・裁判いずれの場面でも、評価を裏付ける具体的事実がなければ説得力を持てない

教育指導は「具体的に・マイクロマネジメントで」。「自分の頭で考えろ」という指示は能力不足の社員には逆効果

「何月何日にこうフィードバックした」という記録が、後の退職勧奨・解雇の場面で重要な証拠になる

退職勧奨・解雇はいずれも試用期間中が最善。本採用後のハードルは格段に上がる

試用期間中は納得感が得られやすく、本採用拒否のハードルもやや低い。この時期の判断・行動が決定的に重要

ミスによる損害賠償は社員全額負担が認められにくい。経営者側のマネジメント責任として考えるべき

能力不足が原因の過失ミスは、賠償責任が制限または免除されることが多い。損害が発生しないようなマネジメントこそが経営者の仕事

1. 対応の基本はマネジメント——やめさせることは最後の手段

能力が極端に低く仕事ができない社員を採用してしまった場合、弁護士に相談すると「どうやってやめてもらうか」という方向の話になりがちです。しかし藤田弁護士が強調するのは、まず有効活用を最優先に考えることです。

採用した社員のマネジメントと活用は、上司・管理職、そして究極的には社長の仕事です。能力が低くても、適材適所の配置と丁寧な教育指導によって貢献できる形を作るのがマネジメントの役割です。

▶ 対応の流れのイメージ

採用ベストを尽くす → マネジメントで有効活用を試みる → どうにもならなくなった場合に退職・解雇を検討する

やめてもらうことは、言ってみれば「失敗した場合の対応」です。まず失敗しないための努力を最善限尽くしてください。

人手不足の時代、「ダメなら切ればいい」という発想では回らない会社が増えています。採用の成否・マネジメントの質こそが、能力不足問題の根本的な解決策です。

2. 「能力が低い」は評価——根拠事実の記録と説明が命綱

マネジメントをしっかり行うことは、後に退職勧奨や解雇を検討する場面でも決定的な意味を持ちます。なぜなら、「能力が極端に低い」「仕事ができない」は評価であり、事実ではないからです。

この評価を裏付ける具体的な事実——「何月何日に、どのような状況で、何ができなかったか」「どのように指導したか、それでも改善されなかったか」——が説明できなければ、相手の納得も、裁判官の説得も、いずれも得られません。

⚠ 「みんなそう言っている」「私の目から見ても明らか」では不十分

こうした説明は「主観や偏見で言っているのではないか」「好き嫌いで言っているのではないか」と受け取られます。日常のマネジメントの記録(日報・メモ・フィードバック記録)こそが、後の対応を支える最大の武器になります。

相手をよく見ること、記録を残すこと——これはマネジメントの基本であると同時に、退職勧奨・解雇を有効に行うための証拠確保でもあります。

なお、裁判における証言(陳述書)については、「会社側の人間が有利に話すかもしれない」と受け取られやすく、証拠価値が高くないことも多いです。当時作成された客観的な記録・データの方が、はるかに証拠価値が高くなります。

3. 能力が低い社員のマネジメント実践

(1) 具体的な教育指導とマイクロマネジメント

能力が極端に低い社員への教育指導において、特に意識すべき点は「具体的に」指示・フィードバックすることです。抽象的な指示は能力が高い人には通じますが、能力が低い人には伝わりません。

▶ 避けるべき指示 vs 有効な指示

【避けるべき】「自分の頭で考えろ」「もう少し工夫してみろ」
→ 考えてもわからないから困っている。会社への損害リスクも高まる

【有効な指示】「今日の午前中はこのリストの順番でこの作業をしてください。終わったら報告してください」
→ 次に何をすればいいかを具体的に示すマイクロマネジメントが基本

また、ただ褒めるだけのマネジメントは絶対に避けてください。問題点を具体的に伝え、どう改善するかを示す。この正直なフィードバックが、本人の成長にもつながり、後の退職勧奨でも「しっかりマネジメントした」という証明になります。

業務マニュアルの作成・目の前でやってみせる、といった対応も有効です。試用期間中だけでも毎日の記録(日報・業務メモ)を徹底することを強くお勧めします。

(2) 他の業務への配置転換を検討する

現在の担当業務が全くダメでも、別の業務なら貢献できることもあります。企業規模が大きければ、配置転換によって活躍の場を見つけることができる場合があります。

配置転換できる現実的な可能性がある業務については、実際に試してみることが望ましいです。それが「会社として誠実に有効活用を試みた」という事実になり、後の退職勧奨でも説得力を持ちます。

ただし企業規模が小さく、他にやらせる業務が現実的にない場合は、この選択肢は難しいと割り切ることも必要です。

(3) 仕事のハードルを下げる・AI活用も視野に

人手不足の時代には、「いい人が取れない」という前提で仕事の進め方そのものを見直すことも必要です。仕事のハードルを下げ、AIや機械で補うことで、採用の幅を広げることができます。

例えば飲食店の注文業務を機械化することで、日本語が得意でない方でもホールの仕事ができるようになる、といった工夫です。少子高齢化が進む日本では、こうした仕組みの変革が長期的な解決策になってきます。

