問題社員210 「休職を要する」という診断書のみで休職を認めてはいけない理由

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この記事の要点

「休職を要する」という診断書は「すぐに休職制度を開始せよ」という意味ではない。主治医は会社の制度を知らずに書いている

主治医が言いたいのは「このまま働かせると体調が悪化するので休ませてほしい」という趣旨。会社の休職制度への直接適用を意味するものではない

休職制度がない会社は「欠勤」として対応する。制度のない会社で「休職」の言葉を使うと混乱を招く

休職制度の設置は義務ではない。制度がなければ欠勤として対応し、休職という名称は使わない

休職制度がある会社は、診断書が出てもすぐに休職を開始してはならない。就業規則所定の欠勤日数を経てから休職をスタートするのが原則

「欠勤1ヶ月+休職3ヶ月=合計4ヶ月」の制度なのに、いきなり休職スタートすると3ヶ月しか在籍できなくなる。社員に不利益を与える誤った対応になる

就業規則の「欠勤・休職・休暇」の各用語を正確に理解した上で、会社の制度に当てはめて対応することが会社経営者・人事担当者の仕事

用語の混乱がトラブルの原因になる。診断書の言葉を制度に当てはめる作業を丁寧に行い、説明も正確に行う必要がある

1. 「休職を要する」という診断書の本当の意味

社員から「休職を要する」と書かれた主治医の診断書が提出された場合、即座に休職をスタートさせていませんか。実はこの対応は、多くの場合誤りです。

この診断書を書く際の主治医の頭の中にあるのは、「このまま働かせていると体調が良くならない、あるいは悪化するので、休んで療養させてほしい」という趣旨です。主治医は会社の休職制度の内容を詳しく知っているわけではありません。「直ちに休職制度を開始せよ」という法的・制度的な意味で書いているのではないのです。

⚠ 「先生がそう言うんだから即休職でいい」は危険な誤解

主治医は医学的な判断をしているのであり、会社の就業規則や休職制度の内容を踏まえた法的判断をしているわけではありません。診断書の言葉をそのまま会社の制度に当てはめることは誤りです。

この診断書に接した時、まず考えるべきは「この言葉は、当社の就業規則上の欠勤・休職・休暇のどれに相当するのか」という変換作業です。これが会社経営者・人事担当者の仕事です。

2. 休職制度がない会社の対応——欠勤として処理する

そもそも休職制度の設置は法律上の義務ではありません。特に中小企業では休職制度を設けていない会社もあります。

そうした会社では「休職を要する」という診断書が出ても、休職という扱いはできません。欠勤として処理するのが正しい対応です。年次有給休暇が残っているなら先に消化してもらい、その後は欠勤として対応することになります。

⚠ 制度がないのに「休職」という言葉を使わない

休職制度がないにもかかわらず「休職」という名称を使って対応すると、社員から「休職制度があると思っていた」という誤解を招きトラブルになりやすいです。欠勤と休職は就業規則上まったく別の扱いです。制度がなければ「欠勤」という言葉を使って対応してください。

欠勤をどこまで認めるか(どの時点で退職扱いにするか)については、会社の就業規則や方針に基づいて判断します。判断に迷う場合は弁護士に相談することをお勧めします。

3. 休職制度がある会社の対応——いきなり休職スタートはNG

(1) いきなり休職スタートすると社員に不利益が生じる

休職制度がある会社でも、診断書が出たからといって即座に休職をスタートさせることは正しくありません。なぜなら就業規則の休職規定は多くの場合、「一定の欠勤日数を経た後に休職が開始する」という構造になっているからです。

▶ 具体例で理解する

【就業規則の例】疾病による欠勤が1ヶ月続いた場合、3ヶ月の休職期間を命じることができる

この場合、社員は「欠勤1ヶ月+休職3ヶ月=合計4ヶ月」在籍できる制度です。

しかし診断書が出たからといっていきなり休職スタートすると、欠勤期間なく即座に休職の3ヶ月が始まり、合計3ヶ月しか在籍できないという結果になります。本来4ヶ月いられるはずの社員に、1ヶ月分の不利益を与えることになってしまいます。

