問題社員212 能力不足の問題社員に対する対処法

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この記事の要点

「能力不足」とは絶対的な能力の低さではなく、雇用契約で予定された能力と実際のパフォーマンスのギャップである

「みんながダメだと言っている」「社長の経験からダメだと思う」という主観では能力不足の根拠にならない。契約論として考えることが出発点

未経験者歓迎・新卒採用は「育てることが予定された契約」であり、能力不足の主張ハードルが高くなる

育成前提の採用では「教え込んでもダメだった」という具体的な事実の積み上げが必要

配置転換権限がある・担当業務が特定されていない会社では「どの仕事の能力不足か」が曖昧になりやすい

人によって適性が異なるため、「別の仕事なら活躍できるかもしれない」という主張を排除するのが難しくなる

能力不足を客観的に主張しやすい雇い方は、「担当業務の特定」と「採用時の水準明示」の2つが鍵

求人・労働条件通知書・労働契約書に能力水準と担当業務を明記することで、後の主張が格段にしやすくなる

解雇・退職勧奨が難しい場合は話し合いによる合意退職を検討することになるが、その前に雇い方の設計が最大の対策

やめてもらう手段だけを考えるのではなく、まず契約の設計を見直すことが根本的な解決につながる

1. 能力不足の問題を「契約論」として理解する

能力不足の社員への対処法を考える際、弁護士に相談すると「どうやってやめさせるか」という話になりがちです。しかしその前に、経営者として押さえておくべき大切な前提があります。それは、「能力不足」の問題は雇用契約・労働契約という契約の問題であるという認識です。

雇用において「能力不足」とは、絶対的に仕事ができないこと、あるいはIQや一般的な能力が低いことを意味するのではありません。「その契約で予定されている能力」と「実際のパフォーマンス」のギャップ——これが能力不足の定義です。

▶ 大事なのは「仕事をきっちりやっているか」

仕事と関係ない何かが不得意でも構いません。周囲と大きなトラブルを起こさず、会社の名誉・信用を著しく損なわず、担当業務をきっちりこなしているかどうか——これが雇用における評価の軸です。主観的な印象ではなく、契約に基づく客観的な事実こそが問われます。

「社長が見てダメだと思う」「先輩たちが使えないと言っている」というレベルの根拠では、法的な能力不足の主張にはなりません。契約で求められている能力との比較において、客観的な事実で説明できるかどうかが問題なのです。

やめてもらうことを繰り返すだけでは問題は解決しません。まずこの「契約論」としての能力不足を正確に理解することが、すべての対処の出発点です。

2. 採用形態による「予定された能力」の違い

(1) 未経験者歓迎・新卒採用の場合

「未経験者歓迎」で募集した場合や新卒採用の場合、応募してきた人は「経験やスキルがなくてもいいんだ」という前提で入社しています。そのため採用の時点で、仕事ができないことを前提に、育てながら能力をつけていくことが契約の内容として予定されていると解釈されます。

こうした採用形態では、能力不足を理由にやめてもらうためのハードルが高くなります。「覚えが悪い」「成長が遅い」という評価だけでは足りず、「丁寧に教育を繰り返したが、それでも全く身につかなかった」という具体的な事実を積み上げる必要があります。

⚠ 育成前提の採用で能力不足を主張するには

ポテンシャルを期待して採用した場合、「ポテンシャルが低かった」という主張は曖昧になりがちです。「何月何日にこんな指導をした。1ヶ月後も改善がなかった」という具体的かつ継続的な記録がなければ、能力不足の客観的な説明は困難です。

(2) 即戦力・スキル指定採用の場合

一方、特定のスキルや経験を前提として採用した場合、あるいは高給・上位職での中途採用の場合は、最初から高い能力が発揮できることが契約上予定されていると評価されます。

「この部署を月給100万円で任せる」という採用では、その役職と給与水準にふさわしい仕事ができることが当然の前提です。結果として、その仕事の出来が極端に悪ければ、試用期間中の本採用拒否や退職勧奨が認められやすい傾向にあります。

ただしこの場合も、「何ができなければダメなのか」を採用時点で書面に残しておくことが、後の対応を大きく左右します。

3. 配置転換権限と「担当業務の特定」が主張の難易度を左右する

能力不足を主張する上で、もう一つ大きな要因があります。それが配置転換権限と担当業務の特定の問題です。

日本の多くの企業では、就業規則に配置転換・職種変更の権限が定められています。この場合、「今やらせている仕事ができない」という事実だけでは、「別の仕事ならできるかもしれない」という反論を排除できません。

人には向き不向き・適性があります。ある仕事が不得意でも別の仕事なら活躍できる、ということは現実にあります。野球が苦手でも将棋は強い、研究職は得意だが対人関係は苦手、といった具合です。