4. 退職勧奨・解雇の進め方

(1) 退職勧奨は試用期間中が最善

マネジメントを尽くしてもどうにもならない場合、退職勧奨を検討することになります。その時期として最善なのは試用期間中です。

試用期間中であれば「まだお互いを確認している段階」という認識があり、「会社に合わないのでやめるのもしょうがない」と感じてもらいやすいです。本採用後になると「ずっとここで働けると思っていたのに」という感情が強くなり、納得感を得ることが格段に難しくなります。

退職勧奨を行う際の核心は2つです。

▶ 退職勧奨の2つの核心

①やめてもらわなければならない理由の具体的説明 「好き嫌いや偏見ではなく、こういう事実があるからやめてもらう」と伝わるように、具体的な事実を踏まえた説明をする。日頃のマネジメント記録がここで活きる
②退職条件の提示と交渉 退職日・金銭給付・会社都合退職か自己都合退職か・年次有給休暇の取り扱いなどを提示し交渉する。話がついたら退職届・退職合意書を取り交わす

(2) 解雇(本採用拒否)のポイント

退職勧奨に応じてもらえない場合は、解雇(試用期間中は本採用拒否)を検討することになります。

試用期間中の本採用拒否は「解雇のハードルがやや下がる」とされていますが、それは80cmのハードルが60cmになった程度の話です。客観的に合理的な理由が必要であることに変わりはなく、証拠による立証も必要です。

本採用後の解雇は、さらにハードルが上がります。「本採用前よりも大幅に能力が低下した」など特段の事情がなければ、能力不足を理由とした解雇が認められるのは困難なケースが多いです。

⚠ 評価を高くつけてしまうと後で困る

雇われの管理職は、問題点を指摘すると部下から反発を受けるため、実際より高い評価をつけがちです。しかし後から「あの高評価は何だったのか」となれば、能力不足の説明の一貫性が崩れます。日頃から正直な評価・フィードバックを行うことが、将来の解雇対応にも直結します。

5. ミスによる損害賠償請求について

能力が低い社員はミスが多く、会社に損害を与えることもあります。しかし故意ではなく能力不足が原因の過失ミスについては、損害全額を社員に負担させることは困難です。

裁判においても、「事業には危険がつき物であり、会社は社員を雇って利益を得ている」という考え方から、全額賠償が認められないケース、あるいは一部だけ負担というケースが多くなっています。身元保証人への請求も、本人以上に責任が制限されることが多いです。

▶ 損害賠償より「損害が発生しないマネジメント」を優先する

「能力不足が原因だから本人のせい」という発想では経営は成り立ちません。失敗リスクが高い人に高リスクな仕事をさせないリスク管理、適切なマネジメントこそが経営者の仕事です。損害賠償を後から追うより、損害が発生しない体制を作ることを優先してください。

6. まとめ

能力が極端に低く仕事ができない社員への対処は、マネジメントを中心に考えることが出発点です。どうにもならなくなった場合に初めて退職・解雇を検討しますが、その際も日頃のマネジメント記録が決定的な役割を果たします。

① まず:マネジメント

適材適所の配置・具体的指導・日報記録。有効活用を最優先に考えることが解決策の中心です。

② 次に:退職勧奨

試用期間中に具体的事実を示して説明し、退職条件を交渉します。日頃のマネジメント記録が証拠になります。

③ 最後の手段:解雇

客観的合理的な理由が必要です。試用期間中はハードルがやや下がりますが、本採用後はさらに高くなります。必ず弁護士と相談してください。

人手不足の時代、仕事のハードルを下げる・AI活用・業務の仕組み化といった視点も、経営者として考え続けるべき課題です。どうぞ大変ですが頑張ってください。

よくある質問(FAQ)

Q 能力が低い社員にどんな教育指導をしても改善しません。もうやめさせるしかないでしょうか?
A

まず他の業務に配置できないか検討することをお勧めします。向き不向きがある以上、別の業務なら貢献できる可能性もあります。それも難しい場合は、退職勧奨を検討する段階に入ります。

その際、「教育指導を行ったが改善しなかった」という具体的な記録が重要です。どのような指導をいつ行い、どんな結果だったかを記録しておくことが、退職勧奨・解雇の双方で不可欠です。

Q 能力が低い社員がミスを繰り返して会社に損害を与えています。損害賠償を請求できますか?
A

故意ではなく能力不足が原因の過失ミスについては、損害全額の賠償を社員に求めることは困難です。裁判でも賠償が認められない、または一部だけという結果になることが多いです。損害賠償を追うより、そもそも損害が発生しないようなマネジメント・リスク管理を整えることが経営者の仕事として求められます。

Q 退職勧奨を断られました。やはり解雇するしかないですか?
A

解雇は最後の手段であり、客観的合理的な理由を証拠で示せることが条件です。退職勧奨を断られた段階で解雇に踏み切ると、無効リスクが高くなる場合があります。退職条件の改善や、説明方法の見直しなど、弁護士と相談しながら再度の退職勧奨を試みることが先決です。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14