「お医者さんが言うんだから間違いない」という感覚で即休職にすることは、主治医の意図とも異なりますし、社員にとって不利益な扱いとなります。

(2) 正しい手順——欠勤所定日数→休職スタート

正しい手順は以下の通りです。

▶ 正しい手順の流れ

① 年次有給休暇が残っている場合は先に消化してもらう
② 就業規則所定の疾病による欠勤(例:1ヶ月)を経る
③ 欠勤所定日数を満たした段階で休職命令書を交付して休職スタート
④ 休職期間(例:3ヶ月)満了時に復職できなければ退職または解雇

この手順を踏むことで、社員への不利益を避けられるとともに、万一裁判になった場合も「原則的な手順を踏んでいた」として会社が有利になります。また「その他やむを得ない事由があるとき」という包括条項を使って即座に休職命令を出す方法もありますが、解釈に幅があり紛争になりやすいため、原則通りの手順を取ることをお勧めします。

4. 就業規則の用語を正確に理解し、制度に当てはめる

この問題の根本には、用語の混乱があります。就業規則上は「欠勤」「休職(休業)」「年次有給休暇」「傷病休暇」などが明確に区別されています。しかし診断書には大雑把に「休職を要する」と書かれているだけで、どれに当たるかは書かれていません。

特に、診断書が出た後の欠勤期間のことを「休職・休職・休職」と呼び続けてしまう社長や管理職は多いです。しかし就業規則上は欠勤期間であるにもかかわらず休職と呼び続けることで、社員が誤解してトラブルになることがあります。

▶ 会社が行うべき「変換作業」

診断書に「休職を要する」と書かれていた場合、会社が行うべき作業は以下の通りです。

・当社に休職制度はあるか?
・休職制度がない → 欠勤として対応。休職という言葉は使わない
・休職制度がある → まず欠勤所定日数を経過させる。その後に休職命令書を交付して休職スタート
・診断書の「休職」という言葉を就業規則の制度に当てはめる作業を丁寧に行う

最近はメンタル系(うつ状態・適応障害など)の休職をめぐるトラブルが増えています。この基本的な対応手順を理解した上で、具体的な手順については弁護士に相談しながら対応することをお勧めします。

5. まとめ

「休職を要する」という診断書が出た際の正しい対応を整理します。

① 診断書の意味を正しく理解する

主治医は「休ませてほしい」と言っているだけで、会社の休職制度を開始せよという意味ではありません。制度への当てはめは会社が行う作業です。

② 休職制度の有無を確認し、正しい言葉で対応する

制度がなければ欠勤として対応。「休職」という言葉は使わない。制度がある場合も、まず所定の欠勤日数を経てから休職をスタートする。

③ 休職命令書を書面で交付し、開始日・終了日を明確にする

休職をスタートさせる際は必ず休職命令書を書面で交付し、いつから開始していつ満了するかを明確にしておく。曖昧な運用は後のトラブルの原因になる。

よくある質問(FAQ)

Q 社員から「休職を要する」という診断書が出ました。すぐに休職させなければなりませんか?
A

いいえ、即座に休職させる必要はありません。まず当社に休職制度があるかを確認します。制度がなければ欠勤として対応します。制度がある場合でも、就業規則所定の欠勤日数を経てから休職をスタートするのが原則です。

診断書が出てすぐに休職をスタートさせると、社員が本来利用できる欠勤期間を失い、不利益を与えることになります。

Q 休職制度がない会社で「休職を要する」という診断書が出た場合、どう対応すればいいですか?
A

年次有給休暇が残っている場合はまず消化してもらい、その後は欠勤として対応します。「休職」という言葉は使わないでください。制度がないにもかかわらず休職という言葉を使うと、社員に誤解を与えトラブルになることがあります。どこまで欠勤を認めるかは就業規則や会社の方針に基づいて判断し、弁護士に相談することをお勧めします。

Q 社員本人が「すぐに休職したい」と言っています。希望通りにすぐ休職スタートさせてもよいですか?
A

本人の希望でも、就業規則の手順を飛ばして即座に休職スタートすることは慎重に考える必要があります。欠勤期間を経ずに休職をスタートさせると、本来の休職期間が短くなり社員に不利益が生じます。また、後日「休職の開始日が正確にいつなのかわからない」というトラブルになりやすいです。原則通りの手順で進めることをお勧めします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14