⚠ 配置転換権限がある場合の問題

配置転換権限がある場合、現在の担当業務だけでなく「配置される現実的な可能性がある業務」についても仕事ができるかどうか確認が必要になる場合があります。また担当業務が特定されず何でもやらせているような職場では、「一体どの仕事の能力不足なのか」の特定自体が難しくなります。

こうした問題を避けるためには、採用時から担当業務を明確に定めておくことが重要です。「この仕事だけを担当する職種限定採用」であれば、その仕事ができなければ能力不足という判断がシンプルに行えます。

4. 能力不足を主張しやすい雇い方の設計

能力不足の問題を将来的に発生させないため、あるいは発生した場合に対応しやすくするために、採用段階で整えておくべき設計があります。

▶ 能力不足を主張しやすい雇い方の2つの柱

担当業務の特定 職種・担当業務を限定した雇用区分を設け、就業規則上も配置転換の対象外とする。求人・労働契約書にも明記する
能力水準の明示 「最初からこの水準ができることを前提に採用する」という条件を書面で示す。試用期間中の評価基準も明確にしておく

この2点をあらかじめ整えておけば、「契約で予定されていた能力」と「実際のパフォーマンス」の比較が明確になり、能力不足の説明がしやすくなります。

もちろん、こうした設計をすることで求人の間口が狭くなったり、応募者が減るリスクもあります。しかし、能力不足の問題が起きた後に苦労するコストを考えれば、採用段階での設計投資は十分に意味があります。

5. 人手不足の現場でどう対応するか

「そんな理想的な採用設計ができる中小企業は多くない」と感じる経営者の方は多いはずです。人手不足で選り好みできない状況では、ある程度能力が低い方を採用せざるを得ないこともあります。

その場合、重要なのは「覚悟を持って採用する」ことです。能力が十分でない方を採用するなら、それは育成型の契約として最初から認識した上で取り組む必要があります。そうでなければ、後から能力不足と言っても通らず、やめてもらうこともできず、現場だけが疲弊し続けます。

また、能力不足の問題が繰り返し起きるようであれば、やめてもらうことを繰り返すのではなく、採用設計・業務設計そのものを見直すことが根本的な対策です。担当業務の明確化・就業規則の整備・試用期間の活用——これらを組み合わせることで、対応可能な範囲が広がります。

6. まとめ

能力不足の問題社員への対処法は、「どうやってやめさせるか」という視点だけで考えていては行き詰まります。まず「能力不足とは何か」を契約論として正確に理解し、採用設計・業務設計から整えることが根本的な対策です。

① 能力不足の定義を理解する

絶対的な能力の低さではなく、契約で予定された能力との「ギャップ」が能力不足です。主観ではなく客観的事実で示す必要があります。

② 採用形態を意識する

育成型採用はハードルが高く、高給・即戦力採用は比較的主張しやすい傾向があります。採用形態によって対応策が変わります。

③ 雇い方の設計を整える

担当業務の特定+能力水準の書面明示。これが将来の能力不足対応を根本から楽にする最大の投資です。

法的に厳しい状況になってしまった場合は、話し合いによる合意退職を目指すことになりますが、そこに至る前の設計がすべての前提です。早めに弁護士に相談し、採用設計から一緒に考えることをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q 能力が低い社員を解雇できますか?「能力不足」を理由にした解雇は認められますか?
A

能力不足を理由とした解雇は認められる場合がありますが、そのハードルは高いです。「契約で予定されていた能力」と「実際のパフォーマンス」のギャップを、具体的な事実と証拠で示す必要があります。

特に育成型採用・配置転換権限がある場合は難易度が上がります。解雇を検討する場合は、必ず事前に弁護士に相談してください。

Q 「みんながダメだと言っている」「明らかに仕事ができていない」では能力不足の証拠にならないのですか?
A

それだけでは不十分です。「仕事ができない」「能力が低い」は評価であり事実ではありません。その評価を裏付ける具体的な事実——いつ・どこで・何をどのようにできなかったか——を示せなければ、「主観や偏見で言っているのではないか」と受け取られます。日頃から具体的な記録を残しておくことが重要です。

Q 担当業務を職種限定にすれば、能力不足による解雇はしやすくなりますか?
A

はい、比較的主張しやすくなります。職種限定採用の場合、その仕事ができないことが直接「契約で予定された能力とのギャップ」として評価されやすくなります。ただし就業規則・労働契約書・求人情報のすべてに整合性を持たせて設計する必要があります。設計にあたっては弁護士・社労士に相談されることをお勧めします。

Q 能力不足での解雇が難しい場合、どのような対応が現実的ですか?
A

解雇が法的に難しい場合は、退職勧奨(話し合いによる合意退職)を検討することになります。退職勧奨は違法ではなく、退職条件を交渉しながら合意を目指す方法です。ただし、強制や脅迫と受け取られる言動は避けなければなりません。進め方については弁護士にご相談ください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14