問題社員209 能力不足と気づいていても採用してしまうことの問題点
動画解説
目次
1. なぜ気づいていても採用してしまうのか
能力不足の社員をめぐるトラブルには、大きく2つのパターンがあります。一つは「能力が高いと思って採用したのに、実際はダメだった」という純粋な採用の失敗。これはある意味しょうがない面があります。
しかし問題なのはもう一方——「採用の段階で、なんとなくおかしいかも、うちの仕事に向いていないかも、と気づいていたのに採用してしまった」ケースです。藤田弁護士によれば、能力不足トラブルの相談を受けると、意外と多くがこのパターンに当てはまるとのことです。
なぜこうなるのでしょうか。主な理由は次の通りです。
▶ 気づいていても採用してしまう主な理由
・人手不足で「今すぐ誰かを入れなければ現場が回らない」というプレッシャー
・「もしかしたら勘違いかもしれない」「やらせてみたらできるかも」という期待
・違和感があっても「ほしいから」という欲求が打ち消してしまう
・「社会貢献のために雇ってあげる」という善意の動機
こうした理由から採用してしまい、入社後に「全然仕事を覚えない」「先輩の言うことを聞かない」という問題が起き、現場から苦情が上がってくる——というサイクルが繰り返されます。
2. 「気づいていて採用する」ことのコストと現実
「とにかく人手が必要だから取ってしまった」という判断が、実際にはどれほどのコストを生むかを直視する必要があります。
いったん採用してしまうと、やめてもらうことは容易ではありません。弁護士と相談して退職条件を交渉し、合意退職を目指す——この作業には時間・費用・心理的コストが伴います。その間、現場の人手不足は解消されないどころか、教える手間が増えて状況がさらに悪化することもあります。
⚠ 「ダメかも」という直感は高い確率で当たる
「この人いいかも」という方向のプラスの直感は外れることが多いですが、「この人ちょっとダメかも」というマイナスの直感は当たる確率が高いとされています。違和感を感じながら採用してしまい、「やっぱりそうだった」という結果になるケースが多いのが現実です。
また、採用した本人のためにもなりません。入社したものの仕事が合わず、ストレスで体調を崩す、ハラスメントを受けたと主張して戦う、というケースも生じます。他社からも声がかかっていたのに断ってきた人が「能力が低いからやめてくれ」と言われれば、納得できないのは当然です。
不採用にする判断は会社のためだけでなく、応募者本人のためにもなります。この視点を持っておくことが大切です。
3. 3つの選択肢を明確に使い分ける
(1) 不採用にする(痩せ我慢)
採用面接で「うちの仕事に合わないかも」「能力が足りないかも」と感じたなら、不採用にする判断が最善です。大変でも人手が足りなくても、そこは「痩せ我慢」して別の人を探す。このコストは、採用した後にやめてもらうコストより格段に低いのです。
採用を我慢することで、他の応募者をしっかり選べる機会が生まれます。自社の社風に合う人か、担当させようとしている仕事に適性がある人か、教育すれば伸びる可能性があるか——これらを見極めた上で採用することが、長期的に良い結果をもたらします。
(2) 覚悟を持って採用し育てる
どうしても採用しなければならない状況であれば、「この水準の能力でも育てていく」という覚悟を持って採用することが必要です。
半端な判断が最も悪い結果を招きます。「まあ取ってしまえ、あとはなんとかなるだろう」という発想では、後から「即戦力にならなかった」「能力不足だ」と言っても誰も納得しません。覚悟なき採用は、会社・現場の先輩・採用された本人の三者すべてにとって不幸な結果になります。
▶ 覚悟して採用する場合に準備すること
・育成には時間・手間がかかることを現場に説明し、理解を得る
・教育指導の担当を明確にし、負担が特定の人に集中しないよう配慮する
・試用期間中に能力評価の基準と記録の方法を整える
・仕事ができるようになるまでの具体的なステップを設計する
(3) 人に頼らない仕組みに投資する
