問題社員211 「復職可」という診断書のみで復職を認めてはいけない理由
動画解説
目次
1. なぜ「復職可」の診断書だけで復職を認めてはいけないのか
休職中の社員から「復職可」と書かれた主治医の診断書が提出された場合、そのまま復職を認めてよいと思っていませんか。実は、この判断は多くのトラブルを招きます。
なぜなら、主治医が「復職可」と書く際の判断基準は、多くの場合「日常生活における病状の回復程度」だからです。主治医は職場に来ることはなく、社員が実際にどのような仕事をどのくらいの強度でこなしているかを直接知りません。本人から聞いた範囲での情報を元に、医学的な回復度合いを判断しているに過ぎないのです。
▶ 厚生労働省「職場復帰支援の手引き」より
主治医による診断は「日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません」と明記されています。これは厚生労働省自身が公式に認めていることです。
「復職可」の診断書を信じてそのまま復職させた結果、仕事がまともにできず再び休職になる——このパターンは労働問題を扱う弁護士のもとに頻繁に持ち込まれる相談です。
2. 復職の正しい判断基準——「仕事ができるかどうか」
会社が復職を認めるかどうかの判断基準は明確です。それは「職場で求められている仕事(少なくとも当面の軽減措置を含む業務)ができるかどうか」です。
職場は仕事をする場所であり、給料を払って仕事をしてもらう契約(労働契約)に基づいて運営されています。日常生活が送れる程度に回復しても、職場での仕事ができる状態でなければ、復職させる根拠がありません。
⚠ 本人の「働きたい」という意欲だけで復職を認めない
本人が「もう大丈夫です、働けます」と言っても、医学的・業務的な観点から実際に仕事ができる状態かどうかを客観的に確認することが必要です。本人の意欲と実際の業務遂行能力は別物です。仕事ができない状態で復職させると、また体調を崩させてしまい本人のためにもなりません。
3. 産業医がいる会社の対応
産業医がいる会社では、復職の可否について産業医面談を実施し、産業医の意見を踏まえて判断することが最も有効です。
産業医と主治医の最大の違いは、産業医が職場環境・業務内容を把握した上で判断できることです。産業医は定期的に職場を訪問してその業務内容を理解しているため、「この病状・回復状況であれば、この業務はできる/できない」という具体的な意見を述べることができます。
▶ 産業医活用のポイント
・復職を申し出た社員と産業医面談を実施する
・産業医に業務内容・業務強度・職場環境の情報を事前に提供する
・「この状態でこの仕事ができるか」という具体的な意見をもらう
・産業医の意見を踏まえて会社として復職の可否を判断する
・産業医がメンタル専門外の場合でも、「病気が原因かどうか」の大まかな判断は可能
産業医の中には「主治医がそう言うならそうでしょう」という対応をしてしまう方もいます。目の前の症状を見ずに主治医の診断書に依拠するだけの産業医では意味がありません。しっかり面談して医学的見地から意見を述べてくれる産業医であれば、高い信頼性があります。
4. 産業医がいない会社の対応
(1) 主治医への照会・面談
産業医がいない場合は、主治医に対して会社の業務内容を説明した上で意見を聞くアプローチが有効です。例えば産業医から主治医宛に「当社の業務はこういった内容ですが、今の体調でこの仕事は可能でしょうか」という照会状を送るなどの方法があります。
また本人の同意を得た上で主治医と面談し、業務内容を説明して意見を確認することも考えられます。主治医同士のやり取りになると、相手がお医者さんということで比較的正確な回答が返ってくることが多いです。
(2) 試し出社で朝の定時出勤を確認する
復職前の段階で、試し出社を行うことも実践的な判断手段です。実際に出勤できるかどうか、仕事らしいことができるかどうかを確認します。
この際に特に重視すべきポイントがあります。それは「朝の定時に出勤できるかどうか」です。
▶ なぜ「朝の定時出勤」が重要なのか
特にメンタル系の疾患(うつ状態・適応障害など)を抱える方にとって、朝の出勤は最も辛い場面です。午後には調子が良くても朝が辛いという状態は珍しくありません。朝の定時に出勤できる状態まで回復していれば、かなり回復が進んでいると判断できます。「昼ならなんとか来られる」「夕方から来られる」では仕事をするのには不十分です。
(3) リワークの活用
リワーク(復職支援プログラム)を提供している機関を活用することも選択肢です。リワークでは、職場復帰に向けた段階的なトレーニングを行いながら、仕事への適応力を回復させていきます。
リワークを経た上での復職であれば、回復の程度をある程度客観的に把握できるため、復職の可否を判断しやすくなります。会社としてリワークを活用できる体制があれば、積極的に取り入れることをお勧めします。
5. まとめ
「復職可」の診断書が出た際の正しい対応を整理します。
① 「復職可」≠「その仕事ができる」と理解する
主治医の「復職可」は日常生活レベルの回復を示すことが多く、職場での業務遂行能力まで回復しているとは限りません。診断書だけで復職を認めてはいけません。
② 産業医面談・主治医照会・試し出社で客観的に確認する
産業医がいれば面談実施。いない場合は主治医への照会・面談、試し出社(特に朝の定時出勤の確認)、リワーク活用などで客観的に仕事ができる状態かどうかを確認してください。
③ 会社・社員・周囲の全員のために慎重な判断が必要
仕事ができない状態で復職させると、本人が再び体調を崩し周囲の負担も増えます。慎重に確認してから復職を認めることが、会社にとっても本人にとっても正しい対応です。
よくある質問(FAQ)
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日 2026/04/14