どうしても採用が難しい状況が続くなら、人に頼らない仕組みへの投資を検討する時期に来ています。例えば注文受付を機械化すれば、日本語が不得意な方でもホールの仕事ができるようになります。生成AIの活用で業務効率を上げれば、必要な人員数そのものを減らせます。
こうした仕組みへの投資は初期コストがかかりますが、人件費との比較では十分に合理的な選択肢になります。「いい人が来ない」と嘆き続けるより、「いい人が少数でも回る仕組み」を作る方が、長期的には会社を守ります。
4. 「社会貢献のため」という動機をどう考えるか
「能力不足だと分かっていても雇ってあげる。これが社長としての社会貢献だ」という動機で採用している経営者の方がいます。この考え方自体は立派です。
しかし問題は、その動機を最後まで貫けるかどうかです。
能力が低い方が入社してくると、周囲の先輩・同僚の負担が増えます。教えても覚えない、ミスのフォローに追われる、仕事の進みが遅くなる——そうした状況が続けば、職場の雰囲気が悪化し、「なぜこんな人を採ったんだ」という不満が生まれます。
⚠ 「社会貢献」の動機は周囲の社員を犠牲にしていないか
能力が低い方を1人雇ったことで、他の5人分の仕事量が増えることがあります。その5人の給料を上げる余裕がなくなる、能力に見合った報酬が出せなくなる——これは「社会貢献」のように見えて、実は一緒に働いている人たちを犠牲にしている面があります。経営者として、この側面から目を背けないことが大切です。
「社会貢献のために雇ってあげる」という考え方を最後まで貫く——つまり、本人が働きたいと言っている限りずっと雇い続ける——という覚悟があるなら、それはそれで一つの経営方針です。しかし現実問題として、周囲との折り合いがつかなくなってやめてもらわざるを得なくなるケースは少なくありません。そのときに裁判になるリスクも抱えていることを、あらかじめ認識しておく必要があります。
5. 雇用の「量」より「質」を大切にする経営へ
日本では長らく「雇用することが社会貢献」というニュアンスで語られてきました。しかし時代は変わっています。
今の時代、社会貢献として問われているのは「雇用の量」ではなく「雇用の質」——つまり、給与水準をしっかり上げ、働く人が満足できる暮らしをできるようにすることです。
たくさん雇ったけれど給与水準が低い会社より、少数精鋭で給与水準が高い会社の方が、働く人の生活を豊かにしているという見方もできます。能力が低い方をたくさん雇うことで人件費が圧迫され、既存の社員の給与を上げられない——という状況は、会社全体の雇用の質を下げることにつながります。
▶ 弁護士がお勧めする採用方針
自社の社風・担当させようとしている仕事への適性をしっかり見極めて採用する。人手不足で理想通りにいかない場合は、ある程度の教育で育てられる可能性があるかどうかを判断基準にする。明らかに教育効果が低そうで負担が重すぎると感じたら、そこは歯を食いしばって不採用にする。
採用が難しい社会状況になってきたなら、AI・機械・業務の仕組み化への投資で「少ない人数でも現場が回る体制」を作ることも、経営者の重要な仕事です。
6. まとめ
「気づいていても採用してしまう」ことが、能力不足トラブルの最大の根源です。この問題を繰り返さないために、採用判断の基準を明確に持っておくことが経営者として不可欠です。
① ダメかもと思ったら
痩せ我慢して不採用にしてください。後のコストを考えれば、最も合理的な選択です。
② どうしても採用するなら
「育てる覚悟」を持って取ってください。周囲への負担・コスト・トラブルリスクを最初から受け入れることが必要です。
③ 採用自体が難しいなら
AI・機械・業務の仕組み化への投資で「少人数でも回る体制」を作ることが長期的な解決策になります。
雇うことの「量」ではなく「質」——給与水準を上げ、一緒に働く人たちが満足できる環境を作ること。これが今の時代に経営者として求められる社会貢献のあり方です。
よくある質問(FAQ)
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日 2026/04/14
